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裸族の常識と生態調査について

ベッドに下ろされた絶望

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このまま顔をあげたくなかった。合わせる顔がない。でも長谷さんが小さく息を吸い、胸が動いたことにびっくりして、顔をあげてしまった。長谷さんの顔を見て俺はしてしまったことの質量を思い知る。

無表情のまま涙を流す長谷さんに、俺はどうしたらいいかわからなくなって、そのまま後退りをする。

「周防、行かないで」

長谷さんが手を伸ばして俺の手に触れる。俺の指の指輪を確かめてた。

「こっちにきて」

長谷さんが指輪を撫でる。

「俺も怖い」

そして俺の手を恐る恐る触った。

「周防を傷つけないか怖い。重荷になってないか怖い。仕事していない時間が怖い。周防が何考えてるか分からなくて。何をすればいいのかわからない」

日本語が支離滅裂だし最後の方涙声だった。俺は長谷さんに何を言わせたいんだ。

「長谷さん……」

「でも周防と一緒にいたいんだ、俺も怖いの我慢するから、周防も我慢してよ」

「長谷さん」

「はじめてで何もわからないんだからちょっとくらい周防が我慢してよ」

「……」

「どうしたら周防がもっと好きになってくれるかちゃんと教えてよ!」

「ちゃんと俺のこと見てよ!」

答えられずにいた。頭の中がグチャグチャだった。


長谷さんは俺の手を触ってた手をベッドに下ろした。


長谷さんの言う、「家にいる俺」はこれだったんだ。前に言われた時も、長谷さんの退職理由を聞いた後だった。長谷さんの退職理由、自分が嫌いだって言ってた。

裸族とか、効率厨とか、甘えた声出すとか、やきもち焼くとか、そういう表面上の習性じゃなくて。俺に対してどうしていいかわからない自分と、でも俺に好かれようと必死で取り繕ってる自分の、そのギャップにずっと悩んでいたんだ。ずっと俺に嫌われるんじゃないかって不安だったんだ。俺と同じように。


俺が黙ってたら、長谷さんは無言で起き上がり、俺を膝から下ろした。メガネを外して袖で涙を拭った。いつもベッドの中で見る涙とは違うものだった。


「周防、今までいろいろごめん」


長谷さんは俺との面接について自信がなかったと言っていた。俺と付き合う前のあの一連の操作も、2人で決めた暗黙のルールというテンプレも、何もかも自信がなかったからだ。

「今日、周防がなんで怒ったのかもよくわかってないんだ。本当に申し訳ないんだけど」

そう言いながら長谷さんは震える手でネクタイを緩めた。目を伏せて目頭を手で押さえた。

「少しだけ時間もらえないかな。そうしたら、今後のこと、ちゃんと話し合おう」

「今後のこと!?」

少しの沈黙があった。

「お……俺から……言ったほうが」

「なに……言おうとしてんだよ!!」

長谷さんが俯いたと同時に、俺は長谷さんごと抱き込んで長谷さんの髪をグッシャグシャにして頭を胸に押し込んだ。

「絶対に別れないからな!!」

長谷さんの背中を俺に押しつけて息もさせない。

「なんではじめてのくせに、俺のことわかるんだよ! 俺は長谷さんが好きなんだよ! だから安心して俺のこと好きでいればいいだろ!」

長谷さんが息を吸いたそうにモゾモゾしてる。少し手の力を緩めた。その時にも、絶対に別れない! と言った。


長谷さんの手が這うように俺の背中を上がっていく。


「ほん……とうに……?」


絶対に別れない! 長谷さんが好きだ! 俺はそう叫んで返事した。

長谷さんが俺の背中に回した手に力を込める。


「よかった……よかったぁ……」


長谷さんをまた抱きしめる。しばらく抱き合って、長谷さんがポツリと言った。


「突然……こういう日が来るんだって……怖かった……周防、……周防のことが好きなんだ……」


長谷さんが俺の胸に顔を押し付ける。
俺はこの数日でどんだけ怖がらせて、どんだけ傷つけたんだろうか。

「もう絶対あんなこと言おうとしないでください……長谷さんが怖くなったら俺に確認してください……ちょっとくらい間違ったからってこんなこと言い出さないでください……」

長谷さんは俺の胸で何度も頷く。
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