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第二部『日ノ本統一! そして…』

第六話

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秀吉と別れた官兵衛は宇喜多の出城・三星城を訪れ、城にいた兵達の仮城主らしき者を調略し戦わずして、秀吉から預かった兵1000が小荷駄隊を含む5000の兵に化けたのであった。


そして、官兵衛はその足で織田信長の居る月山富田城に向った。



その頃、秀吉は天神山城を僅かな兵で落とし、程なくして光秀の一報を聞いた。


秀吉「ほう。光秀は直接、岡山城をな。なら光秀に長船の村を出て山へ抜ける街道沿いで待てと伝えろ!」


そう言って光秀の伝令を返した。



九鬼水軍は塩飽の海賊砦に向って砲撃をもって陥落させ、九鬼嘉隆と合流していた。


一益「悪かったな。嘉隆殿。」
「まだ信長の言った数を造れていないが、村上の砦を砲撃してると聞き飛んで来たら、もう終わってるとはな。」

一益「あー、そっちか… こちらの下手くそな砲撃に目もくれず、当ってないのに轟音だけで敵は逃げて行ったわ!」
「さもありなん。大筒の音は某も初めて聞いた時は驚いたものだ。それを複数放ったのだろう?」

一益「その通り。」
「そりゃ、驚くわな!で、村上武吉の根城を落とすんだよな?」

一益「うむ。落とすには落とすのだが、どうせなら大殿や秀吉、徳川殿が毛利の出城一つでも落としてからでも良いかと思ってる。」
「ほう。しかし、ここを落とされた村上は怒り心頭で取り返しに来るぞ?」

一益「その時は九鬼水軍の本当の怖さを思い知らせてやれば良かろう?九鬼嘉隆殿。」
「分かっているではないか!滝川殿!大船に乗ったつもりでいろ!取り返しに来たら、この九鬼嘉隆が返り討ちにして村上武吉の泣き顔を拝んでやるわ!わっはっはっは!」



そして、光秀は秀吉と後ろから来た徳川軍と合流したのであった。



何の因果か、ここに羽柴秀吉・明智光秀・徳川家康が揃ったのであった。


光秀「先刻は恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ございませんでした。徳川様。」
「大殿が立案した大筒が撃てる船と聞き及んでいたが、まさに撃てるだけであったなぁ…」

光秀「面目ないとしか言えませんが、あれには当の九鬼嘉隆様が居なくて、水軍の指揮を取っていたなが滝川様でしたから…」
「それにしてもじゃ!下手過ぎるではないか?あの砲弾も、かなりの値がするんだろう?」

光秀「はぁ。」

と、光秀が額の汗を拭う。



秀吉「徳川殿。それくらいにしてやって下され。これも色々と苦労しておりますれば…」
「あっ。これは失礼致した光秀殿。嫌味で言ったのは事実であるが、それは光秀殿にではない。」


(この御仁は… 絶対わざとだな!まぁ、徳川様も色々苦労しておるのだろう。)


秀吉「そんな事より、そもそも大殿の事だが何故大殿が毛利攻めに出張って来たのかが分からん!光秀は何か知ってるか?」
「は?大殿が毛利攻めにでございますか?それは某も初耳なのですが!」

秀吉「何?では謙信殿が大殿と合流して尼子の本城を落としたという話は当然知らんか…」

家康「あいや待たれい!大殿と謙信殿が合流?某は大殿に言われた通り、関東の治安を回復させ、ある程度の自治をこなせるだけの兵を残し、軍勢を率いて大殿が作った町に馳せ参じたが、何故か本願寺殿の一団と会い、「大殿は鳥取城を落とす」と言いの残して向かわれたと聞いて、それなら猿殿の… いや、失礼。羽柴殿を驚かせ様と援軍に来た次第ですからな。」

