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帝国海軍海上訓練事件
11話:忌み島の夜明け
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トビーを見つけられたのは本当に良かった。この島に流れ着いている可能性だって賭けみたいなものだったんだ。怪我もしたようだけれど処置がされ、今はまったく問題無い。念のためクリフに診てもらったけれど大丈夫との事だ。跡は残るみたいだけれど当人も気にしていない。
だが問題はそこじゃない。まずはトビー本人の事だ。
生きている人間を隠すために死んだ事にするなんてのはある。ヴィンセントがいい例だ。だがあの人の場合はちゃんと人相を把握している人が少なかったので履歴だけを別人にして戻せた。
トビーの場合は入れ替わり。しかも十年以上が経過している。今更元の戸籍を正してカミーユに戻し、彼の生家を罰する方が歪みが酷くなるだろう。
何よりトビー本人がこれを望んでいない。だからといって発覚した以上、何事もなかったようには出来ない。ひっそりと上に報告する必要があるんだろう。
そして何よりの問題がこの島の鉱物資源だ。
元々は海底火山が噴火して出来た島だ。ただ見落とされていたことは、ここは島誕生時の大爆発以後は噴火などしていない。地盤もしっかりしている。
だが紛れもなく火山だったんだ。そして偉大な自然はこの島自体を宝島にしていた。まさかこの狭い中で複数の宝石の鉱床がほぼ手つかずのまま存在していたなんて。
あの後、この事をこの島の顔役であるステンと、彼の姉であるメーナに伝え、こちらの取ろうと思う行動も話した。結果、明日この姉弟を帝国の船に乗せて今後の事を対処する事となった。
この島の長の一族であるステンの家には、先祖が残した口伝があった。それは女性が語り継ぐらしく、メーナが教えてくれた。曰く、ここに流された先祖はこの事に気づいていた。だが、無用な争いを避けるために敢えて「価値のない石」としたそうだ。
それでも島を守る山の石だから取っておくようにと言い含め、洞窟の中に作った採石場にとっておいた。それが数十部屋あり、中には宝石の原石を詰めた木樽が堆く詰まっていた。
本当に目眩がする……。
こんなのが欲深い為政者に知れたら理由を付けて攻め入る事も考えられる。特にここはウェールズに近い。あの国がここに入り込んでこれらの財を奪い取り島民を虐殺、もしくは追い出す事が何よりの問題だ。
おそらく帝国にとっても、ジェームダルにとっても。
だがこの島は誰のものでもない中立地。国に所属しない。
だが自分達が生きるのに精一杯でもある。見せてもらったがこの土地では農業は無理だろう。漁場が良いから今まで生きられただけだ。
そこにこれから、数億という単位で金が流れ込んでくる。舵取りを間違ってもこの島の為にならない。
だが幸いにして、ランバートには実績がある。スラムだった下町を復興した実績と、人脈がある。誰を信頼し、どう動かしていけばいいかは見えている。
「ヒッテルスバッハの介入を一番に警戒しないとな」
悪い相手ではないが、あの人達は人材の育成を一からするなんて非効率的な事はしない。出来ない人間を育ててなんて時間をかけないんだ。それではこの島は本当の意味で自立、発展することはない。
「まずは話をつけないとな」
多分嫌な顔をする。あいつは友人相手に駆け引きするのを嫌がる。でも根が商人だし、人の人生を背負う気概のある奴だ。とことん突き詰めていけばなんとかなる。
「順番、交渉カード、人の見極め。落としどころを見誤るなよ俺」
独り言を呟き今日は帝国の船で一泊。心地よく揺れるハンモックに身を預ければ案外快適で、そのままゆっくりと眠りについた。
◇◆◇
翌日、騎士団のメンバー数人を島の守りとして残し、逆に島の数人とステン、メーナ姉弟が乗り込んだ。
そして、騎士の格好をしたトビーも乗り込んでなんだか懐かしい顔をした。
「トビー!」
「!」
彼が甲板に立った所でクリフとピアースが改めて駆けてきて、がっしりと抱き合った。
「おわぁ!」
「ごめん、ごめんねトビー。生きてて良かったよぉ」
「おいクリフ、それ昨日も聞いたっでぇ!」
「マジでごめん! お前が大変な時に俺何もできなくて!」
「ビアーズぐるじぃ! 腕力考えろぉぉ!」
「あはははは!」
暑苦しい再会劇を繰り広げる面々を帝国の方は笑って受け入れ、ついでにバシバシ叩いて無事を喜んでいる。
でもそれを見るステンは、複雑な様子だった。
「出航!」
トレヴァーの声に合わせ、船は碇を上げて出航する。感謝の空砲を一発あげ、そのまま順調に船は帝国を目指し進んでいる。今回は食料も十分、船員の練度も高い。
だが驚くべきはルアテ島の人々だ。彼らは逞しい体躯で力もあり、操船技術も高かった。
その中でもステンは特に優秀だ。風を読み、潮を読み、海図や船にも明るい。トレヴァーがいい刺激を貰えるとかなり話し込んでいた。
そんな事で明日はとうとう帝国の港に帰港するという頃。夜にランバートを訪ねる人がいて人の少ない医務室を借りた。
「それで、話って?」
真剣な顔をしたステンだが、なかなか言葉が出てこない。彼は頭が良くムードメーカー。豪快な海の人間らしい気概がある。そんな人が話しにくい事となれば、何となく内容も分かる。
「なぁ、俺みたいなのが騎士団に入るには、どうしたらいい?」
まぁ、予想通りだ。
「カミ……いや、トビーの側にいたい。方法はないか」
「本気か?」
「あぁ。過ごした時間は短いが、俺はあいつの側にいてやりたい。これだけいい仲間に囲まれてるんだ、俺がいなくてもいいのかもしれない。けれど俺がいたいんだ」
心をそのままぶつけるような真っ直ぐな目は好きだ。本心を押しとどめて隠す事の多いランバートからしたら羨ましくもある。そして、とても強いんだ。
「……正規の方法は無理だろうな」
「正規?」
「まずは帝国の人間でなければ騎士団には入れない。更に帝国で爵位を得る必要がある。が、当主はいけない。女人禁制で表向き異性との結婚が推奨されない騎士団において、叙爵された当人が入団したら家が潰える」
「面倒くせーな」
「まったくだ」
ステンが騎士団に入るなら、例えば彼の姉が叙爵されればいい。そうすればステンは貴族の家の弟となり、入団の資格自体は得る。
が、そんなに甘くない。
「騎士の登用試験は年一回が基本だ。大規模な災害や他国との戦争が起こって緊急で人員確保が必要にならなければ」
「一年後か……」
「いや、そもそも登用試験は実技と教養と面接がある。お前は実技は突破できるだろうが、教養の部分では無理だ。帝国史、法律、算術は絶対にある。そこそこの水準で求められるからな」
「マジか……」
グッと手に力が入った。奥歯を噛んで、一度俯いてしまう。
離れたくないという強い思いを見ると、自分が酷く意地悪な人間になった気分だ。
ランバートだって二人を引き離す事はしたくない。トビーもステンの存在に救われているし、必要に思っているんだろう。こっちに戻ってきてもやっぱりステンと一緒にいる時はリラックスしている。
が、曲げられないものもある。長く積み重ねてきたものを一時の情に流されて変えてしまえば例外を作る。その例外を引き合いにその後も許せば組織が歪んでしまう。
まぁ、何事も裏道はあるわけだが。
「何か方法はないのか!」
「あるよ」
ランバートはニッと笑って近づいて、彼の耳元で囁いた。それにステンは驚いた顔をして、次にはまたギュッと爪痕が残るほどに手を握った。
「後はお前次第だよ、ステン」
「……感謝する」
「しなくていいよ」
これは本当にどうしようもない究極の抜け道。そう簡単には教えられないし相手を選ぶ。
でもこの青年は大丈夫だと思うんだ。やれる実力もあれば思いもある。まぁ、トビーには殴られるかもしれないけれど。
明日にはきっと帝国が見えてくる。戦いはこれからだ。
◇◆◇
王都に無事帰港すると直ぐにウルバスが出迎えてくれた。タラップを降りたトビーを見つけてほっとした笑みを浮かべたウルバスは近づいていく。それにトビーはやや硬く足を止めて、気まずそうに俯いてしまった。
「おかえり、トビー」
「あの、ただ今戻りましたウルバス様。ご心配をっ」
一度は戻らない事を考えた後ろめたさからかボソボソと口ごもったトビーだったが、そんなの全て払い飛ばすようにウルバスは抱き込んで背中をトンと叩いた。
「ほんと、心配した」
「ウルバス様」
「でも、悪いなんて思わなくていいよ。俺は一度君を見捨てた嫌な上司だ。恨んでいいよ」
「それは上官として当然の判断で! でも、俺は……」
トビーは口ごもる。そんな様子を見て、ウルバスは笑った。
「酷い上司だって殴ってもいいんだよ?」
「そんな事しません!」
「そう? 君の捜索を拒んだ俺をトレヴァーは殴りそうだったけれど」
「なにぃ!」
バッと後ろにいるトレヴァーを睨んだトビーに、あっちは苦笑して頭をかく。事実だけに何も言えないが。
「まぁ、色々あったんだろうね。後ろのお客人も歓迎するよ」
視線はステンとメーナの二人へ注がれるが、用件はまだ伝えていないはず。これは敢えて伝えていない。その前に下地を整える必要があったからだ。
