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浦島太郎外伝2 御子の誕生
一話
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竜宮城に戻ってきて数ヶ月、すっかり「今日は何日ですか?」という確認が癖になりつつある。その度に鯛は申し訳無い顔をして日時を伝え、寝過ぎていない事を知ると安堵する毎日だ。
お腹の子はすくすくと大きくなっている。というか……少し大きすぎる気がする。
「んー、確かに少し大きいのですよ」
診察に来る河豚も少し心配そうな顔をする。が、まったくもって兆候がないというのだ。
浦島のお腹は既に胃の辺りからぽっこりと大きく張りだし、一人で抱えて歩くことが難しい。その為鯛が腹帯をしてくれるのだが、それでも段差が怖い。何より足下が見えないのだ。
「これほど大きいと、産むのが大変になるのですが」
「ですよね」
浦島は小柄だ。この体で大きな子を産むのはとても大変だと聞いている。
「そういえば、どういう状態で産まれるのでしょう? 卵……ではない?」
「竜王様の御子ですから、人化の状態で産まれるでしょうが……心配も」
「え?」
「今のところ御子がいるのは西海王様のみで、お二人います。そのうちの一人が、半人化でお生まれになり母胎に大変な負担があったと聞いてまして」
「半人化?」
人化というのは完全な人間の姿だと聞く。竜宮にいる皆は竜王の眷属で、御殿にいる時は人化している。あれこれ都合がいいからだ。
「半人化というのは、人の姿を模していても一部に元の姿の特徴が見える状態です。海を泳ぐ時に腰から下が魚になりますよね?」
「はい」
「その状態が半人化というものです」
浦島は自分の足を見る。どういう理屈かは分からないが、竜宮の周辺だとヒレが消えて足になり、その範囲を出るとヒレが現れる。意識しているわけではないのが不思議だ。
「竜王様は元のお姿に戻る事がありませんし、竜の半人化というのがどのような形なのか分かりかねますが」
「産まれてみなければ分からない、ということなんですね」
自分のお腹を撫でて、浦島はふっと息を吐いた。
すっかり生活は奥の宮になりつつある。夕餉を終えて湯浴みを終えて部屋にいると、仕事を終えた竜王も同じような状態で部屋に戻ってくる。鯛はここまでで頭を下げ、ここからは夫婦の時間になるのだ。
「本当に大きくなったな。辛くはないか?」
夜着を着た竜王が側にきて、浦島を気遣うように隣に座る。軽く肩を支えるようにする彼に安堵して、浦島も身を委ねた。
「子供には問題ないようですが、やはり大きいと言われました」
「西海王の二人目が難産だったからな。番の采妃も半年伏せっていた」
「そうなんですか?」
河豚の言っていた人物だろう。
それにしても、半年。そんなに寝込んだ事がないから、少し怖い気がする。それでも死ぬことはないのだろうが。
「お産直後は命も危うかったと聞いた」
「命も! あの、竜王様の番となったら死なないのでは?」
恐る恐る問いかけると、竜王は悲しそうに首を横に振った。
「正確には不老長寿なんだ。私を含めてな」
「貴方もですか?」
「亀や海蛇に殺される事はないし、寿命があるわけではないが、同じ神ならばそれも可能だ。私が万が一、祟り神や邪神に落ちた時には他の海王が私を屠りに来るだろう。それが決まりだ」
「そんな……」
死ねないと亀に言われて、少し楽観視していたかもしれない。絶対ではないのだ。
「あまりに体が傷つき、回復が間に合わなければ死ぬこともある」
「そう、なんですね」
「……怖くなったか?」
問われ、自分の腹を撫でる。確かに少し怖い。痛いのも嫌だし、死にたくはない。けれど。
「少し、怖いと思いました」
「そう、か」
「ですが、早く会いたいです。きっと、可愛いですよ」
「太郎」
驚いたような竜王に、浦島はにっこりと笑いかける。やはり楽しみな気持ちの方が大きいのだと感じた。
「それに、将来は竜王様のような素敵な大人になると思います」
「私は太郎のように愛らしい子でもいいと思うのだが」