秀吉「(今、猿殿と言わなかったか?まぁいい。)うーむ。光秀!この訳の分からん状況を何とかせい!」

と、雑談は続く… 


しかし、ここに居る誰もが偽柴田勝家の謀反の事を知らないので、この真相は信長と合流を果たしてからになる…



羽柴軍に光秀が合流し、徳川軍まで加わった事により大軍勢と化した。


その大軍勢を見た宇喜多家の物見は慌てて主・宇喜多直家へ報告したのだった。



【宇喜多直家(ウキタナオイエ)。幼い時に自分が生まれた城の落城を経験し、浦上家に仕える事に成るが下克上で大名にのし上がる。秀吉の中国攻略にも協力した。】



直家「何と?!そんな兵力が… ワシがどれだけ苦労して浦上を滅ぼし赤松家の上月城や尼子家の三星城を手に入れ、ようやく毛利家に勝てるまでに成ったと思った矢先に訳の分からん軍に攻められ、今やこの岡山城のみとはな… 我らの兵力の10倍とはどうしたもんか… 忠家。」
「いつもの殿らしく無いですぞ。もっと傍若無人に行動してこそが宇喜多直家なのですからな!」

直家「お前にそう言われても、相手が多すぎる!多勢に無勢じゃ。ここはあの軍に降伏し、軍列に加わるという方向でと思っておるがどう思う?」
「我が宇喜多家が、このまま滅亡するのは惜しいですし… 殿いや、兄上の意見に賛同致しまする。」



【宇喜多忠家(ウキタタダイエ)。直家の異母弟。兄とは正反対な性格で羽柴に下った後、秀吉に可愛がられ直家死後に直家の子で当時幼かった当主を助け宇喜多家を盛り立てた。】



そして、直家自ら降伏の意思を秀吉に伝え軍列に加わったのであった。


直家「羽柴様。この軍は皆、羽柴様の軍勢でござるか?」
「そう言えば、おぬしは知らなんだな。この軍勢を統括してるのは尾張の大大名・織田信長様じゃ。」

直家「なんと!?(どこの軍勢か分からんかったが、織田信長の軍勢であったか…)あの「大うつけ」で有名な… 失礼。では、この先の毛利を攻略するのですかな?」
「毛利は言うに及ばずじゃ。九州も平らげるおつもりじゃからな!大殿は!」

直家「え?九州の大大名の大友と事を構えるのでございますか?」
「大友?そんな田舎大名なんぞ一捻りじゃて!今や織田家の勢いは凄まじいからの!大殿と合流すれば、もっと驚くぞ!(ワシも人の事を言えた義理ではないのだがな… 上杉謙信様と何故一緒に軍勢を率いて毛利攻めに参加してる経緯を知りたい!)それとな、宇喜多家の岡山城と周辺の領地は保留とさせて貰うが良いか?」

直家「え?てっきり召し上げられるかと思っておりましたが…」
「ワシも鬼ではない。降伏を覚悟するには、それ相応の事があったと思うのでな。宇喜多家の所領というか岡山城とその近辺に限るがワシから大殿に口添えしてやろう。」

直家「おお!あり難き幸せ!」


こうして、秀吉達は毛利家の備中高松城に軍を進めた。


【備中高松城。現在の岡山県岡山市北区高松。この城は羽柴秀吉が水攻めを仕掛けた事で有名。】


そして、この一報が中国最大の勢力を誇る毛利家当主・毛利元就が知る事となったのだった。



【毛利元就(モウリモトナリ)。安芸吉田の豪族だった毛利家で兄とその子が死んだ為、毛利家の当主となった。尼子家、大内家らに服しやがて中国大大名にまで成り上がった。諸説はあるが謀略の師は尼子経久とも言われている。】



毛利元就の居城である吉田郡山城(現在の広島県安芸高田市吉田町吉田)に激震が走る。


元就自身は草の情報で、織田信長が毛利を狙って侵攻しているのは分かっていたが
「織田信長か、まさかこんなに早く赤松・山名・宇喜多・尼子を倒して、この毛利家領内に来るとは想定外じゃ!しかも、あの越後の上杉謙信をも属国にしているとなると厄介じゃな。どう思う?隆元、元春、隆景。」



