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【チェスター×リカルド】家族になりたい
2話:帰るべき場所(チェスター)
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信じられなかった……違う、信じたくなかった。
馬を走らせる中で色んな事を思った。涙がずっと止まらなかった。
本当はもっと前にダメだろうって言われていた。年に数回会いに行く度に叔父は痩せていった。それでも言葉を交わせたし、笑っていた。だからもう少し、もう少しと思ってしまった。
頑張ったんだ、叔父は。辛くないわけがないのに、少しでも長くいられるように。諦めずにいてくれたんだ。
「ごめん……ごめんね、叔父さん……」
側にいてあげられなくて。死に目に会えなくて。寂しかったよね……苦しかったよね?
雪の中、チェスターはひたすら馬を走らせた。
そうして辿り着いた保養所は静かだ。ここは終末期を迎える患者が多く、直す治療よりも余生をいかに過ごすかを助けてくれる場所だ。その中でも五年以上、叔父はよく生きた方だった。
馬を馬屋にとりあえず繋いで転げるように中に入ると、知っている看護師が急いで近づいてきてチェスターに頭を下げた。
「チェスターくん……」
「ごめんなさい」と言われそうで、チェスターは急いで頭を上げさせた。そして首を横に振った。
ここの人達は皆良くしてくれた。治療費がギリギリなのに受け入れてくれた。叔父が精一杯生きられるように力を尽くしてくれた。
きっとチェスターだけだったらもっと早く死んでいたんだ。
「あの、叔父さんは」
「昨日までは元気で歩いていたの。でも今朝方に急に容態が変わって、一時間後に……」
「…………苦しんだりは、したんでしょうか」
痛かっただろうか。苦しかっただろうか。寂しかったよな……親不孝だ。
ギュッと手を握るチェスターに、看護師は静かに首を横に振った。
「苦しんだりはしなかったわ。私達で手を握っていたの。最後まで、優しい顔をしていたわ」
ほっとした。けれど苦しさはこみ上げて、やっぱり泣きじゃくっていた。
「まずは会ってあげて。綺麗にしてあるから」
そう言われ、チェスターは叔父の病室へと向かった。
扉を開けると、中はとても静かだった。綺麗な花が活けられた花瓶と、水。その側にあるベッドで、叔父は眠るようにそこにいた。
頬はこけて肌の色もあまり良くはないけれど、とても静かな顔をしていた。短い髪は白くなっていて、胸の上で組まれた手も痩せてしまっている。元気な時はガタイが良くて腕も筋肉がついて、髪も黒くて……。
板の床に涙が落ちてシミを作る。顔を上げられないまま震えて硬くなって泣いた。声も上げられないままだった。
どのくらいそうしていただろう。背後でドアが開いて、所長さんが驚いた顔をして近づいて、チェスターを丸椅子に座らせた。
「チェスターくん、この度はご愁傷様でした。もう少し、せめて君が来るまで頑張ってもらえるように手は尽くしたんだけれど」
白衣に診察着の四十代後半の医者先生が、この保養所の所長でもある。気のいい人で皆に好かれていて、チェスターにも気遣いの声を掛けてくれる人だ。
「俺の方こそ、間に合わなくて申し訳ありません。看取って頂けて有り難いです」
「いえ。レックスさんも頑張っていたよ。本当に、頑張ったよ……」
そう言って、所長は僅かに浮かんだ涙を手で拭った。
「ここにきた当初、一年保つかという状態だったのに。五年以上も頑張ってくれた。奇跡みたいなものだよ」
「俺も、そう思います」
「これも、チェスターくんが会いに来てくれたからだと思う。レックスさんもよく言っていたよ。君はとても出来た子で、誇りだって」
「そんな……」
そんな風に言ってもらえていたなんて。年に数回しか会いにこられなくて、西の戦いの時は心配もかけて、ジェームダル戦争の時はほぼ一年くる事ができなくて。寂しかったんじゃないか、賑やかな事が好きな人だったから。
「それでね、チェスターくん」
「! はい」
「レックスさんを亡くして直ぐ、こんな事を言うのも憚られるんだけれど……この後は、どうするつもりだい?」
「あ……」
その現実に、チェスターは苦しくてギュッと膝の上の手を握った。
普通なら亡くなった人を一度自宅に引き取り、教会に連絡をして葬儀や墓地の準備をしてもらう。それが整ったら葬儀を行い埋葬という形だ。
けれど叔父の家は既にない。表通りにあった店舗兼自宅は保養所に入る時に少しでも足しになればと売却してしまっている。
