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第6章 シュトラウス家の紋章

第13話 3人の生活 ※

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「じゃあ厄災の冬といっても、直ちに戦争というわけではないんだな。ああ、シーバル。もう少し右もお願いできるか?」

「ここ?」

「ああ……気持ちがいい。リノのおかげで屋敷には女中ばかりで、こうやって洗ってくれる者もいなくてな」

「屋敷の後継者の使用人は男性じゃないの?」

「ああ。でも旦那がいる手前、なかなか頼みづらくてな。シーバル、俺も洗ってやるから後ろ向け」

「え? 本当に? 嬉しいな」


本来、俺が彼らの体を洗うべきなのだろうが、俺はさまざまな事情から桶から出られずにいた。

ぎこちない夕食後、3人で洗い場に行くとシーバルが言いだした時、反対したのは俺だけだった。アンドリューが怪我をしているから介助が必要なのもわかる。しかしなぜ3人で洗い場に行く必要があるのか。

男2人の鍛え上げられた肉体に、俺はあらぬところが引き攣れてしまい、人前に出られる状態ではなくなってしまった。まさかこんな形でアンドリューの裸を見るなんて夢にも思わなかったのだ。さっきから桶の端を掴んで、見ていないフリをして2人を眺めている。


「厄災の冬は外交で凌げた年もあるから、必ず紛争になるとは限らないけど。でも一度手に入れたら百年安泰の大地を放っておく種族も少ないみたい」

「百年安泰か……。大地全体が神との約束で守られているのか?」

「うん、さっき空に線があったでしょ? 王宮は幾重にも張られている結界があるんだけど、それと同じもので大地全体が覆われているんだ」

「なんだか不思議な感じだな。結界の外からはよく見えるのかもしれないが、内側は内側で小競り合いはある。国というのもなかなか難しいものだ」

「種族が違うとね……おまけに世代も噛み合わないからなかなか全土の最大幸福というわけには……あ、アンドリュー、流すよ!」

「ああ、ありがとう。しかし浴場が家にあるのはとても贅沢だな」

「リノは最初ビックリしてたよ。ふふっ、部屋に水を撒き散らして大丈夫なのかって大騒ぎして、俺の服をビショビショにしてさー! はははっ!」

「それはシーバルがくすぐったからだろ!」


シーバルはともかくアンドリューまで笑いだして、俺はいたたまれなくなる。それに俺だけ2人の裸に興奮しているのがなんだか恥ずかしかった。


「ほら、2人とも入るからリノは俺の膝の上ね」

「え!?」


桶の反対側に逃げ出す俺の腰を掴んだシーバルは、俺の隠したいことをすべて露呈させながら抱え上げる。


「あ、リノが出てこなかったのってこれを恥ずかしがってたの? すごく美味しそうになってる」


シーバルは持ち前の無邪気さで、俺の足の付け根に唇を寄せた。助けを求めたというよりは、アンドリューが気になってしまい顔を見やる。しかしアンドリューは顔を背ける形で早々に湯に浸かった。それに気を取られているうちにシーバルの手が脇腹に伸びてきた。


「っやめ、あははははっ! やめろ!」


シーバルは服を着ていないこともあって、俺の抵抗も意に介さず湯に浸かる。アンドリューは懐かしそうな表情を浮かべたまま視線を外していた。


「アンドリュー、腕は痛くない?」


シーバルは多分その表情に気づいて無邪気に質問をする。


「ああ。木で固定されて、包帯も液体で硬化させて、微動だにしない。不便ではあるが、おかげで痛みは無い。そういえば毎日届けてくれた薬草。あれはすごいな」

「根本解決にはならない薬草だけどね。痛みを和らげる効果はあるんだ。リノもたまに練ってくれたんだよ」

「そうか……ありがとう、リノ」


優しい表情を向けるアンドリューに、俺はうんともすんともいえず、ただ頷くことしかできない。その静寂に、シーバルは息を漏らした。


「先に言っておくんだけど、ちょっと事情があって、順番はアンドリューが先で、俺が後ね」


この雰囲気に耐えかねて出た言葉なのか、その意味を理解することができず、俺もアンドリューも顔を見合わせてしまう。


「じゃあ、俺。先に出て薬草を練ってるから……」

「ま、待って!」


なにもかも理解して慌てて腕を掴む。


「今日は……こ、これからは俺が薬草を練るから!」


桶から半身乗り出したシーバルはクスクス笑いながら、もう一度湯に浸かった。

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