なんだこのギルドネカマしかいない！ Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ

異世界崩壊編 前編

192話 最後の忠告

自身を魔人ハスタと名乗り異物を排除しに来たと言う。
多分異物とは私達の事だ、まさか討伐目標の魔人が1人で現れるとは驚きである。

しかしある意味好都合かも知れない。
今ここには多数の冒険者が集まっている。

そして魔人は単独で現れた。
ヤツを倒せればモンスターの襲撃は無くなるかも知れない。

「暗黒神ハーデスハーちゃん、アイツの弱点は！？」

「知らん。我が設定したのは、奴が封印されていたイエローダイヤモンドと言うアイテムだけだ。中身の魔人など当時のプログラム内には存在しなかった。」

空中を浮いたまま城の外壁を越え、中庭の上空で止まる。

数名の冒険者が上空の魔人ハスタに向けて上位魔法ハイスペルを放つが、周囲にシールドが張られているのか放たれた魔法は全て半径2メートル程度の所で弾けて消滅する。

冒険者達はその光景を目の当たりにして驚き騒めく。

魔人ハスタは右手を地面に向けて広げ攻撃姿勢を取る。

中庭のミカさんが逸早く気付き「皆、離れろ！」と叫ぶがその瞬間に目に見えない衝撃が中庭に放たれ、巨大な音と共に多数の冒険者を巻き込んで地面が抉れる様にクレーターが出来る。

大勢の冒険者が見えない衝撃に押しつぶされる様に地面に埋まり潰されて臓器が飛び出る形で圧死する。
一瞬にして王宮の中庭が鮮血で染まる、その凄惨な光景はとても見るに堪えない。

何が起きたの？重力波！？上空から見えない力で圧し潰された様に見えた。
100名以上の冒険者が一瞬で圧死し中庭がパニックに包まれる。

悲鳴と怒号が巻き起こり多数の冒険者が逃げ出して行く、あれだけ圧倒的な攻撃力を見せつけられたら当然だ。
王宮の中庭に30名位を残し、多数の冒険者は逃げ出して行った。

クレーターの中心から立ち上がる人物が居た。
ミカさんだ、彼の防御力なら耐えれる様だ。

無傷では無いが戦闘続行可能の様だ。
彼は即座に態勢を立て直し剣を構えて【エデンズレイ】を放つ。
巨大な光の柱が魔人ハスタを包み中庭に衝撃と地響きが走る。

私と咲耶はテラスから飛び降り、戦火の広がる中庭に走る。
ミカさんの攻撃を喰らった魔人は少し驚いた表情をするがダメージは殆ど無い様だ。

DOSどっちゃんの銃弾が3発放たれるが彼を包むシールドの様なモノに阻まれ弾道が逸れて直撃しない。
それを見たDOSどっちゃんが叫ぶ。

「遠距離攻撃は効かない。地面に落として物理攻撃で障壁を破壊するしかない！」

DOSどっちゃんが叫ぶとほぼ同時に暗黒神ハーデスハーちゃんがテラスから氷属性の極大攻撃魔法アルティメルスペル【ディストケイラ】を放つ。

魔人ハスタの周囲の空気が凍り、彼の周囲を丁度円形になる様に凍てついた複数の巨大な氷が発生する。
そして一瞬で粉々になり小さな氷の結晶が周囲を舞う。

空の色と混じり赤く輝くダイヤモンドダストが光を乱反射させ魔人の周囲を舞う。
風の渦が凍りの輝きで可視化される。
氷の結晶の流れを見た暗黒神ハーデスハーちゃんが皆に叫ぶ。　

