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浦島太郎異伝 竜王の嫁探し

六話 竜は大輪の花を愛で

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リィィィィィィン

 澄んだ鈴の音が竜宮城に響く。それは竜の花嫁が通る事を知らせる鈴の音。一日をかけて体の隅々を清められ、香を焚き、髪を梳き、紅を差し、この日の為の衣装を着せられ送られる、美しくも哀れな贄の道行きの音。
 薄暗い夕闇を照らす鯛の手には牡丹の灯籠が。鈴を鳴らすは平目の役目。
 奥の宮へと続く渡り廊下には槍を持つ海蛇と鍵を持つ亀が立ち、亀だけが鯛の前を進んで宮の鍵を開けた。
 重苦しい音を立てて開いた宮は主を飲み込むように迎え入れる。薄暗い廊下には灯籠が灯り、行き止まりの扉だけが目に付く。
 しずしずと進む鯛の後に続いて、美しく着飾った浦島はぼんやりとした表情で続いていく。焦点はいまいち定まっておらず、言葉もない。白地に牡丹の白無垢を着た浦島は、連れられるままに扉の前に来た。

「浦島様、この扉に我らが触れる事はできません。ご自分で、お開け下さいませ」

 深々と腰を折った鯛に鍵を渡される。浦島は言葉もなく鍵穴に鍵を差し込み、自らの足でその扉を押し開け中へと入っていった。

◆◇◆

 亀と夜を共にして数日、浦島は竜王と過ごす時間が多くなった。彼の部屋で一日を過ごす事も珍しくはなく、会えば胸が一杯になって切なく、触れれば熱が止まらない。自然と互いに触れる事が多くなり、竜王の前で乱れる事が常であった。
 そして、彼と交わす口づけの甘さに酔い、受ければ頭の芯が痺れて動けなくなる。ただ疼き、求めてしまう事が止められないままグズグズに泣き、訴える日々が続いた。
 もう、何がおかしいのかも分からない。全てがどうでもいいように思う。ただ彼の人の寵愛を得られればそれでいいのだと思うようになっていた。

 白い布団は今日の為に用意されたもの。その上に座ってジッと時を待つ浦島の胸は張り裂けんばかりだ。緊張しているのは勿論だが、恐ろしくもある。もしも失敗などすれば嫌われてしまうのではと。

「うっ」

 ツキンと痛む腹の底。この辺りがずっと疼く。何を求めて疼くのかなど知れた事だが、それは日増しに酷くなる。
 そればかりではない。平らだった胸は弄りすぎたのか僅かに柔らかく膨らみ、見ようによっては女性の乳房にも見える。とは言え、ない所に肉がついただけと言われれば否定できないくらいなのだが。
 菊座は体の疼きを感じると勝手に濡れるようになった。そして男としては少し小さくなったように思う。最近では先走りは零しても射精に至らない事も多い。
 怖いはずなのに、受け入れている。全てが些末な事と思えるようになってしまった。
 落ち着かず、見れば卓に徳利と杯がある。立ち上がり、注ぐと赤漆の杯に僅かに濁った酒が満たされる。飲めば甘露のように甘く、香りは花のように柔らかい。口当たりもよく飲み干すと、カッと火が付いたように熱くなった。
 とても黙って待っていられそうにない。きっちりと着せられた白無垢が邪魔に思える。今すぐ脱ぎ捨て自ら触れたい衝動に駆られた浦島の後ろで、扉の開く音がした。

「太郎?」
「竜王様……」

 低く穏やかな声に熱が上がる。さっきまで確かに自らの手で触れようと思っていたのに、その声を聞いた途端に霧散した。今では彼に触れられたくて、期待に乳首が痛くなり下肢はとろりと先走りに濡れた。

「先に始めていたか。美味しいか?」
「はい、とても甘くて美味しくて」

 側へと来た竜王が手を伸ばし、唇に触れる。その指先を、浦島は切なく食んで吸い付いた。舌で指先を味わう姿に竜王は低く優しく笑って髪を梳いていく。

「我慢出来ない程に待たせてしまったか?」
「あっ、ちが……違うんですこれは……これは、俺に耐え性がないだけで」

 耐え性のない淫乱だと思われたくない。その思いで見上げ訴える先で、竜王は優しい笑みを浮かべる。それに、どれだけ救われるのか。
 指が髪に、耳に触れ、頬を通って唇に触れる。薄らと開いた唇を割って入った指を、浦島は愛しく吸った。

