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浦島太郎異伝 竜王の嫁探し

四話 蛸は優しく斯く抱けり

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 竜王との時間はとても楽しくて、気持ちが穏やかになる。心を砕いて接してくれる優しさに、浦島は惹かれているのだと思う。寄り添う事にほっとして、触れてくれるとドキドキして、笑みを見るとカッと体が熱くなる。
 自分も男で、竜王は勿論男。こんな気持ち、普通ではない。そうは思っても急速に惹きつけられる感覚はどうしようもなくて、切ない気持ちが募っていく。
 それにつれて夜が疼く。竜王を思い胸を捏ね、後孔を弄る日が続く。いけないと思えば思うほどにそれは加速し倒錯して、いつしか彼を求めるように名を呼んで達してしまうようになった。
 でも、足りないのだ。腹の奥が熱くてたまらない。筆の柄が届く浅い場所よりももっと深くが、ジクジクと疼いている気がする。
 いつしか浦島は自覚を始めた恋心と体の熱に悩んで、夜も眠れぬようになっていった。

「太郎、最近元気がないようだが、どうした?」
「え?」

 竜王の心配そうな声に顔を向けると、そっと手が触れる。目の下を親指が撫で、気遣わしい顔を向けてくる。触れてくる指の感触にゾクリとする。頬に当たる温かな熱にすり寄りたい感じがする。切なくて、苦しくて涙が出そうだ。

「太郎?」
「あ……」

 気づけば頬を涙が伝って落ちていく。苦しいくらいに胸が痛くて、泣きたくなってしまうのだ。

「あれ? あの、ごめんなさい。違うんです、あの」

 止めないと、心配させてしまう。必死に目元を手で拭って、誤魔化すように笑う。でも頬を濡らす涙は止まらなくて、そのうちに情けないような、惨めな気持ちになってきて、笑顔も消えてしまった。
 そんな浦島へ、竜王の手が伸びる。抱き寄せられた腕の中、浦島は戸惑いながらも嬉しくて、でもこの想いの行き場が分からなくてただただ泣いてしまっていた。

「これ、泣き止まぬか」
「ごめ……なさ……っ」
「謝らなくてもよい。どうした、どこか具合が悪いのか?」
「ちが……違うんです……俺」

 貴方が好きです。神様に恋をするなど、罰当たりな事なのにどうしたらいいのだろう。この想いはどうしたら昇華されるのだろう。
 僅かに二人の距離が空いた。そして柔らかな感触が額に触れる。それが彼の唇だと分かるまで時間がかかった。思いもしない親愛に、カ……っと体が熱をもっていった。

「泣くな、太郎。其方に泣かれると私が困る。お願いだから、泣き止んでおくれ」

 頭の後ろに優しく触れる手が、そっと抱き寄せてくる。触れる温かさと香にゆっくりと気持ちは落ち着いて涙は止まったのに、胸の奥に燻る切なさは止まらなかった。

 少し気持ちを整理すべきなんだと思う。
 更に数日、浦島は一人で庭に出る事が多くなった。竜王の許可を貰い、心配する鯛にも「少し一人になりたい」と言って外に出る。
 そうして綺麗な珊瑚礁が広がる竜宮の庭を眺めると、知っている人が大きな荷物を抱えてこちらに来るのが見えた。

「あっ、蛸さん」

 庭の奥の方からこちらへと荷物を持ってやってきたのは、この庭を管理する蛸だった。
 彼はこの屋敷の中でも一際大きく、五尺二寸程はある。短く刈り上げた黒髪に、男らしい角張った輪郭。厳しそうに見えるのに笑うと目尻に皺が出来て優しく見える。腕も体も逞しい人だ。
 蛸は浦島に気づくと目元を和らげ、近づいてきてくれた。