だからといってチェスターは騎士団で、そこに縁者とはいえ隊員以外の遺体は置けない。
お墓もそうだ、とてもチェスターでは用意できない。今はお墓も場所がなく、整理もしているがそれでも価格は高騰しているらしい。
一番いいのは実家の墓に入れて貰う事だ。ペイン家は廟を持っていて地下に霊室がある。そこの一角を貰う事だ。だけど……その許可は一族の長である父の許可がなければ不可能だ。
「……もしも君が構わないというなら、うちで合葬もできるけれど」
申し訳なさそうに言ってくる所長の言わんとしている事は分かっている。だからこそ、チェスターは躊躇いがあった。
合葬は場所の問題もあって火葬される。だが帝国は土葬文化だ。死後の世界では生前の肉体が綺麗に保たれている方が徳が高いとされている。火葬は貧乏人の証で、死後の世界でもみすぼらしいと言われている。
分かっている、これは古い時代の因習でそんなことはない。一般の人が個人の墓を持てなかった時代、地域ごとに合葬や密葬されたのを貴族が揶揄したのだ。
勿論例外もある。国や海を跨ぐような長距離移動をしなければならない時は遺体が痛むし輸送コストがかかるので火葬される事が多いし、死因が伝染病の疑いのあるものだったら感染防止の観点から火葬される。
それでも今も基本は土葬で、騎士団でもそうだ。一応は貴族の人間が火葬されたとなれば、叔父は恥ずかしい思いをするかもしれない。
だが、どうすればいい? 墓を建てるには金貨百枚は簡単に飛んでいく。騎士団みたいに専用墓地があれば違うが、一般では墓は第二の家だ。そんなお金、どうしたってチェスターからは出ない。
だが、叔父を嫌う父が家族の霊廟に入れてくれるとは思えない。
……いや、説得もしないでどうしてそう言える。叔父は死んだのだ。この国では死後まで生前の憎しみを持ち込まない事が美学と思われている事がある。死ねば仏だ。寛大な心で生前の行いを許し死者を弔う事で貴族の度量の大きさを示す。これが誇りだ。
「……少し、待ってもらえますか? 俺、親父を説得してみます」
「チェスターくん」
「数日かかるかもしれませんが、お願いします」
「それは構わないよ。地下の霊安室で大切に預かる。幸い冬だからね、夏よりもご遺体の痛みは少なくて済む。希望があれば、簡単だけれど防腐処理も施すけれど」
「お願いします。おいくらですか?」
「来月分の治療費も貰ってしまっているから、それで十分だよ」
穏やかに笑う所長に、チェスターは深く深く頭を下げた。
◆◇◆
叔父に声をかけ、祈りを捧げて再び馬に飛び乗り王都へと引き返したチェスターが到着した時には、もう辺りは真っ暗だった。雪も降り始め空気は冷たい。
その中で見上げる実家は、既にチェスターを拒絶しているような気がした。
馬は既に関所で返している。そのまま家へと向かいノッカーを叩くと、しばらくしてドアが開き、中から若い青年が顔を出した。
チェスターとは少し感じが違う、穏やかで優しげな青年だ。明るい茶色の髪は少し長めで、目尻の下がった茶の瞳も優しげ。そんな人が驚いて目を丸くして、背後を気にして外に出てくれた。
「チェスター、どうしたの」
「メルヴィン兄貴……親父に、話があるんだ」
直ぐ上の兄メルヴィンは母に似た表情を哀しげに歪める。顔立ちそのまま、穏やかで優しい兄は父とチェスターの間をとても気に掛けてくれる。
「どうしたの?」
「……今朝、叔父さんが亡くなった」
「!」
驚いて、その後はグッと堪えるように口元を引き結ぶ人が震えている。それでもチェスターの肩を掴み、首を横に振った。
「ダメだよ、チェスター。父さんには何も言わないほうがいい」
「でも!」
少し強い声でチェスターが訴えた、まさにその時ドアが開いて明かりが漏れ出る。そしてそこに、厳格そうな男性が立った。
黒にグレーの混じる髪に、気難しく吊り上がる目元に眼鏡をかけた体躯のいい男はチェスターを睨み付けた。
「何の用だ」
「っ」
温かみなどまったくない声に気持ちが萎縮する。幼い頃の恐怖は今も身に染みているのだと思う。これでも一応、この人の息子のはずだ。でも、この人は違うと否定している。
それでも言わなければ。この人にとっても実の弟のはずなのだから。
「あの、叔父さんが今朝、亡くなって」
伝えた途端、不機嫌そうに眉が片方上がる。とても不愉快そうに。
どうしてそんな顔をするんだ。何があったのかなんて分からないけれど、実の弟なんじゃないのか。家族だったんじゃないのか!