「可愛い太郎、それほどに私を望むか?」
「はい、竜王様」
「……すまないな、太郎」

 一瞬、竜王の表情は曇る。謝罪の言葉に浦島は首を傾げたが、何かを言う前に竜王の唇がそれを塞いだ。
 受け入れた舌を互いに絡めて探り合う。これだけで頭の芯が心地よく痺れてしまう。フルッと震えた体が疼き、心臓が音を立てる。彼の人の胸に手を置いて支えなくてはふらりと倒れてしまいそうなほど、浦島はこの口吸いに酔っていった。
 離れた唇から、互いの唾液が糸を張る。それをグッと指で拭った竜王は、すぐさま浦島を布団の上に押し倒した。

「あっ、お待ちを。折角の着物が台無しに……」
「私も早くお前を味わいたいのだが」
「それは……俺も嬉しいのですが。でも! 特別な、大切な着物ですから」

 これは鯛や平目が今日の日の為に用意してくれた花嫁衣装。汚してしまうにはあまりに惜しいものだ。
 必死に訴えかけると、竜王は惜しそうな顔で身を起こして浦島を解放してくれる。そそくさとそこから抜け出した浦島は着物掛けの前に行き、打ち掛けに手をかけた。
 が、これがなかなか脱げない。少々重い着物を脱ぐのに四苦八苦していると、楽しそうに笑った竜王が後ろに来てこれを脱がせてくれた。

「あっ、有難うございます」
「構わぬ。綺麗な姿を見られて私も嬉しく思う」

 綺麗なんて、なんだか照れる。そのうちに竜王は打ち掛けを掛け、続けて帯を解き始める。腹の周りが途端に楽になっていき、ほっと息をはく浦島の項に竜王の唇が触れた。

「んぅ」
「綺麗な項だ。実にそそられる」
「あの、もう少しお待ち下さい。着物、脱ぎますから」

 急いで紐を解いていき、胸元を緩める。途端そこに入り込む手が悪戯に乳首を摘まみ上げるものだから、浦島は甘い声で鳴いた。

「やはり、着ている姿もいいがこういうものは脱がせる時に興奮する」
「あっ、ダメ。胸、ダメですっ」
「既にこんなに尖らせて。待つ間、何を考えていたんだ?」
「あぁ!」

 少しきつめに根元をコリコリ摘まんで転がされ、浦島は高い声で鳴く。足下が震えてきて、立っているのが辛くなる。もう、彼が触れるだけで体が反応して力が抜けてしまいそうなのだ。

「ほら、脱ぐのだろ? 早うせぬと先走りで着物が汚れてしまうぞ」

 少し意地悪に耳元に吹き込まれる声に、浦島はどうにか紐を解いて前を開ける。はぁ、はぁと息を吐き、震えながらもやりきり安堵した浦島の肩から、竜王が着物を下へと落とす。そうして襦袢だけの体に手を這わせ、確かめるように撫でてきた。
 脇腹はゾクゾクする。背は、もっとゾクゾクする。臍の辺りはジンジンと響き、首筋はビクンと体が跳ねた。

「抱き心地のよい体だ。私の腕にぴったりと収まる」
「竜王、さまぁ」
「欲しいのだな。ほら、こちらを向いて。もう一度、口を吸ってやろう」

 向き直り、肩に触れた手の熱さを知る。背の高い竜王が僅かに身をかがめて口づけるのは少し可愛く思えてくる。絡まる舌が、交わる唾液が流れ込んで嚥下すると、体の奥に火が灯った。

