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雪原の国編

141話 防衛失敗の痛み

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ピトゥリア城は街の中央に在る。

城の最上部に上がり周囲を見渡すと街の南東に黒い物体と逃げ惑う大勢の人間。
そして倒壊した建物から炎と煙が舞い上がっていた。

遠過ぎて良く見えないが、恐らく近くに居た冒険者と衛兵が眷属と戦闘繰り広げているのだろう。

「くっ、ここからだと目視出来ん。」

私は【索敵】を使用する、赤いマーカーが約30個。
変だ、ゲームの時より多いぞ。

確かこのクエストは第1フェイズ20体、第2フェイズ30体。
制限時間内30分で眷属50体全てを倒すとボスが出現する。

ボスにも30分の制限時間が有り、合計1時間以内に全てのモンスターを倒す必要が有る。
この城からだと高速移動で目的エリアに到着したとしても途中から防衛するのが精一杯だ。

「モンスター数は30匹!ゲームより多いよ!」

「ここでも難易度調整ですか、厄介ですね!」

「ミカエル殿!シノブ殿!【縮地】で先行するでござる!アルラトも【擬態】で誰かに変身して付いて来るでござる!」

高速移動系の特殊技能スキルが使える人間じゃないと防衛にすら間に合わない可能性が高い。

「分かった!エルになるね!」

「ああ、行くぞ!DOSドス、咲耶、ハーデスも急いで追って来てくれ!」

「了解だ。」

「分かりました。」

「私も【縮地】が使える!行くぞ!」

「・・・・分かりました。セーニア姫は私から離れない様に付いて来て下さい!」

セーニアの表情は真剣そのものだ。
ミカさんも勝手に動かれては困るので一緒に行動する事で彼女をコントロールする気だろう。

「我らも行くぞ!兵士長、至急城内の兵を集め南東の防衛に回せ!」

私達は【縮地】を使い同時に走り出す。

私とミカさんとサクラ、更にミカさんの【擬態】したアルラトとセーニアは【縮地】を連続使用し高速移動する。

目的地までは遠い。
警鐘は街中に鳴り響き住民の叫びや怒号が彼方此方で聞こえる。

【縮地】は基本的に短距離高速移動する特殊技能スキルだ。
この世界では最大で距離約30メートルを3秒程度の速さで移動する。

その為30メートル毎に特殊技能スキル発動しなければならない。
SP消費量は少なく再充填時間リキャストタイムも極微量だが、距離が距離だけに使用回数が半端無い回数になる。

火の手が上がっている場所が近付くとモンスターの姿が鮮明に見え始める。

約3メートル位の黒い巨体で1つ目の人型モンスターが複数体暴れ、冒険者パーティーや衛兵と交戦中だった。

素早い動きで翻弄し巨大な鍵爪が付いた手で街を破壊しながら街の中心部を目指している動きだった。
モンスターの周囲には犠牲になった冒険者や住民の死体が多数横たわっていた。

「サクラ!シノブ!は右側の方を対処して下さい!」

「アルラトとセーニア姫は私に付いて来て下さい!」

「了解でござる!」「了解!」
「行こう!」「分かった!」

私は二刀流を構え【影分身】を使う。

目の前の眷属「クロムベーダ」に【地獄ノ業火インフィヌス】で連続攻撃をする。
クロムベータは火炎属性が弱点なので私でも比較的大ダメージが期待出来る。

ただしレイドイベント出現モンスターなので全体的にステータスが高い厄介な相手だ。
相手の攻撃方法は体当たりに巨大な爪による斬撃、巨大な一つ目から状態異常「石化」の効果を持つ【石化の魔眼】を使用してくる。