「親父お願いだ! 叔父さんを家族の墓に入れて欲しい! 手入れとかは俺がするから、だから!」
「ダメだ」
「なんで! 実の弟じゃないか! 家族じゃないか!」
押しとどめるメルヴィンを押しのける勢いでチェスターは言った。ずっと涙は流れたままだった。
だが、父はただ一瞥をくれるばかりだった。
「あんなもの、家族でもなんでもない」
「どう、して……」
「お前も出て行け。ここは、私と家族の家だ」
ただそれだけを言われて無情にもドアが閉まる。言葉の意味を、チェスターは正しく理解してしまった。
「う……ふっ、う……」
「チェスター」
「俺……俺も、家族じゃないのかよ……俺は……」
言いたい事は分かっている。二人の間にどんな確執があったのかも一応は知っている。けれど確信のある話ではないのに。
「俺からも父さんに話をしてみるから、今日は帰った方がいい。頃合いを見るから」
「でも」
「今どれだけ言っても会話にもならないし、大喧嘩になる。家族の中でのもめ事でも騎士団にいるお前が怪我をさせたなんて事になったら大事だろ?」
「でも!」
でも、叔父さんは待ってる。独りぼっちで……。
情けなかった。悔しかった。行き場所のなかったチェスターをずっと育てて面倒を見てくれた人なんだ。そんな、大事な人なんだ。
それでも結局今は引き下がるしかなく、チェスターはトボトボと家を出た。そうして帰ろうとしたけれど、まるで迷子みたいに何処に行っていいか分からない。騎士団の宿舎に帰ればいいのに、このままにしておけない気もして足が向かない。
見上げる空はどんどん雪を降らしていく。辺りはどんどん真っ白になる。
「……教会」
呟き、チェスターはフラフラと歩き出した。
◆◇◆
家族の墓がある教会を訪ねて事情を話したが、埋葬先が決まっていないなら葬儀は上げられないと断られた。墓地はやっぱり金貨百五十フェリス(約百五十万円)もした。財布には五フェリスあるばかり。分割払いなんてしてくれない。
それでも諦められなくてあちこち回った。東地区なら少しは安いかと思って。でも結局、チェスターに払えるものではなかった。
すっかり明かりの落ちた街中で一人立ち尽くしてしまう。天を仰いでもどうしようもない。ずっと頭が痛くて、涙で頬は張り付いたようになっている。
そうして戻るのはやっぱり実家で、どうにか説得しなければと気持ちは必死で、チェスターは家の門の前に座って膝を抱えた。
何をどうしたらいいのか、何も分からないままだった。
生れた時から、チェスターを取り囲む状況はどこか拒絶的だった。
兄達と同じようにしているはずなのに、父はそれを認めてくれなかった。母はずっと泣いていて、「ごめんなさい」と言うばかりだった。
まるで存在を否定されているようで辛く、やっても認められないならやる意味が見つからず、いつしか塞ぎ込む事が多くなっていた。
そんなチェスターを認めて褒めてくれるのは、いつも叔父だった。大きな手で頭を撫でてくれて、ニコニコと笑って「上手いな!」と言ってくれる。それが嬉しくて、いつしかチェスターは叔父の所に通うようになっていた。
けれどそれと比例するように父は冷たくなった。そのうちに殴られるようにもなった。幼いチェスターは自分が不出来だからだと思って耐えていたけれど、七歳くらいの時に大怪我をしたのを切っ掛けに叔父の家に預けられる事になった。
