上 下
55 / 80
第5章 眠る月

第7話 呪いと剣と

しおりを挟む


「なにをしているんだ! サーガ!」

「ああ、思っていた通りだ。透き通るように白い。ここの蕾はどうかな?」


サーガはシーバルの声を無視して、小声で囁く。そして切り裂かれた服を剣で捲り上げていった。


「少しのことで、こんなにさせて。さすが魅了の呪い。たまらない」


混乱で風景ごとガタガタ揺れていた。サーガはどんなに苛立っても、こんなことをするような人だとは思えない。なにが目的で──。



サーガの視線がシーバルの方に向いた時、俺の脳裏にシーバルの黄金の瞳が浮かんだ。


最初の金属音が鳴った時、一体なぜそれが鳴ったのか理解できなかった。
しかし2回目はからは明確な意思があった。シーバルの瞳を黄金に染めてはならない。

そこからは夢中だった。サーガはもちろん、俺でさえ怪我をすることに躊躇がなくなった。隙があれば懐に入り、斬られてでも斬ることに執着する。

そして俺がその覚悟で剣を振り下ろした時、手から俺の剣が投げ出された。


「今のはちょっと危なかったですよ。リノ様。しかし剣の筋がいい。それに……」


サーガはシーバルをチラリと見た。


「シルヴァル皇に無茶をさせたくありませんでしたか?」

「サーガ! 貴様……!」


カインとタルムーに解放されたのか、それとも自力で押しのけたのか、走ってきたシーバルはサーガの首元を掴んで持ち上げた。


「いつの間にリノ様とそんな仲になったのです?」

「な、な、なにを言っているんだ! そんなことは今関係ない! 稽古に見せかけて服を破くなど……!」

「リノ様はシルヴァル皇を愛しているのですね」


サーガの思いがけない言葉でシーバルは急にサーガから手を離し、キラキラした目で俺を見る。


「なにはともあれ、剣術で私に勝たなくとも、シルヴァル皇の魅力はリノ様に伝わっておいでです。問題はリノ様です」


矛先が向けられ、剣で対峙した時のような焦りが蒸し返される。


「なにか怖いことでもありましたか?」


黄金の瞳のことではなくてよかったと思う反面、それはそれでシーバルには聞かれたくない内容だった。

シーバルが神妙な顔をしたのだろう。サーガはなにかを察して、鼻を掻いた。


「リノ様。剣術は確かに人を殺める術です。しかし、それだけでもありません。明日から模擬刀でシルヴァル皇と手合わせなさってください」

「お前が真剣でなければならないと言ったのだろう!?」


シーバルはそれで俺に真剣を持たせていたのか。遊びの域を超えた装備や武器。シーバルは本気で稽古をつけるつもりだったのだと知る。


「それは技術向上に傾倒しすぎるあまり、本来の結果を見失わないためです。しかしリノ様はその結果を望んではいない。剣を交えて貴方をもっと知りたい、リノ様はそうお思いのようですよ」


サーガはあんな少しのことで、俺の本懐を見抜いていた。それに驚いて、しばらくサーガから視線を逸らせない。


「リノ、リノ! 明日、模擬刀を用意させるから! 今までごめんね!」

「ううん、シーバル。俺も、言われるまで……」


言い淀んだのは、シーバルを気づかったわけではない。俺はあの丘の風景を思い出していた。



アンドリューと剣を交えたいと願った日を。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。 かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。 一度、話がしたかっただけ……。 けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。 純情将軍×虐げられ王子の癒し愛

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

意中の騎士がお見合いするとかで失恋が決定したので娼館でヤケ酒煽ってたら、何故かお仕置きされることになった件について

東川カンナ
BL
失恋確定でヤケを起こした美貌の騎士・シオンが娼館で浴びるほど酒を煽っていたら、何故かその現場に失恋相手の同僚・アレクセイが乗り込んできて、酔っぱらって訳が分からないうちに“お仕置き”と言われて一線超えてしまうお話。 そこから紆余曲折を経て何とか恋仲になった二人だが、さらにあれこれ困難が立ちはだかってーーーー?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

獅子帝の宦官長

ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。 苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。    強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受     R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。 2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました 電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/ 紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675 単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております 良かったら獅子帝の世界をお楽しみください ありがとうございました!

処理中です...