上 下
1 / 37

第1話 魔法使いの朝

しおりを挟む
朝、目覚めると必ず玲音れおんは俺の顔を見ている。目が合うと嬉しそうにキスをする。毎朝俺はこれで、玲音は俺が目覚めることが嬉しいのだと感じる。怠惰に過ごしていた頃はこんなに朝が嬉しいものだとは露とも知らず暮らしていた。

法縄ほうじょうを解いた今、一緒に寝る必要はないし、母から存分に魔力を貰ってる玲音は俺にキスをせがむ必要もない。ただただ2人の愛情表現として一緒に寝て、朝は一緒に目覚める、それが毎日のルーティンになっていた。

朝から重くエロいキスをした後に玲音が嬉しそうに言う。

「今日学校の帰り、円華まどかの家行くんだろ?」

玲音がとても嬉しそうだ。俺は髪を撫でて、そうだな、と返事をする。

「そういや円華ちゃんって蘭燈女子だっけ? 帰り一緒に迎えに行ってあげようか?」

「なんで冬馬とうまが円華の学校知ってるんだよ」

「いや、円華ちゃんの着てた制服、ここらじゃ有名なお嬢様学校だぞ?」

「陰キャのくせにそういうところは抜け目ないんだな」

その目に少し怒りが宿る。乱暴にベッドを出ようとした玲音の腕を掴んで引き寄せた。そのまま覆いかぶさって、今度は俺からキス(エロいの)をする。リビングから空気の読めない母が、朝ごはんだと叫んでいる。

唇を離した隙に玲音が俺を見つめたまま、今行くー! と返事をする。そう言われた手前、俺はそうかそうかと起き上がろうとしたが、玲音が俺の胸ぐらを掴む。

「もっかい!」

えぇ……じゃあなんで今返事したんだよ……。今行かないとかーちゃん乱入してくるぞ……。

「今日帰ってきたらな」

そう言って俺は胸ぐら掴まれた手を解いて起き上がった。

「なんでだよー! もうぜってー起きねーからな!」

そこに母が乱入してくる。

「くだらないこと言ってないで2人とも早くご飯食べなさい!」

玲音は母に弱い。しおらしく、はい、と返事する様がかわいくて、ベッドから出てきた玲音に軽くキスをする。

「今日楽しみだな」

玲音は何かを言おうとしたが、うん、と頷いたまま俯いた。耳まで真っ赤だ。
ふふふ……。
ちょっと前までの玲音は、はしゃぎすぎた犬のようで手がつけられなかったし、下手したら噛み殺されそうだったのに、今はうまく操縦できてる気がする。そしてクッソかわいい。
愛ってすごいね。愛って偉大だよね。

感慨深くリビングに向かう途中玲音が後ろから叫ぶ。

「かーちゃん、冬馬のエロ本まだ見つからないの?」

「その話を二度とするなと言っただろうがっ!」

「朝からキャンキャンうるさいわよ! ごはんを食べなさい!」

一際でかい母の怒鳴り声に2人とも無言で着席し、震えながら朝ごはんを食べ始める。

「玲音。冬馬が女の子好きかもって不安になるくらいなら、今すぐ別れなさい! 毎朝毎朝キャンキャン喚いて!」

玲音はしゅんとする。

「ごめんなさい……もうエロ本のことは言いません……」

まったく、そう言って母も着席して朝ごはんを食べ始める。玲音がなんだかかわいそうなので、背中をさすろうと手を伸ばしたらまた母が立ち上がった。

「冬馬も! 玲音を甘やかさないの! だいたいあんたがちゃんとしないから玲音が不安がるんでしょう?!」

「は、はい……すみませんでした……」

母に謝りながら、じゃあどうすりゃいいんだよ、心の中で思った。

「かーちゃん、今日学校の帰りに冬馬と円華の家行ってくる」

玲音のその言葉に母は掌を返すかのように笑顔になる。

「あらあらー、あ! じゃあちょっと菓子折り持って行きなさい」

そう言って立ち上がり財布を見るが、そのまま頭を抱えた。

「お金下ろしてきてなかったわ……こんなときに限って……」

法具ほうぐ持っていった方が喜ぶんじゃない?」

俺の提案に母の顔がパッと明るくなる。

「そうね! 久遠さんのお宅は法具は買ってるんだものね! 東洋の漆黒悪鬼様様ね!」

俺は無言で震えていたが、今度は玲音が俺の背中をさすってくれた。この時母は怒鳴らなかった。

魔法使いの日常は地味だ。でもこの日常が愛おしい。母も玲音もやんやしながらも、愛に溢れている。

そして俺は玲音が好きだ。俺は俺なりに玲音を大切にしているつもりだ。ただ一つどうしても超えなければならない壁があって、俺はそれをいつものように後回しにしている自覚はあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

十和とわ
ファンタジー
悲運の王女アミレス・ヘル・フォーロイトは、必ず十五歳で死ぬ。 目が覚めたら──私は、そんなバッドエンド確定の、乙女ゲームの悪役王女に転生していた。 ヒロインを全ルートで殺そうとするわ、身内に捨てられ殺されるわ、何故かほぼ全ルートで死ぬわ、な殺伐としたキャラクター。 それがアミレスなのだが……もちろん私は死にたくないし、絶対に幸せになりたい。 だからやってみせるぞ、バッドエンド回避!死亡フラグを全て叩き折って、ハッピーエンドを迎えるんだ! ……ところで、皆の様子が明らかに変な気がするんだけど。気のせいだよね……? 登場人物もれなく全員倫理観が欠如してしまった世界で、無自覚に色んな人達の人生を狂わせた結果、老若男女人外問わず異常に愛されるようになった転生王女様が、自分なりの幸せを見つけるまでの物語です。 〇主人公が異常なので、恋愛面はとにかくま〜ったり進みます。 〇基本的には隔日更新です。 〇なろう・カクヨム・ベリーズカフェでも連載中です。 〇略称は「しぬしあ」です。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

黒刀煌めく夜

蕾々虎々
ファンタジー
遥か過去に書いた記憶が薄っすらとあるTHE・厨二な異能高校生が世界の敵と戦うローファンタジー。 内容は確認してませんが、とてもライトノベル。 自分を第一読者にして気になる表現周りだけ校正しながら、若気の至りを晒していきます。 短編よりちょっと多い程度続きます。 元文章が気になる変態な方がいればpixivに残ってます。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました。 おまけのお話を更新したりします。

処理中です...