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第4章 鎺に鞘

第12話 特別観覧室

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今日、馬上槍試合をする領地は王宮から近い場所だ。だからシーバルとの気まずい雰囲気も早々に切り上げらたわけだが、それにホッとしている自分に嫌悪を抱く。

馬車を降りた時、後で合流したという2名の襟元は、甲冑で全身覆われていても、すぐにわかった。1人は他の4人に比べて極端に体が大きく、もう1人はその逆だったからだ。多分大きい方がオークで、小さい方が人族なのだろう。

領地の前の広場に設けられた会場は、臨時というにはよく整備されている。聞けば定期的に開催しているから常設している施設で、隣の領主にも貸し出しているらしい。

俺とシーバル、それに襟元の一行は、領主に簡単な挨拶を済ませると、場内を見渡せる特別観覧室という場所に通された。王族専用に設えられた部屋で、前面は外気に接しているが、それ以外は堅牢な石造りの壁に覆われていた。

こんな造りならば部屋に護衛は不要かとも思うのだが、俺はともかくシーバルは次期国王なのだから当たり前か、と納得する。椅子は2人分しか用意されておらず、必然的に襟元5名はその後ろに立つことになる。申し訳ない気持ちがあったが、外の景色を見て思わず声をあげてしまった。


「す……すごい……すごいね! シーバル。人があんなにいっぱい、俺、俺の領地中の人をかき集めてもこんなにいないよ!」


俺の感激をよそにシーバルは難しい顔をしている。俺はさっきまでの気まずい雰囲気を払拭したくて明るく努める。


「今日はトーナメントなんでしょ? 俺が、俺がどの辺の強さか教えて! シーバルはそういうことには嘘をつかないんでしょ!?」


外を見ていた視線をシーバルに移すと、重苦しい雰囲気が待ち構えていた。シーバルはすでに着席しており、その後ろに微動だにしない襟元の5人。シーバルが王族だということを改めて認識させられる荘厳な光景だった。


「ご、ごめん。はしゃいじゃって……」


恥ずかしさと、いたたまれなさに、どうしたらいいかわからずに立ち尽くしていると、中央に立っていた襟元の1人が一歩前に出て体をかがめた。


「シルヴァル皇、私どもの報告書はこの部屋の会話を含みません」

「襟元の言葉など信用できるか。誰のせいで3年も軟禁されていたと思っているんだ」

「それを私は償いたいと思っています」

「それではなにか? 貴様らも面を外して談笑でもするか? そうでもしなければ信用などせんぞ」


シーバルの言葉に、襟元の1人は元にいた場所に戻った。シーバルは見たこともない顔で、ほらな、と皮肉に笑った。

シーバルの座っているところからは見えないのだろう。しかし俺は正面に立っているから彼の行動を逐一見てとれた。彼は音もなく兜を外し、戸惑う他の4人に顎で指示して全員の兜を取らせた。


「あ……」

「改めまして、リノ様。シルヴァル皇に稽古をつけておりましたサーガと申します。今日の試合で不明な点がございましたらなんなりと」

「えええええええ!」


俺よりも前にシーバルが声をあげる。そして驚きからか椅子を立ち上がり、そのまま俺のところへにじり寄ってきた。


「リ、リノ! 国の宝剣たちを紹介するよ! 襟元は普段顔を見せないんだ! リノが特別だから! ああっ、ああっ!」


シーバルは俺を抱え上げ、端から順に紹介していく。1番の大男、オークのアンク。エルフのカイン、タルムー、人族のナナル。そして。


「襟元総統のサーガ。俺がリノに会いに行ってたことをこいつが父上に告げ口して、酷い目に遭わされたんだ。でも剣の腕も立つし、今日はわからないことあったらなんでも聞いていいからね! どうせそんなことくらいしか役に立たないんだ!」

「シルヴァル皇、それは少し……」

「誰のせいでリノに会いに行けなかったと思ってるんだ! その間に……」

「シルヴァル皇の失恋のお詫びに、なんでもお答えしますよ。リノ様も男の子だからそういったのがお好きでしょう? 昔はシルヴァル皇と手合わせしていたとか」

「失恋してないし、今も手合わせしてるよ!」


怒りか羞恥か、シーバルは顔を真っ赤にしてプンスカ怒りだす。それを見た襟元5人は堪えられないか肩をガタガタ揺らして、しまいには笑いだしてしまった。

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