「んぅ」

 とろんと蕩けた目で竜王を見る。金色の瞳がジッと浦島を見ている。緊張しているのかカチンと体が固まったまま浦島は竜王に手を引かれ柔らかな布団の上に仰向けに寝転んだ。

「出来るだけ優しくしたい。辛かったら遠慮なく言え。無理はしない」
「はい」

 これまでにも色々としてきた。とんでもない事にもなった。なのに…………今日が一番緊張する。
 竜王も邪魔な服を脱ぎ、夜着のような格好になる。深い青色のそれはこの人にとても似合っている。
 首筋に触れる唇のくすぐったさ。そのぞわぞわする感覚は体にも響く。快楽に染まりやすくなった体がそれを拾い上げて火を灯すのはあっという間だ。首筋、鎖骨と通り襦袢を開けられ、染まった頂きに唇が触れる頃にはすっかり蕩け、体に力が入らなくなっている。
 濡れた瞳で竜王を見れば、困った顔で眦に口づけをくれる。甘やかすこの人はどこまでも浦島を壊れ物のように触れた。

「どこに、触れて欲しい?」

 言葉遊びとばかりに問われるが、浦島に答える事は難しい。いや、答えは簡単なのだ。欲張りなだけで。

「太郎」
「ぜん、ぶ……全部、触れて欲しいです」

 熱に浮かされ涙ながらに答えれば、嬉しそうに竜王は笑う。そして、赤い珊瑚のような乳首を口腔へと収めた。

「んぅ! ふっ、ふぅぅ」

 意図せず腰が振れて、竜王の逞しい下肢に擦れる。先端が滑ってぬるりと濡れる、それが気持ちいい。胸と男茎、両方で快楽を得たくて小さく腰を揺する浦島に、当然竜王も気づいているはずだ。
 だがそれを許し、なおかつ高みへと追い上げるように竜王は舌で愛撫するばかりだった乳首を強く吸い上げた。

「んぅぅぅぅ! ふっ、うぅぅぅ!」

 体に力が入って下肢がつっぱる。足先まで走る痺れにギュッと足の指が丸まったまま、浦島は最初の精を放った。誰も孕ませる事などできないだろう僅かな吐精は腹を汚すだけ。それでも竜王は顔を上げて、よく出来たと褒めるように頭を撫でた。

「あっ、竜王、様……」
「どうした?」
「俺も、その…………貴方を気持ち良くしたくて……ですね」

 躊躇いながら伝えると、竜王はとても驚いた顔をした。その顔は普段よりも幼く映り、親近感のわくものだ。
 するすると痺れる体で這い出して、ちょこんと座る。そして未だについている紐を解くと、そこにはおおよそ人のそれとは思えぬモノがついていた。
 まず、立派な山芋かという太さがある。おそらくまだ完全に勃ちあがっていないだろう。これが完全にとなると、亀の太さを超えてくるのではないか?
 しかも根元には触れて分かる程度の凹凸がある。これは……瘤か?
 更に雁は高くしっかりと括れて、まるで銛の先端のようではないか。
 これが、入るのか? 入ったら最後、抜けなくなるのでは?
 そんな危機感を一瞬は持ったのだが、むせるような男の臭いに腹の底がまた切なく締まり始め、余計に濡れてくる。もう、内腿を汚す勢いだ。

「無理はするな、太郎。こんな化け物、見ると怖くなるだろ?」
「あ……」

 とても悲しい顔をする竜王を見ると、絶対にどうにかしたいと思ってしまう。そして、これまでの修練はなんだったのかと自分に言い聞かせた。
 根元に触れ、指先でなぞってみる。竿の部分はやはり瘤なのだろう、ボコボコと感触がある。上下すれば余計にそれは手の平に感じられて、これはこれで面白くも思える。拙い手淫に竜王は頬を染めて様子を見ているが、まだ乱れる様子はない。それは少し悔しい。

 確か鯛と平目がここを弄っていた。あの時は……。

 思い出して、やってみる。雁首の所を引っかけるようにして先端まで扱き、時々先端だけを包むようにして撫でると竜王も気持ちいいのか目を細める。その僅かな変化が嬉しくて、浦島は更に行為を進めた。
 入るかどうかなんて考えなくても無理だと分かる。だがやってはみたい。
 口を大きく開け、先端を飲み込もうとするがやはり入らない。その前に口が裂けてしまいそうだ。