【毛利隆元(モウリタカモト)。元就の嫡男。父である元就が隠居後に家督を継ぐが実権は元就に握られ毛利家の実権を握る前に41歳の若さで死亡したが、諸説によれば暗殺されたとも言われている。】

【吉川元春(キッカワハルモト)。元就の次男。毛利を代表する名将で安芸の豪族・吉川家の養子になるが、元就の計画で吉川家一族を謀殺し吉川家の家督を継ぐ。】

【小早川隆景(コバヤカワタカカゲ)。元就の三男。水軍の小早川家の養子に成る。兄が死んだ後、元春と甥の輝元を支え秀吉にも協力し晩年には大領を得た。】

【毛利輝元(モウリテルモト)。隆元の嫡子。父が急死した為に元就が後見し家督を継ぐ。信長存命の時は敵対し秀吉とも対立したが講和し従う。豊臣政権では五大老の一人に数えられ関ヶ原の合戦では西軍の盟主となって大阪城を守った。】



隆元「織田・上杉は尼子の月山冨田城を落とし三刀屋城に迫ってると城主の三刀屋殿から報告と援軍の要請が来ていますし、もう一方の織田軍は宇喜多家を傘下に加え備中高松城に進軍していると城主の清水殿から援軍の要請が来ています。どちらにも援軍を出すのは厳しいかと…」



【三刀屋久祐(ミトヤヒサスケ)。大内家から尼子家を経て毛利家の家臣になった。】

【清水宗治(シミズムネハル)。備中高松城城主。小早川隆景の配下で信長に対しても徹底抗戦をするが秀吉の水攻めに遭い苦戦する。その後、秀吉との講和条件で城兵の命と引き換えとして自害させられた。(諸説あり)】



元春「兄上の言う通りじゃ。父上が言うた通り、こんなに早く来るとは思わなんだから準備が出来いない!」

隆景「右に同じくだ!」

元就「それはいたし方ないとして、元春は織田軍が三刀屋城(現在の島根県雲南市三刀屋町)を落とした後、直接この吉田郡山城を狙って来る可能性が高いので至急山吹城(現在の島根県大田市大森町)に戻り兵の準備を整え吉田郡山城に続く街道沿いに軍を進めろ!次に隆景だが、至急三原城(現在の広島県三原市)に戻り兵の準備を整え備中高松城へ向かえ!」

元春「はっ!心得ました!」

隆景「え?備中高松城へ援軍に向うのですか?」
「そうだ!あの城を落とされては不味い!少しでも足止めをしろ!」

隆景「足止め?あっ!時間稼ぎですね?」
「うむ。ワシは元春と挟撃し織田本体と戦うのでな!頼むぞ!」

隆景「はっ!心得ました。出来るだけ戦を長引かせまする!」



その頃、宇喜多の三星城の城兵を傘下に従えた黒田官兵衛が信長の織田本体と合流を果たしたいた。

錚々たる顔ぶれに緊張しつつ、信長に初めて会う官兵衛…
「お初に御意を得ます。某は黒田官兵衛と申し、赤松家に仕えてましたが、秀吉様の陰謀に加担し赤松家を抜けました者です。この度、秀吉様から兵1000を預かり宇喜多の三星城の城兵を唆し傘下に加え馳せ参じました。」

信長「ほう。猿がのぅ。(ん?どこかで見たと思えば猿に今浜城を与えた際に仕えさせた黒田官兵衛ではないか!)で、その官兵衛は今後どうしたいのじゃ?」
「はっ!(猿とは秀吉様の事か…)出来れば信長様の元で働きたいのですが…」

信長「あの猿が認めた者を見捨てては目覚めが悪い!よし!使ってやる!但し、この蘭丸の配下としてじゃがな!」
「へ?(男か女か分からん奴だが?)えーと、この方は?」

信長「森可成の息子でな、名は蘭丸と申す。」


その言葉に謙信が
「大殿!話の途中失礼ではあるが、蘭丸様いや殿は…」

信長「分かっておる!」


そのやり取りに蘭丸は微笑み、そして官兵衛は頭に”?”を浮かべ
「(男だったか… それにしても美しい御仁だ… しかし、あれは越後の軍神・上杉謙信殿だよな?その御方が「様」を「殿」と言い直したのが気になるが… あっ!そうか!蘭丸様は信長様が寵愛してる御方だからか!それなら合点がいく!)」

