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第5章 眠る月

第4話 妖眼

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翌る日。初めて馬上槍試合ごっこをした時と概ね同じ心境で庭園に立つ。


「俺が剣を振るうところ見たいって言ってくれたから、今日は襟元のサーガを呼んだよ! あ、サーガはこんなことくらいにしか役に立たないんだから気にしないでね!」


俺と、王宮の襟元3人が、フル装備のシーバルと対峙する。俺は想像だにしない展開に身動きがとれない。それを証拠にいつもの稽古だと思って自分の剣を持ってきていた。

それに比べ、シーバルの姿は圧巻だった。

きっと王族の甲冑なのだろう。縁に金細工が施された立派なものだ。剣も俺が持っているものとは比べ物にならないほど大きい。完璧に、遊びの域を超えていた。


「サーガ、ご、ごめんなさい。こ、こんなつもりでは……」


それまで無言で立ち尽くしていたサーガは、兜を外した。そして、俺を見るなり微笑む。その笑顔に胸が痛む。俺は泣きじゃくったあの日から彼に不義理を重ねてばかりだった。


「リノ様はお優しい。先日のことで私どもになにか義理を感じているようだったら、気にしないでください。私どもも楽しかったですし……リノ様が元気になられて嬉しいです」

「リノは俺のかっこいいところを見たいんだ! 役にも立たないくせに、変な勘違いをするな!」


サーガは小さく舌打ちをして、シーバルに近づく。残された襟元2人はあの日のように兜を脱ぎ去った。


「シルヴァル皇、今日は妖眼は絶対に無しですよ。こんなくだらないことで使ったら、父上に言いつけますからね!」

「くだらないこととはなんだ! 誰のせいでリノに会いに行けなかったと思っている!」

「シルヴァル皇、兜は無しです」


サーガは念を押して、兜を地面に置いた。きっとあの黄金の瞳を使っていないか確認するためなのだろう。それに鼻を鳴らしながらシーバルも小脇に抱えていた兜を置いた。

その瞬間から、試合の火蓋が切られた。地面を蹴る音に、剣が交わる金属音。目視で追えないほどの速い動きではないが、一体どんな攻防が行われているのかは、わからない。なんとなく隣にいたカインとタルムーに視線を向けると、2人の耳が一斉に俺の方に向いた。


「サーガの方が優勢です。剣術ではまだ足元にも及びません。私やタルムーにも。ただ、ナナルと比べると、どうだろうか?」


シーバルと人族の襟元ナナルの実力差を問われたタルムーは肩を竦める。


「ナナルの方が上です。剣術では。しかし体術と妖眼では誰も敵いません」


ニールさんも鎮めるよう言っていた「妖眼」。それはシーバルが興奮すると光る黄金の瞳。


「黄金の瞳になるとシーバルはなんで強くなるのですか?」

「興奮で目覚め、瞬間的に能力が向上するのです。シルヴァル皇はそもそも体術の基礎が群を抜いております。しかし、剣術では妖眼を使ったところで……どうだろう……それでもサーガには敵わない気がしますが……」


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