「太郎、無理をするな。お前の可愛い口が裂けてしまう」
「んっ、れもぉ」

 慌てた竜王が止めるが不服だ。口に入らないのならばと、チロチロ先端を舐めてみる。海蛇がそうしたように窪みに舌を入れるようにして。

「っ!」

 ヒクリと腰が動いた。見れば竜王の目も色香に濡れている。大きな手が浦島の頭を撫でてくれるのは褒められているようで、浦島は嬉しく拙いながらも舌を這わせた。
 雁首のあたりや、筋の部分。根元まで舐めたり吸ったりしてみる。ヒクヒクと動くのが楽しいやら嬉しいやら。夢中になってしていると、不意に竜王の手が伸びて尻たぶを掴んだ。

「んぅ!」
「もう十分だ。太郎、後ろを向いて四つん這いになりなさい」
「ですが……」
「これ以上されたら、お前の中に入れなくなってしまう。既にギリギリだ」

 言われてみれば先ほどよりも育ったそれは大根くらいの太さになっている。亀と特訓したとき、少し苦しいくらいだった太さだ。
 残念だが諦め、浦島は襦袢を脱いで言われたとおりの格好をする。竜王に尻を向けて四つん這いになるというのは恥ずかしいが、流石にいきなりは辛い。
 竜王は浦島の尻をマジマジと見て、濡れた後孔にツプリと指を二本差し込んだ。

「はぁ……あぁ……」

 ブルッと震えが走る。腹の底が喜んでいるのだと分かる。腰骨からじわりと全体に広がる痺れは毒のように回る。とろりと、先走りがしたたった。

「柔らかいな。ここに触れるのは流石に初めてだが」
「はぁ! んぁあ!」
「ふむ、ここが弱いか」

 浅い部分にある快楽のツボをくにくにと撫でられ、柔らかな肉壁が指を吸う。まだ軽いがしっとりと濡れたそこが更なる快楽を欲して蠢いているのが分かる。

「凄い誘い込みだ。これはきっと、具合がいいだろうな」
「竜王様……」
「もう少し待ちなさい。私の大きさは知っただろ? 流石に裂けてしまうぞ」

 優しく宥められ、我慢我慢と己に言い聞かせながら耐えた。果ててしまわないようにと思うが、竜王の指は巧みに中を刺激していく。その度ゾクゾクと背を快楽が走ってトロトロの先走りがあふれ出てしまう。中で達する事を覚えた体はどこまでも貪欲に刺激を快楽に変えてしまうのだ。

「はぁ……竜王、様ぁ…………腹の中が溶けてしまいそうです」

 欲しくてたまらず、浦島は催促をする。ぷるんとした尻を高く上げ、腰を揺らめかせて竜王を誘った。
 スルリと指が抜け落ち、代わりに熱い杭が宛がわれる。ゆっくりと息をしていつでもと準備をしていると、それはジワジワと穿たれた。

「あぐ! あっ、がは! あぎぃ…………いぃぃ!」

 腹の底から声がせり上がる。周囲の肉を巻き込むように熱い杭が押し入ってくる。ぎちぎちに入口を広げ、中を拡張し、奥を目指して。
 浦島の狭さに竜王も辛そうな息を吐いているが、とても丁寧にしてくれる。ぬるりとした潤滑油を足して少しでも負担が減るようにとゆっくり動いてくれる。少し入っては少し抜き、またと繰り返してくれる。
 ぬめりが大分助けになるのか、徐々に肉杭は深く入り込むようになっていく。浦島も必死に息を吐いて力を抜いた。出来るだけ深くまで受け入れたくて、また受け入れられたことが嬉しくてぽろぽろと涙が溢れる。
 肉杭はゆっくりと肉壺に埋まり、やがて最奥を叩いた。

「んふぅぅぅ!」

 グッと抉るように最奥を突かれただけで、浦島の目の前がパチパチと弾けた。あまりの気持ちよさに腰が揺れそうなのに、剛直を打ち込まれて動けもしない。内壁は吸い付くように竜王を歓迎し、管でその形と熱を感じ取った。

「気持ちいい……太郎、平気か?」
「うっ、ぐぅ……はぁ、はぁ…………大丈夫、です……」

 どこにも大丈夫な要素はないが、浦島はそう答えた。こんなモノが抜けたら、あの立派な雁首に腸を引っかけられてちぎれてしまいかねない。思うのに、締め付ける事はやめない。
 ゆっくりと大きさを噛みしめるように慣れた入口が力を抜く。それを待っていたように、竜王が腰を少しばかり打ち付けた。瞬間飛んだのは言うまでもない。臓腑全部を揺らすような衝撃に胃液がこみ上げてくる感じがして焦った。
 だが届いている。容赦なく気持ちいい部分に到達している。苦しさなんてものではない。他の臓器全部を圧迫されているようで目眩がする。それが、病みつきなのかもしれない。