表向きは独身の叔父の後を継ぐため。それでもチェスターは大好きな叔父と一緒に暮らせる事が嬉しくてしかたがなかった。
それからは毎日が楽しい事の連続だった。学校に通い、友達と遊び、休日は叔父の店を手伝った。喧嘩もしたけれどその日のうちに仲直りも出来る。そんな、本当の親子のような時間だった。
そんな叔父が体調を崩したのは、十八歳になる年の一月。急に食欲が落ち、一日中怠そうにしていた。目の白目の部分が黄色みがかり、毎日酒の木箱を持ち上げていた逞しい腕の筋肉が衰えて、皮膚にもよく分からない斑点みたいなものが出来た。
明らかにおかしいと思って町医者の所に行ったら、肝臓の病気だと言われた。今すぐに治療が必要だと言われたけれど、根本的には直らない。少しでも余命を残すための治療しか出来ないんだと言われた。
その後、血液の検査で鉄分が異常に多いと言われて瀉血し、アルコールは禁止となったけれど、このまま仕事を続ける事は難しい。酒屋なんだ、当然だと言えた。
保養所に移る事を提案されたけれど、月に五フェリスもの大金を稼げるあてはない。十八歳のチェスターには途方もない大金に思えた。
助けを求めるように父のところに行って頭を下げた。治療費を少しでもいいから出して欲しいと。だが、受け入れられなかった。「このままだと叔父さんが死んじゃう」と訴えても「勝手に野垂れ死ねばいい」と言われてはどうしようもない。
叔父は諦めたように笑って「いいんだ」と言って大きな手で昔みたいに頭を撫でてくれる。それが余計に苦しかった。
その後、医者が保養所を見つけて紹介してくれて、初期費用などを話し合った。幸い店は表通りで人気も高くかなり高値で売れそうだった。それで初期費用と三ヶ月くらいの治療費にはなった。けれどその後が続かない。困り果てて見つけたのが、騎士団の募集だった。
あの時も絶望した。ちっぽけな自分を呪った。何もしてあげられないと思った。
それから五年、騎士団では上手くやれていたから勝手に出来る大人な気がしていた。でも、違った。騎士団から一歩出たら何も出来ないんだ。
膝を抱えて過ごす時間がとても寒い。野宿はこんなに寒かっただろうか。
違う、いつもは仲間がいるんだ。一人じゃない。寒くても寄り合っていたら楽しくて温かかった。
「うっ……グズッ……ふぅ……」
どうしよう、戻りたい。仲間の所に帰りたいけれど、朝一で父を捕まえたい。このままじゃ叔父は葬儀も上げられない。合葬になってしまう。最後の別れも出来なかったのに、死後の事まで出来ないなんて不出来だ。叔父が、可哀想だ。
耐えて、耐えて、時々うとうともしながら夜が明けた。肩や頭に雪が積もっている。その隣で、重い音を立てて門が開いた。
「……何の用だ」
顔を上げると父がいる。朝一に散歩するのがこの人のルーティンだ。
「父さん、お願いだから叔父さんを許してよ。このままじゃ叔父さん、独りぼっちだ。死んでも、独りぼっちだよ」
弱く訴えた。寒くて体が動かなくて、上手く立てなかった。それでも父の足元に縋る事はできた。必死に頼んで……でも、父はそんなチェスターを足蹴にした。
「アレが私に何をしたか、お前も分かっているだろう!」
「そんなの何の証拠があるんだよ! 誰も……母さんも叔父さんも父さんも確信なんてないじゃないか!」
「お前が生れた事が裏切りの証拠だ!」
「嘘だ!」
誰がそれを証明できるんだ。そんなの……神様くらいしか分からないじゃないか!