と、思う官兵衛であった。



蘭丸「申し遅れました。黒田官兵衛殿。某が森蘭丸でござる。」
「これはご丁寧に。某の方こそ宜しくお頼み申す。(間近で見たらもの凄く美しい男だな!)」


官兵衛は蘭丸をまじまじ見てるので謙信が
「あまりじろじろ見るものではない!蘭丸殿は我らの癒しでもあるからな!」

官兵衛「失礼ですが、貴方は上杉謙信様で合っていますか?」
「これは紹介がまだじゃったな。いかにも!同じ織田家中として宜しく頼む。」

官兵衛「え?織田家中でございまするか?」
「そうだが?あー、黒田殿は上杉家が織田家の属国に成ったと思ってるのだな?」

官兵衛「はい… その様子だた違うのですね?」
「うむ。織田家の属国というのは世間からみた物で、実際は大殿の配下の一家臣だ。」


その事に沈黙を保ってた男が
「謙信殿!それを言うなら某も同じだぞ?」

官兵衛「えーと、失礼。貴方はどなたですか?」
「おお!これは失礼。某は東北の田舎者で名は伊達政宗と申す。」

官兵衛「伊達でございますか?」
「この度、大殿の妹を娶る事に成ってな。まぁ、大殿が日ノ本を統一した後になるがな。」

官兵衛「え?あの音に聞こえた、お市姫でございますか?」
「それは徳川殿の正室じゃ!」


その言葉に官兵衛は混乱し
「ちょっと待って下さい?徳川って三河の徳川家康様ですか?伊達殿、いや伊達様。」

政宗「呼び方は殿でも様でも良いが、その徳川殿だ!」
「え?って事は、徳川様も上杉様も伊達様も織田家の属国扱いではなく、身内という感じですか?」


その会話に信長が
「そうじゃ!皆、ワシの家臣になるが謙信は自らワシに織田家に加わりたいと申して来たからな!」

謙信「あれだけの采配や、兵器を見せつけられたら誰でも屈っしますわい!」
「そうかの。」

と、信長・上杉・伊達のお三方の会話について行けず官兵衛は蘭丸に
「森様。大殿は凄い御方なのですな。」

蘭丸「そうだぞ!大殿は凄いのだ!」
「(満面の笑みで「大殿は凄いのだ!」って…)はぁ。」

蘭丸「何?その溜息は。」
「いや、森様は大殿の事が好きなんだなと思ったので…」

蘭丸「好きと言うより愛してるのだ!」
「愛し…(うげ!この男は男が性的対象なのか?まぁ、これだけ美しいのだから大殿も側に置いてるのだろうな…ってワシはその下の者って事だが…)まさか、某も大殿に奉仕をしないと駄目なのか?」

信長「おい!気持ち悪い事をぬかすな!官兵衛!きさまはあくまでも蘭丸の配下だ!」
「え?しかし、森様は?」

謙信「もう本当の事を黒田殿に教えた方が良いと思いますが?大殿。」
「は?え?(本当の事?)」


信長は謙信の発言に苦笑いを浮かべ
「謙信!ワシの楽しみを取りおって!」

謙信「失礼。しかし、楽しみと申されても… 大殿が男色家と疑われるかと…」

政宗「某は違いますが、中には居ますからな。この御時世では当たり前ですが…」
「うむ。ワシを女の方が良いと思っているぞ!」


その謙信の発言に一同が
「「「「「え?!」」」」」

謙信「何じゃ!一斉に!ワシが独り身というのが、何故そこに繋がる?ワシは頭を丸めた時に生涯結婚はしないと誓っただけで、おなごは基本好きであるぞ!って、大殿!その目は何ですかな!」
「いや、すまん。てっきり… そうか坊主になったからか… そうかそうか。」