「太郎……」
「竜、王さ、まぁ……あぐ、うぇ……うぇえぇ!」
「やはり無理か……一度……」

 嘔吐く浦島を気遣い、竜王は一端抜こうとする。が、浦島がそれを許さなかった。嫌々と激しく首を横に振り、背後の竜王へと目を向けた。

「おねが……抜かないで……はぁ、もっ、俺を竜王様のものにしてください!」

 これをもう一度と言われたら尻込みしかねない。浦島の願いに、竜王は応えてくれた。
 ぬちっ、ぬちっと少しずつ動くと更に馴染む。馴染むと腹の中が熱い。もっと奥が熱くてむずむずする。ここに欲しいんだと明確に分かる感覚に、浦島は竜王を見た。

「もっと……深くに欲しい、です……竜王様ぁ」
「腹が割けるぞ」
「切ない……です。お願い……」

 助けを求めるように手を伸ばす。竜王は荒い息を吐いてグッと奥歯を噛むと、太郎の体を両手でしっかりと持ち上げ、自らの腰の上にゆっくりと落としていった。

「あぐ! あっ……あぁ!」

 自重も手伝って、更に奥に入っていく。ハァ、ハァ、と息をしながら覚えた感覚を再現しようとした。力を抜いて、腹の中を膨らませるような感覚を思い出していく。何回もそうして試みた最奥の窄まりは、やがて竜王の先端を飲み込む事に成功した。
 瞬間、あられもない声と共に思い切り潮を吹いて体を痙攣させて達したが、こうなるともう理性などないに等しい。腹を竜王の形に膨らませた浦島は飛んだ目で彼を見つめた。

「っ! 動いていないのに気持ちいいとは……太郎、気をしっかり持つんだぞ」

 竜王の形になった中がグチグチと掻き回されるように動かされる。気持ち悪いような、気持ちいいような感じがする。もうよく分かっていないだろう。色々なモノが強すぎて頭の中は真っ白で、口からはただ「あっ、あっ」という声が漏れるばかりだ。
 意識はギリギリ保っているが、いつ消えても不思議ではない。ただ、幸せだとは感じる。深く繋がり、この人を悦ばせる事ができている。そう思うだけで嬉しいのは確かだ。
 上向かされ、重ねた唇。甘い甘い口づけに夢中になっていると少しだけ元気になっている気がした。体の感覚も戻ってくるし、そうなるとしっかり腹の中を締められる。段々と更に大きくなる熱源を感じる事ができる。

「すまない、太郎……っ」
「!」

 突然、根元の方から不規則に中を刺激されてビリビリする。それがあの瘤だと分かるのにややかかった。瘤の一つ一つが膨らんで抜けないように、漏れないように固定しているよう。更には腹の奥の奥まで抜けた亀頭が更に大きく張りだして、返しのように腹に引っかかる。それを感じ、浦島は恐怖と悦びとを味わい、同時にこの情事の終わりを知った。

「んぅ! ふっ……うぅ――――――っっ!」

 眼裏が熱くて白黒する。焼き切れるような快楽に全身が言う事をきかなくなる。竜王の子種は腹の中を満たして奥深くへと大量に流れ込んできて、下腹が膨れるほどだ。たぷたぷのぐじゅぐじゅになる中を自認し、喉がひゅっと音を立てる。ビクンビクンと数度強く痙攣した体は、次にはぐったりと力が入らなくなった。竜王が抱えてくれなければ今頃深々と飲み込み、剛直に腹を突き破られていたかもしれない。
 朦朧とした意識の中、重苦しくでっぷりとした腹を抱えたまま、浦島の腹からそっと杭が抜かれる。だが不思議と、男の腕がそのままずっぷりと埋まってしまいそうな程に開いて戻らない後孔から竜王のものが溢れ出る事はない。腹の深くに留まっている。
 未だひゅーひゅーと息をする浦島に、竜王は白湯を含んで口移しに飲み込ませていく。そうして受け入れた甘露が体に染み入ると、不思議と体の違和感は薄れた。