「トビーを助けてくれたルアテ島の民だね? 歓迎する。団長からも礼を言いたいと言付かっているんだ。ひとまず場を整える必要があるから数日滞在してくれないか? 場所はこちらで用意している」
「ルアテ島の顔役をしているステンだ。こちらは姉のメーナ。歓迎、有り難く受けたい」
前に出て堂々とするステンをウルバスは少し驚いたように見て、次にはニッと笑う。多分、彼のお眼鏡にかなったんだ。
「良い体だね。船は?」
「一通り」
「いいね」
まずは一つ、好感触。
「ウルバス様、俺はこのまま少し行きたい場所があるのでお願いできますか?」
「それは構わないけれど……どうしたの?」
「聞かずに」
「……いいよ、君にも恩があるからね。他は何かある?」
「船に積んでいる酒樽三つを、彼らの滞在場所に運んでくれますか?」
「中身は?」
「問わずに。危険な物ではありません」
「それが通用するって、危険な事なんだけれどな。まぁ、君がこの国を危険にさらす真似はしないと信じてるから今回はいいよ」
「助かります」
仄暗い会話だがお互い空気は悪くしない。ステンとメーナにも目配せをして、ランバートは樽の中から見繕った少量の石を持って目的地へと向かう。一応予定では国にいるはずだから捕まるはずだ。
トレヴァーにも事前に話した通り動いてもらう事にして、ランバートはまるで戦地に向かう顔でその場を後にした。
向かったのはベルギウス本邸。出てきた執事にリッツに話があると伝えて呼んでもらう。同時に、リッツだけに事を伝えるように頼んだ。
数分後、出てきたリッツは既に何かを感じたかもの凄く嫌な顔をした。
「……何したの」
「まだしていない」
「何するの」
「ひとまず、ジンの所を借りよう」
「……奥? 地下?」
「地下」
「もぉぉぉぉ、なんなのさぁぁ」
既に逃げたいという顔をするリッツだが、ランバートは問答無用で連れて行くつもりだし、リッツも出てきたならば従うだろう。なんせ十年以上の腐れ縁だ。
案外しっかりと、だが無言のままジンの酒場まで来てドアを開ける。まだ日中だから人なんてほぼいない。寧ろ好都合だ。
「おう、久しぶりだなリフ。リッツもか」
相変わらずスキンヘッドの強面熊がちっちゃいグラスを磨く芸をしているみたいだ。なんて思いながらもドアを閉めて、ランバートはジンの前に来た。
「地下貸してくれ」
「……通れ」
溜息一つでカウンターの奥へと通してくれるジンに礼を言う。リッツも同じように奥に。買い取った中古の武器や防具を保管する場所やら、食材庫やらがあるその奥、目立たないように切れ込みの入った床の仕掛けを動かすと地下への階段が出てくる。ランタンに火を灯して降りていき、仕掛けを動かすと勝手に閉じる。
用意された部屋は一つ。比較的整っていて、引き出しの中には色んなものがある。
先に入ったリッツが上座に座り、紙束とペンを用意した。
「さて、何の話かは分からないが」
そう前置きし、こちらを見た時には既に商人の顔だ。明るく気さくでちょっとアホっぽい友の顔ではない。
だがそんなものはお互い様だ。ランバートもまた交渉をする政治家の顔をしている。悪友同士、こんな顔でお互い顔を突き合わせて交渉なんてどのくらいぶりだ。
それこそ、下町復興の頃以来か。
「ここからはお前の友人じゃない。お前が交渉するのはベルギウス公爵家のリッツ・ベルギウスだ」
「分かっている。俺もそのつもりでいる。ここに居るのは帝国騎士団騎兵府補佐、ランバート・ヒッテルスバッハだ」
「家名じゃないんだな?」
「あぁ」
「……話を聞く」
普段よりもワントーン低い声で促すリッツの対面に座ったランバートは、そこに石を三つ置いた。
「これは……サファイアの原石か?」
手に取ったのは拳大ほどの原石だ。綺麗な紡錘形だが原石のままで、端の方にはまだ雲母がついている。が、目立つ傷もなければ大きさも大きく色合いが綺麗なものだ。
リッツはランタンの明かりの近くで角度を変えながらそれを眺め、懐からルーペを出して中を見ている。
その後はあからさまに肩を落とした。
「え、どこで見つけたこれ? まさかどっかの貴族の家から取ってきてないよな?」
「んな事しない。ついでに、そんなのがゴロゴロあるって言ったらどうする?」
「!」
途端、リッツは飛び上がった後でぷるぷる震えた。
「具体的には、どのくらいで?」
「原石のまま、酒樽に一杯詰め込んだものが数部屋。加えて未採掘の鉱床と、そこから出た原石を敷き詰めた洞窟入り江なんてものがある」
「うげぇ! なっ、あ……えぇぇ。待てよマジで」
一瞬で顔色が悪くなるリッツを見るとちょっと笑う。わかるよ、その気持ち。
「ついでに同じ場所の違う地層から他の二つも出てきた。量は同じく」
「マジかよ。こっちルビーだよな? これも拳大はあるし、見えている部分だけでも色が深い。こっちのトパーズはブルーだけどインクルージョンが綺麗だ」
事の重大さを理解している。リッツは他の二つも鑑定して大きく項垂れた。
「待って、これが市場に何の遠慮もなく流れたら大暴落よ? 宝石商が一家で首括ることになりかねないんだけど!」
「だからお前の所に持ってきただろ?」
ベルギウス家は商人であると同時に、市場の急激な変化を抑制するのが家の役目だ。物がなければ高騰する。逆に市場に一気に流れれば暴落だ。
現在帝国では宝石の鉱床は少なく、隣国ジェームダルや外海の国から輸入している。そもそもの価値、輸送コストなどもあって高価なものだ。そしてこれらを仕入れる宝石商は裕福な者が多い。
が、そんな高価な物が目と鼻の先にゴロゴロ小石のように落ちている場所がある。そんな事が知れたら一大事なんだ。
リッツの震えがさっきから止まらない。ちょっと気の毒になってきた。
「……俺に、宝石市場のコントロールをしろってことか」
「他にも」
「……この宝石を鑑定、研磨する技術をよこせ」
「お前との交渉は楽でいいな」
「俺はげっそりだ!」
言わなくても分かってくれて大変有り難い。にっこり笑うランバートにリッツは泣きそうになっている。
が、目の前にある物の価値を正しく試算できる鑑定眼を持っている彼なら必ず乗る。同時に、これがヒッテルスバッハに流れた場合の恐ろしさも分かっている。
「……条件がある」
「どうぞ」
「まず、その産地から出た原石は俺にだけ流してくれ。一気に出たら大変な事になる。原産地を守る為にも家で管理したい」
「異議無し」
これは寧ろしてもらわないと困る。そういう部分でもリッツなら上手く舵を取るだろうと思って話を持ってきたのだ。
「こちらで研磨や鑑定の技術を持った職人を用意する。全員口の硬い職人連中で、技術者の矜持ってものを持った奴らだ。そいつらの所に見込みのありそうな奴を住み込みで働かせる」
「そうしてもらいたい」
「研磨された宝石についてはこちらで買い取りさせてもらう。その時の取り分は職人が四、ベルギウス家で二、原産地に三、一割プールする」
「プール?」
何でそんなことを? 疑問に思うとリッツは溜息をついて腕を組んだ。
「技術を持って現地に戻っても、道具やらがないと仕事にならない。専用の建物もあった方がいい。なんなら護衛も欲しい。そうなった時の金がいるだろ」
「あぁ、そういうこと」
それなら納得だ。初期投資の費用はあった方がいい。何せ他は何もないんだ。
「とりあえず十年くらいで一度契約の見直しを求める。ある程度育った技術者は卒業させて現地に戻って仕事をしてもらうと同時に、あちらでも人を育ててもらう」
「いいだろう。ただし市場のコントロールって意味でベルギウス家は通してもらう」
「それについては了解している」
ひとまずこれで第一段階はいいだろう。これまでの内容を紙に書き残して、互いに署名した。
「だが、どうしたって俺の所だけで守れないぞ。こんなのが市場に出始めたら騒がれる。当然原産地を特定しようとする動きはある。ただ場所を隠すだけじゃあっという間だ」
「その為の対策はこれから打つ。悪いが、数日のうちに陛下の前に出る用意をしておいてくれ」
「うわぁ、その規模で考えるのかよ。国巻き込もうってか?」
「当たり前だろ。それだけの価値がある」
あちらは防衛ができない。そこが解決しないからこそ、あの島の祖先は石を隠して持ち出しを禁じた。ただ価値は分かるから無下に捨てる事もしなかった。
あらたな採掘をしなくても恐らく数年は安泰。そして帝国が後ろにつく。その為の交渉はこれからだ。
「……原産地、ルアテ島か?」
不意に出てきた地名に、ランバートはニッと笑って人差し指を立ててシーと合図をする。同時に「正解」という事だ。
これを受けて、リッツは今度こそキャラメル色の髪を手でワシャワシャして唸った。
でもしばらくして溜息をつき、観念した。
「持たざる島の大革命か。でもまぁ、それなら仕方ない。あの島じゃどうしたって生きていけない。このくらいの恩恵、ないとこの後がない」
「分かってくれて助かる」
ランバートは信じていた。いや、分かっていた。未だ慈善事業と言われるくらい、持たない者の未来を案じて手を差し伸べているリッツならあの島の現状を知っている事を。
そして、共に下町と呼ばれたかつてのスラムを見て、そこの今を変える為に奔走した共謀者なんだ。
顔を上げたとき、リッツは疲れたままでも笑っていた。
「まったく、無茶ばかりだよお前は」
「その無茶を分かって手を貸してくれるって信じてるんだよ、親友」
