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第6章 シュトラウス家の紋章

第4話 試合3日目

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俺はこの2日間、勝ち抜いた者たち総勢50名ほどに名誉を与える大役を担ってきた。頭の片隅にアンドリューの面影がチラつく自分が恥ずかしいと感じるほどに、厳で神聖な儀式。

しかしそうたらしめているのは、儀式の煌びやかさだけではない。前哨戦から一貫しているようにも思えるのだ。

それは以前の馬上槍試合観戦の時と同じく、シーバルと襟元たちの視線。彼らは集まった騎士たちを冷静に分析し、そして布陣についてなどさまざまな意見交換をしていたのだ。捨て駒なんかではない。それを証拠に着眼点は力量差だけではなかった。

忠誠よりも精神性を重んじ、剣や槍の軌道で思想までをも見抜く眼力。彼らは本当に死線を勝ち抜く仲間を求めていたのだ。

しかし3日目の昼頃。アンドリューが予選会場に現れた時には、俺も、シーバルも、冷静な目では見ていられなかった。

アンドリュー側からはこの観覧席は見えない。そんなことはわかっているのに、こちらに一瞥もくれないアンドリューに歯痒さを感じた。試合相手のオークに挨拶を交わすアンドリュー。相手の影に飲み込まれるほどの体格差にも関わらず、予選試合は淡々と進行していく。


「リノ様のご兄弟ですな。以前拝見したのはそんなに昔ではないはずですが……随分と違って見えますね」


サーガの言う「違い」が、今も昔も理解ができていない。あれから毎日、シーバルに模擬刀で稽古をつけてもらったが、アンドリューの実力を測れるほど俺は上達していないのだ。


「リノ様のご兄弟は今日も勝ち抜けますね。私どもが同行した試合以外でも、連戦連勝を重ねていたそうですよ」


発言した、同じ人族のナナルと視線がぶつかる。


「昔からそうだったのか、それとも最近心境が変わったのか。しかし、とても……迷いがない」


ナナルは後ろのシーバルの視線に気づかったのか、再び外を見やった。


「決意とは違う、なんだかとても気持ちのいい思い切りです。相手の出方も把握しながら、過不足なく攻撃をかわす」


ナナルの奥にいたオークのアンクは、彼の言葉に付け加えるように感嘆する。


「まだ若いように見えるが、貫禄さえ感じる。オークと対峙したことはないのだろうとは思うが……」

「私は一度アンクに敗北しているしな。しかし彼は違う」


思いがけない言葉に、俺は目を見開く。それを感じ取ったのか、シーバルの奥にいたタルムーの声が響いた。


「この国営試合は勝者だけが国軍に入るわけではありません。敗者にも平等にその機会はあります。また、勝者には名誉が与えられますが、必ずしも軍に入るとは限らない。ですからその求心力のためにもリノ様のような象徴が必要なのです」


その時、対戦相手が倒れる音が響き渡る。
それに割れんばかりの賞賛が会場を埋め尽くし、アンドリューの勝利に安堵する。


「リノ様、シルヴァル皇。支度をはじめた方が良いかと思います」


サーガの言葉はまるで、試合など見なくても結果は決まっているとでも言いたげだった。


「ご兄弟とのご面会、なるべくお時間を……」

「サーガ。たまには役に立つことを言うな。しかし、リノも俺も……」


シーバルは身を乗り出して外を眺める。俺も同じ気持ちだと表明するために、シーバルの横に並んだ。


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