冷たい道に蹴り飛ばされて、憎しみが湧いた。睨み付けるチェスターを、父は汚いものを見下すような目で見た。
「お前もアレも、私の家族なんかじゃない。目障りだ。二度と近づくな!」
父の背中が遠くなる。憎くて……殺意が湧いた。騎士団の人間が一般人に手を出していいわけがない。それでも許されるなら殺してやりたい。そのくらいの気持ちがある。
でも、出来ない。人を守る為に磨いてきたものだ。それを、よりにもよって父親に向けるなんて。
振り上げた拳は地面を叩いた。唸るような声が喉奥からでて、何度も地面を殴りつけた。けれど、何が変わるものでもなかった。
馬を走らせる中で色んな事を思った。涙がずっと止まらなかった。
本当はもっと前にダメだろうって言われていた。年に数回会いに行く度に叔父は痩せていった。それでも言葉を交わせたし、笑っていた。だからもう少し、もう少しと思ってしまった。
頑張ったんだ、叔父は。辛くないわけがないのに、少しでも長くいられるように。諦めずにいてくれたんだ。
「ごめん……ごめんね、叔父さん……」
側にいてあげられなくて。死に目に会えなくて。寂しかったよね……苦しかったよね?
雪の中、チェスターはひたすら馬を走らせた。
そうして辿り着いた保養所は静かだ。ここは終末期を迎える患者が多く、直す治療よりも余生をいかに過ごすかを助けてくれる場所だ。その中でも五年以上、叔父はよく生きた方だった。
馬を馬屋にとりあえず繋いで転げるように中に入ると、知っている看護師が急いで近づいてきてチェスターに頭を下げた。
「チェスターくん……」
「ごめんなさい」と言われそうで、チェスターは急いで頭を上げさせた。そして首を横に振った。
ここの人達は皆良くしてくれた。治療費がギリギリなのに受け入れてくれた。叔父が精一杯生きられるように力を尽くしてくれた。
きっとチェスターだけだったらもっと早く死んでいたんだ。
「あの、叔父さんは」
「昨日までは元気で歩いていたの。でも今朝方に急に容態が変わって、一時間後に……」
「…………苦しんだりは、したんでしょうか」
痛かっただろうか。苦しかっただろうか。寂しかったよな……親不孝だ。
ギュッと手を握るチェスターに、看護師は静かに首を横に振った。
「苦しんだりはしなかったわ。私達で手を握っていたの。最後まで、優しい顔をしていたわ」
ほっとした。けれど苦しさはこみ上げて、やっぱり泣きじゃくっていた。
「まずは会ってあげて。綺麗にしてあるから」
そう言われ、チェスターは叔父の病室へと向かった。
扉を開けると、中はとても静かだった。綺麗な花が活けられた花瓶と、水。その側にあるベッドで、叔父は眠るようにそこにいた。
頬はこけて肌の色もあまり良くはないけれど、とても静かな顔をしていた。短い髪は白くなっていて、胸の上で組まれた手も痩せてしまっている。元気な時はガタイが良くて腕も筋肉がついて、髪も黒くて……。
板の床に涙が落ちてシミを作る。顔を上げられないまま震えて硬くなって泣いた。声も上げられないままだった。
どのくらいそうしていただろう。背後でドアが開いて、所長さんが驚いた顔をして近づいて、チェスターを丸椅子に座らせた。
「チェスターくん、この度はご愁傷様でした。もう少し、せめて君が来るまで頑張ってもらえるように手は尽くしたんだけれど」
白衣に診察着の四十代後半の医者先生が、この保養所の所長でもある。気のいい人で皆に好かれていて、チェスターにも気遣いの声を掛けてくれる人だ。
「俺の方こそ、間に合わなくて申し訳ありません。看取って頂けて有り難いです」
「いえ。レックスさんも頑張っていたよ。本当に、頑張ったよ……」
そう言って、所長は僅かに浮かんだ涙を手で拭った。
「ここにきた当初、一年保つかという状態だったのに。五年以上も頑張ってくれた。奇跡みたいなものだよ」
「俺も、そう思います」
「これも、チェスターくんが会いに来てくれたからだと思う。レックスさんもよく言っていたよ。君はとても出来た子で、誇りだって」
「そんな……」
そんな風に言ってもらえていたなんて。年に数回しか会いにこられなくて、西の戦いの時は心配もかけて、ジェームダル戦争の時はほぼ一年くる事ができなくて。寂しかったんじゃないか、賑やかな事が好きな人だったから。
「それでね、チェスターくん」
「! はい」
「レックスさんを亡くして直ぐ、こんな事を言うのも憚られるんだけれど……この後は、どうするつもりだい?」
「あ……」
その現実に、チェスターは苦しくてギュッと膝の上の手を握った。
普通なら亡くなった人を一度自宅に引き取り、教会に連絡をして葬儀や墓地の準備をしてもらう。それが整ったら葬儀を行い埋葬という形だ。