稀に灰色の個体が居て、範囲回復魔法を使用する。
攻撃を回避するのは余裕だがもんすたーの体力値が高い為、1体を倒すのに時間が掛かる。

「サクラ!灰色が居た!ヤツを先に狙おう!」

「了解でござる!」

灰色のクロムベータに対して2人掛かりで一気に攻撃を仕掛ける。
範囲回復魔法を使われる前に倒さなければ戦闘が長引いてしまう。

サクラが巨大な一つ目を狙い【朧三日月おぼろみかづききわみ】を使い巨大な眼球を斬り裂く。

【石化の魔眼】は厄介なので、まずは眼の部分の部位破壊をするのが基本だ。
難無く灰色の個体を撃破し、そこからは散開して戦う。

しばらくすると後続のDOSどっちゃんと咲耶と暗黒神ハーデスハーちゃんが到着し戦闘に参加する。

しかし前線虚しく、敵勢力を12体倒した時点で眷属の集団は撤退を開始して行く。
ギリギリまで交戦をしていたが最後は霧が薄れて消える様に姿が無くなった。

最終的に16体討伐したが街への被害は甚大だった。

街の南西部分の約20パーセント近くを破壊され多数の死者を出す結果となった。

悔しさと虚しさが込み上げる。
しかし立ち尽くしている場合じゃない。

私達は手分けをして死傷者を捜索を行う。

夜間作業となったが、幸い雪は降っていない。
暗黒神ハーデスハーちゃんが周囲を照らす光魔法を使用し、周囲を昼間の様に明るく照らす。

私は【索敵】で死者を探し、DOSどっちゃんとサクラが広場に運ぶ。
使者は黒色のマーカーで表示されるので瓦礫の下になっていても容易に発見が出来る。

そして広場ではミカさんが【ヒルドルの盾】で死者の蘇生を行う。
アレクス王子は騎士隊に指示を出し怪我人の捜索を行っていた。
セーニアもその手伝いに参加していた。

アルラトは咲耶に【擬態】をして2人と回復魔法の使える冒険者達で怪我人の手当てを行っていた。
暗黒神ハーデスハーちゃんも回復効果の有る長杖【カドゥケウス】で傷の手当に回っていた。

怪我人だけで、ゆうに300名以上は居る様で衛兵達も回復薬を持ちながら走り回っていた。

「凄い!まさに奇跡だ!」「あの人は女神に違いない。」
「いや、大天使だと聞いたぞ。」「マジか!!」
「暗闇でもキラキラと光ってるしな、間違い無く天の御使い様に違いないよ!」

死者の蘇生をその目にした兵士や冒険者はミカさんを崇拝する様に噂をしていた。
この世界では蘇生アイテムを見た事が無い。
回復系魔法の得意な神殿に務めるアークビショップの神官でさえ死者復活という事象を知らない様子だ。

当然咲耶もゲームで使えていた復活魔法を使えなくなっていたらしい。
この世界は誰かに都合良く捻じ曲げられている様な気がする。

朝日が昇り始める頃には、おおよその住民の救出も大方終わる。
現場処理と検証は衛兵に任せ、私達は怪我人の救助と回復を終え城へと帰還した。




流石に疲れた・・・
私達は各々与えられた個室に戻り真っ先に湯舟にお湯を貯めつつ部屋の各所に罠を設置する。
サクラ対策は万全だ。

装備と衣類を脱ぎ捨て温かな湯の張ったお風呂に浸かる。
雪国で温かいお湯に肩まで浸かるのはとても幸せな気分に浸れる。

「極楽、極楽。」

思わず独り言を口にする。
住民の救出作業で冷えた体が徐々に温まっていく。

そして私の脳内に先程の救助活動の光景が浮かんでくる。

今日だけで60名以上の死者を見て来た。
正直死んだ人間の姿を見る事に慣れる事は無い。

ミカさんのお陰で生き返る事が出来たが彼等は1度確実に死んだのだ。

レイドイベントは大型ボスを大勢のプレイヤーで協力して倒し、レアアイテムをゲットする事が目的だ。
街の破壊率はドロップアイテム数が減少するだけのデメリットしか無かった。

でも今は違う、人々が被害に遭いそして死ぬ。

復活出来るから良いと言う物じゃない。
死を経験した人々は精神を病み真面な生活が送れなくなる人もいるだろう。

もはや私は自分達以外の人をNPCと割り切る事が完全に出来無くなってしまった。
出来れば視界に映る全員を助けたい、平和な日常を失わせたくない。

「はぁ・・・」

考えても答えなど出る事は無い。
はっきり言って全ての人々を死なせない様に救うなんて無理の有る願望なんだ。
私なりに出来る事をするしかないんだ。

分かってはいるけど1人の時間が有ると色々と考えてしまう自分が居る。

本当に・・・
この世界は何なんだ。

意味の分からない心の揺らぎを感じながらボーっと湯舟を眺める。

駄目だ考え過ぎると戦えなくなる。

次は必ず勝つんだ。
勝ってこの国の人々の生活を救って見せる。
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