「魔人ハスタの周囲のシールドは風だ！最初の攻撃も強力に圧縮された風属性の物理攻撃だ！」

その言葉を聞いた冒険者の中にいた補助職業の人々が風属性魔法を軽減する防御障壁を周囲に張る。
苛立った表情を見せた魔人ハスタは上空6メートル辺りに浮かんでいる。

『驚いたな。死ななかった上に、俺様にダメージを与える者が居るとはな。』

小学生の様に見える魔人ハスタは好奇心に駆られた様な表情で瞳を見開き、彼の黄金色の瞳孔がミカさんを捕らえる。

魔人ハスタは両手を構えミカさんに向ける。
その瞬間に目に見えない風属性の攻撃がミカさんを襲う。

物凄く重い見えない何かに何度も上から押し付けられる様にドンッ！ドンッ！と周囲に衝撃が走る。

ミカさんは膝を付き防御姿勢を取り耐えるが少しずつダメージを受けている上に動きを完全に封じられている。

周囲は巻き上げられた砂埃が無数に舞い目が明け続けるのが難しい。

衝撃が凄すぎて私も咲耶もミカさんに近付く事すらままならないで居た。
不意に魔人ハスタの攻撃が止んだ、砂埃の合間から見えた光景に皆愕然とする。

そこにはアルラトの姿が有った。

6本の腕に持った巨鎌武器の【六道輪廻りくどうりんね】がミカさんの四肢と腹部を貫き上空に向けて持ち上げる。
重力に沿って流れるミカさんの多量の血液がアルラトの全身を赤く染めていた。

『アルラトか・・・つまらん。興が削がれたな。後始末はお前がしておけよ。』

魔人ハスタは上空から見下した様な視線で呟くと砂漠へ向けて飛び去って行った。

それを確認したアルラトはミカさんをそっと地面に下ろす。
私達は事態を把握出来ずに戸惑ってしまう。

そんな・・・やはりアルラトは敵なのか？

それよりも早くミカさんに回復魔法を掛けないと死んでしまうかも知れない。

「ひさしぶりだね、皆。僕は忠告したはずだよ、足掻こうとしない方が良いと思うよって・・・」

アルラトは後ろを向いたまま話す、その為彼女の表情は見えない。

残った冒険者がアルラトに向かって剣を構えて突進するが、少し強い程度の冒険者が何人飛び掛かろうと彼女の武器の高射程攻撃で簡単に薙ぎ払われる。

「ミカは死んで無いよ、今ならまだ回復も出来る。でも・・・これが最後の忠告。シノ以外の皆はこのまま何もしなければ元の世界に戻れるらしいよ、この世界の消滅と共に意識が戻るってさ！」

「アルラト！」

私が叫ぶとアルラトは一瞬身を震わせたのが見えた。
その後地面に横たわるミカさんに向かって何か独り言を言った様な素振りを見せる。

そしてゆっくりと振り向き寂しそうな表情で何かを小さく呟き転送装置を使用した時の様に光に包まれ目の前から姿を消した。

皆が金縛りが解けた様に倒れたミカさんと冒険者に駆け寄り回復薬や魔法で治癒を行う。

深手を負ったミカさんは急所が外れていた様で咲耶の回復魔法ですぐに立ち上がる事が出来た。
冒険者達もアルラトからの攻撃は浅く、たいした傷を負っている様子は無かった。

「アルラトは仲間だ。あの子は操られてはいない。」

「・・・どう言う事だ？」

ミカさんの第一声に皆が少し驚く。
ミカさんの話ではアルラトは街での戦闘を終わらせる為にミカさんを傷付けた、そして「ごめん」と言ったらしい。

アルラトの話では魔人アスタは現在常時解放状態となっている蜃気楼の街に居る。

そして明日この街にモンスターの大群が押し寄せるらしい。
今日魔人ハスタがこの街に訪れたのは完全に気紛れだったらしい。

最後に彼女は「どうせ皆は諦めてないんでしょう？僕は魔人ハスタを止める位しか出来ないからね。」と言ったらしい。
そして「さよなら。」と言って消えた。

「時間が無い、行くぞ。魔人ハスタを倒しに！アルラトは多分、ヤツと刺し違えて死ぬ気だ！」

「そんな！」

城内から複数の兵士が出て来て事態の収拾が始まる。
城内での損害は中庭が抉れ133名の冒険者が死亡、街でも数百名の死者が出た様だ。

その後城外からサクラとシャルが走って来るのが見える。
彼らは街でアイテムを買っていた所、騒動に気が付き逃げ惑う民衆に巻き込まれて到着が遅れた様だ。

何が有ったのかDOSどっちゃんが2人に説明し、私達は今から蜃気楼の街へと向かう事になった。