手を差し伸べれば、リッツも手を伸ばして硬く結ぶ。そうしてひとまず息をついた。
「それにしてもいいのか?」
「なにが?」
「これ。ヒッテルスバッハに知らせないのか?」
言われて苦笑し、首を横に振る。
確かにヒッテルスバッハならこの美味しい話に乗っただろう。資金も潤沢だ。だが、それじゃだめだ。
「あの人達は人を育てる手間はかけない」
「まっ、だろうな。そういう部分が慈善事業って言われるんだよな俺」
「いいと思う。ゆくゆくはあの島で宝石の採掘、鑑定、研磨やカットまでしてほしいと思っている。あの島の人が自分達の足で立って生きられる土台を作ってやりたいんだ」
「お前のそれも奉仕活動だよな。ってか、ある程度見返りのある俺とは違って、お前のは本当に奉仕活動だろ。いいのか?」
「何が? 別に見返りなんて求めてないよ。俺は現状で満足だし、今の立場で言えばこの国が健やかに豊かであればいい。人生において、困らない程度の資産があればいいんだ」
その点は既に満たされている。最愛の人が側にいて、信頼出来る友人が複数いて、仕事は充実し、なにより国が安定した。これ以上は求めていない。贅沢に興味はないんだ。
そんなランバートに苦笑して、リッツはそれでも一つ溜息をついた。
「問題は兄貴と親父だよなぁ。しかもモノが宝石なら姉貴も興味示しそう。俺がこそこそ動くと察するしな」
「あの島を守れよリッツ。俺の方は父上や兄上を抑えるのに一杯だ」
「わーてるよぉ! 正直ヒッテルスバッハだって利益と危険が隣り合わせってのは分かってるだろうから無理な事しないだろうけれど。あの人にこの件入られたらそれを元に何を交渉してくるか分からないんだよな」
「無理を通すためのカードにはするだろうな」
何せ脅しという名の交渉を平気な顔でする人でもある。まぁ、滅多なことではしないが。
今回ランバートがこの件を主導した事が父に知られると、家の利益となる案件をどうして他家に渡したんだと圧を掛けられるのは勿論だ。多少噛ませろと言うかもしれないが、断固拒否だ。我が家にこれ以上の資産は必要ない。
「んで?」
「ん?」
「陛下への献上品としてこいつら預かっていいか? 研磨とカッティング、鑑定書付で王家へ最初の献上をするのが習わしだ。今回無理も通すんだろ? お土産大事だ」
「あぁ、そうだな。サファイアとルビーは宝飾品の加工はしないままカッティングだけして渡そう。好みがある。トパーズは宝石としての価値はそれ程高くないが大きいから、置物なんていいんじゃないか?」
「だな。数日もらう。それでも無理を承知で職人のところに持っていくんだからな。もう、今から親父さんに怒られながら褒められるのが見える」
それは分かる。下町の武器ギルドなんかでいい素材を持って行くと喜ぶと同時に、それで特急なんて言うと「クソッタレが!」と怒りながら嬉々として作ってくれる。
そんな光景が想像できて、二人で笑ってしまった。
「まぁ、何にしてもこれでまた一つ稼がせてもらうわ。あぁ、鑑定書に原産地書けないけどどうする? ベルギウス家お抱えの鑑定士の署名だからあまり傷は付かないと思うけど」
「そうだな……イシュタル、なんてブランド名にしたらどうだ?」
「金星?」
「明けの明星。あの島はこれから、光り輝く未来へと向かうんだから」
なんて、ちょっとクサイかな?
自嘲したが、リッツも「クッサ!」と笑いながらそのブランド名で出す事にするそうだ。
さて、ひとまず販路と技術についての道筋はつけられそうだ。後は守りを確保しなければ。
まだ続く戦いを思い、ランバートは一つ苦笑したのだった。
◇◆◇
日が落ちかけて僅かに暗くなる頃に宿舎に戻ると、ファウストに呼ばれた。執務室が大変な事になっていなければいいがと覚悟して向かったが、予想に反して部屋は綺麗な状態だ。
そしてここの主が苦笑して迎えてくれる。それだけで、緊張しっぱなしの気持ちが緩んでくる。
「おかえり、ランバート。何やらしているみたいだな?」
「ただいま、ファウスト」
上官の顔ではなく夫の顔で迎えた人に笑いかけて近づいていく。立ち上がり迎えてくれた人が無言で手を広げるから、何も言わずに飛び込んだ。
「疲れているな。何をしている?」
「まだ言わない」
「なるほど、悪い奴だ。いつなら教えてくれる?」
「陛下を交えた今回の件の報告会で」
「明日だな。他には俺に何かできるか?」
「今回トビーを助けてくれた島の顔役を、特別な客人として申請して報告会に入れたい。あと、絶対にシウス様とクラウル様には同席していただきたい」
「大事だな。今のうちに俺だけに言わないか?」
「言わない」
甘やかしながら喋らせようなんて、なんとも魅力的なスキルを手にしたファウストに笑う。それでも言わないと言うと無理に喋らせるのを諦めたようだ。溜息をついて、それでも抱きしめる手が甘やかしてくる。
「困った奴だ。とりあえず他に話をつけてくる。お前は先に休んでいいぞ」
「有り難う。あと、事務仕事の方も」
見た限り本当に綺麗だ。それだけファウストがちゃんとやってくれたんだ。
見れば苦い顔をしている。大変だったんだと分かって、それでもしてくれたのは有り難くて、ランバートはそっとキスをした。
「愛してる」
「お前な……」
途端赤くなって憎たらしそうな顔をしたファウストを笑って、ランバートはお言葉に甘えて部屋に引きこもるのだった。
◇◆◇
翌日、ランバートはステンを伴って王城の一室を目指した。王との謁見をファウストに頼むと案外あっさりと応じてくれるらしい。もとい、今回の一件はウェールズも関わってくる事から気になっていたようなのだ。
帝国式の正装をさせられたステンはもの凄く居心地悪い様子だが我慢している。この交渉に島の未来がかかっているのだと言えばそうなるだろう。
「呼ばれたら入ってくれ。それまでは外待機だ」
「分かった」
最後に念押しをしたランバートがノックをすると、直ぐに入室許可が出される。そうして入ると主要四府の長とカール四世が静かにランバートを待っていた。
自然と気合いが入るというか、戦いに挑むような気持ちが出来上がる。それにそれぞれの長が気づき、なによりもカール自身が気づいたのだろう。長達は驚き、カールは笑った。
「私は今まで、お前がジョシュアの息子だという事実は知っていたが実感が湧かなかった。だが、誤りだな。お前はあの男の息子だ。実に不愉快だな」
そう、もの凄く楽しそうに笑って言うのだ。そしてスッと、目を細めた。
途端、満ちる空気の圧が変わったのを肌で感じた。皇帝カール四世は希代の王であるのだ。
「さて、まずは何を話す?」
「はい。まずはトビー・ダウエル本人についての報告をさせていただきます」
改まったランバートはまず、トビーの身の上について報告を行った。
――
全ての報告を終えた段階で、カールは少し困った顔をする。それはシウスも同じだが、他はそれなりに静かだ。
「なるほど、情状酌量の余地はあり、尚且つ既に何か手が打てる年月でもないな。だが完全に咎め無しとも言えない」
「恐れ多くも申し上げます。この件についてトビー本人はカミーユとして今後生きる事を放棄し、このままトビーとして過ごす事を望んでおります。そして養父母についても大恩あれど恨みはないと。ですがこれがまかり通れば国としても問題ありと思って一応報告をさせて頂きました。どうか、寛大な処分をお願い致します」
静かに頭を下げたランバートを見てカールはしばし無言となる。だが助け船は意外にもカールの横からした。
「八つの子が、養い親も主も亡くして生きていく事は酷です陛下」
「ん?」
オスカルはやや真剣な顔をしている。そして静かにカールを見た。
「僕は四つまで孤児として過ごしましたが、常に不安でした。己の生活も命も人権すらも、あらゆる力の前では塵に等しいと分かるからです。子供は案外見ているものですし、己の無力も理解します。そんな幼子に、選択肢など無いも等しいもの。己が生き延びるために彼が選んだ道は正しかったのです」
珍しく静かな声音に全員が静かになる。その中でカールだけが考え、頷いた。
「そうだな。これで偽った子が不遇であったりすれば咎める気にもなるが、どうやら我が子として大切に慈しんできた様子。最愛の子を失って正気を保てなくなった妻と、子を無くし悲しみに暮れたダウエル伯も思えば気の毒であった。故に今回は一度呼び、以後も彼を家族として大切にするよう注意するだけとしよう」
「寛大なお心、有り難うございます」
この件についてはそれ程心配はしていなかったが、改めて良かったと思う。
だが問題は次だ。カールがランバートに視線を向けて笑う。普段よりも少し意地悪に。
「さて、他はあるか?」
「……ございます。ですがその前に、この件に関わりの深い人物を召喚したく思います」
「あぁ、聞いている。ルアテ島の顔役をしているという青年だね。構わないよ」
事前に話は通していたがこんなにもあっさりと許可が下りた。まぁ、ここに集まる面々を考えれば一切脅威ではないだろうしな。
ランバートは感謝を述べて扉を開ける。そしてステンを招き入れた。
「こちらが、この度トビーを救助したルアテ島のステンという青年です」
「ステンと申します」
素直に頭を下げたステンはそのまま動けない。その様子にカールは頷いて、顔を上げるよう言ってくれた。