「浦島殿、また考え事かい?」
「はい。お邪魔してます」
「かまわんさ。アンタの気持ちを少しでも慰められるなら、俺の仕事も役立つってもんだ」

 荷物を担いだまま、蛸は大きく笑う。その裏表のない笑顔に最近の浦島は癒やされている。

「地上のような庭にできれば、もう少しアンタを慰めてやれるんだろうがな。流石にここじゃ難しくてよ。木の代わりっても、珊瑚くらいしかな」
「え?」
「ん?」

 蛸が疑問そうに首を傾げる。だが、浦島はふと思い直して焦っていた。
 思い出せないのだ、地上の景色が。ちゃんと自分は地上からきた浦島太郎という人間であるのは分かっているのに、地上で過ごした景色が曖昧になっている。毎日見ていたはずだ、緑の木々も春の花も。なのに……。

「俺……思い出せない……」
「浦島殿?」
「どうして? 確かに二八年間、地上で生活していたはずなのに。毎日見ていたはずの景色がどんなだったか、分からないなんて」

 何かが変わっていく。頭の中も、体も。それが急に恐怖になって、浦島は自分を抱いた。

「……すまんな、浦島殿」
「え?」

 不意に聞こえた蛸の独り言。そこには贖罪の音が含まれている気がしたが、浦島が顔を向けるとハッとしていつもと同じ顔をする。
 何が変わってしまったのだろう。怖く思っていると、背後から鯛の声がかかる。見れば温かなお茶を持って近づいてきていた。

「体が冷えてしまいますよ。さぁ、お茶をどうぞ」
「あっ、有難うございます」

 盆からお茶を受け取る。口に含むと温かく、やはり少し甘い。優しいその甘さが体に染みて、心を解していく。
 お茶を飲む浦島の様子を、鯛と蛸がジッと確かめるように見ていることに浦島は気づいていなかった。

◆◇◆

 竜王を想う夜が続いている。体が疼くと自ら慰め、それでもスッキリとしなくて切なくて、キュゥゥと締まるように切ない腹の深い部分を抱えて眠る。
 だが朝、甘露の茶を飲むと体の疼きは自然と消えて、冷静になれる。だが冷静になれば今度は自分の記憶を探ってしまって、それはそれで落ち込んでいく。
 今日も庭でぼんやりと考え事をしていた。昼餉を食べて少しの時間、そうして過ごしていると蛸が来て側に座った。

「また考え事かい、浦島殿」
「あっ、蛸さん。すみません」
「謝る事はないが……大丈夫か? なんだか痩せたか? 辛いなら部屋で休んでいいんだぞ」

 気遣う、ごつくて大きな手があやすように頭を撫でてくる。
 竜王にも同じ事をされる。でも彼に触れられた時と、蛸に触れられた時は違う。蛸のこれは目下の者を案じている親愛だと感じる。親しみはあるが、まるで兄や父にされている感じだ。
 でも竜王のは体が熱くなる。切ない気持ちが押し寄せて、愛しさを感じると泣きたくなる。こんな不相応な気持ちを抱く自分を罰当たりだと思うと、悲しくなってくるのだ。

「大丈夫です」
「ならいいが」
「そういえば、最近海蛇さんの姿が見えないのですが」

 ふと気になった事を伝えると、蛸は目を開いて笑みを浮かべる。人好きのするその様子に、浦島は心配はないんだと感じた。

「あいつは仕事で詰め所だな」
「お仕事、ですか?」
「知らないのかい? あいつは竜宮の警備が仕事だ。今頃、ウツボや蝦蛄と一緒にここを守ってるだろうよ」
「そうなんですか!」

 まったく知らなかった。驚く浦島に、蛸は「ははっ」と笑った。

「兵隊は兵隊用の庁舎があって、護衛なんかがなきゃそこで寝泊まりだ。こっちの本殿は基本、竜王様のお世話をする奴と仕事の手伝いをする奴しかいない。俺も庭の手入れって仕事があるし、鯛や平目は身の回りの世話をしている。亀は竜王様の仕事の補佐だ」
「知らなかった……」

 もう長くいるし、色々知っている気になっていた。
 ……あれ? 長くいる? 確か、直ぐに帰るつもりだった気がする。でも、どうしてだろう?
 頭が、ズキリと痛んだ。思い出してはいけないと警告を発するようだ。

