幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー

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1部 ヤギと奇跡の器

第14話 ノアの地図(アシュレイ視点)

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「これは……なにをされているんですか?」

よくみると地図の横に、書き写したのであろう地図の写生と、びっしり文字の詰まったメモが散乱していた。

「あ、あの、最近お務めが順調になって、日中はルイスの家事を手伝っても手持ち無沙汰になるので……」

「地図を眺めるのがお好きなんですか?」

まったく理解ができないが、しかし地図の書き取り方に特徴があった。

「いいえ、ここに来るときに生まれて初めて王都を見たのですが、とても衝撃を受けました。それでこの王都はなぜこんなに人がいるのだろうと調べ始めて……」

「調べ始めて?」

「なぜこの王都に人が集まってもこんなに豊かでいられるのかということを調べていたら、なぜこの土地に集まるようになったかということも気になってしまい……。覚えていられないくらい様々な理由があったのでこうやってメモを取り始めたのです」

辺境の貴族なのだろうか。貴族であれば王都に来たことがないというのは不自然だが、庸人であれば家族内でも蔑まれていた可能性はある。

俺はその内容に驚き無意識のうちに椅子を引いていた。

「少し拝見させていただいても?」

「は、はい。あ、え? 僕のメモですか?」

椅子に座ったが、庸人用で極端に小さかった。
説明を仰ぐため奥にあった椅子を持ち上げて生贄の前に差し出す。生贄は意図を汲んで黙って座った。

内容は多岐に及んでいた。歴史から始まり、様々な国の政治、地理的な条件、経済や文化に渡る様々な視点からこの王都を分析している。無いのは軍事的な側面だけだろう。

「軍事的な側面から分析がなされていないようですが、そういった図書がないからでしょうか?」

「あ、あ、あの……」

さっきまでの流暢な会話からとは思えないほど、生贄は吃ってしまい、俯きがちになった。
自分の口調や態度を省みて、言葉遣いを変えた。

「別に責めているわけではない、興味があるのだ。少し教えてくれないか?」

生贄は耳まで真っ赤にしながら俯き、ポツリ、ポツリと喋り出した。

「軍事的、経済的背景において……このベルクマイヤ王国は他の規格にはそぐわない独自の進化を遂げております……」

「それで」

「この国は4方他の国に囲まれた独立国家です……しかしこの国は魔人という単一種族の純血国家でもあります……」

かつては自分も庸人であったが、生贄本人の存在を無視をした論法になぜだか心がざわつく。確かにこの国は2種類の人種で構成されているが、政治の表舞台に庸人が立つことはない。

「四方他の国に魔法や魔法科学を超える動力源と科学が生まれなければ……この国を軍事で侵攻することは難しいと考えて……不要かと思い調べてもおりませんでした……」

言いづらそうにしていた理由がわかった。しかし疑問も浮かび上がる。

「軍事では?」

「ふふふっ……アシュレイとノアが仲良くなってる……」

背後からルイスの声がする。振り向くとルイスが嬉しそうに笑っていたので、邪魔をするなとも言えず黙り込んでしまう。

「アシュレイそんな顔しないで、昼ごはんだよ。アシュレイは午後もいられるの?」

「あ、ああ」

「じゃあ続きは午後にしよう! ノアもそんな残念そうな顔しないで!」

ルイスが声をかけた方を見やると、生贄はまた耳まで真っ赤にして俯いていた。
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