「愛している。これだけは本当の事だ」

 合間、呟かれる言葉を無意識に受け入れ、浦島は微笑んで頷く。触れる唇の優しさを疑った事はない。くれる愛の言葉を疑った事は無い。体は辛くとも心は満たされて、浦島はしばしの眠りに落ちた。

◆◇◆

 あまりに激しい初夜はその後三日にわたって続いた。一度終わるごとに浦島は瀕死のような状態になったが、最後の方は体も慣れたかあまり苦痛には思わなくなっていた。
 眠りが訪れ、温かな腕に抱かれてすよすよと眠る心地よさに安堵したのが最後、どれくらい寝てしまったのか。気づけば知らない部屋で目が覚めた。
 これまでの部屋とは明らかに格式が違う。一段高い畳の上に柔らかく厚い布団が敷かれ、周囲は御簾で囲われている。その御簾には四方をそれぞれ四色の飾りで彩られている。東に青、南に赤、西に白、北に黒を。そして一本金の紐が布団のすぐ脇まで伸びているのを見て、浦島は試しに引いてみた。
 途端、シャンシャンと鈴が鳴って驚いて体を起こす。その時ふと、自分の下腹に違和感を覚えた。腫れたような、何かがごろごろしているような。
 だが、あれだけ激しい夜を過ごしたのだ、違和感くらいあってもおかしくはない。いや、むしろ違和感程度で済んでいることが不思議だ。腹のどこかが裂けていてもおかしくはない。竜王の魔羅はそれほどに立派……過ぎるものだった。
 やがてバタバタと廊下を走る音がしたかと思うと、扉の前で一度止まる。誰だろうと身構えていると、知っている声が浦島を呼んだ。

「お目覚めですか、浦島様」
「はい」

 部屋に入ってきた鯛は浦島を見て、思わず眦を濡らした。それに驚き動こうとすると止められ、彼は袖で目を擦って笑みを浮かべ、近づいてきてくれた。

「おはようございます、浦島様。お加減はいかがですか?」
「おはようございます、鯛さん。少し怠いような気はしますが、平気です」

 あれだけ凄い夜を過ごしたのに、体はそれほど辛いとは思わない。ただ少し体が怠く、熱っぽい感じはあった。
 鯛のひんやりとした手が額に触れ、眉を寄せる。そして表にいるのだろう平目に侍医をつれてくるように声をかけた。

「鯛さん、俺、どのくらい寝ていましたか? なんだかとてもぐっすり眠ってしまっていた気がして」

 鯛に問うと、彼は少し困った顔をする。そんなに寝てしまったのかとオロオロする浦島に、鯛はにっこりと微笑んだ。

「大した事はございませんよ。竜王様だけは多少オロオロしておりましたが、河豚の診察も受けましたし一応は落ち着いています」
「心配させてしまって、申し訳ないです」
「よいのですよ、心配させておけば。抱き潰さぬようにと散々言っていたのに、蓋を開ければこのザマです。男は下半身で生きているとも聞きますが、海を治める竜王もまた然りということでしょうね」

 コロコロと笑う鯛に恥ずかしくなった浦島が俯く。その間に廊下から二人分の足音が近づいてきて、程なく声がかかった。
 竜宮の侍医は河豚である。背が小さく、少しぽてっとした体つきの可愛らしい人が浦島の脈を測り、熱を確かめ触診をしていく。そうして触れてもやはり、臍の裏辺りが何かごろごろした。

「まだお疲れのようです。少し熱があるようですが、顔色などは良いですので直に回復するだろうと思います」
「有り難うございます、河豚さん」
「いえいえ~。あぁ、でもまだ胃などが弱っていそうなので、食事は軽いものからにしましょう。烏賊さんには俺から伝えておきます。他に、気になる事はありますか?」