「えー、ダメですよ。俺みたいな迫力のない竜なんて、なんか……威厳がありません」
「そうか? 皆に愛され慕われる者になりそうだが」
「かっこいいのがいいです」
そんな事を言い合って、笑って。竜王もまた愛しげに浦島の腹を撫でる。大きな手と腹に感じる少し高い体温が愛しくて、浦島はニコニコと笑っていた。
お腹の子はすくすくと大きくなっている。というか……少し大きすぎる気がする。
「んー、確かに少し大きいのですよ」
診察に来る河豚も少し心配そうな顔をする。が、まったくもって兆候がないというのだ。
浦島のお腹は既に胃の辺りからぽっこりと大きく張りだし、一人で抱えて歩くことが難しい。その為鯛が腹帯をしてくれるのだが、それでも段差が怖い。何より足下が見えないのだ。
「これほど大きいと、産むのが大変になるのですが」
「ですよね」
浦島は小柄だ。この体で大きな子を産むのはとても大変だと聞いている。
「そういえば、どういう状態で産まれるのでしょう? 卵……ではない?」
「竜王様の御子ですから、人化の状態で産まれるでしょうが……心配も」
「え?」
「今のところ御子がいるのは西海王様のみで、お二人います。そのうちの一人が、半人化でお生まれになり母胎に大変な負担があったと聞いてまして」
「半人化?」
人化というのは完全な人間の姿だと聞く。竜宮にいる皆は竜王の眷属で、御殿にいる時は人化している。あれこれ都合がいいからだ。
「半人化というのは、人の姿を模していても一部に元の姿の特徴が見える状態です。海を泳ぐ時に腰から下が魚になりますよね?」
「はい」
「その状態が半人化というものです」
浦島は自分の足を見る。どういう理屈かは分からないが、竜宮の周辺だとヒレが消えて足になり、その範囲を出るとヒレが現れる。意識しているわけではないのが不思議だ。
「竜王様は元のお姿に戻る事がありませんし、竜の半人化というのがどのような形なのか分かりかねますが」
「産まれてみなければ分からない、ということなんですね」
自分のお腹を撫でて、浦島はふっと息を吐いた。
すっかり生活は奥の宮になりつつある。夕餉を終えて湯浴みを終えて部屋にいると、仕事を終えた竜王も同じような状態で部屋に戻ってくる。鯛はここまでで頭を下げ、ここからは夫婦の時間になるのだ。
「本当に大きくなったな。辛くはないか?」
夜着を着た竜王が側にきて、浦島を気遣うように隣に座る。軽く肩を支えるようにする彼に安堵して、浦島も身を委ねた。
「子供には問題ないようですが、やはり大きいと言われました」
「西海王の二人目が難産だったからな。番の采妃も半年伏せっていた」
「そうなんですか?」
河豚の言っていた人物だろう。
それにしても、半年。そんなに寝込んだ事がないから、少し怖い気がする。それでも死ぬことはないのだろうが。
「お産直後は命も危うかったと聞いた」
「命も! あの、竜王様の番となったら死なないのでは?」
恐る恐る問いかけると、竜王は悲しそうに首を横に振った。
「正確には不老長寿なんだ。私を含めてな」
「貴方もですか?」
「亀や海蛇に殺される事はないし、寿命があるわけではないが、同じ神ならばそれも可能だ。私が万が一、祟り神や邪神に落ちた時には他の海王が私を屠りに来るだろう。それが決まりだ」
「そんな……」
死ねないと亀に言われて、少し楽観視していたかもしれない。絶対ではないのだ。
「あまりに体が傷つき、回復が間に合わなければ死ぬこともある」
「そう、なんですね」
「……怖くなったか?」
問われ、自分の腹を撫でる。確かに少し怖い。痛いのも嫌だし、死にたくはない。けれど。
「少し、怖いと思いました」
「そう、か」
「ですが、早く会いたいです。きっと、可愛いですよ」
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そんな事を言い合って、笑って。竜王もまた愛しげに浦島の腹を撫でる。大きな手と腹に感じる少し高い体温が愛しくて、浦島はニコニコと笑っていた。
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