官兵衛「え?って事は森様は、まさか女ですか?」
「まさかでは無く、私は女ですよ!そして、信長様の側室兼参謀兼護衛です!」

官兵衛「えぇぇぇぇぇ!!」

と、ド派手に驚く官兵衛を信長と蘭丸以外が「うんうん」とうなずくのであった。


                  ★ 


小早川隆景は毛利元就の命で自身の居城である三原城に帰って備中高松城の清水宗治へ援軍に向う準備の最中、隆景の配下の水軍から村上元吉が援軍の要請に来ていた。


【村上水軍。おおまかに言うと瀬戸内海の島々に拠点を置き、海上交通等を支配していた海賊】


隆景「村上武吉からの援軍要請とな?珍しい事もあるものだな、元吉。いったい何処とやりあってるのだ?」
「それがいきなり某が滞在していた塩飽に複数の雷が落ちた様な音がして、物見が海上を見ると何と九鬼水軍が大群で攻めて来ていたので、常駐の兵では太刀打ち出来ず三島(能島・来島・因島)へ退却したよしにございます。」

隆景「待て!今、九鬼水軍と申したな!」
「はっ!その九鬼水軍がどうかしたのですか?」

隆景「九鬼水軍といえば織田信長の傘下に入ったとの情報がある。てことは、周到に毛利家を滅ぼす準備を画策していたという事だな… これは本当に毛利家が滅ぶよもしれん!」
「織田信長ですか?あの尾張の田舎大名で「うつけ」の?しかし、そんな不吉な事を言うとは殿らしくない… で、援軍の件は?」

隆景「それに関しては無理だ!「村上は総力を持って九鬼水軍と雌雄を賭け戦え!」と、武吉に伝えよ!」
「いや、それでは某が来た意味がないので、何とぞお願い致しまする。」

隆景「お前は常々、ワシに村上の行く末について愚痴っていたが、お前はいつまで経っても親父である武吉から村上水軍を譲られん理由も分かるな。」
「え?それを今持ち出されても…」

隆景「だから、今申したであろう?織田信長じゃ!」
「はぁ…」


隆景は元吉の頭の回転の悪さに対し段々と腹が経って来て
「お前はここまで話しても分からんのか!馬鹿者!その織田が毛利家に対し侵攻して来ているのだ!ワシも水軍だが陸から清水宗治への援軍に向わねばならんのだ!」

元吉「いやいや、そもそも織田が攻めて来てるなど知りません!」
「あのな!話の流れで、そう読めんか?(武吉は息子にどんな教育をしてるのだ?馬鹿にも程があるだろうが!所詮、海賊という事か…)」

元吉「しかし…」
「しかしではない!早く武吉に伝えろ!武吉ならワシの援軍が見込まれないと知れば、臨機応変に対処するであろうからな!」


隆景はそう言って、元吉を追い返した。


隆景「(くそっ!まさか、我が毛利家の海の足までも… しかし、村上武吉が率いる村上水軍は、いくら織田の九鬼水軍でも攻めきれんだろう。そう言えば、あの馬鹿は最初「複数の雷が…」と、ほざいておったが… まさか!!)」


頭の良い隆景は船の常識を打ち破る、まだ見ぬ織田・鉄甲船の片鱗に気付いた瞬間でもあった。



【村上武吉(ムラカミタケヨシ)。厳島の合戦で毛利家の傘下に入り小早川隆景の配下となり、その手腕を奮った。信長死後、秀吉にも屈せずに毛利家への忠義に勤め、死ぬまでに兵法「村上船戦要法」を書き残したとされてる。】

【村上元吉(ムラカミモトヨシ)。武吉の嫡子。父の隠退により水軍の全指揮を継ぎ、父同様に小早川隆景の配下となり朝鮮出兵などで活躍。関ヶ原の合戦で西軍に属し奮闘したが、陸に上がったのが運の付きで加藤嘉明の奇襲で討死。】

