上 下
40 / 57

何のための『シュコー』だよ!

しおりを挟む
 美咲ベイダーの活躍により、顔面シリキ・ウトゥ〇ドゥ達の脅威は消し去られた。

 僕は胸を撫で下ろし、美咲ちゃんに近付く。

「ありがとう美咲ちゃん! まじで助かった!」

 しかし、美咲ちゃんはその場にペタンと座り込んで俯き、微動だにしない。
 よく見ると若干ぷるぷると震えている。泣いているのだろうか? そこまで僕の心配をしてくれていた、ということだろう。ほんと、美咲ちゃんには頭が下がる思いだ。

 僕が美咲ちゃんの肩にそっと手を置いて、再び声をかける。

「……美咲ちゃん?」










「しゅきィイイイイイィイイイイイ❤︎ ダメ! もうダメ! シュキー❤︎ 私の中のダー◯ベイダーが『もうやっちゃえ』と囁くのォォオオオオオオ❤︎ シュキー❤︎」

 突然美咲ベイダーが興奮して、僕を下敷きに組み伏せた。
 さっきまでの口癖だった『シュコー』は『シュキー❤︎』に進化した。
 てか、何?! 痛い痛い痛い! なんで頭突きしてくんの?!
 あ、違う、これ頭突きじゃない! キスだわ! キスしようとしてベイダーマスクがガツガツ僕の歯にぶつかってるだけだわ!

「ちょ待! いたたたたた痛いって! 無理だから! キスできないから! ダー◯ベイダーはキスできない設計だからァ! 親御さんも安心の全年齢設計だから!」

 僕の言葉にショックを受けたらしい美咲ベイダーは両手をパーにして、ベイダーマスクの口部分を押さえる。仕草が乙女チックなんだよな、このベイダー。

 美咲ちゃんは片手を額に当てて、何やらぶつぶつ呟いている。

「大丈夫落ち着くのよ美咲! 冷静に! 冷静に考えて!考えるの! 考えれば何か突破口が見えるはず! 何か抜け道が………………そうか! キスはできなくても唾液は流し込める!」

「いやホント冷静になって?!」

 美咲ちゃんはゆっくりとベイダーマスクを僕に近づけてくる。
 先ほどの僕を助けたヒーローのような美咲ちゃんはどこへやら。完全にダークサイドに落ちたようだ。ダークというよりはピンク寄りだが。
 僕はせめてもの時間稼ぎに美咲ちゃんに口撃する。

「てか、ベイダーマスクしても変態ゾンビ化してんじゃ意味ないじゃん! 何のための『シュコー』だよ!」

 すると美咲ちゃんはおもむろにベイダーマスクを外す。

 トロンととろけるエメラルド色の目。
 赤く染まった艶やかなほっぺ。
 少しほりの深い可愛らしいハーフ顔。
 光を反射して輝くブランドヘア。
 マスクのせいで薄ら汗をかく額。
 ほのかに香る甘酸っぱい女子の汗の匂い。

 目と鼻の先の美少女は口を開く。


「冷静に考えれば、外せばいいだけでした。これただのマスクです。フェロモン遮断効果はありませんから」

「いや、マジでなんのための『シュコー』マスク?!」


 美咲ちゃんの乙女の花園から洪水のように溢れ出る甘蜜によって、またがられている僕の腰付近は既に絞れるほどに湿り、レアチーズケーキのような女の子の秘密の香りが漂う。

「慎ちゃん先輩……バーチャルじゃないキスも…………してみませんか?」

 美咲ちゃんはとろけた目で僕を見つめゆっくりと唇を僕に近づける。
 美咲ちゃんには以前バーチャル世界で不意打ちでキスされたことはあった。
 けれど、知らなかった。
 真正面から迫られるキスが、こんなにも抗いがたく妖美で魅力的なものだとは。


 もう…………このまま…………


 美咲ちゃんの吐息が僕の口にかかる。
 美咲ちゃんの静かでありながら速い呼吸音と、僕の荒い心音が重なる。
 微かに甘い女の子の香りが僕を包み、その妖艶な香りの発生源はもう僕の面前に来ていた。

