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第二章 農村開拓編
仲良しの訳
しおりを挟む農村に照明魔法を使える者など、ほぼいない。
日が暮れれば、真っ暗で何も見えなくなるため、農民は午後7時には寝静まる。
蝋燭やランタンもあるにはあるが、それらは高価な代物だ。日常的に使える物ではない。
ただし、例外的に夜中も活動できる夫婦が、この村には一組いた。ハルトとマリアだ。
「ね、ねぇ、この後……どうする?」とマリアが丈の短い肌着姿で、ハルトの横に転がった。
頬が染め、何かをおねだりするかの如く、目をとろんとさせて、ハルトを見つめる。
——が、ハルトはベッドに横になりながら学術書を読んでおり、マリアを見ていなかった。
かろうじてマリアの言葉は聞いており、ハルトが本を開きながら返答する。
「そうだねぇ。どうするか、って言われると迷うけど……でも、やっぱり食料事情の解消が最優先かなぁ」
農村開拓の話が帰ってきて、マリアはムッとした。
マリアがそっと自分の胸に手を添えて、その儚い膨らみに絶望しかけるが、『いやいやいや』と首を振って自分を奮い立たせる。
「こ、この村、ちょっと寒いなぁ~」とさりげなくハルトに近づき、肩と肩が触れた。
「あー、確かに建物もどうにかしたいよね。隙間風すごいし。でも、やっぱりまずは飢えを無くしてやるのが1番だと思うなぁ」
マリアが口を固く結びながらハルトを睨む。が、やはりハルトの視線は本に落ちており、マリアの視線に気付かない。
それならば、とマリアが意を決して口を開く。
「な、な、ななな『仲良し』したいなァ~………………なんて」
直接的な言葉を避けて、マリアが言う。顔はそろそろ発火するのではないか、と思えるほど真っ赤で、羞恥のためか汗をダラダラかいていた。
「いや、でも」とハルトが真剣な顔をして答える。「仲良し過ぎるのも問題なんだよね。村人同士、仲が良過ぎるとどうしても排他的になって、モリフみたいに弾きものにされちゃうんだよ」
そこでようやくハルトがマリアに目を向けて、異常事態に気がついた。
「あれ……? そんなに顔真っ赤でどうしたの?——って、うわっ! え?! なんでそんな薄着?!」
みるみるうちにマリアの目に羞恥の涙が溜まっていき、同時に口はふるふると震えつつ一文字に固く結ばれていた。
「もう知らない!」と怒るマリアを、ハルトは全身全霊、あらゆる言葉を駆使して宥めるが、マリアが眠りにつくまでマリアの機嫌は直らなかった。
♦︎
翌朝、ハルトとマリアは教会堂の司祭室を訪れた。
ノックをすると、ボサボサの髪の毛に肌着姿のモリフが出てきた。
「一狩り行こうぜ!」
と、ハルトが右腕を曲げてマッスルを見せつけると、モリフはぽりぽりと頭をかいてから、パタンと扉を閉めた。
「ぅおォォオイ! それが領主に対する態度かァ!」とハルトがドンドン扉を叩くが、モリフの返答はない。見かねたマリアが「今のはハルトくんが悪いよ」とハルトを嗜める。
結局ハルトの粘り勝ちで、モリフは扉を開けた。
「もぉ、なに、眠いのにィ」とモリフがあくびする。
「モリフ、村人と仲良しになりたくないか?」
ハルトは意識せずに言ったことだが、マリアがそのワードを聞いて昨晩の仕打ちを思い出したのか、頬を染めながらハルトを睨みつけた。
ハルトが、どうどう、という具合に両手のひらをマリアにむけて宥めつつも、一歩後ずさってさりげなく避難する。
「……何されたの?」とモリフがマリアに尋ねると、
「何もされなかったの」とマリアが答えた。
未だハルトはマリアが何故怒っているのか、よく分かっておらず、おろおろと困り果てていた。
マリアの怒りが収まった頃、ハルトはようやく本題に入る。
「農村の人たちがなんであんなに強い絆で結ばれているかと言えば、それは『食』に関わる繋がりだからだ」
「食?」とマリアが首を傾げる。
「そう。まぁもっと具体的に言えば農業だけど」とハルトが補足すると「農民が農業するのは当たり前じゃないの~」とモリフが返した。
「まぁ、そうなんだけどさ。特に農村の農業は『開放耕地制』が取られてることが大きな要因だよ」
「開放耕地制? って何?」とマリアがまた首を傾げる。
「簡単に言えば、農民は畑を完全な私的利用はしないで、村全体が共同で農業を運営してるんだ。だから、個人の保有農地を区切る柵なんかは設置されずに開放された畑で共同作業するんだよ」
「なるほど。だからここの人って一体感が強いのね」とマリアが言えば「だからよそ者は省かれる」とモリフが付け加える。
「彼らは仲違いすれば、自分自身の『食』に悪影響が生じるわけだ。言い換えれば、食うために仲良くある必要があるんだ」
モリフは眠そうな目で、ふーん、と言ってから「で」と続けた。
「で、それが『一狩り行こうぜ』とどう関係するん~?」
ハルトは、その質問待ってましたとばかりに、口角を釣り上げる。
「食うために、僕らが必要だって思わせるんだ」
「うっわ、悪い顔」と言うマリアの呟きは聞かなかったことにした。
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