「それに関しては感謝している。聞けば、我が国の民が度々助けられているという」
「それ程の事では」
「……だが、ここに来た用件はそんな事ではないかな。ランバート、私と何やら交渉がしたいのだろ? 出し惜しみせずに話せ」
ニッと笑ったカールの目が光る。私人としては天真爛漫な人だが、皇帝となるとこんなに空気が違うものか。思うが、それなら話が早い。
ランバートは許可をもらって持参した袋の中から石を三つ取り出す。それに、手前にいたファウストとクラウルが訝しく首を傾げ、オスカルとシウスは軽く目眩を覚えた様子だった。
「こちらは、ルアテ島から産出されました宝石の原石です。サファイア、ルビー、トパーズです」
「うん。オスカル、シウス、簡単だが鑑定は出来るか?」
「はっ」
立ち上がり、オスカルはサファイアとトパーズを、シウスがルビーを手にする。それに光を当てて角度を変えて数分見つめた後で戻ってきた。
「さて、どうかな?」
「最上級のサファイアです。青の色は気品溢れるロイヤルブルー、透明度も高く粒が大きく、中には金に光るインクルージョンも確認できました」
「ルビーも最上級のピジョンブラッドです。深い色で光を当てれば内側から煌めくように光ります。そして同じく、金のインクルージョンが確認できます」
「またトパーズは透明度の高いブルーですが、何より大きいのがいいです。置物を作るにはもってこいでしょう」
二人の報告にカールは頷く。そしてランバートを見てにっこりと笑った。
「つまり、これらの宝石の貴重な原産地となった彼の島を、我が帝国で庇護しろということかな?」
「はっ」
静かに頭を下げたランバートにつられてステンも慌てて頭を下げる。
が、カールは意地悪に笑った。
「では、あの島を帝国の属国として迎えよう。そうなればあの地も私の国の一部。当然庇護する」
「陛下、心にも無い事を仰るのはおやめください」
とても静かな声でランバートは告げる。これにシウスは少し慌てたが、カールは目を細めた。
「その根拠は?」
「陛下は民に心を砕き、弱い者に目を向けてくださる方。例え何処にも属さぬ者とはいえ、己の身すら立てる事もままならない者を押し潰すような非情な方ではございません。そのように試さずとも、私はこの国の益も提示いたします」
「私は優しい王であると思っているよ? だからこそ我が国に迎え入れる。奪い取ったりはしない」
「……かつて罪人として流されてきた彼ら祖先が、必死に守った彼らの居場所です。どのような形でも追われれば、そこに遺恨は生まれるのです。今まで彼らの窮状は分かっていても手を差し伸べなかったというのに、今更親切面で近寄るのは恥です。我らは彼らを認め、よき隣人となるべきです。あの島は、これまで耐えて生きてきた彼らのもの。易々とお手を触れるべきではありません」
そう言った時のランバートの目は、戦場のそれと遜色ないものだった。いや、それ以上に圧があった。発散させるのではなく内に押し込めるような気迫にファウストもオロオロする。
だが、案外あっけらかんとその気配は霧散させられた。
「まぁ、そうなんだよね」
そう明るい声で言ったのはカールだった。
ニッと楽しそうに笑う彼にランバートは溜息をつく。そして剣呑な目をした。
「私を試されるなど、時間の無駄ではありませんか?」
「ごめんごめん、ジョシュア前にしてるみたいで意地悪を言いたくなってね。分かっているよ、そんな恥知らずな事はしない。何よりそんな事をしようものならジョシュアもヴィンセントも止めると思うし。私もこの国を負う者として、これでも矜持はあるつもりだよ」
この空気に案外ほっとしたのはシウスだ。恐らく心中はドキドキハラハラだ。申し訳ない。
「だが、素直に応じられる話ではない。あの島が庇護を求める理由も納得できるが、国としての利益も欲しい。これらの宝石を差し出すと言われても少し困るよ。宝石自体の価値が大暴落しかねない。それはそのままこの国の民が苦しむ結果となる。宝石以外の利益を、用意できるのかな?」
にっこり微笑むがやはり意地悪だ。先に『宝石』という手を封じたのだ。
まぁ、用意しているものは違うが。ランバートはニッと笑った。
「我が帝国海軍の前線基地など、いかがでしょう?」
「ん?」
その言葉に驚いたカールが目を丸くする。だがこれに驚いたのはカールだけではない。シウスやファウスト、クラウルまでもが目を丸くしたのだ。
「ジェームダル、クシュナートとの三国同盟が成った今、最も懸念される相手は西の大国ウェールズです。奴らは陸戦ではファウストを警戒して侵略などを控えているようですが、その分海上は騒がしくなっております。現に今回の件もウェールズの私掠船が起こしたこと。今後も海上では不穏な動きは増えるかと予想されます。加えて彼の島の資源をウェールズが知れば我が物顔で蹂躙し、あらゆる資源をむしり取ってその資金で我が国への侵攻を開始するでしょう」
これにシウスは素直に頷き、ファウストは嫌な顔をした。カールも分かっていて難しい顔で頷いた。
「そこで、ルアテ島に海軍砦を建設し、海軍が常駐することで抑止とするのです。勿論何かがあればそこから直ぐに出航できますし、王都側からとルアテ島側から挟撃も可能となるでしょう。同時に我が帝国の砦があり、海軍が常駐するのです。島民にとってこれ以上の庇護はないかと存じます」
「……ぷっ、あはははは!」
「!」
これらを聞いていたカールが目をキョトッとさせた後、思い切り面白そうに笑った。それに色々驚いた人もいたが、ランバートとしては上々だ。
「シウス、彼の話すような効果は期待できるかい?」
「はっ、間違いなく。ルアテ島は外海に近く、不審な船があれば捕らえる事も今までより容易くなるかと」
「なるほど。ファウスト、その分の人員はだせそうかい?」
「問題無いかと思います。第三は人数も多く編成しているので」
「うんうん。ランバート、あそこに砦を作るとなれば相応の費用がかかる。それはどこから捻出する?」
「はっ。ルアテ島よりここにある三種の宝石を酒樽一杯に一つずつ、合計三つ持ってきてございます。全て原石ではありますが、それでも建設費等の足しになるかと思います。足りないようでしたら同じ物を六個はご用意いたします。また、砦建築について既に島民による会合が行われ、合意するとの回答が得られています」
「やれやれ、用意周到な」
溜息をついたカールがステンを見る。それにステンは驚き、また頭を下げた。
「お願いいたします」
「……まぁ、我が国の益は多そうだね」
ふっと息をついたカールが全員を見回す。そしてランバートへも。
「さて、大がかりな話が舞い込んだようだ。お前達、どうする?」
「「良いかと」」
「うん」
団長全員の同意が得られた。そしてそれに対し、カールも一つ頷いた。
「では、これらについては私からヴィンセントへと話を通す。以後は彼に任せる。ランバート、お前の事だから既に諸々の道筋をつけているんじゃないか? お前の交友関係でいけばリッツ・ベルギウス辺りか」
「お察しの通りです。技術援助、指導、市場への流通全てを彼に託しました。色の良い返事を頂いております。数日後には陛下への献上品を持ってこちらへと伺うとのこと」
「あい、分かった。お前は本当に可愛くないな。あの男のやり口に似ている。だが、個人的にはとても気に入っているからね。今後とも我が国の為に動いてくれ」
「はい」
「ステン」
「はい!」
「顔役のお前も話し合いには参加しなさい」
「……そのことなのですが、俺……私の他に姉のメーナも同席させてください。私に何かあったときは、姉に事業を引き継いでもらう事となっております」
「構わないよ。では二名には通行証と身分証を発行するよう伝えておく。島のため、そこで生きる人々の為に励みなさい」
「はい!」
「ランバート、原石をあと二組用意して加工しておきなさい。ジェームダル、クシュナートにも使者を出す。シウス、それを持ってお前はジェームダルのアルブレヒト王へ謁見し、此度の事を伝えてあの場所に砦を築く事への同意を得てきなさい。目と鼻の先に他国の砦が新たに出来るのは、あまりいい気分のしないことだ」
「はっ」
伝えるべき事を伝え終え、カールは退出していく。だがその前にと、彼は意地悪な顔でランバートを見た。
「それと、今回の事をジョシュアが知ったら悔しがるだろうね」
「!」
「精々頑張る事だよ、ランバート」
思い切り笑いながら出て行ったカールを僅かだが恨めしく思いつつも、自ら決断して行った事の為言い訳も言い逃れも不可能。早ければ今夜にでも呼び出しがかかり、父ジョシュアと兄アレクシスに怒られるのだろうな。
だがまぁ、思い描いた通りにはなったのだ。そのくらいは耐えよう。
「まったく、とんでもない物が出てきてしまったなえ」
大任を任されたシウスの溜息は深い。が、悪い顔はしていなかった。
それはファウストも同じなのだが……多分、後日別件で怒られるだろうな。そんな事を、隣で放心状態のステンを見て思った。
「だがまさか、あの場所に砦を置くことが出来るとはな。軍事としては何よりの吉報だ」
「あぁ、まったくだ。早速父に話を通しておく。建設予定地の概算の為にもな」
「これで目障りなウェールズの動きに海上からも目を光らせる事ができよう。あの辺りでは私掠船が我が国やジェームダルの商船を襲って金品を奪っているという話もある。これ以上の被害など見過ごせぬわ」
