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1部 ヤギと奇跡の器
第45話 謝罪と傾く心(アシュレイ視点)
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ノアは俺が塔を出てから発熱で寝込んでいたと下でルイスに聞いた。そんな中でも魔力量が落ち込まないのはノアが毎日夢精をしているからだということも聞いた。
ドアの前に立ち、恐らく俺の渡した香の作用で寝込んで、更に細くなったノアを目の当たりにする。
夢精をしていると聞いてから、ずっと心がぐらついて不安定だった。こうして戸口でノアを見た時、一気にそれが揺れだした。
謝罪をすること自体に迷いがあるわけではない。どう償うのかがわからないということだけでもない。自分自身なにがこんなに自分を不安定にさせているのかがわからなかった。
ノアは黙って俯いていた。なので俺も無言で部屋に入り、机の側にあった椅子を持ち上げ、ベッドの横に置いた。相変わらず小さいその椅子に座りノアの腕を見た。
「ちゃんと……食べているのか……?」
「食べております……具合が悪いのは……季節のせいです……」
なぜかこのままノアの言い分を聞いていると、取り返しのつかないことをしてしまうのではないかという恐怖心が暴れ出す。
「少し、時間がかかるかもしれないが……ノアに聞いてもらいたいことがある……」
ベッドに垂らしていたノアの手にギュッと力が入った。それを握ってやりたかったが、さっきからぐらつく心がそれを阻んだ。
「今日はノアに謝罪をしに来た。ノアに渡したあの香は毒性の高い可能性がある」
「香は……」
「すまん。ジルがノアに気がつかれないよう持って行った。大切な証拠なのだ。許してくれ」
「で……でも……」
この純真な生き物がなにを考えているのかはわかった。それを聞けばまた心が揺れることがわかったのでノアが言い終わる前に畳みかけた。
「ノアは優しい。だから俺がなにも知らずに香を買い、それを与えたと思うであろう。しかし俺は、発情する効果があると知りながら譲り受けたのだ。そして残酷な仕打ちをしてきた」
ノアは黙った。しかしこれでいいのだ。俺が非道な人間だと思われることこそ、俺にとっての罰だった。
「申し訳ない。どう償えばいいかわからないが、先に謝罪をしておきたかったのだ」
「先に……?」
「今日査問で聴取があり、明日処罰が下される。投獄か左遷かよくわからないが、俺はそれを受け入れ償う所存だ。表向きは香を譲り受けた罰だろうが、俺はノア、お前への贖罪だと思っている」
「お父様は!?」
聞いたこともないノアの大声に驚くとともに、心の中でなにかが傾いた。
手が、ノアの頬を触りたがっている。それを掴んで必死に衝動を抑え込んだ。
「大丈夫だ。父になんら変わりはない……使用人と分担して……これからも看病していく……」
「よ、よかった……!」
ノアのヨレヨレの声で、本当に聞きたかったことはこれだったのかと理解した。これ以上ノアの声を聞いていると完全に傾き倒れそうだった。
「アシュレイ様がルイスの兄様たちを思って、僕に仰られたことを、後になって認識しました。僕は足りないことばかりでした。だから……」
「ノア……すまない……自分を責めず、俺を責めてくれ……俺の謝罪を受け入れてくれ……」
俺は立ち上がる。ノアの目を見ることができなかった。胸が痛くて直視できないのだ。俺はこれを呵責だと感じる。だからノアから俺を庇うような言葉を聞きたくなかった。
「アシュレイ様……」
「ノア、本当にすまなかった。ちゃんと食べて、大きくなるんだ」
「アシュレイ様!」
俺は振り返らず部屋を後にした。階段を急いで下り、ルークとジルを呼んだ。ルイスへ謝罪をし、ノアを頼むと言い残し、塔の一本道を急いだ。
ドアの前に立ち、恐らく俺の渡した香の作用で寝込んで、更に細くなったノアを目の当たりにする。
夢精をしていると聞いてから、ずっと心がぐらついて不安定だった。こうして戸口でノアを見た時、一気にそれが揺れだした。
謝罪をすること自体に迷いがあるわけではない。どう償うのかがわからないということだけでもない。自分自身なにがこんなに自分を不安定にさせているのかがわからなかった。
ノアは黙って俯いていた。なので俺も無言で部屋に入り、机の側にあった椅子を持ち上げ、ベッドの横に置いた。相変わらず小さいその椅子に座りノアの腕を見た。
「ちゃんと……食べているのか……?」
「食べております……具合が悪いのは……季節のせいです……」
なぜかこのままノアの言い分を聞いていると、取り返しのつかないことをしてしまうのではないかという恐怖心が暴れ出す。
「少し、時間がかかるかもしれないが……ノアに聞いてもらいたいことがある……」
ベッドに垂らしていたノアの手にギュッと力が入った。それを握ってやりたかったが、さっきからぐらつく心がそれを阻んだ。
「今日はノアに謝罪をしに来た。ノアに渡したあの香は毒性の高い可能性がある」
「香は……」
「すまん。ジルがノアに気がつかれないよう持って行った。大切な証拠なのだ。許してくれ」
「で……でも……」
この純真な生き物がなにを考えているのかはわかった。それを聞けばまた心が揺れることがわかったのでノアが言い終わる前に畳みかけた。
「ノアは優しい。だから俺がなにも知らずに香を買い、それを与えたと思うであろう。しかし俺は、発情する効果があると知りながら譲り受けたのだ。そして残酷な仕打ちをしてきた」
ノアは黙った。しかしこれでいいのだ。俺が非道な人間だと思われることこそ、俺にとっての罰だった。
「申し訳ない。どう償えばいいかわからないが、先に謝罪をしておきたかったのだ」
「先に……?」
「今日査問で聴取があり、明日処罰が下される。投獄か左遷かよくわからないが、俺はそれを受け入れ償う所存だ。表向きは香を譲り受けた罰だろうが、俺はノア、お前への贖罪だと思っている」
「お父様は!?」
聞いたこともないノアの大声に驚くとともに、心の中でなにかが傾いた。
手が、ノアの頬を触りたがっている。それを掴んで必死に衝動を抑え込んだ。
「大丈夫だ。父になんら変わりはない……使用人と分担して……これからも看病していく……」
「よ、よかった……!」
ノアのヨレヨレの声で、本当に聞きたかったことはこれだったのかと理解した。これ以上ノアの声を聞いていると完全に傾き倒れそうだった。
「アシュレイ様がルイスの兄様たちを思って、僕に仰られたことを、後になって認識しました。僕は足りないことばかりでした。だから……」
「ノア……すまない……自分を責めず、俺を責めてくれ……俺の謝罪を受け入れてくれ……」
俺は立ち上がる。ノアの目を見ることができなかった。胸が痛くて直視できないのだ。俺はこれを呵責だと感じる。だからノアから俺を庇うような言葉を聞きたくなかった。
「アシュレイ様……」
「ノア、本当にすまなかった。ちゃんと食べて、大きくなるんだ」
「アシュレイ様!」
俺は振り返らず部屋を後にした。階段を急いで下り、ルークとジルを呼んだ。ルイスへ謝罪をし、ノアを頼むと言い残し、塔の一本道を急いだ。
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