林檎の蕾

八木反芻

文字の大きさ
上 下
38 / 82
よん『重度の微熱と甘え下手な絆創膏』

5 手のひらの違和感

しおりを挟む
 夜中に目を覚ますとサキがベッドの縁に突っ伏して眠っていた。ふと見ると手元にはタオル。看病しているうちに落ちたと思われる。
 ハルは喉の乾きを感じてムクリと起き上がった。
 デスクの上に置かれたぬるい水を、コップに移して飲む。
 点滅する光に気づいて携帯電話を取ろうと伸ばした右の手のひらに、突っ張りを感じた。
 見ると、いつの間にやら手のひらや指に絆創膏が貼られていた。可愛らしい猫の、サキの携帯電話や折り畳み傘についていたキャラクターの絆創膏。
 血はもう止まっていたというのに。
 ハルは、手のひらに残る古い切り傷を覆う猫の女の子を指でなぞった。


 朝。サキは布団に潜ろうとして飛び起きた。
「あっつい!」
 体は汗でびしょ濡れ。へばりつく服を引き剥がすと風が入り身震いした。
「ヘッシュ……!」
 眠っているハルが寒そうにしているのを見て、室内の温度を上げたことを忘れていた。
 その彼はどこへ行ったのか。
 カーテンの隙間から差し込む光に導かれ目を向けると、ソファに座るハルがいた。頭を垂れ考え込むように腕を組んで目をつぶっている。
(全然気づかなかった……)
 寝ぼけまなこでぼーっと眺めていると、ハルはうっすらまぶたを開き、顔を上げた。
「あ、おはようございます……!」
 声をかけると、ハルはサキへ視線を向ける。
「……おはよう」
「体調は、どうですか?」
「……問題ない」
 そうは言うものの、サキの目にはダルそうに映っていた。
「ちょっと失礼します」
 ベッドを降りたサキは再び目をつぶるハルへ近づき、おでこに手を当てた。
「……まだ熱いですね」
 離そうとしたサキの手に、ハルは絆創膏の貼られた手のひらを重ね、そのまま首もとへスルリと誘導した。
「……手、冷たいな……寒いか?」
「え? あ、いえ……ハルさんが熱いんですよ……」
「そうか……」
 起き上がった瞬間の寒さは一体どこへいったのやら。首を捻って挟んだ手に頬を擦り付けるハルの仕草に、微熱を感じるサキはもう片方の手で顔を扇ぎ冷まそうとするも無意味だった。
 なぜか全然離してくれる様子もなく、サキは思いきって手を引っこ抜いた。名残惜しそうに首もとを触るハルを見ていると、なんとなく殴りたくなってくる。
「……あの、ベッドに寝かせてくれたのは嬉しいですけど、今はハルさんの風邪を治すことが第一ですから、ベッドに戻ってください」
 素直に従うハルは重そうに腰を上げ、ユタユタとベッドへ滑り込む。
「……昨日のこと、あまり覚えていないんだ……あんたに迷惑をかけただろう」
(覚えてない!?)
 その言葉にホッとするも、少しだけ残念な気持ちも混ざって、なんだか複雑なサキ。
「いえ、そんなことは……はっ」

 ──グゥゥー……──

 顔を赤くしてお腹を押さえるサキは腹の虫を恨んだ。
(なんで今なのー……!)
「すまん……腹、減っただろ……」
「すみません……」
「そこに財布があるから食いたいもの買ってこい」と、鞄を指差すも、
「……財布ないのか……カードはどこやった?」
 眉間を押さえ思い出そうとするハルに、サキは言った。
「大丈夫ですよ! お金はちゃんとありますから」
「いいから。一晩付き添ってくれたお礼だと思ってくれ。カードは鞄に入っているはずだ……いや、ポケットか?」
 せっかく入ったベッドを出ようとするハルを慌てて制止する。
「わたし、わかります! ポケットに入っていたので寄せておきました」
 念のため引き出しにしまっておいたカードを取って見せると、ハルは軽くうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

思い出を売った女

志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。 それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。 浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。 浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。 全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。 ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。 あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。 R15は保険です 他サイトでも公開しています 表紙は写真ACより引用しました

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...