「浦島殿!」
「あっ……たまが」
「こりゃ、いかん」

 力強い腕が抱き上げ、竜宮へと浦島を運んでいく。その安定感に安心して、浦島は落ちるように眠ってしまった。
 どのくらい、眠ってしまったのだろうか。ふと目を覚ますと行灯に明かりが灯っていて、ほんのりとした優しい明かりで照らしてくれている。
 そして目の前には心配そうに見つめる竜王がいた。

「目が覚めたか?」
「あ…………はい」

 問われて答えるが……どうして眠っていたのか記憶がない。確か庭で蛸と話をしていたはずだ。その時、どんな話をしていたのか。海蛇の事を話ていたことはぼんやりと覚えているのだが。
 起き上がった浦島の体を、竜王は手を伸ばして抱きしめる。いつもは雄々しく感じる人の手が、この時ばかりは不安そうに震えて見えた。

「竜王様?」
「よかった。其方にまで何かあれば、私は……」

 絞り出すような苦しげな声に、浦島の胸も苦しくなる。
 目の前の厚い胸に顔を寄せ、「すみません」と呟く。それに竜王は首を横に振ったが、抱きしめる腕の強さはしばらく変わらぬままだった。

◆◇◆

 倒れた翌日、湯浴みを終えた浦島が部屋に戻ってくると何故か蛸が衝立の前にきっちりと正座をして待っていた。いつもは仕事着の作務衣に手ぬぐいを頭や首に巻いているのに、今日はきっちりと着物に袴姿。体格のいい彼がこのような格好をすると別人のように格好がよく見える。

「蛸さん? どうされましたか?」

 ドキリとしたのを誤魔化すように浦島は声を発する。なぜなら既に体は発情したように切なくて、毎夜のようにする自慰を覚えて欲している。蛸がいてはそれもままならない。
 が、蛸はきっちりと三つ指を立てて大きな体を深々と浦島に下げてみせた。

「蛸さん!」
「今宵、夜伽のお相手を仰せつかりました」
「夜……伽?」

 聞き慣れない言葉に耳を疑うが、蛸は真剣な眼差しで頷く。何一つ間違いはないのだと言わんばかりだ。

「あの、そんな気遣いを頂かなくても俺……」
「腹の底が、疼くのではないか?」
「!」

 どうして、そのことを。
 思わず自らの腹をギュッと押さえた浦島に、蛸はふっと息を吐いた。

「俺ならその疼き、慰めてやる事ができる。アンタの体の疼きを一時だが、鎮めてやる事ができる」
「っ」

 本当に? このどうしようもない熱を忘れる事ができるの?
 縋る思いだった。毎夜悩む疼きや熱が腹の底に溜まって切なくなる。もう、筆では限界がある。もっと深く欲しくてたまらないのだ。
 でも、躊躇いもある。竜王の事が好きだと自覚し始めた浦島にとって、他の誰かを相手にするのは裏切りに思えた。伝えていない気持ちに操を立てる必要もないかもしれない。けれど、それでいいのかと。
 その躊躇いを察しているように、蛸が低い声で伝えてきた。

「この事は、竜王様もご存じだ」
「え?」
「鯛から辛そうだと聞いた竜王様が俺にお命じになった」
「そう……なんですか?」
「あぁ。最初の日に言っていただろ? 至上の快楽を浦島殿にと」
「そう……でしたっけ?」

 もうあまり覚えていない。でも確かにそんな事を言っていた気がする。それに夢の中で海蛇や鯛、平目とそのような事をしたように思う。
 ……あれ? あれは夢だった? 現実だった?
 蛸がそっと、緩やかな動きで前に出る。少し怯えた体も彼の真っ直ぐな目に見られて踏みとどまる事ができた。

