上 下
152 / 252
百鬼夜行編

152話 黒猫の妖を使役する女侍

しおりを挟む
2日目の情報収集では私とサクラは西側に出向く。

1日目は忍者装束で情報収集を行っていた所、やたら注目されていた。
その為、今日は久々に【黒猫スーツ】を装備する。

アルラトが私の姿に【擬態】して別地域で活動しているのも要因の一つだ。
黒い毛が生えた全身タイツなんて夏場で超暑いかと思ったが特殊性能なのか非常に快適な着心地だった。
防御力や魔法耐性は無いが意外と高性能かも。

本日、私達は西側の区画を訪れていた。
目的は破壊された白虎神社とその周辺での情報収集で有る。

前日にDOSどっちゃんが訪れていた場所だ。
彼は不可視化状態で見聞きしただけで、住民らと直接会話はしていないと話していた。

DOSどっちゃんの情報通り破壊された白虎神社は、先日訪れた玄武神社と造りが似ている。

白い虎の姿をした神様を祭る神社で西方を守護するとされている。
その場所を訪れた私達は破壊活動の跡を目撃する。

建物は半壊し、神像を象った白い虎の像は首から上が完全に破壊され無残な有様となっていた。
本堂は閉鎖され石畳で造られた巡回路の至る所に血痕が撒き散らされていた跡が残っていた。

周囲には大勢の侍が巡回しており、現場検証を行っている様子だ。
先程から頻りに私とサクラの方を警戒して見ている。

装備を見て何処の侍か吟味しているのだろうか?

「視線を感じるでござる。」

「露骨にガン見されてるね。今走ったら追いかけて来ると思うよ。」

ヒソヒソと小声で話していると、1人の侍が近付いて来た。

短髪黒髪でガッチリとした体格、黒に金色の桜をあしらった着物を羽織り腰に2本の長刀を提げている。
見た目や雰囲気から高レベルの侍だと分かる。

「そこの女、何処に所属する侍だ。名を名乗れ!」

「センスの良い羽織でござるな。だが、まずはお主が名乗るのが礼儀でござろう。」

私は黒猫として認識されているので知らんぷりしておこう。

警戒はしているが殺気は纏っていない。
サクラの技量を測っている様な表情だ。

お互い睨み合って居る間に周囲を部下の侍連中が囲み刀に手を掛け抜刀の構えを取る。

「ホウシェン城、城主ホワンロン天帝直属。黒組隊長シロウだ。貴様の名を答えい!」

「拙者は英雄の称号を持つ、侍サクラだ。」

一瞬にしてその場を凍り付いた様な静寂が包む。
そして周囲を囲んで居る侍から失笑に似た笑いが起きる。

「わっはっはっは!英雄だと?笑止な、女子おなご如きが戯言を。」

「試してみるござるか?まっ、雑魚には興味無いでござるがな。」

「愚弄するか!田舎侍が!」

シロウと名乗る侍はサクラに挑発されてあっさり喧嘩を買い取る。

サクラコイツはいつもいつも・・・
どうしてこう話を拗れる方向へ持って行くかな。

あのシロウとか言う侍がサクラよりも強いと言う事は無いと思うけど、騒ぎを起こすのは不味いのでは。

「ちょっと、サクラ喧嘩は駄目だって!しかも天帝ってこの国のトップでしょ?まずいよ。」

「猫が喋った!?あやかしもおったか・・・ますます怪しいヤツめ!成敗いたす!囲め!決して逃がすな!」

おっと・・・
聞こえてしまった、失敗失敗テヘペロ。

周囲を囲む侍に犯罪者印どくろマークの人間は居ない。
戦士系上級職の侍とは言え周囲の連中は手加減する必要が有りそうだ。

私は素手で戦おうかな?手加減手刀攻撃位は耐えれると思う。
サクラ刀を1本だけ抜き放ち、私と背中合わせで構える。

シロウと名乗った侍も2本の刀を抜きサクラに対峙する。

シロウは【縮地】を使い間合いを一気に詰めて来る。
サクラは刀1本で軽くいなす。

私は正面の侍の背後に高速で移動し、背後から2人の襟首を掴み背負う様にして地面に叩きつける。
両サイドの侍から抜刀した音が聞こえた瞬間に【影分身】を発動する。
両端で斬りかかろうとする侍2人の腹部に掌底を深く当てて弾き飛ばす。

「な!!なんだと!?」
「馬鹿な!!」
『あのあやかしはなんだ!?3体の忍者を召喚したぞ!?」

あ、やば!
分身体には【黒猫スーツ】の効果が反映しないんだった!

・・・まずったかな。

サクラの後方に居た侍4人は全員一瞬で気絶する。
それを見たシロウと残り3人の侍は驚愕の表情を隠せない。

その隙をサクラは見逃すこと無く、高速の【居合斬り】がシロウの胸部に直撃し後方の侍3人を巻き込み吹き飛ばす。

手加減してる・・・よね?