 唇と唇の間がもうあと1m mというところにきたとき、僕の脳裏に人影がよぎった。








 それは小さくて幼くて、しかし大きくて意志の強い女の子。










 彼女の顔が悲しみに歪むのが見えて、









 僕はハッと我にかえった。





「ちょ?! ちよちょちょ待って美咲ちゃん! ダメだって!」

 僕は美咲ちゃんをどかそうと手を突き出した。
 美咲ちゃんの腰辺りを押して、どかそうと思ったのだ。

 しかし、僕は照準を誤り、腰よりもっと下に向けて手を突き出してしまった。


 僕の手が着陸した場所は、美咲ちゃんの甘い蜜でびしょびしょのぬるぬるになっている自分の腹。
 しかし、手は止まらなかった。
 びしょびしょのぬるぬるになっていた僕の腹部は摩擦力0であり、ぬるぬるの地が水平線の先まで続いているのなら、僕の手は延々と止まることなく彼方まで滑っていったことであろう。

 だが現実は、そうはならなかった。
 僕の手はにゅるっと突き刺さって止まった。


 美咲ちゃんの乙女の花園のドリームゲートに。





「ひゃんっ?!」





 美咲ちゃんはビクッと反応し、内腿うちももをキュッと締めようとするも僕に跨っているため、失敗する。
 指の腹に温かい神秘の洞窟の入り口を感じた。

 大丈夫! かろうじて神秘の洞窟には侵入していない! まだ入り口を撫でるように滑っただけだ!
 なぜパンツを履いていないのか、については今更追求しても仕方の無いこと。今は現状を打破することに集中だ。

「慎っ! …………ちゃん……先輩っ……んくぅっ❤︎」


 美咲ちゃんは『慎』だけ大きな声で叫ぶと後は震えながら噛み殺したような声を漏らす。
 に耐えるかのように目をギュッとつぶって苦悶の表情をしている。
 何かとは何か! 無論、僕の手である。

 分かってるって美咲ちゃん! 抜くよ! 抜くから! 抜くってそっちの抜くじゃないよ?! それは後でだ!
 そうじゃなくて、手ね! あんまり大きい声出されると指の第一関節がビクッて曲がって、神秘の洞窟にご入窟にゅうくつしてしまうじゃないか!

 僕は美咲ちゃんを刺激しないように、そーっと、そーーーーっと手を動かそうとする。
 少し手を引いて動かすたびに、美咲ちゃんがビクッと反応するからなかなか進まない。

 でも、大丈夫だ! 落ち着け慎一! 少しずつ、少しずつだ! ゆーっくり慎重に抜けば、必ず上手くいく! やるんだ慎一! 男を見せろ!


 僕はジェンガを引き抜くように慎重に手を引く。
 僕はジェンガが得意だ。抜ける時には、直感的に『これはイケる!』と神の啓示があるのだ!
 僕はその神の啓示を今、受け取った。

 よし! イケる!

 僕が一気に引き抜こうとした瞬間。





















 キーンコーンカーンコーン!














 キーンコーンカーンコーン!




























 ドビクゥッ!!!!









 僕の第一関節は無常にも大音量で響き渡る昼休み終了のチャイムに反応して、折れ曲がった。
 もう見事なまでに折れ曲がった。
 当然角度が変われば、神秘の洞窟に指先がご入窟にゅうくつする。
 侵入者を排除するトラップのごとく、やけに粘度の高い水責めトラップが発動した。


 具体的に、この後、どうなったかって?
 それは書かないでおこう。もう運営に怒られたくはないのだ。
 ただ美咲ちゃんは気絶して、僕は指を嗅いだ。それだけだ。




 しかし、酷い目にあった。
 もう惚れ薬なんて危険なものに手を出すのは金輪際やめよう。
 世の女子達は皆、心にシリキ・ウトゥ〇ドゥやダー◯ベイダーを抱えて生きているのだ。
 それを刺激して、地獄を見るのは男子だ。
 僕は、女子たちを甘くみていた。男子の諸君は法律に守られているなどと思わない方が良い。
 惚れ薬でダークサイドもといピンクサイドに落ちた女子は法律など考慮しないのだ。







 さあ手を振って、エロスな自分に別れを告げたまえ。






 気をつけろ! エロスの誘惑にとりつかれてはならん。
二度と戻ってくるな!!




 いいか?
 女子達の心のエロスはヤバい!
 男子諸君よ、ゆめゆめ忘れるな!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺若葉
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

Nodding anemone

不思議ちゃん
恋愛
金曜日ということで夜遅くまでライブ鑑賞をしようとしていた桜優(さくら ゆう)は仕事の疲れから毛布もかけずに寝落ちしてしまう。それが原因により体調を崩し、土日を療養に努めすっかり良くなった体調で出社したはいいものの、何やら世の中の様子がおかしいようで……? ストックが尽きるまで月、金曜日、18時更新 小説家になろうにも掲載しています。 12/27〜1/4まで毎日更新。その後ストック貯まるまで失踪します。

秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!

中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。 ※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

処理中です...