印象やよし。これで一番大きな肩の荷は降りたに違いない。
ふっと息を吐いたランバートはようやく一つ満足に笑うのだった。
だが問題はそこじゃない。まずはトビー本人の事だ。
生きている人間を隠すために死んだ事にするなんてのはある。ヴィンセントがいい例だ。だがあの人の場合はちゃんと人相を把握している人が少なかったので履歴だけを別人にして戻せた。
トビーの場合は入れ替わり。しかも十年以上が経過している。今更元の戸籍を正してカミーユに戻し、彼の生家を罰する方が歪みが酷くなるだろう。
何よりトビー本人がこれを望んでいない。だからといって発覚した以上、何事もなかったようには出来ない。ひっそりと上に報告する必要があるんだろう。
そして何よりの問題がこの島の鉱物資源だ。
元々は海底火山が噴火して出来た島だ。ただ見落とされていたことは、ここは島誕生時の大爆発以後は噴火などしていない。地盤もしっかりしている。
だが紛れもなく火山だったんだ。そして偉大な自然はこの島自体を宝島にしていた。まさかこの狭い中で複数の宝石の鉱床がほぼ手つかずのまま存在していたなんて。
あの後、この事をこの島の顔役であるステンと、彼の姉であるメーナに伝え、こちらの取ろうと思う行動も話した。結果、明日この姉弟を帝国の船に乗せて今後の事を対処する事となった。
この島の長の一族であるステンの家には、先祖が残した口伝があった。それは女性が語り継ぐらしく、メーナが教えてくれた。曰く、ここに流された先祖はこの事に気づいていた。だが、無用な争いを避けるために敢えて「価値のない石」としたそうだ。
それでも島を守る山の石だから取っておくようにと言い含め、洞窟の中に作った採石場にとっておいた。それが数十部屋あり、中には宝石の原石を詰めた木樽が堆く詰まっていた。
本当に目眩がする……。
こんなのが欲深い為政者に知れたら理由を付けて攻め入る事も考えられる。特にここはウェールズに近い。あの国がここに入り込んでこれらの財を奪い取り島民を虐殺、もしくは追い出す事が何よりの問題だ。
おそらく帝国にとっても、ジェームダルにとっても。
だがこの島は誰のものでもない中立地。国に所属しない。
だが自分達が生きるのに精一杯でもある。見せてもらったがこの土地では農業は無理だろう。漁場が良いから今まで生きられただけだ。
そこにこれから、数億という単位で金が流れ込んでくる。舵取りを間違ってもこの島の為にならない。
だが幸いにして、ランバートには実績がある。スラムだった下町を復興した実績と、人脈がある。誰を信頼し、どう動かしていけばいいかは見えている。
「ヒッテルスバッハの介入を一番に警戒しないとな」
悪い相手ではないが、あの人達は人材の育成を一からするなんて非効率的な事はしない。出来ない人間を育ててなんて時間をかけないんだ。それではこの島は本当の意味で自立、発展することはない。
「まずは話をつけないとな」
多分嫌な顔をする。あいつは友人相手に駆け引きするのを嫌がる。でも根が商人だし、人の人生を背負う気概のある奴だ。とことん突き詰めていけばなんとかなる。
「順番、交渉カード、人の見極め。落としどころを見誤るなよ俺」
独り言を呟き今日は帝国の船で一泊。心地よく揺れるハンモックに身を預ければ案外快適で、そのままゆっくりと眠りについた。
◇◆◇
翌日、騎士団のメンバー数人を島の守りとして残し、逆に島の数人とステン、メーナ姉弟が乗り込んだ。
そして、騎士の格好をしたトビーも乗り込んでなんだか懐かしい顔をした。
「トビー!」
「!」
彼が甲板に立った所でクリフとピアースが改めて駆けてきて、がっしりと抱き合った。
「おわぁ!」
「ごめん、ごめんねトビー。生きてて良かったよぉ」
「おいクリフ、それ昨日も聞いたっでぇ!」
「マジでごめん! お前が大変な時に俺何もできなくて!」
「ビアーズぐるじぃ! 腕力考えろぉぉ!」
「あはははは!」
暑苦しい再会劇を繰り広げる面々を帝国の方は笑って受け入れ、ついでにバシバシ叩いて無事を喜んでいる。
でもそれを見るステンは、複雑な様子だった。
「出航!」
トレヴァーの声に合わせ、船は碇を上げて出航する。感謝の空砲を一発あげ、そのまま順調に船は帝国を目指し進んでいる。今回は食料も十分、船員の練度も高い。
だが驚くべきはルアテ島の人々だ。彼らは逞しい体躯で力もあり、操船技術も高かった。
その中でもステンは特に優秀だ。風を読み、潮を読み、海図や船にも明るい。トレヴァーがいい刺激を貰えるとかなり話し込んでいた。
そんな事で明日はとうとう帝国の港に帰港するという頃。夜にランバートを訪ねる人がいて人の少ない医務室を借りた。
「それで、話って?」
真剣な顔をしたステンだが、なかなか言葉が出てこない。彼は頭が良くムードメーカー。豪快な海の人間らしい気概がある。そんな人が話しにくい事となれば、何となく内容も分かる。
「なぁ、俺みたいなのが騎士団に入るには、どうしたらいい?」
まぁ、予想通りだ。
「カミ……いや、トビーの側にいたい。方法はないか」
「本気か?」
「あぁ。過ごした時間は短いが、俺はあいつの側にいてやりたい。これだけいい仲間に囲まれてるんだ、俺がいなくてもいいのかもしれない。けれど俺がいたいんだ」
心をそのままぶつけるような真っ直ぐな目は好きだ。本心を押しとどめて隠す事の多いランバートからしたら羨ましくもある。そして、とても強いんだ。
「……正規の方法は無理だろうな」
「正規?」
「まずは帝国の人間でなければ騎士団には入れない。更に帝国で爵位を得る必要がある。が、当主はいけない。女人禁制で表向き異性との結婚が推奨されない騎士団において、叙爵された当人が入団したら家が潰える」
「面倒くせーな」
「まったくだ」
ステンが騎士団に入るなら、例えば彼の姉が叙爵されればいい。そうすればステンは貴族の家の弟となり、入団の資格自体は得る。
が、そんなに甘くない。
「騎士の登用試験は年一回が基本だ。大規模な災害や他国との戦争が起こって緊急で人員確保が必要にならなければ」
「一年後か……」
「いや、そもそも登用試験は実技と教養と面接がある。お前は実技は突破できるだろうが、教養の部分では無理だ。帝国史、法律、算術は絶対にある。そこそこの水準で求められるからな」
「マジか……」
グッと手に力が入った。奥歯を噛んで、一度俯いてしまう。
離れたくないという強い思いを見ると、自分が酷く意地悪な人間になった気分だ。
ランバートだって二人を引き離す事はしたくない。トビーもステンの存在に救われているし、必要に思っているんだろう。こっちに戻ってきてもやっぱりステンと一緒にいる時はリラックスしている。
が、曲げられないものもある。長く積み重ねてきたものを一時の情に流されて変えてしまえば例外を作る。その例外を引き合いにその後も許せば組織が歪んでしまう。
まぁ、何事も裏道はあるわけだが。
「何か方法はないのか!」
「あるよ」
ランバートはニッと笑って近づいて、彼の耳元で囁いた。それにステンは驚いた顔をして、次にはまたギュッと爪痕が残るほどに手を握った。
「後はお前次第だよ、ステン」
「……感謝する」
「しなくていいよ」
これは本当にどうしようもない究極の抜け道。そう簡単には教えられないし相手を選ぶ。
でもこの青年は大丈夫だと思うんだ。やれる実力もあれば思いもある。まぁ、トビーには殴られるかもしれないけれど。
明日にはきっと帝国が見えてくる。戦いはこれからだ。
◇◆◇
王都に無事帰港すると直ぐにウルバスが出迎えてくれた。タラップを降りたトビーを見つけてほっとした笑みを浮かべたウルバスは近づいていく。それにトビーはやや硬く足を止めて、気まずそうに俯いてしまった。
「おかえり、トビー」
「あの、ただ今戻りましたウルバス様。ご心配をっ」
一度は戻らない事を考えた後ろめたさからかボソボソと口ごもったトビーだったが、そんなの全て払い飛ばすようにウルバスは抱き込んで背中をトンと叩いた。
「ほんと、心配した」
「ウルバス様」
「でも、悪いなんて思わなくていいよ。俺は一度君を見捨てた嫌な上司だ。恨んでいいよ」
「それは上官として当然の判断で! でも、俺は……」
トビーは口ごもる。そんな様子を見て、ウルバスは笑った。
「酷い上司だって殴ってもいいんだよ?」
「そんな事しません!」
「そう? 君の捜索を拒んだ俺をトレヴァーは殴りそうだったけれど」
「なにぃ!」
バッと後ろにいるトレヴァーを睨んだトビーに、あっちは苦笑して頭をかく。事実だけに何も言えないが。
「まぁ、色々あったんだろうね。後ろのお客人も歓迎するよ」
視線はステンとメーナの二人へ注がれるが、用件はまだ伝えていないはず。これは敢えて伝えていない。その前に下地を整える必要があったからだ。
「トビーを助けてくれたルアテ島の民だね? 歓迎する。団長からも礼を言いたいと言付かっているんだ。ひとまず場を整える必要があるから数日滞在してくれないか? 場所はこちらで用意している」
「ルアテ島の顔役をしているステンだ。こちらは姉のメーナ。歓迎、有り難く受けたい」
前に出て堂々とするステンをウルバスは少し驚いたように見て、次にはニッと笑う。多分、彼のお眼鏡にかなったんだ。