 なんとも抜けた感じの軽い声で話す河豚に、浦島は自分の腹を撫でて問うた。

「なんだかこの辺りがごろごろする感じがして。さっき触診されたときにも感じたのですが」

 途端、鯛と河豚は顔を見合わせる。慌てて河豚が近づいて、仰向けに寝た浦島の腹を優しく丁寧に触れる。するとやはり奥の方に違和感を感じた。

「……すごい」
「え?」
「あっ、いえ! おそらくその……凄い夜だったと聞いておりますので、その……」
「あ…………はい。やっぱり、そういうことですか?」

 本来排泄するためについている部分を酷使したのだから、違和感くらいあって当然だ。出された瞬間など絶対に壊れたと思ったほどだ。

「そのうちに良くなると思いますよ」
「そうですね」

 やはり少し傷になっていたのだろう。だが今のところ激しく痛んだり、尻から血が出たりはしていない。ゆっくりと静養していれば良くなっていくのだろう。浦島は楽観的にそう解釈した。

 その後、話を聞いた竜王が部屋に飛び込んできて浦島を抱きしめたまま離れず亀が大いに困ったり、蛸が松に見立てた珊瑚の盆栽を持ってお見舞いに来てくれたり、海蛇が旨いと言ってウナギを持ってきたりと、賑やかな日々が続いた。
 その間に体は徐々に回復して、動けるようになった。久しぶりに自分の足で歩くと少し違和感もあったが、それも数日散歩をするとなくなった。

 だが、腹の違和感はずっと消えないままだ。
 そして、なんだか不思議な事も起っている。食べても食べても物足りなく感じて、ついつい食べ過ぎてしまう。前は小盛りの膳でお腹いっぱいだったのに、今は大盛りにお替りまでしてしまう。烏賊がニコニコと嬉しそうにご飯をよそうものだから、余計に美味しく食べてしまうのだ。
 そのせいで少し太った。少しは運動をと散歩に出かけてはいるが、全体的に肉がついている。特に腹回りは恥ずかしいくらいに太ってしまって、竜王の前に出るのが恥ずかしくて仕方が無い。一時理由をつけて会うのを断ったら、もの凄くしょんぼりとされて焦り、理由を伝えると彼は笑ってくれた。
 「この腹も愛しい」と言って撫でてくれる人の優しさに感激し、痩せることを目標にしたのだが何故か河豚と鯛に止められた。曰く、「急激な運動はかえって体に悪い」ということだ。なので、毎日の散歩を日課にしている。

 竜王との関係は激しさをなくしても続いている。あれ以来繋がる事はないが、互いに会話をして触れあう事は多く、その流れで求める位はある。何故かあの時のような疼きや熱、渇きはなくなって安定していて、それだけで満たされている。そして夜は共に眠った。
 そして、茶の味が変わった。甘露のように感じたお茶はあの夜以来、甘いとは感じていない。いい茶葉なのだろうが、かろうじて知っている茶という分類の味がする。
 鯛にそのことを問うと、「甘露の茶は大変貴重なものですから」と言われた。


 順風満帆に三ヶ月ほどが過ぎた。
 そんな夜、浦島は夢を見た。
 知っている浜辺に、松の枝。村の外れの荒ら屋から、腰蓑をつけ魚籠を下げ、釣り竿を担いだ浦島がいる。

『それじゃあ母さん、行ってくるよ』

 母さん?
 影になって顔の見えないその人は、痩せた体と手をしている。けれど酷く懐かしく思えて、胸の奥が苦しくなった。

『はいよ、気をつけて』

 その声を聞いた瞬間、浦島はあまりの衝撃に飛び起きた。目からは涙が零れて止まらない。手はガタガタと震えていた。
 どうして忘れてしまっていたのだろう、あんなに大切な母の事を。早くに父を亡くし、苦労して育ててくれた人の事を、どうして今まで……。
 きっと今頃心配している。三ヶ月も音沙汰もないまま家を空けたのだ。もしかしたら心配のあまり体を壊していたりしないだろうか。

「太郎?」
「!」

 隣でまだ眠そうな声がする。竜王が目を覚ましたのか薄く目を開け、泣いている浦島に驚いて体を起こした。
 この人の事が好きだ。そして今は、幸せだ。
 けれど母をこのままにしておくこともできない。大切な家族に何も伝えないままでいていいはずがない。

「どうした、太郎。どこか痛むか」
「違う……違うんです、竜王様……」

 泣きながら、ただ「違う」としか言えない浦島に動揺しながらも竜王はそっと抱きしめてくれる。それでもとうとうこの夜、浦島は泣き止むことがなかった。
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