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第4話 思いがけずいい体
しおりを挟むダグラスが扉を静かに閉めるところまで見届けると、嵐が去った後のように、熱気に満ちた静寂に包まれる。
どうにかして二人がこの部屋に入る前に、私の女装癖を口止めしなければ。しかしダグラスは私の女装の真意を知り、普段からリディアに口止めしているから大丈夫だろうか。
私が脳内会議を開いている最中、後ろから布の擦れ合う音が響く。振り返ればランダは諸肌を晒していた。
「な……」
「自分で着ておきながらなんですが、息苦しくて。この国では男が肌を晒すことは……?」
「いや、それを禁じる風習はない。それに……私を信用してくれたのだろう?」
「陛下の言葉からは、この国に尽くす男への敬意を感じる。少し嫉妬を感じるほどですよ」
思いがけずいい体を目撃し、心が躍りはじめた。
「王族の六男坊が腰掛けで騎士をやっているようには思えないほど……素晴らしい体だな。私は鍛えてもこんな風にならなかった」
「陛下も鍛えていたのですか?」
「護身術に毛が生えた程度のものだ。年数としては長く稽古をしていたが……」
「鍛え方によって違います。戦況に強い騎士が筋骨隆々というわけではない。現に陛下は三年前、戦争状態だった魔族との戦況を変えたと」
今までランダの母国と国交が途絶えていたのは、国境なき隣国、魔族との戦争で国全体が疲弊していたからに他ならない。三年前の出征で防衛を果たした我が国は、魔族から受けた呪いが明けるのを待つばかりとなった。その呪いの効力は残すところ十五年。
「私が前線に出ていたわけではない。感謝すべきはダグラスのような実行部隊の面々だ。それが……今でも恥ずかしくてな」
今から百年前、全面戦争の契機となった魔族から受けた呪いとは、この国に生まれ落ちた男が死後、魔物に変異するというもの。戦死者が増えれば敵が増えるという、地獄のような戦争だ。それに終止符を打つまで、八十年かかってしまった。
曾祖父の代からの戦争。彼らの代から脈々と受け継がれた叡智により、たまたま私の代で終わらせられたようなものだ。命がけの出征に出る男たちを見送り、その時代に居合わせただけの凡庸な国王。
男として褒められる点がないこんな自分でさえ、死後、封印が施されなければ魔物になってしまう。それが心苦しくて仕方がなかった。
「少し触っても?」
目の前のランダが、許しを乞いながらも肩に手を置いた。そして腕や胸、背中を無遠慮に触っていく。
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