吹き飛んだ方向を良く見ると、気絶している3人の侍と胸部に打撲傷を負ったシロウが倒れていた。

峰打ちをした様で死んではなさそうだ、良かった。

まぁサクラの峰打ちは当たり所が悪ければ死ぬかも知れないけどね。
どこぞの飛天●剣流ひてん●つるぎりゅうに更にパワーを足した様な物だからな。

「シノブ殿、どうしよう。」

今更やっちゃったって顔で懇願されてもね~。

「まずその喧嘩っ早い性格を治すと良いよ。」

まぁ、どうしようも無いね。

「三十六計逃げるに如かず!でござる!」

中国の有名な武将、孫子の掲げた兵法三十六計の中で1番有名と言っても過言では無い最強の策だとサクラが言い放つ。
長いウンチクが始まるかと思い、私もすぐに反応する。

「よし、逃げよう!」

私達はこの場を収集する案が思い浮かばず、そっと立ち去る事にした。

後々問題にならなければ良いけど不安だ。
ミカさんには後で報告をしておこう。




街に戻った私達は白虎神社から少し離れた地域で情報収集をしたが、特に目ぼしい情報は得られなかった。

そしてその日の夜、私達はミカさんとDOSどっちゃんに軽率だと小一時間叱られた。

本日得た新しい情報は、奴隷売買には国家が関わっていると言う噂らしい。
自称情報屋の「ネズミ」と名乗る人物に金銭を払いミカさんが得た情報らしい。

亜人種デミヒューマンの賊は同族の奴隷解放が目的で、奴隷は四神神社の地下の隠し部屋が有るとか無いとか・・・

咲耶が言うにはネズミと言う情報屋自体うさん臭く信用に値しないと言っていた。

「あの情報屋は私達の情報も売るでしょうね、ミカエルにして少し迂闊だったと思います。」

「すまない。事を急いでしまったのは否めない。」

奴隷売買の情報を嗅ぎまわっている異邦人が居ると言う情報が流れれば、後々面倒な事になり兼ねない。
それにしても国が主導で奴隷売買とか、この国はさっさと滅ぼした方が良いんじゃないか?と思っていると咲耶が「国ごと燃やそう」と言い出しミカさんに止められていた。

そうだね、街の人々に罪は無いから滅ぼしたり燃やしたら駄目ですね。

取り敢えず今後の指針としては、四神神社の地下施設捜索と奴隷解放軍を歌う亜人種デミヒューマン部隊との接触、及びホウシェン城の調査に決定する。

翌日の早朝、近くの朝市に出かけていた咲耶が1枚の紙切れを持って帰って来た。

「これは・・・な、なんでござるか!?」

「これ絶対にワザとだよね。」

それはもう悪意に満ちた人相書きで似せようと言うよりも、より悪人顔に描かれたサクラと黒猫わたしの手配書だ。
この指名手配書だけ見たら間違い無く悪人認定される位の誇張具合だ。

「黒猫のあやかしを使う女侍サクラ」の指名手配書が国中に号外として配られ、私達はDOSどっちゃんから再度お叱りを受ける。

翌日私は安い市民が着る着物を着用しサクラはフルフェイスタイプの武者兜と軽鎧に着替え活動する事となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。
ファンタジー
※第12回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。応援ありがとうございました!  勇者に裏切られ、剣士ディックは魔王軍に捕まった。  勇者パーティで劣悪な環境にて酷使された挙句、勇者の保身のために切り捨てられたのだ。  そんな彼の前に現れたのは、亡き母に瓜二つの魔王四天王、炎を操るサキュバス、シラヌイだった。  ディックは母親から深い愛情を受けて育った男である。彼にとって母親は全てであり、一目見た時からシラヌイに母親の影を重ねていた。  シラヌイは愛情を知らないサキュバスである。落ちこぼれ淫魔だった彼女は、死に物狂いの努力によって四天王になったが、反動で自分を傷つける事でしか存在を示せなくなっていた。  スカウトを受け魔王軍に入ったディックは、シラヌイの副官として働く事に。  魔王軍は人間関係良好、福利厚生の整ったホワイトであり、ディックは暖かく迎えられた。  そんな中で彼に支えられ、少しずつ愛情を知るシラヌイ。やがて2人は種族を超えた恋人同士になる。  ただ、一つ問題があるとすれば……  サキュバスなのに、シラヌイは手を触れただけでも狼狽える、ウブな恋愛初心者である事だった。  連載状況 【第一部】いちゃいちゃラブコメ編 完結 【第二部】結ばれる恋人編 完結 【第三部】二人の休息編 完結 【第四部】愛のエルフと力のドラゴン編 完結 【第五部】魔女の監獄編 完結 【第六部】最終章 完結

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

クラスメイトのなかで僕だけ異世界転移に耐えられずアンデッドになってしまったようです。

大前野 誠也
ファンタジー
ー  子供頃から体の弱かった主人公は、ある日突然クラスメイトたちと異世界に召喚されてしまう。  しかし主人公はその召喚の衝撃に耐えきれず絶命してしまった。  異世界人は世界を渡る時にスキルという力を授かるのだが、主人公のクラスメイトである灰田亜紀のスキルは死者をアンデッドに変えてしまうスキルだった。  そのスキルの力で主人公はアンデッドとして蘇ったのだが、灰田亜紀ともども追放されてしまう。  追放された森で2人がであったのは――

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...