「竜王様を、慕っているのだろ?」
「あ……」
「ならば俺が適任だ。その小さな体でいきなりあの方を受け入れる事はできない。体が壊れてしまうぞ」
「そんな……」

 そう言われると途端に怖くもなる。この想いをいつかお伝えできればと願うが、その先は? 万が一求められても応じる事ができなかったら虚しくなる。何の役にも立たないのだと思うと辛くなる。
 大きくごつい、でも優しい手が頬に触れた。その温かさに安堵もできた。この優しい人が手荒な事をするわけがない。いつの日か、竜王にこの想いを伝えられる日がくる事を願って準備をするのもまた、大事なように思えてきた。

「怖いなら、今宵は身を引こう。どうする、浦島殿」
「…………お願いします」

 意を決した浦島の返事に、蛸は確かに頷いた。

 衝立の奥へと移動する蛸に連れられ、浦島は帯を解いた。夜着の前が開いて、貧相な体が晒される。ここにきて肉はついてきたが、それでもまだ小さくて細い気がしている。特に蛸のような屈強な肉体の前では。
 蛸も衣服を脱いで、畳んで脇に置く。その体の仕上がりは息を飲むものがある。厚い胸板は勿論、盛り上がった二の腕のこぶ。引き締まった腹筋は深く溝が刻まれて六つに割れている。太股も、その先も、筋肉の形をしっかりと見て取れるのだ。
 だがその体は意外と傷が多い事に驚いてしまった。どれも生々しい傷はないものの、薄らと後が残っている。

「……見苦しくて申し訳無い」
「え?」
「傷が気になるのだろう? 昔の名残だ」
「何を、していたのですか?」
「主には門番だが、厄介ごとがあると出て行っていたからな。海蛇などとは元同僚なんだ」
「そうだったんですね」

 では、この傷はこの場所とこの海を守ってきた証なのだろう。その一線を退くまで、戦い続けた結果なのだ。

「どうして、退いたのですか?」
「それは! ……まぁ、ここにいればそのうち知れるか」
「?」
「旦那がいて、子も出来てな。それで荒々しい職場にいるのは止めてくれと頼まれて、庭師になった。まぁ、今は良かったのだろうと思うが」
「……え?」

 浦島は固まった。なにせ目の前の男はそれはそれは立派な男だ。どこからどう見ても男なんだ。だがこの口ぶりだと、彼は子を産んだというように伝わる。聞き間違いなのか?

「あの」
「? どうした?」
「蛸さんが、産んだんですか?」
「そうだが」
「……どうやって?」
「? あぁ!」

 珍しく大きな声を出した蛸に驚くが、蛸はカッと顔を赤らめて申し訳無く少し小さくなった。

「海の生き物は雌雄が曖昧なのも多いくらいなんだが、俺の場合は夫婦になったときに竜王様より特別な薬を賜って子を作った。一度きりだが」
「そんなのがあるんですか!」

 驚いた。いや、でも…………そんな薬があるのか。
 少しだけ、ドキドキしたのは否定できない。好きだという気持ちが芽生え始めたばかりで、何やら浮かれている気もする。それに、何を期待しているんだ。まだこの気持ちを伝えてもいないというのに。

「大分昔の話だ。子も自立して今では遠い海に住んでいる。それからは雄のままだ」
「……凄い話を聞けました」

 思わずお辞儀をして「有難うございます」と言ったら、蛸も恥ずかしそうに赤くなって挙動不審になってしまった。
 なんだか変な気分だ。浦島はこれから蛸に伽の手ほどきをされるのに、この和やかさはなんなんだ。体の熱も少し落ち着いた気もする。
 が、それは蛸が動き出すまでの話だった。

「浦島殿、こちらへ。出来るだけ優しくはするが、なにぶん力の加減が分からない事もある。痛かったら直ぐに言ってくれ」
「はい、分かりました」

 夜着の前をだらしなく開けたまま、彼の前に進み出る。それはとても緊張するし、恥ずかしくもある。なにより、これから抱かれるのだと自覚しての行動だ。
 また、腹の底が騒がしくなる。とろ火のような熱はまだ多少疼く程度だが、徐々に我慢ができないくらい熱くなる予感がしている。
 蛸の腕に抱かれ、浦島は彼を見上げた。五尺二寸もある人を、四尺四寸ばかりの自分が見上げるにはかなり首を上向かせなければいけない。
 なんだか口が寂しく薄く開けていると、蛸は苦笑して首を横に振った。

