林檎の蕾

八木反芻

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ご『“友だち”の有効活用/ゆれる秋』

4 禁煙の方法

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 社内の喫煙室。
 タバコを吸う田儀は、気だるそうにパイプ椅子に寄りかかった。
「あー肺が犯される~。まじで禁煙しよう」
「何回目ですか。田儀さんには無理ですよ」
「断言するな。わからんぞ? 明日にはスパッと辞めてるやもしれん! ……スパスパ吸ってるやもしれん……」
「タバコの代わりに何かあればいいんでしょうけど」
「代わりになるものか……例えば?」
「……こういうのはどうでしょう」
「ん?」
 田儀のくわえているタバコを奪い取り、代わりに唇を軽く添える。
「……それはズルいだろ」
「禁煙できそうですか?」
「いや弱い」
 ハルの顎をグイと持ち上げ顔を近づけると、触れる手前で止まった。
「ん、ちょっと待て」と、ハルからタバコを取り返す。
「まだ吸いかけ残ってっから、これ終わったらな」
「吸ったら意味ないでしょう……」
 上機嫌でいそいそとタバコを吸う田儀の背中をハルは白眼視する。

 根元ギリッギリまで吸ったタバコを親の敵かってくらい灰皿に強く押し付けた。
「おし!」
 田儀は太ももをパンと叩き、準備ができたと改めて向かい合う。
 一気に近づき、一気に重ねる。
 雰囲気も糞もない。
 この人はいつもタバコの火種を消すようなキスをする。そして空になった箱を捻り潰す。
 じっとしていられないのかよく動く。
 田儀は見下ろすように椅子から立ち上がり、ハルの肩をグッと掴む。体を持ち上げ立たせようと力を入れる田儀に応じ、ハルは腰をあげた。机の縁に手をかけ軽く寄りかかると、つかまえるように手が重ねられた。
「あー田儀の田儀が滾ってきたぁ……!」
「下ネタに親父ギャク、最悪のコンビネーション」
「こうかはばつぐんだ!」
「……少しは抑えられないんですか?」
「抑えられない! 思い付いたら口にしたくてしょうがない!」
「病気」

 ──ドン──

 いきなり押し倒され背中を打った。衝撃で机が揺れ動き、半分も残っていない缶コーヒーが倒れそうになってハルは素早く押さえた。その隙にハルのベルトに手を掛け脱がしにかかるもんだから、パンツを引っ張り阻止する。
「……我慢してくださいっ」
「こっちも抑えられない。収まりがつかない」
 と、自分のベルトを急いで外そうとハルから手を離した。チャンスとばかりに覆い被さる体を押し返そうとするが、田儀の力が強く動かない。無駄な筋肉に憎しみを覚え、呆れ、脱力する。
「会社ですよ……」
「それがどうした?」
「見られたらどうするんですか」
「スリル満点で燃えるねぇ」
「……左手の薬指を見て頭を冷やせ」
 そう言われ、田儀はハルの左手首を掴みグンと引っ張り上げた。その勢いで上半身が軽く起き上がり片肘を立てるハルの左手を眺める。
「俺とお前は同罪だ」
「一緒にするな、変態スケベ親父」
「フッ……あぁ……もっと言って……興奮する……」
 ハルは口を閉じた。
「……お、今度はだんまり攻撃か?」
 いやらしい笑みを浮かべ、ハルの頬に両手を添えると真面目な表情に変わった。
「早くこの綺麗な顔を乱したい……」
「いい大人なら場をわきまえなさい」
「……わかったわかった。……非常階段は?」
「わかってないじゃないですか、駄目に決まってるでしょう」
「……あ、4階のトイレなら人通りも少ない」
「そういう問題じゃない」
「頼む! 10分でいいから。いや20分……」

 ──数日後──

「タバコ吸いたい」
 それが合図。
「またですか」
「協力するってお前が言ったんだ」
「……今日こそ我慢してください」
「わかっているさ」

 事後、この人は結局ニコチンを摂取する。決まって言うのは「運動のあとの一服はうまい」だ。
 ハルは口に含んだ水を、喉のひっかかりを感じながらごくりと飲み込んだ。
「……悪循環」
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