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第2章 花王の庭

第2話 幼馴染

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白い宮殿の扉は開け放たれており、中から花とも蜜ともいえぬ甘い匂いが漂ってくる。入ることを躊躇ったが、扉の先に見えるエントランスの、大きな人影が振り返る方がはやかった。


「リノ!」


俺の愛称を呼び、両腕を広げる大男に立ちすくんでしまう。


「シーバルだよ! リノ! リノ!」


走っても数秒かかる距離を、その巨体は3歩程度で間合いを詰めて俺を抱きあげた。


「シーバル? 本当にシーバル?」


俺の肩に顔を埋めていた巨人は、ガバッと俺を体から離した。その時に舞ったプラチナブロンドの毛束が光に透けて美しい。突き合わせた顔は精悍かつ美しかったが、やはり見覚えがない。


「会いたかった、リノ」


大男はその体に似つかわしくない細い声で俺の名を呼ぶ。しかし切長の目を一層細め笑うその表情が、アンドリューと抱き合い喜ぶあの日の笑顔に重なった。


「シーバル……俺も5年くらいずっとシーバルを探していたんだ! まさか、まさか! こんなところで会えるなんて……!」


シーバルの目が見開かれ、そこに映り込んだ空が揺れた。


「リノも俺を探してくれていたの……ああ、リノ……!」


シーバルは感極まったのか息ができないほど強く俺を抱きしめる。眼下の震える肩や背中を見ていたら、俺たち兄弟をどれほど案じてくれていたのか理解できた。


「シーバル。アンドリューはしばらくあの家を出ていたんだけど、呼び戻して当主になったよ。ここからは少し遠いけど、あの丘に行けば……」

「ああ、知っているよ。アンドリューが絶対にリノを手放さないと思っていたんだ。よく決心してくれたね。リノ。この2年間……ずっとずっと待ちわびていたよ……!」


アンドリューに2年間。その言葉で胸がチクリと痛む。そして疑問が芽生えた。


「知ってる……?」


シーバルは一層強く俺を抱いて、そしてクルッと反対を向いた。


「思い出話は部屋でゆっくりしよう! 部屋を見てビックリしないで! 先に言っておくけど、俺より使用人がはしゃいで飾った部屋なんだ!」


急激に流れ出す景色に俺は慌てて腕を突っ張った。


「シーバル、ごめん。今日は用事があってここに来たんだ。また今度ゆっくり……」

「用事? 俺に会う以外に用事があるの?」

「今日は国王の招集でここに来たんだ。だから……」

「招集って……兵隊じゃあるまいし……」

「俺もよくわからないまま来たんだけど、でも家のしきたりみたいで。国王のいる部屋、知ってる?」


さっきまで陽気に流れていた景色がピタッと止まった。この時初めて、シーバルの立派なエルフの耳を認識した。


「シーバルもエルフだったんだね。子どもの頃には全然気づかなかった。ここに勤めて長いの?」


シーバルは一点を見つめたまま黙って俺の背中を撫でる。その深刻な横顔が俺の運命を悲観しているようで心配になった。その恐怖からだろうか。腹が少し痛みだす。


「もしかしてシーバルは俺の処遇を知っていたりする? 結構な金額を支払われたから、生贄として殺されちゃったり……奴隷とかにされちゃったりするのかな……」

「そんなこと……しないよ……。俺が……その国王だ」

「えぇ!?」


驚きで腹の底から声をあげたら、痛みが急に高まった。驚いた拍子に呻き声をあげて、そのままシーバルの腕の中で丸まってしまう。


「リノ!? どうしたの!?」

「お腹……痛くて……」

「ああ、ああ! 部屋に薬草があるから! 少し我慢して……!」


景色がまた急に流れはじめる。巨漢が走る音が腹に響いて、嫌な汗を拭うこともできない。だからどんな部屋に担ぎ入れられたかなんて知る由もなかった。
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