「口吸いは取っておかなければ。それは、本当に好いた人にしてもらえ」
「でも……」
「……ならば、こちらで我慢してくれ」

 蛸の太い指が差し出される。浦島はその指に吸い付いて、ちゅうちゅうと吸った。指は口の中で舌をかき混ぜ触れてくる。少しざらりとする感触が妙にムズムズとして、いつの間にか夢中になっていた。
 すると突然体が不自然に浮き上がり、驚いて口を離して辺りを見回した。浦島の体は確かに床より浮き上がっている。長く太い蛸の足が浦島の膝裏を抱えて絡まり、腰にもスルリと絡まって持ち上がっていた。その姿はまるで厠で踏ん張っているかのようで恥ずかしく、足も開かされて下肢が丸見えになっていた。

「やっ!」
「驚かせてすまない。下だけ元に戻させてもらった。これで無ければ、アンタを満足にしてやれないからな」

 大きく不揃いな吸盤のついた足はしっかりと浦島を抱えて離さない。向かい合っていたはずなのにくるりと向きを変えられ、蛸の胸に後頭部を預ける形にされてしまった。
 無防備な胸にも吸盤のついた蛸足が肌を這い、器用に頂きをくすぐる。そこで快楽を得る事を覚えている体は直ぐに期待してムクムクと大きく尖り、硬くなっていった。

「あっ、い……いやぁ……見ないでぇ……」
「なに、気になさるな。浦島殿は気持ちいい事だけを追えばいい」

 先の方で擽っていた蛸足が、大きくなった乳首やその根元に絡みついてくる。実に器用なその動きだけでも痺れてくるのに、先端の細かな吸盤が敏感な乳首に吸い付いてくる。更に揉むように律動すると、感じた事のない快楽に腰骨は痺れ下肢は熱くなり、貧相な男根がムクムクと持ち上がっていく。
 その全てを浦島自身が見る事になって、恥ずかしさと浅ましさに声を上げた。

「やぁ! はぅ! だめ……だめぇ! 胸はだめです!」
「具合が好さそうだが」
「よ……好すぎても……気持ち良くてだめです!」

 小さな吸盤は乳首の先端を弱い力で引っ張っては離れ、また吸い付く。その力加減が絶妙で、頭の中が蕩けてしまいそうになる。ビクビクと体が震えてトロトロと先走りが零れ、尻の中までムズムズと落ち着かなくなった。
 蛸足はそんな男根にも絡みつく。双玉も絡めるように下から巻き付いた足が筋の辺りを吸ったり、弱く締めたり緩めたりを繰り返している。にぎにぎされている感じが腰に響いて更に先走りが溢れてくるのに、先端の方が鈴口を擽るから更に気持ち良くなっていく。
 自然と尻が揺れて物欲しそうにくぱくぱと口を開け始めた。最初は慎ましかったはずの菊座は日々の自慰ですっかり淫らになり、物欲しげに誘い込むように動く。そこに、蛸の足が触れた。

「ひぃぃ!」

 ツンツンと中心を突かれる。指でも、ましては筆の柄でもない。程よく弾力と肉感のある異物が触れている。それをしっかりと感じ、浦島はギュッと目を瞑った。

「そんな怯えなくてもいい。傷つけるような事はしないから」

 優しい声がして、頭を撫でられる。首を逸らして見上げた蛸の顔は穏やかで優しい。それに腕も、人のそれだった。
 浦島は手を伸ばして、触れている手を掴む。そうしてそれを口元に持って行くと、ちゅっと吸った。

「っ! そのような煽り方、誰が教えたのやら」
「え?」
「怖いならそうしているといい。直ぐに訳も分からなくなる」

 ずるりと、弾力のある蛸足が菊座を開いて内壁に触れた。それはズンズンと深くまで押し入ってくる。いつも感じる部分を通り過ぎ、もっと深くまで。根元は徐々に太くなって入口を大きく広げて腹の中を一杯に満たしていく。その、感じた事のない圧迫感と質量に浦島は内腿を震わせながら最初の精を放った。