けれど叔父の家は既にない。表通りにあった店舗兼自宅は保養所に入る時に少しでも足しになればと売却してしまっている。
だからといってチェスターは騎士団で、そこに縁者とはいえ隊員以外の遺体は置けない。
お墓もそうだ、とてもチェスターでは用意できない。今はお墓も場所がなく、整理もしているがそれでも価格は高騰しているらしい。
一番いいのは実家の墓に入れて貰う事だ。ペイン家は廟を持っていて地下に霊室がある。そこの一角を貰う事だ。だけど……その許可は一族の長である父の許可がなければ不可能だ。
「……もしも君が構わないというなら、うちで合葬もできるけれど」
申し訳なさそうに言ってくる所長の言わんとしている事は分かっている。だからこそ、チェスターは躊躇いがあった。
合葬は場所の問題もあって火葬される。だが帝国は土葬文化だ。死後の世界では生前の肉体が綺麗に保たれている方が徳が高いとされている。火葬は貧乏人の証で、死後の世界でもみすぼらしいと言われている。
分かっている、これは古い時代の因習でそんなことはない。一般の人が個人の墓を持てなかった時代、地域ごとに合葬や密葬されたのを貴族が揶揄したのだ。
勿論例外もある。国や海を跨ぐような長距離移動をしなければならない時は遺体が痛むし輸送コストがかかるので火葬される事が多いし、死因が伝染病の疑いのあるものだったら感染防止の観点から火葬される。
それでも今も基本は土葬で、騎士団でもそうだ。一応は貴族の人間が火葬されたとなれば、叔父は恥ずかしい思いをするかもしれない。
だが、どうすればいい? 墓を建てるには金貨百枚は簡単に飛んでいく。騎士団みたいに専用墓地があれば違うが、一般では墓は第二の家だ。そんなお金、どうしたってチェスターからは出ない。
だが、叔父を嫌う父が家族の霊廟に入れてくれるとは思えない。
……いや、説得もしないでどうしてそう言える。叔父は死んだのだ。この国では死後まで生前の憎しみを持ち込まない事が美学と思われている事がある。死ねば仏だ。寛大な心で生前の行いを許し死者を弔う事で貴族の度量の大きさを示す。これが誇りだ。
「……少し、待ってもらえますか? 俺、親父を説得してみます」
「チェスターくん」
「数日かかるかもしれませんが、お願いします」
「それは構わないよ。地下の霊安室で大切に預かる。幸い冬だからね、夏よりもご遺体の痛みは少なくて済む。希望があれば、簡単だけれど防腐処理も施すけれど」
「お願いします。おいくらですか?」
「来月分の治療費も貰ってしまっているから、それで十分だよ」
穏やかに笑う所長に、チェスターは深く深く頭を下げた。
◆◇◆
叔父に声をかけ、祈りを捧げて再び馬に飛び乗り王都へと引き返したチェスターが到着した時には、もう辺りは真っ暗だった。雪も降り始め空気は冷たい。
その中で見上げる実家は、既にチェスターを拒絶しているような気がした。
馬は既に関所で返している。そのまま家へと向かいノッカーを叩くと、しばらくしてドアが開き、中から若い青年が顔を出した。
チェスターとは少し感じが違う、穏やかで優しげな青年だ。明るい茶色の髪は少し長めで、目尻の下がった茶の瞳も優しげ。そんな人が驚いて目を丸くして、背後を気にして外に出てくれた。
「チェスター、どうしたの」
「メルヴィン兄貴……親父に、話があるんだ」
直ぐ上の兄メルヴィンは母に似た表情を哀しげに歪める。顔立ちそのまま、穏やかで優しい兄は父とチェスターの間をとても気に掛けてくれる。
「どうしたの?」
「……今朝、叔父さんが亡くなった」
「!」
驚いて、その後はグッと堪えるように口元を引き結ぶ人が震えている。それでもチェスターの肩を掴み、首を横に振った。
「ダメだよ、チェスター。父さんには何も言わないほうがいい」
「でも!」
少し強い声でチェスターが訴えた、まさにその時ドアが開いて明かりが漏れ出る。そしてそこに、厳格そうな男性が立った。
黒にグレーの混じる髪に、気難しく吊り上がる目元に眼鏡をかけた体躯のいい男はチェスターを睨み付けた。
「何の用だ」
「っ」
温かみなどまったくない声に気持ちが萎縮する。幼い頃の恐怖は今も身に染みているのだと思う。これでも一応、この人の息子のはずだ。でも、この人は違うと否定している。
それでも言わなければ。この人にとっても実の弟のはずなのだから。
「あの、叔父さんが今朝、亡くなって」
伝えた途端、不機嫌そうに眉が片方上がる。とても不愉快そうに。
どうしてそんな顔をするんだ。何があったのかなんて分からないけれど、実の弟なんじゃないのか。家族だったんじゃないのか!