「良い体だね。船は?」
「一通り」
「いいね」
まずは一つ、好感触。
「ウルバス様、俺はこのまま少し行きたい場所があるのでお願いできますか?」
「それは構わないけれど……どうしたの?」
「聞かずに」
「……いいよ、君にも恩があるからね。他は何かある?」
「船に積んでいる酒樽三つを、彼らの滞在場所に運んでくれますか?」
「中身は?」
「問わずに。危険な物ではありません」
「それが通用するって、危険な事なんだけれどな。まぁ、君がこの国を危険にさらす真似はしないと信じてるから今回はいいよ」
「助かります」
仄暗い会話だがお互い空気は悪くしない。ステンとメーナにも目配せをして、ランバートは樽の中から見繕った少量の石を持って目的地へと向かう。一応予定では国にいるはずだから捕まるはずだ。
トレヴァーにも事前に話した通り動いてもらう事にして、ランバートはまるで戦地に向かう顔でその場を後にした。
向かったのはベルギウス本邸。出てきた執事にリッツに話があると伝えて呼んでもらう。同時に、リッツだけに事を伝えるように頼んだ。
数分後、出てきたリッツは既に何かを感じたかもの凄く嫌な顔をした。
「……何したの」
「まだしていない」
「何するの」
「ひとまず、ジンの所を借りよう」
「……奥? 地下?」
「地下」
「もぉぉぉぉ、なんなのさぁぁ」
既に逃げたいという顔をするリッツだが、ランバートは問答無用で連れて行くつもりだし、リッツも出てきたならば従うだろう。なんせ十年以上の腐れ縁だ。
案外しっかりと、だが無言のままジンの酒場まで来てドアを開ける。まだ日中だから人なんてほぼいない。寧ろ好都合だ。
「おう、久しぶりだなリフ。リッツもか」
相変わらずスキンヘッドの強面熊がちっちゃいグラスを磨く芸をしているみたいだ。なんて思いながらもドアを閉めて、ランバートはジンの前に来た。
「地下貸してくれ」
「……通れ」
溜息一つでカウンターの奥へと通してくれるジンに礼を言う。リッツも同じように奥に。買い取った中古の武器や防具を保管する場所やら、食材庫やらがあるその奥、目立たないように切れ込みの入った床の仕掛けを動かすと地下への階段が出てくる。ランタンに火を灯して降りていき、仕掛けを動かすと勝手に閉じる。
用意された部屋は一つ。比較的整っていて、引き出しの中には色んなものがある。
先に入ったリッツが上座に座り、紙束とペンを用意した。
「さて、何の話かは分からないが」
そう前置きし、こちらを見た時には既に商人の顔だ。明るく気さくでちょっとアホっぽい友の顔ではない。
だがそんなものはお互い様だ。ランバートもまた交渉をする政治家の顔をしている。悪友同士、こんな顔でお互い顔を突き合わせて交渉なんてどのくらいぶりだ。
それこそ、下町復興の頃以来か。
「ここからはお前の友人じゃない。お前が交渉するのはベルギウス公爵家のリッツ・ベルギウスだ」
「分かっている。俺もそのつもりでいる。ここに居るのは帝国騎士団騎兵府補佐、ランバート・ヒッテルスバッハだ」
「家名じゃないんだな?」
「あぁ」
「……話を聞く」
普段よりもワントーン低い声で促すリッツの対面に座ったランバートは、そこに石を三つ置いた。
「これは……サファイアの原石か?」
手に取ったのは拳大ほどの原石だ。綺麗な紡錘形だが原石のままで、端の方にはまだ雲母がついている。が、目立つ傷もなければ大きさも大きく色合いが綺麗なものだ。
リッツはランタンの明かりの近くで角度を変えながらそれを眺め、懐からルーペを出して中を見ている。
その後はあからさまに肩を落とした。
「え、どこで見つけたこれ? まさかどっかの貴族の家から取ってきてないよな?」
「んな事しない。ついでに、そんなのがゴロゴロあるって言ったらどうする?」
「!」
途端、リッツは飛び上がった後でぷるぷる震えた。
「具体的には、どのくらいで?」
「原石のまま、酒樽に一杯詰め込んだものが数部屋。加えて未採掘の鉱床と、そこから出た原石を敷き詰めた洞窟入り江なんてものがある」
「うげぇ! なっ、あ……えぇぇ。待てよマジで」
一瞬で顔色が悪くなるリッツを見るとちょっと笑う。わかるよ、その気持ち。
「ついでに同じ場所の違う地層から他の二つも出てきた。量は同じく」
「マジかよ。こっちルビーだよな? これも拳大はあるし、見えている部分だけでも色が深い。こっちのトパーズはブルーだけどインクルージョンが綺麗だ」
事の重大さを理解している。リッツは他の二つも鑑定して大きく項垂れた。
「待って、これが市場に何の遠慮もなく流れたら大暴落よ? 宝石商が一家で首括ることになりかねないんだけど!」
「だからお前の所に持ってきただろ?」
ベルギウス家は商人であると同時に、市場の急激な変化を抑制するのが家の役目だ。物がなければ高騰する。逆に市場に一気に流れれば暴落だ。
現在帝国では宝石の鉱床は少なく、隣国ジェームダルや外海の国から輸入している。そもそもの価値、輸送コストなどもあって高価なものだ。そしてこれらを仕入れる宝石商は裕福な者が多い。
が、そんな高価な物が目と鼻の先にゴロゴロ小石のように落ちている場所がある。そんな事が知れたら一大事なんだ。
リッツの震えがさっきから止まらない。ちょっと気の毒になってきた。
「……俺に、宝石市場のコントロールをしろってことか」
「他にも」
「……この宝石を鑑定、研磨する技術をよこせ」
「お前との交渉は楽でいいな」
「俺はげっそりだ!」
言わなくても分かってくれて大変有り難い。にっこり笑うランバートにリッツは泣きそうになっている。
が、目の前にある物の価値を正しく試算できる鑑定眼を持っている彼なら必ず乗る。同時に、これがヒッテルスバッハに流れた場合の恐ろしさも分かっている。
「……条件がある」
「どうぞ」
「まず、その産地から出た原石は俺にだけ流してくれ。一気に出たら大変な事になる。原産地を守る為にも家で管理したい」
「異議無し」
これは寧ろしてもらわないと困る。そういう部分でもリッツなら上手く舵を取るだろうと思って話を持ってきたのだ。
「こちらで研磨や鑑定の技術を持った職人を用意する。全員口の硬い職人連中で、技術者の矜持ってものを持った奴らだ。そいつらの所に見込みのありそうな奴を住み込みで働かせる」
「そうしてもらいたい」
「研磨された宝石についてはこちらで買い取りさせてもらう。その時の取り分は職人が四、ベルギウス家で二、原産地に三、一割プールする」
「プール?」
何でそんなことを? 疑問に思うとリッツは溜息をついて腕を組んだ。
「技術を持って現地に戻っても、道具やらがないと仕事にならない。専用の建物もあった方がいい。なんなら護衛も欲しい。そうなった時の金がいるだろ」
「あぁ、そういうこと」
それなら納得だ。初期投資の費用はあった方がいい。何せ他は何もないんだ。
「とりあえず十年くらいで一度契約の見直しを求める。ある程度育った技術者は卒業させて現地に戻って仕事をしてもらうと同時に、あちらでも人を育ててもらう」
「いいだろう。ただし市場のコントロールって意味でベルギウス家は通してもらう」
「それについては了解している」
ひとまずこれで第一段階はいいだろう。これまでの内容を紙に書き残して、互いに署名した。
「だが、どうしたって俺の所だけで守れないぞ。こんなのが市場に出始めたら騒がれる。当然原産地を特定しようとする動きはある。ただ場所を隠すだけじゃあっという間だ」
「その為の対策はこれから打つ。悪いが、数日のうちに陛下の前に出る用意をしておいてくれ」
「うわぁ、その規模で考えるのかよ。国巻き込もうってか?」
「当たり前だろ。それだけの価値がある」
あちらは防衛ができない。そこが解決しないからこそ、あの島の祖先は石を隠して持ち出しを禁じた。ただ価値は分かるから無下に捨てる事もしなかった。
あらたな採掘をしなくても恐らく数年は安泰。そして帝国が後ろにつく。その為の交渉はこれからだ。
「……原産地、ルアテ島か?」
不意に出てきた地名に、ランバートはニッと笑って人差し指を立ててシーと合図をする。同時に「正解」という事だ。
これを受けて、リッツは今度こそキャラメル色の髪を手でワシャワシャして唸った。
でもしばらくして溜息をつき、観念した。
「持たざる島の大革命か。でもまぁ、それなら仕方ない。あの島じゃどうしたって生きていけない。このくらいの恩恵、ないとこの後がない」
「分かってくれて助かる」
ランバートは信じていた。いや、分かっていた。未だ慈善事業と言われるくらい、持たない者の未来を案じて手を差し伸べているリッツならあの島の現状を知っている事を。
そして、共に下町と呼ばれたかつてのスラムを見て、そこの今を変える為に奔走した共謀者なんだ。
顔を上げたとき、リッツは疲れたままでも笑っていた。
「まったく、無茶ばかりだよお前は」
「その無茶を分かって手を貸してくれるって信じてるんだよ、親友」
手を差し伸べれば、リッツも手を伸ばして硬く結ぶ。そうしてひとまず息をついた。
「それにしてもいいのか?」
「なにが?」
「これ。ヒッテルスバッハに知らせないのか?」
言われて苦笑し、首を横に振る。
確かにヒッテルスバッハならこの美味しい話に乗っただろう。資金も潤沢だ。だが、それじゃだめだ。