「あぐ、あ、あぎ! あ……かはっ」

 ミチミチと詰まっていく蛸足の先端が、行き止まりに当たる。絡まる肉襞に引っかかった吸盤の部分が内壁を容赦なく擦って弱く引っ張られていく感覚はおぞましくも気持ち良くて、浦島は大きく背をのけぞらせて喘いだ。
 出したばかりの男根から僅かに白濁が吐き出され、再び蛸足が腹の中へとゆっくり入っていくと再び吐き出す。目の前がチカチカする快楽に、浦島の理性は完全に飛んでいた。

「ひっ! はぐ……あぁぁ!」
「いいかい、浦島殿」
「いっ、いい……気持ちいい!」

 腹の中が締まると蛸足を締め付け、程よく硬い質感がゴリゴリ内壁を擦る感じに腰が抜ける。どん詰まりの部分を硬く丸めた先端が抉るように突き上げるだけで、浦島は絶頂して身を震わせた。臓腑を揺さぶるような快楽に襲われ、訳も分からない浦島だがふと蛸足の先端が不穏な動きをしている事に気づいた。

「あ……え? あっ、なに? あ……あぁ?」

 腹の中で、蛸足が動いている。それはキュッと締まるその先、固く閉じた奥を探るようにチロチロと触れ、弱い力で開けようとしている感じだった。

「だ……だめ! いや、そこはダメ! 違う……違うよ!」

 この期に及んでそれは恐怖だった。本能的な恐怖がこみ上げ、涙が零れる。こんな所まで入り込まれたら壊れてしまう。そんな気がして身を捩るが、蛸の足がしっかりと体を固定しているのでピクリとも動かない。

「竜王様のはこの奥まで届く。俺のなら先が細いからゆっくりと、苦痛は最低限で慣す事ができる。大丈夫、ちゃんと慣しておけばここも開きやすくなってくる。受け入れを楽にするのに、少し耐えてくれ」

 低い声が申し訳なさそうに伝えてくる。その声は飛びそうな頭にもしっかりと届いた。
 ぬちりと、足の先端が臓腑の閉じた部分に触れていく。浦島はできる限り大きく息を吸っては吐いた。そうすることで少しでも力を抜こうとしたのだ。
 その甲斐あってか、細い先端がゆっくりと更に奥に進んでいる感じがする。少し入ってはずるりと抜けて内臓を揺らし気持ちのいい部分を全部擦り上げて浦島を絶頂させ、押し入ってはもう少し深くへと入ってくる。抜け出る時には絶頂を、押し入る時には圧迫感からくる嗚咽を。それを幾度となく繰り返すうち、このおぞましさが気持ちいいと感じ始めてしまっていた。

「気持ち良くなってきましたかい?」
「あっ、あぐ、うっ……んぅ!」
「……アンタ、もう戻れないんだな」

 哀れみを含む声が小さく吐き出される。だがこれは、浦島には聞こえていない。
 浦島のそこは濡れて、蛸足が出入りする度に泡だってシミを作っていた。それが潤滑油になって挿入を助け、更に深くへと受け入れていく。
 抜けてはダメだと思っていた部分が気持ち良くて、もっと欲しくてたまらなくなる。もう少し、もう少しと息を吐き、同時に動く乳首や男根の刺激も拾い上げ、浦島は自らを追い上げていった。
 ミチリと蛸足が少し強く奥へと押し込まれた。その瞬間、グポンと太い吸盤部分まで抜けていく感覚がして、腹が外側からもはっきりとその形に盛り上がる。吐き気と絶頂が同時に押し寄せ、出すものの無くなった前からは代わりとばかりに潮が噴き出た。ビクビクと痙攣したまま、浦島の頭の中でもブツンと何かが切れたような感じがあり、真っ白になっていく。
 未だ全身を震わせ腹の深くに異物を銜え込んだまま、浦島の意識は急激に飲み込まれていった。
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