「親父お願いだ! 叔父さんを家族の墓に入れて欲しい! 手入れとかは俺がするから、だから!」
「ダメだ」
「なんで! 実の弟じゃないか! 家族じゃないか!」
押しとどめるメルヴィンを押しのける勢いでチェスターは言った。ずっと涙は流れたままだった。
だが、父はただ一瞥をくれるばかりだった。
「あんなもの、家族でもなんでもない」
「どう、して……」
「お前も出て行け。ここは、私と家族の家だ」
ただそれだけを言われて無情にもドアが閉まる。言葉の意味を、チェスターは正しく理解してしまった。
「う……ふっ、う……」
「チェスター」
「俺……俺も、家族じゃないのかよ……俺は……」
言いたい事は分かっている。二人の間にどんな確執があったのかも一応は知っている。けれど確信のある話ではないのに。
「俺からも父さんに話をしてみるから、今日は帰った方がいい。頃合いを見るから」
「でも」
「今どれだけ言っても会話にもならないし、大喧嘩になる。家族の中でのもめ事でも騎士団にいるお前が怪我をさせたなんて事になったら大事だろ?」
「でも!」
でも、叔父さんは待ってる。独りぼっちで……。
情けなかった。悔しかった。行き場所のなかったチェスターをずっと育てて面倒を見てくれた人なんだ。そんな、大事な人なんだ。
それでも結局今は引き下がるしかなく、チェスターはトボトボと家を出た。そうして帰ろうとしたけれど、まるで迷子みたいに何処に行っていいか分からない。騎士団の宿舎に帰ればいいのに、このままにしておけない気もして足が向かない。
見上げる空はどんどん雪を降らしていく。辺りはどんどん真っ白になる。
「……教会」
呟き、チェスターはフラフラと歩き出した。
◆◇◆
家族の墓がある教会を訪ねて事情を話したが、埋葬先が決まっていないなら葬儀は上げられないと断られた。墓地はやっぱり金貨百五十フェリス(約百五十万円)もした。財布には五フェリスあるばかり。分割払いなんてしてくれない。
それでも諦められなくてあちこち回った。東地区なら少しは安いかと思って。でも結局、チェスターに払えるものではなかった。
すっかり明かりの落ちた街中で一人立ち尽くしてしまう。天を仰いでもどうしようもない。ずっと頭が痛くて、涙で頬は張り付いたようになっている。
そうして戻るのはやっぱり実家で、どうにか説得しなければと気持ちは必死で、チェスターは家の門の前に座って膝を抱えた。
何をどうしたらいいのか、何も分からないままだった。
生れた時から、チェスターを取り囲む状況はどこか拒絶的だった。
兄達と同じようにしているはずなのに、父はそれを認めてくれなかった。母はずっと泣いていて、「ごめんなさい」と言うばかりだった。
まるで存在を否定されているようで辛く、やっても認められないならやる意味が見つからず、いつしか塞ぎ込む事が多くなっていた。
そんなチェスターを認めて褒めてくれるのは、いつも叔父だった。大きな手で頭を撫でてくれて、ニコニコと笑って「上手いな!」と言ってくれる。それが嬉しくて、いつしかチェスターは叔父の所に通うようになっていた。
けれどそれと比例するように父は冷たくなった。そのうちに殴られるようにもなった。幼いチェスターは自分が不出来だからだと思って耐えていたけれど、七歳くらいの時に大怪我をしたのを切っ掛けに叔父の家に預けられる事になった。
