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第三章 農村防衛編

城門の闘い

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 狩猟頭オーサンが射た矢は3発目でようやく野盗を1人沈めた。
 ちっ、と舌打ちしながらオーサンが次の矢をつがえる。
 一方、少年エドワードは浅い切り傷をいくつも作りながら、なんとか2人目の野盗を切断したところだった。
 他の居残った村人たちも3人で1人の野盗を抑えるのがやっとだった。
 
 東の城門にハルトは最も人員を割いた。唯一の出入口だからだ。岩で塞いでしまうという案も出ていたが、ここを岩で塞いでしまえば、いざという時——例えば村全域で火災が起きた時——に村人たちが逃げられなくなってしまう。そのため仕方なく解放していた。だからこそ、多くの村人をここに配置した。
 だが、当初の想定よりも苦戦しているのは明らかだった。
 オーサンが息の上がった声で叫ぶ。

「ちきしょう、どうなってやがる。こんなにやりづれぇとは聞いてねぇぞ」
「くっそ、こいつら、グールの10倍は強いよ」と少年エドワードが泣き言を漏らす。

「当たり前でしょ」と応じたのは空からふわりと降ってきたリラだった。言いながら、むちを2、3振り回すと、周囲の野盗5人が呻く間も無く地に伏した。「この人らは、裏舞台とはいえ、生死をかけた戦いに身をおく者なのよ。本来昨日今日、剣を持った素人が勝てる相手じゃないのよ」
「実際、勝ててるじゃん」とエドワードが口を尖らせる。
「呆れた鈍感さね。自分らがバフかけられてんのにも気づかないわけ?」
「バフって……おっぱいで挟むアレか?」とオーサンがセクハラまがいの冗談をかまし、リラに無視される。伝わっていないと勘違いしたオーサンは「バフバフ……なんちって」とさらに分かりやすく言い直すが、やっぱり無視された。

 ハルトは遊撃舞台として最強戦力のマリアと、次に強いナナ、ルイワーツを送り出した。そうなると城門の守りはどうしても一般農民中心になってしまい、重要なポイントであるにもかかわらず戦力が不足して守りきれない恐れがあった。
 そこで、リラを配置したのだ。リラの強化魔法は農民の実力を一時的ではあるが、一回りも二回りも底上げできる。リラなくしてこの作戦は成し得なかった。

「ほら、ピーピー騒いでないで、前向いて武器構えなさい。次が来るわよ」
「ちっくしょ、こいつらまだいんのかよ」
「まだ10人くらいしか倒してないでしょ。男なら気張りなさい」

 それから何人も何人も野盗をひたすら倒した。
オーサンたちが強化されているだけでなく、野盗共がリラの魔法で弱体化していることもあり、こちらの陣営は大した被害もなく、戦闘を有利に進めていた。
 
 だが、その流れは一人の男の出現であっさりとひるがえる。
 空に浮かぶ、一人の男。落ち着いた黒の執事服は、戦場にはミスマッチであり、そのちぐはぐさが不気味な迫力を醸し出していた。

「おいおい」とオーサンが上空の男に顔を向けた時には既にリラは男に気付いていた。男は野盗共を次々と倒すリラたちをただじっと観察するように見下ろしているだけで、一向に降りてこない。「あれ、やばくねぇか」とオーサンも男の異様さを感じ取る。
「何あれ……執事?」人生経験の差か、エドワードはまだ危機感が薄い様子だった。

 やがて野盗も減ってきて、終わりが見え始めた頃、男がゆっくり宙から降りてくる。
 名乗りでも上げるのかと、オーサンはその執事服の男を睨みつけていると、男は唐突に、火の玉——それも人が丸々収まるくらい巨大な——を出現させ、間髪入れず、それをオーサンに放った。

「避けて!」とリラが叫び、それが合図のようにオーサンは横に飛んだ。火の玉はオーサンの上衣ブリオーの端を焦がし、ついコンマ数秒前までオーサンがいた場所を通過して防壁に衝突した。防壁をも焦がした。
「おい、危ねぇな。名乗りもせず、いきなりかよ」とオーサンが尻餅をついたまま顔を引き攣らせる。
「当たり前でしょ。これから殺そうって相手に名乗るだけ時間の無駄よ。わざわざ名乗ってから殺しにかかるなんて、物語の中だけ」とリラが男を警戒しつつも言うと、男はまたも唐突にぴたりと止まり口を開く。

「ワタクシはナガールと申します」と言いながら胸に手をあて、軽くお辞儀する。
「おい、名乗ったぞ」とオーサンはリラを見ると「名乗ったわね」とリラも繰り返す。

そしてまた、唐突に指先をエドワードに向ける。エドワードは何が来るのか分からないからとりあえず警戒して、身構えるが、リラはそれが雷魔法だと察して、鞭をふって、エドワードを絡め取り、引き寄せた。その一瞬後に地と水平に走る小さな稲妻が雷鳴を轟かせながらエドワードの真横を通過した。
エドワードはそれを見て顔を青くする。リラがいなければ稲妻に直撃し、今頃黒焦げになっていたところだった。

「急に名乗ったり、殺そうとしたり、行動に脈絡がねぇ!」とオーサンが嘆くように叫ぶ。
「常に指先の向きに注意しておきなさい。雷魔法は見てから避けようなんて思わないこと」
「しかしあんたがいてくれて助かったぜ」とオーサンは柄にもなく弱気なことを言う。「あんな奴、あんたならチョロいだろ?」
「バカ言わないで。チョロいはずないでしょ」

 男——ナガールは手のひらでバチバチと電流を弄ぶように放電しながら、一歩ずつ近づいて来る。無表情に、淡々と魔法を放つナガールは機械が人間を虐殺するような無機質な殺気を纏う。


「あなた達がいつまでも足手纏いじゃ勝てないと思いなさい」とリラが言う。「何をすべきか、何がチームのためになるか、常に考えて動いて。いい? 3人で、あいつに勝つわよ」

 東の城門の闘いが始まった。

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