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異世界崩壊編 前編

170話 職人魂

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-機械都市ギュノス国 商業エリア-

無事転送が終了し、機械都市ギュノス国の入口内部に降り立つ。
転送装置が都市防壁内部に設置されていたのは幸いだ、労無く都市内部へと入る事が出来た。

都市を守るドーム状の防壁が完全に閉じており周囲は暗闇に覆われ、一部のビルから漏れる光のみの薄暗い街並みが広がっていた。
路上には銃殺された幾人もの死体や破壊された機械兵や部品が其処かしこに見受けられた。

そして遥か遠くに1番目立つ光を確認する。
この都市で1番高い高地に建てられた美しい建築物。
濃い紫色で発光するクリスタルタワーが見える。

「戦闘の跡が見受けられるな。機械兵が自立行動している可能性があるな。」

「まずは北部の工業エリアに行きますか?」

「うん、ジルナークさんが無事なら良いけど。」

「グラズヘイムの皆も大丈夫でしょうか・・・。」

少しの間ではあったけど、共に過ごした人々の安否は皆も気になっている様だ。

私が【索敵】を使用すると、都市全体を真っ赤に染める程の敵勢反応が見える。
機械兵全てがモンスター扱いとして赤いマークで反応している。

数が・・・・推定1万強。

青いマークが戦闘をしている生存者で濃いグレーが戦闘による戦死者で、非戦闘員は黄色のマーカーで表示されている。
死傷者の手当をしたいが時間が立てば立つほど被害が各大するだろう。

最優先でジルナーク工房に向かい、その後クリスタルタワーに潜入しなければ。
周囲は薄暗くて良く見えないが目視出来る範囲だけでも多数の死体が無造作に横たわっており、思わず目を背けてしまう。

私達は現在街の入口、正面大門の内側に当たる東の商業エリアの端に居る。
そこから北の工業エリアまで敵勢反応の少ないルートを選びながら路地を進んで行く。

道中は咲耶の【雷槌ミョルニル】による電撃属性打撃攻撃と暗黒神ハーデスハーちゃんの電撃系の上位魔法ハイスペルで倒しながら進んだ。
当然不要に攻撃をすると周囲の機械兵が増援に押しかけて来るので、必要最低限の戦闘に抑える。




-機械都市ギュノス国 北地区工業エリア-

伝説の鍛冶士ジルナークのお店は看板がクローズになっているものの、店内からは光が漏れており誰かしらの気配を感じる。

周囲の確認をしながら入口の扉を慎重にノックする。
扉が少し開きギョロッとした目が覗く。

名工ジルナーク本人だ。
そして扉が開き、周囲を警戒する様に私達を招き入れてくれた。

「おお、お前達は久しいな。無事だったのか。」

久々に合ったジルナークは少し痩せており、かなり飲んでいるのか酒臭い。
瞳にかつて宿っていた鍛冶士の情熱溢れる輝きは失われていた。

広い工房内には数人の弟子達と住民が避難しており身を寄せ合う様に座っていた。

ジルナークが言うには、この建物周辺に磁気を帯びた簡易結界的な物を作り機械の行動を制限出来ているらしく比較的無事だったそうだ。
そして今は身内の様な付き合いをしていた近所の生存者の家族を数名匿い、店内で身を潜めているらしい。

昨日マザーブレインから世界に向けて破壊命令が発令された直後に街の防壁が閉まり、都市内を歩いていた多くの人々は機械兵により虐殺をされ始めた。

衛兵や冒険者達は、新たにレジスタンスを設立し対抗した人間も居たらしいが詳しい事は分からないと力無く語っていた。

「私達はマザーブレインを倒す為に、この街に戻ってきました。どうか力を貸しては頂けないでしょうか?」

「ふん、この状況で今更何をしろと言うのだ。また希少鉱石レアメタルでも持ってきたとでも言うのか?」

疲れた様な表情で失笑するかの様に吐き捨てる。
現在の街の状況に絶望しているのだろう。
酒に逃げ酔う事で絶望を忘れ様としているかに見えた。

私は無言で取り出したインゴットをジルナークに手渡した。
精気の無い目をしていたジルナークはそのインゴットを見た瞬間に顔色を変えて驚愕する。
様々な角度から食い入る様に眺める、専用の魔力ルーペを取り出し細かく観察を行っている。

「お、おい!娘、こいつは・・・お前何処で手に入れたんだ!こんな金属は見たことも無いぞ!希少鉱石レアメタルとはまた違う。いいや、金属には違いないが・・・凄い代物だと言う事は分かるぞ!こりゃ凄いぞ、この光っているのは古代文字なのか?」

私は肩を掴まれ、酷く興奮したジルナークに揺さぶられる様に質問攻めにされる。
先程までとは打って変わって真剣な眼差しと熱意の様な物を口調から感じる。

素人の私では分からないが、このインゴットはそれ程の物なのだろう。
希少鉱石レアメタルを持って来た時よりも興奮しているかも知れない。

「私も良く分かりませんが、謎のインゴットに破壊神が宿ったアイテム・・・と言うべき物です。見ての通り呪いのアイテムみたいに見えますけどね。破壊神本人が加工して武器を造れと言ってました。」

「破壊神?お主、頭大丈夫か?」

それが普通の反応ですよね。

実際に目にした私自身信じれないもの・・・仲間の皆が順応性が高すぎて恐い位だ。
他人に客観的な説明をする事で改めて思ったが、これはヤバイ代物だ。

しかし、ジルナークの瞳は以前に希少鉱石レアメタルを手渡した時よりも輝いている。
まるで好奇心が抑えられない子供の様な表情が蘇っていた。

「これをワシに預けてくれんか!最高の・・・いや、最強の装備を造らせてはくれないか!」

「それをお願いする為に私達は来ました。是非ともお願いします!」

ジルナークが提示した期間は5日間。
私は自分が主装備にしている長刀【村雨むらさめ】を渡し、同じ形状の刀の作成を依頼した。
私はサクラの持つ予備武器の長刀【鐵斫くろがねきり】を借りて装備する事にした。
侍用にカスタマイズされており耐久値も無制限に加工済の一品だ。

「では我々はマザーブレインを倒しに行きます。シノブの武器の作成をお願いします、少ないですが保存食料と完全回復薬を置いていきます。」

DOSどっちゃんが以前造って貰った【アグネイヤ】を抱えてジルナークへ見せる。
それを見たジルナークは極上の笑顔で希望に満ちた表情に変わる。

「お前さん方は、まだ何も諦めておらんのだな。」

少しだけ優しい表情で自身が作成した【アグネイヤ】を眺める。
そして意を決した様に表情に覇気が戻り高らかに笑った。
工房の従業員も、その姿を見て驚いている様だった。

「もう武器を造る気も無かったがな、こんな素晴らしい素材を見せられたら体の中を鍛冶師の血が騒いで暴れるのじゃ!必ず最強の武器を造ってやるから生きて帰って来い!」

「はいっ!よろしくお願いします!」

私達はジルナークに深々と挨拶をして、ジルナーク工房を後にする。

目指すは都市中央のクリスタルタワー最深部、マザーブレン「クトゥル」の破壊だ。
今回ばかりは戦闘をしなければならない、そして確実に勝つ。

アザドゥが言う様に私に事象改変能力が少しでも有るのなら、負ける想像はしてはいけない。

・・・必ず勝って皆と元の世界に戻るのだ。
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