【厳島の合戦。おおまかに言えば、天文24年に安芸国厳島で毛利元就と陶晴賢の大戦である。】

【陶晴賢(スエハルタカ)。初めは陶隆房スエタカフサという名前であった。晴賢が仕えていた大内家に対し謀反。大内家に連なる者の殆どを死に追いやると、大内家当主だった大内義隆オオウチヨシタカの養子を大内家の当主として擁立し、その裏で大内家の全ての実権を握ったが厳島の合戦で毛利元就に敗れ討死。】

【大内義隆(オオウチヨシタカ)。周防の戦国大名。中国地方で知らぬ者は居ない程有名であったが尼子家との戦いに敗れ、戦意喪失し山口に引きこもり遊んでばかりだった為、陶晴賢の謀反に会い自害に追い込まれ死亡。】



村上水軍と九鬼水軍の海上戦が今まさに始まる頃、織田本陣の織田信長は新しく家臣に加わった黒田官兵衛に織田軍の凄さを知らしめていた。


そう、いつもの大筒による城門攻撃からの柴田勝家率いる鉄砲騎馬隊の突撃で、通常の城攻めでは有り得ない速さで城を攻略する様を!


官兵衛「いやはや、感無量ですね。蘭丸様。(凄まじきかな織田信長!もはや、あの越後の軍神・上杉謙信が霞んで見えるわ!)」
「そうであろう!古今東西こんな戦い方をする者は居ないと、某は思っている!」

官兵衛「(某はこんなに目を輝かせたドヤ顔を見たのも初めてですがな。)その考えで合っています。織田家の財力の成せる業ですな。」

信長「ワシの資金源は各種鉱山と家臣達の家族や領民達を色々な外敵から守る名目で徴収している銭が主な資金源だが、日ノ本統一後にはその土地土地で米や野菜の収穫の何割かを徴収し、堺の商人達からも売り上げの何割かを徴収しようと思っているが、どう思う?官兵衛。」
「それは良いと思いまするが、百姓は兎も角として商人達、特に堺の商人達からは反発があるやも知れませんが…」

信長「その場合の事も考えている。『織田家に連なる者との一切の取引を禁じる』と、堺の商人達に通達しようと思っておる。」
「それは堺の商人達にとっては死活問題ですな!日ノ本中、織田家ですからな!」

信長「そうであろう?しかし、抜け道で稼ぐ手合いも出てくるとワシは見ているが、そういう輩を見つけたら見せしめとして、その店主・もしくは個人を公開磔し死罪の上、一族全てを鉱山やワシの趣味で作った町で働かせるつもりじゃ!当然、給金は出ないがな!」
「では、そういう者共を監視する役人とその者を監視する草が必要ですな。」

信長「そうじゃ!ワシがこの日ノ本から居なくなった時、また争いが起こっては困るから色々な法を作る必要がある。」
「大殿が居なく… そうですね。」


暗い顔をした官兵衛に信長は
「おい!官兵衛!何か勘違いしている様じゃが、ワシが死ぬのではないぞ?」

官兵衛「へ?」
「お前は、蘭丸の配下になったばかりで分からんと思うが、ワシが「日ノ本を統一」と言ってる意図が分かるか?」

官兵衛「日ノ本を統一… 日ノ本!!まさか、日ノ本の外の国をも支配しようと考えて?」
「うむ。官兵衛の機転でワシの中でお前の評価が上がったぞ!まだ予定ではあるがな!覚えておけ!」