「あの人達は人を育てる手間はかけない」
「まっ、だろうな。そういう部分が慈善事業って言われるんだよな俺」
「いいと思う。ゆくゆくはあの島で宝石の採掘、鑑定、研磨やカットまでしてほしいと思っている。あの島の人が自分達の足で立って生きられる土台を作ってやりたいんだ」
「お前のそれも奉仕活動だよな。ってか、ある程度見返りのある俺とは違って、お前のは本当に奉仕活動だろ。いいのか?」
「何が? 別に見返りなんて求めてないよ。俺は現状で満足だし、今の立場で言えばこの国が健やかに豊かであればいい。人生において、困らない程度の資産があればいいんだ」
その点は既に満たされている。最愛の人が側にいて、信頼出来る友人が複数いて、仕事は充実し、なにより国が安定した。これ以上は求めていない。贅沢に興味はないんだ。
そんなランバートに苦笑して、リッツはそれでも一つ溜息をついた。
「問題は兄貴と親父だよなぁ。しかもモノが宝石なら姉貴も興味示しそう。俺がこそこそ動くと察するしな」
「あの島を守れよリッツ。俺の方は父上や兄上を抑えるのに一杯だ」
「わーてるよぉ! 正直ヒッテルスバッハだって利益と危険が隣り合わせってのは分かってるだろうから無理な事しないだろうけれど。あの人にこの件入られたらそれを元に何を交渉してくるか分からないんだよな」
「無理を通すためのカードにはするだろうな」
何せ脅しという名の交渉を平気な顔でする人でもある。まぁ、滅多なことではしないが。
今回ランバートがこの件を主導した事が父に知られると、家の利益となる案件をどうして他家に渡したんだと圧を掛けられるのは勿論だ。多少噛ませろと言うかもしれないが、断固拒否だ。我が家にこれ以上の資産は必要ない。
「んで?」
「ん?」
「陛下への献上品としてこいつら預かっていいか? 研磨とカッティング、鑑定書付で王家へ最初の献上をするのが習わしだ。今回無理も通すんだろ? お土産大事だ」
「あぁ、そうだな。サファイアとルビーは宝飾品の加工はしないままカッティングだけして渡そう。好みがある。トパーズは宝石としての価値はそれ程高くないが大きいから、置物なんていいんじゃないか?」
「だな。数日もらう。それでも無理を承知で職人のところに持っていくんだからな。もう、今から親父さんに怒られながら褒められるのが見える」
それは分かる。下町の武器ギルドなんかでいい素材を持って行くと喜ぶと同時に、それで特急なんて言うと「クソッタレが!」と怒りながら嬉々として作ってくれる。
そんな光景が想像できて、二人で笑ってしまった。
「まぁ、何にしてもこれでまた一つ稼がせてもらうわ。あぁ、鑑定書に原産地書けないけどどうする? ベルギウス家お抱えの鑑定士の署名だからあまり傷は付かないと思うけど」
「そうだな……イシュタル、なんてブランド名にしたらどうだ?」
「金星?」
「明けの明星。あの島はこれから、光り輝く未来へと向かうんだから」
なんて、ちょっとクサイかな?
自嘲したが、リッツも「クッサ!」と笑いながらそのブランド名で出す事にするそうだ。
さて、ひとまず販路と技術についての道筋はつけられそうだ。後は守りを確保しなければ。
まだ続く戦いを思い、ランバートは一つ苦笑したのだった。
◇◆◇
日が落ちかけて僅かに暗くなる頃に宿舎に戻ると、ファウストに呼ばれた。執務室が大変な事になっていなければいいがと覚悟して向かったが、予想に反して部屋は綺麗な状態だ。
そしてここの主が苦笑して迎えてくれる。それだけで、緊張しっぱなしの気持ちが緩んでくる。
「おかえり、ランバート。何やらしているみたいだな?」
「ただいま、ファウスト」
上官の顔ではなく夫の顔で迎えた人に笑いかけて近づいていく。立ち上がり迎えてくれた人が無言で手を広げるから、何も言わずに飛び込んだ。
「疲れているな。何をしている?」
「まだ言わない」
「なるほど、悪い奴だ。いつなら教えてくれる?」
「陛下を交えた今回の件の報告会で」
「明日だな。他には俺に何かできるか?」
「今回トビーを助けてくれた島の顔役を、特別な客人として申請して報告会に入れたい。あと、絶対にシウス様とクラウル様には同席していただきたい」
「大事だな。今のうちに俺だけに言わないか?」
「言わない」
甘やかしながら喋らせようなんて、なんとも魅力的なスキルを手にしたファウストに笑う。それでも言わないと言うと無理に喋らせるのを諦めたようだ。溜息をついて、それでも抱きしめる手が甘やかしてくる。
「困った奴だ。とりあえず他に話をつけてくる。お前は先に休んでいいぞ」
「有り難う。あと、事務仕事の方も」
見た限り本当に綺麗だ。それだけファウストがちゃんとやってくれたんだ。
見れば苦い顔をしている。大変だったんだと分かって、それでもしてくれたのは有り難くて、ランバートはそっとキスをした。
「愛してる」
「お前な……」
途端赤くなって憎たらしそうな顔をしたファウストを笑って、ランバートはお言葉に甘えて部屋に引きこもるのだった。
◇◆◇
翌日、ランバートはステンを伴って王城の一室を目指した。王との謁見をファウストに頼むと案外あっさりと応じてくれるらしい。もとい、今回の一件はウェールズも関わってくる事から気になっていたようなのだ。
帝国式の正装をさせられたステンはもの凄く居心地悪い様子だが我慢している。この交渉に島の未来がかかっているのだと言えばそうなるだろう。
「呼ばれたら入ってくれ。それまでは外待機だ」
「分かった」
最後に念押しをしたランバートがノックをすると、直ぐに入室許可が出される。そうして入ると主要四府の長とカール四世が静かにランバートを待っていた。
自然と気合いが入るというか、戦いに挑むような気持ちが出来上がる。それにそれぞれの長が気づき、なによりもカール自身が気づいたのだろう。長達は驚き、カールは笑った。
「私は今まで、お前がジョシュアの息子だという事実は知っていたが実感が湧かなかった。だが、誤りだな。お前はあの男の息子だ。実に不愉快だな」
そう、もの凄く楽しそうに笑って言うのだ。そしてスッと、目を細めた。
途端、満ちる空気の圧が変わったのを肌で感じた。皇帝カール四世は希代の王であるのだ。
「さて、まずは何を話す?」
「はい。まずはトビー・ダウエル本人についての報告をさせていただきます」
改まったランバートはまず、トビーの身の上について報告を行った。
――
全ての報告を終えた段階で、カールは少し困った顔をする。それはシウスも同じだが、他はそれなりに静かだ。
「なるほど、情状酌量の余地はあり、尚且つ既に何か手が打てる年月でもないな。だが完全に咎め無しとも言えない」
「恐れ多くも申し上げます。この件についてトビー本人はカミーユとして今後生きる事を放棄し、このままトビーとして過ごす事を望んでおります。そして養父母についても大恩あれど恨みはないと。ですがこれがまかり通れば国としても問題ありと思って一応報告をさせて頂きました。どうか、寛大な処分をお願い致します」
静かに頭を下げたランバートを見てカールはしばし無言となる。だが助け船は意外にもカールの横からした。
「八つの子が、養い親も主も亡くして生きていく事は酷です陛下」
「ん?」
オスカルはやや真剣な顔をしている。そして静かにカールを見た。
「僕は四つまで孤児として過ごしましたが、常に不安でした。己の生活も命も人権すらも、あらゆる力の前では塵に等しいと分かるからです。子供は案外見ているものですし、己の無力も理解します。そんな幼子に、選択肢など無いも等しいもの。己が生き延びるために彼が選んだ道は正しかったのです」
珍しく静かな声音に全員が静かになる。その中でカールだけが考え、頷いた。
「そうだな。これで偽った子が不遇であったりすれば咎める気にもなるが、どうやら我が子として大切に慈しんできた様子。最愛の子を失って正気を保てなくなった妻と、子を無くし悲しみに暮れたダウエル伯も思えば気の毒であった。故に今回は一度呼び、以後も彼を家族として大切にするよう注意するだけとしよう」
「寛大なお心、有り難うございます」
この件についてはそれ程心配はしていなかったが、改めて良かったと思う。
だが問題は次だ。カールがランバートに視線を向けて笑う。普段よりも少し意地悪に。
「さて、他はあるか?」
「……ございます。ですがその前に、この件に関わりの深い人物を召喚したく思います」
「あぁ、聞いている。ルアテ島の顔役をしているという青年だね。構わないよ」
事前に話は通していたがこんなにもあっさりと許可が下りた。まぁ、ここに集まる面々を考えれば一切脅威ではないだろうしな。
ランバートは感謝を述べて扉を開ける。そしてステンを招き入れた。
「こちらが、この度トビーを救助したルアテ島のステンという青年です」
「ステンと申します」
素直に頭を下げたステンはそのまま動けない。その様子にカールは頷いて、顔を上げるよう言ってくれた。
「それに関しては感謝している。聞けば、我が国の民が度々助けられているという」
「それ程の事では」
「……だが、ここに来た用件はそんな事ではないかな。ランバート、私と何やら交渉がしたいのだろ? 出し惜しみせずに話せ」
ニッと笑ったカールの目が光る。私人としては天真爛漫な人だが、皇帝となるとこんなに空気が違うものか。思うが、それなら話が早い。
