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第6章 シュトラウス家の紋章
第14話 男2人(アンドリュー)※
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リノの白い肌を目の当たりにして、俺はやけに喋り散らかした気がする。だからその白い肌が退場すると、さっきまでの和やかな雰囲気が曖昧になった。
「もしかしてアンドリューはそうやって、ここで兄弟をしていくつもりなの?」
シーバルは無邪気な分だけ容赦がなかった。それはカルロとは質の違う焚きつけ方だ。
「随分酷い抱き方をしてたみたいだけど」
「後悔をしている」
「その償いに一生、そうやって罰を受け続ける?」
この時、シーバルの無邪気さは気性の荒さを隠す手段なのだと知る。鋭い洞察力に、柔和な仮面。しかし、それを使い分けてリノに迫ったようには見えないのは──。
「リノが、あんな風に笑って、はしゃいで。シーバルのおかげで本当に昔に戻ったみたいだ……」
シーバルは額の汗を拭うために腕を上げた。その水音が浴室に響き渡る。言い逃れはさせない。無言でそう言っていた。
「カーテンを……」
「カーテン?」
自分で言っておきながら馬鹿馬鹿しくなる。だから観念して白状した。
「カーテンで練習したんだ。優しく抱けるように。本当はシーバルに教えてもらいたかったのに、どんな事情があって俺が先なんだ?」
俺の正直な相談に、返答は無邪気な大笑い。それがなんだか心地がいいのは、彼には善良以外の仮面の使い分けがないからだ。
「ふふっ。アンドリューもなにも変わってない。やっぱり俺、アンドリューも好きだ。練習の成果を見せてよ」
シーバルは湯をかきわけ、額にキスを落とす。その巨大な影が遠のいた時に、ここに来るまでずっと胸につかえていたものが口から溢れた。
「俺は願ってもない幸運だと思っている。どんなに負けても、機会があれば勝てるまで戦うつもりだった。でもシーバルは……シーバルはどう思っているんだ」
「それを俺に聞くのはおかしくない? これから、俺も、リノも、アンドリューも、3人でよかったなぁって思えるようにしていくんだよ。少なくとも、俺は今、結構楽しいなって思ってるよ。アンドリューもそうでしょ?」
そこにどんな戦略も、展望もなかった。どんな使命も業もない。それが胸に迫って、息苦しささえ感じた。それはシュトラウス家で感じたあの居心地の悪い幸福に、とても似ている。
「でも、リノがやっぱりアンドリューと2人がいいって言ったら……」
「言ったら?」
「すごく悲しい」
無邪気な無鉄砲さに意表を突かれ、思った以上に笑ってしまう。無策にもほどがある。
「シーバル、肩を貸してくれないか」
「ああ、うん。明日はリノに頼んでみなよ」
「そうなれるように協力してくれ」
「ああ、なんか嬉しいなぁ……」
シーバルは俺の腕を肩にかけ、一緒に立ち上がる。
「俺も嬉しい」
シーバルは虚をつかれた表情の後に、怒りだした。
「でもリノとコソコソしたりしたら、馬上試合ごっこの時に本気で叩きのめすよ!」
「また薬草を使用人に持たせてくれ」
「そんな怪我じゃ済まさないよ! 俺がいなければベッドから起き上がれないくらいにしてやるんだから!」
「それでもシーバルが看病してくれるんだな」
「形式上、俺の伴侶なんだから仕方がないだろ!」
あまりの必死さに、一度面白いと感じたら笑いが止まらなくなってしまった。俺は本気だと言い張り続けるシーバルに追い討ちをかけられ、笑いはいつまでも止められなかった。
「もしかしてアンドリューはそうやって、ここで兄弟をしていくつもりなの?」
シーバルは無邪気な分だけ容赦がなかった。それはカルロとは質の違う焚きつけ方だ。
「随分酷い抱き方をしてたみたいだけど」
「後悔をしている」
「その償いに一生、そうやって罰を受け続ける?」
この時、シーバルの無邪気さは気性の荒さを隠す手段なのだと知る。鋭い洞察力に、柔和な仮面。しかし、それを使い分けてリノに迫ったようには見えないのは──。
「リノが、あんな風に笑って、はしゃいで。シーバルのおかげで本当に昔に戻ったみたいだ……」
シーバルは額の汗を拭うために腕を上げた。その水音が浴室に響き渡る。言い逃れはさせない。無言でそう言っていた。
「カーテンを……」
「カーテン?」
自分で言っておきながら馬鹿馬鹿しくなる。だから観念して白状した。
「カーテンで練習したんだ。優しく抱けるように。本当はシーバルに教えてもらいたかったのに、どんな事情があって俺が先なんだ?」
俺の正直な相談に、返答は無邪気な大笑い。それがなんだか心地がいいのは、彼には善良以外の仮面の使い分けがないからだ。
「ふふっ。アンドリューもなにも変わってない。やっぱり俺、アンドリューも好きだ。練習の成果を見せてよ」
シーバルは湯をかきわけ、額にキスを落とす。その巨大な影が遠のいた時に、ここに来るまでずっと胸につかえていたものが口から溢れた。
「俺は願ってもない幸運だと思っている。どんなに負けても、機会があれば勝てるまで戦うつもりだった。でもシーバルは……シーバルはどう思っているんだ」
「それを俺に聞くのはおかしくない? これから、俺も、リノも、アンドリューも、3人でよかったなぁって思えるようにしていくんだよ。少なくとも、俺は今、結構楽しいなって思ってるよ。アンドリューもそうでしょ?」
そこにどんな戦略も、展望もなかった。どんな使命も業もない。それが胸に迫って、息苦しささえ感じた。それはシュトラウス家で感じたあの居心地の悪い幸福に、とても似ている。
「でも、リノがやっぱりアンドリューと2人がいいって言ったら……」
「言ったら?」
「すごく悲しい」
無邪気な無鉄砲さに意表を突かれ、思った以上に笑ってしまう。無策にもほどがある。
「シーバル、肩を貸してくれないか」
「ああ、うん。明日はリノに頼んでみなよ」
「そうなれるように協力してくれ」
「ああ、なんか嬉しいなぁ……」
シーバルは俺の腕を肩にかけ、一緒に立ち上がる。
「俺も嬉しい」
シーバルは虚をつかれた表情の後に、怒りだした。
「でもリノとコソコソしたりしたら、馬上試合ごっこの時に本気で叩きのめすよ!」
「また薬草を使用人に持たせてくれ」
「そんな怪我じゃ済まさないよ! 俺がいなければベッドから起き上がれないくらいにしてやるんだから!」
「それでもシーバルが看病してくれるんだな」
「形式上、俺の伴侶なんだから仕方がないだろ!」
あまりの必死さに、一度面白いと感じたら笑いが止まらなくなってしまった。俺は本気だと言い張り続けるシーバルに追い討ちをかけられ、笑いはいつまでも止められなかった。
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