官兵衛「心得ました!(これが織田信長か… 某の想像の遥か先を見据えているという事か… 織田家に鞍替えして正解だったという事か!)」


信長と官兵衛が話してる間に毛利の三刀屋城を落とし城主・三刀屋久祐を柴田勝家が討ち取ったと報告が来た。


信長「おお!さすが鬼柴田じゃ!また活躍が見れるな!」

蘭丸「次は何処を攻めるおつもりですか?大殿。」
「そうじゃな…」

と、信長は考え込んだ。


                  ★


三刀屋城を落としたが、その先へ進むのを少し遅らせる事にした。


その判断に政宗が
「大殿!何故、侵攻を遅らせる必要があるのでござるか?」

信長「草の情報では、この先に毛利元就が出張って来てるとの報告があってな。」
「毛利の総大将がいるなら尚更、良いではありませぬか!」

信長「毛利元就が吉田郡山城か出たという事は山吹城の城主・吉川元春との挟撃を仕掛けるつもりであるとワシは判断した。」

官兵衛「大殿のその判断は正しいでしょう。何故ならば、元就は謀略の天才と聞き及んでますから用心に越した事はないかと。」

政宗「むう。では某が、その吉川何がしを…」
「伊達様、吉川元春ですぞ!」

政宗「分かっておるわ!官兵衛!その元春を某が迎え撃ち、大殿と上杉様が元就に当ればよろしいと思うのですが?」

謙信「その方法では、もし突破されたら目も当てられんから、ワシか大殿のどちらかが居残りで良いと思うが… どうですかな?大殿。」
「謙信は年寄りだからのぅ。ここはワシが出張って毛利元就を倒してやろうではないか!」

謙信「これは異な事を!ワシはまだまだ若いですからな!しかし、先の尼子戦での疲れが抜けてませんので大殿にお譲り致しまする。」
「ふふ。ワシの思惑通りに動かぬか… さすが年の功だな!」

謙信「大殿はワシを上手くたきつけたつもりでしょうが、そうそう口車に乗りませんぞ!」
「では、謙信は三刀屋城跡に待機。政宗は吉川元春を迎え撃ち、ワシは毛利元就を討つ事に致そう!」

政宗「おお!今度は伊達家の戦い方を披露しますぞ!」


(披露とな?政宗はちょっと馬鹿かもしれんな。ワシが毛利元就と対峙してるのに、いったい誰に披露するんだ?)

と、信長は内心思ったのだった。



その頃、羽柴・徳川陣では備中高松城をどう落とすか思案していた。


秀吉「徳川殿も知っての通り、塩飽に滞在している九鬼水軍からの情報が届いた。何でも、三原城城主・小早川隆景が備中高松城へ援軍として向ってるとある。そこで某が小早川を迎え撃ち、徳川様にはこの備中高松城を落として頂くという事で宜しいでしょうか?」
「某は構わんが、小早川隆景は手ごわいと聞き及んでいるが?」

秀吉「それは承知の上じゃが、某にも明智光秀という知将がおるのでな!そうであろう?光秀!」
「はっ!小早川隆景が如何ほどの者でも、所詮は井の中の蛙だという事を教えてやりましょう!」

家康「大きく出ましたな!ではその言葉を信じ、健闘を祈るとしようではないか!」


そして、瀬戸内の海の上では村上水軍と九鬼水軍が鞆の浦付近で睨みあいに成っていた。


武吉「隆景様からの援軍はないという事か?元吉。」
「はい。備中高松城が優先らしく…」

武吉「そうか… しかし、来ないのであればワシが総指揮を任されたという事であるから、とろあえず良しとしよう。が、九鬼水軍のあの船は何だ?船首に丸い穴が二つあるように見えるのだが、あれは何だ?元吉。」
「さあ?親父殿が知らないのに分かるはずがありますまい。」

武吉「それもそうだな。(何か不吉な予感がするのは気のせいかのぅ。)」


その村上武吉の不安が現実の物に変わるのだった!



九鬼水軍総大将・九鬼嘉隆の号令が響き渡る!


嘉隆「我が九鬼水軍が日ノ本の海上全てを支配するに当たり、村上水軍が邪魔であったがようやく念願が叶う時が来た!この織田の大殿が考案した鉄甲船の初陣にはもってこいの見せ場がな!者共、一斉砲撃で村上武吉の泣き面を拝もうではないか!前進!!射程内に入り次第、一斉砲撃を仕掛けるぞ!」


”おおおおぉぉぉぉぉ!!”


かくして、海と陸の戦いが始まったのであった。
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1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

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