ランバートは許可をもらって持参した袋の中から石を三つ取り出す。それに、手前にいたファウストとクラウルが訝しく首を傾げ、オスカルとシウスは軽く目眩を覚えた様子だった。
「こちらは、ルアテ島から産出されました宝石の原石です。サファイア、ルビー、トパーズです」
「うん。オスカル、シウス、簡単だが鑑定は出来るか?」
「はっ」
立ち上がり、オスカルはサファイアとトパーズを、シウスがルビーを手にする。それに光を当てて角度を変えて数分見つめた後で戻ってきた。
「さて、どうかな?」
「最上級のサファイアです。青の色は気品溢れるロイヤルブルー、透明度も高く粒が大きく、中には金に光るインクルージョンも確認できました」
「ルビーも最上級のピジョンブラッドです。深い色で光を当てれば内側から煌めくように光ります。そして同じく、金のインクルージョンが確認できます」
「またトパーズは透明度の高いブルーですが、何より大きいのがいいです。置物を作るにはもってこいでしょう」
二人の報告にカールは頷く。そしてランバートを見てにっこりと笑った。
「つまり、これらの宝石の貴重な原産地となった彼の島を、我が帝国で庇護しろということかな?」
「はっ」
静かに頭を下げたランバートにつられてステンも慌てて頭を下げる。
が、カールは意地悪に笑った。
「では、あの島を帝国の属国として迎えよう。そうなればあの地も私の国の一部。当然庇護する」
「陛下、心にも無い事を仰るのはおやめください」
とても静かな声でランバートは告げる。これにシウスは少し慌てたが、カールは目を細めた。
「その根拠は?」
「陛下は民に心を砕き、弱い者に目を向けてくださる方。例え何処にも属さぬ者とはいえ、己の身すら立てる事もままならない者を押し潰すような非情な方ではございません。そのように試さずとも、私はこの国の益も提示いたします」
「私は優しい王であると思っているよ? だからこそ我が国に迎え入れる。奪い取ったりはしない」
「……かつて罪人として流されてきた彼ら祖先が、必死に守った彼らの居場所です。どのような形でも追われれば、そこに遺恨は生まれるのです。今まで彼らの窮状は分かっていても手を差し伸べなかったというのに、今更親切面で近寄るのは恥です。我らは彼らを認め、よき隣人となるべきです。あの島は、これまで耐えて生きてきた彼らのもの。易々とお手を触れるべきではありません」
そう言った時のランバートの目は、戦場のそれと遜色ないものだった。いや、それ以上に圧があった。発散させるのではなく内に押し込めるような気迫にファウストもオロオロする。
だが、案外あっけらかんとその気配は霧散させられた。
「まぁ、そうなんだよね」
そう明るい声で言ったのはカールだった。
ニッと楽しそうに笑う彼にランバートは溜息をつく。そして剣呑な目をした。
「私を試されるなど、時間の無駄ではありませんか?」
「ごめんごめん、ジョシュア前にしてるみたいで意地悪を言いたくなってね。分かっているよ、そんな恥知らずな事はしない。何よりそんな事をしようものならジョシュアもヴィンセントも止めると思うし。私もこの国を負う者として、これでも矜持はあるつもりだよ」
この空気に案外ほっとしたのはシウスだ。恐らく心中はドキドキハラハラだ。申し訳ない。
「だが、素直に応じられる話ではない。あの島が庇護を求める理由も納得できるが、国としての利益も欲しい。これらの宝石を差し出すと言われても少し困るよ。宝石自体の価値が大暴落しかねない。それはそのままこの国の民が苦しむ結果となる。宝石以外の利益を、用意できるのかな?」
にっこり微笑むがやはり意地悪だ。先に『宝石』という手を封じたのだ。
まぁ、用意しているものは違うが。ランバートはニッと笑った。
「我が帝国海軍の前線基地など、いかがでしょう?」
「ん?」
その言葉に驚いたカールが目を丸くする。だがこれに驚いたのはカールだけではない。シウスやファウスト、クラウルまでもが目を丸くしたのだ。
「ジェームダル、クシュナートとの三国同盟が成った今、最も懸念される相手は西の大国ウェールズです。奴らは陸戦ではファウストを警戒して侵略などを控えているようですが、その分海上は騒がしくなっております。現に今回の件もウェールズの私掠船が起こしたこと。今後も海上では不穏な動きは増えるかと予想されます。加えて彼の島の資源をウェールズが知れば我が物顔で蹂躙し、あらゆる資源をむしり取ってその資金で我が国への侵攻を開始するでしょう」
これにシウスは素直に頷き、ファウストは嫌な顔をした。カールも分かっていて難しい顔で頷いた。
「そこで、ルアテ島に海軍砦を建設し、海軍が常駐することで抑止とするのです。勿論何かがあればそこから直ぐに出航できますし、王都側からとルアテ島側から挟撃も可能となるでしょう。同時に我が帝国の砦があり、海軍が常駐するのです。島民にとってこれ以上の庇護はないかと存じます」
「……ぷっ、あはははは!」
「!」
これらを聞いていたカールが目をキョトッとさせた後、思い切り面白そうに笑った。それに色々驚いた人もいたが、ランバートとしては上々だ。
「シウス、彼の話すような効果は期待できるかい?」
「はっ、間違いなく。ルアテ島は外海に近く、不審な船があれば捕らえる事も今までより容易くなるかと」
「なるほど。ファウスト、その分の人員はだせそうかい?」
「問題無いかと思います。第三は人数も多く編成しているので」
「うんうん。ランバート、あそこに砦を作るとなれば相応の費用がかかる。それはどこから捻出する?」
「はっ。ルアテ島よりここにある三種の宝石を酒樽一杯に一つずつ、合計三つ持ってきてございます。全て原石ではありますが、それでも建設費等の足しになるかと思います。足りないようでしたら同じ物を六個はご用意いたします。また、砦建築について既に島民による会合が行われ、合意するとの回答が得られています」
「やれやれ、用意周到な」
溜息をついたカールがステンを見る。それにステンは驚き、また頭を下げた。
「お願いいたします」
「……まぁ、我が国の益は多そうだね」
ふっと息をついたカールが全員を見回す。そしてランバートへも。
「さて、大がかりな話が舞い込んだようだ。お前達、どうする?」
「「良いかと」」
「うん」
団長全員の同意が得られた。そしてそれに対し、カールも一つ頷いた。
「では、これらについては私からヴィンセントへと話を通す。以後は彼に任せる。ランバート、お前の事だから既に諸々の道筋をつけているんじゃないか? お前の交友関係でいけばリッツ・ベルギウス辺りか」
「お察しの通りです。技術援助、指導、市場への流通全てを彼に託しました。色の良い返事を頂いております。数日後には陛下への献上品を持ってこちらへと伺うとのこと」
「あい、分かった。お前は本当に可愛くないな。あの男のやり口に似ている。だが、個人的にはとても気に入っているからね。今後とも我が国の為に動いてくれ」
「はい」
「ステン」
「はい!」
「顔役のお前も話し合いには参加しなさい」
「……そのことなのですが、俺……私の他に姉のメーナも同席させてください。私に何かあったときは、姉に事業を引き継いでもらう事となっております」
「構わないよ。では二名には通行証と身分証を発行するよう伝えておく。島のため、そこで生きる人々の為に励みなさい」
「はい!」
「ランバート、原石をあと二組用意して加工しておきなさい。ジェームダル、クシュナートにも使者を出す。シウス、それを持ってお前はジェームダルのアルブレヒト王へ謁見し、此度の事を伝えてあの場所に砦を築く事への同意を得てきなさい。目と鼻の先に他国の砦が新たに出来るのは、あまりいい気分のしないことだ」
「はっ」
伝えるべき事を伝え終え、カールは退出していく。だがその前にと、彼は意地悪な顔でランバートを見た。
「それと、今回の事をジョシュアが知ったら悔しがるだろうね」
「!」
「精々頑張る事だよ、ランバート」
思い切り笑いながら出て行ったカールを僅かだが恨めしく思いつつも、自ら決断して行った事の為言い訳も言い逃れも不可能。早ければ今夜にでも呼び出しがかかり、父ジョシュアと兄アレクシスに怒られるのだろうな。
だがまぁ、思い描いた通りにはなったのだ。そのくらいは耐えよう。
「まったく、とんでもない物が出てきてしまったなえ」
大任を任されたシウスの溜息は深い。が、悪い顔はしていなかった。
それはファウストも同じなのだが……多分、後日別件で怒られるだろうな。そんな事を、隣で放心状態のステンを見て思った。
「だがまさか、あの場所に砦を置くことが出来るとはな。軍事としては何よりの吉報だ」
「あぁ、まったくだ。早速父に話を通しておく。建設予定地の概算の為にもな」
「これで目障りなウェールズの動きに海上からも目を光らせる事ができよう。あの辺りでは私掠船が我が国やジェームダルの商船を襲って金品を奪っているという話もある。これ以上の被害など見過ごせぬわ」
印象やよし。これで一番大きな肩の荷は降りたに違いない。
ふっと息を吐いたランバートはようやく一つ満足に笑うのだった。
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