表向きは独身の叔父の後を継ぐため。それでもチェスターは大好きな叔父と一緒に暮らせる事が嬉しくてしかたがなかった。
それからは毎日が楽しい事の連続だった。学校に通い、友達と遊び、休日は叔父の店を手伝った。喧嘩もしたけれどその日のうちに仲直りも出来る。そんな、本当の親子のような時間だった。
そんな叔父が体調を崩したのは、十八歳になる年の一月。急に食欲が落ち、一日中怠そうにしていた。目の白目の部分が黄色みがかり、毎日酒の木箱を持ち上げていた逞しい腕の筋肉が衰えて、皮膚にもよく分からない斑点みたいなものが出来た。
明らかにおかしいと思って町医者の所に行ったら、肝臓の病気だと言われた。今すぐに治療が必要だと言われたけれど、根本的には直らない。少しでも余命を残すための治療しか出来ないんだと言われた。
その後、血液の検査で鉄分が異常に多いと言われて瀉血し、アルコールは禁止となったけれど、このまま仕事を続ける事は難しい。酒屋なんだ、当然だと言えた。
保養所に移る事を提案されたけれど、月に五フェリスもの大金を稼げるあてはない。十八歳のチェスターには途方もない大金に思えた。
助けを求めるように父のところに行って頭を下げた。治療費を少しでもいいから出して欲しいと。だが、受け入れられなかった。「このままだと叔父さんが死んじゃう」と訴えても「勝手に野垂れ死ねばいい」と言われてはどうしようもない。
叔父は諦めたように笑って「いいんだ」と言って大きな手で昔みたいに頭を撫でてくれる。それが余計に苦しかった。
その後、医者が保養所を見つけて紹介してくれて、初期費用などを話し合った。幸い店は表通りで人気も高くかなり高値で売れそうだった。それで初期費用と三ヶ月くらいの治療費にはなった。けれどその後が続かない。困り果てて見つけたのが、騎士団の募集だった。
あの時も絶望した。ちっぽけな自分を呪った。何もしてあげられないと思った。
それから五年、騎士団では上手くやれていたから勝手に出来る大人な気がしていた。でも、違った。騎士団から一歩出たら何も出来ないんだ。
膝を抱えて過ごす時間がとても寒い。野宿はこんなに寒かっただろうか。
違う、いつもは仲間がいるんだ。一人じゃない。寒くても寄り合っていたら楽しくて温かかった。
「うっ……グズッ……ふぅ……」
どうしよう、戻りたい。仲間の所に帰りたいけれど、朝一で父を捕まえたい。このままじゃ叔父は葬儀も上げられない。合葬になってしまう。最後の別れも出来なかったのに、死後の事まで出来ないなんて不出来だ。叔父が、可哀想だ。
耐えて、耐えて、時々うとうともしながら夜が明けた。肩や頭に雪が積もっている。その隣で、重い音を立てて門が開いた。
「……何の用だ」
顔を上げると父がいる。朝一に散歩するのがこの人のルーティンだ。
「父さん、お願いだから叔父さんを許してよ。このままじゃ叔父さん、独りぼっちだ。死んでも、独りぼっちだよ」
弱く訴えた。寒くて体が動かなくて、上手く立てなかった。それでも父の足元に縋る事はできた。必死に頼んで……でも、父はそんなチェスターを足蹴にした。
「アレが私に何をしたか、お前も分かっているだろう!」
「そんなの何の証拠があるんだよ! 誰も……母さんも叔父さんも父さんも確信なんてないじゃないか!」
「お前が生れた事が裏切りの証拠だ!」
「嘘だ!」
誰がそれを証明できるんだ。そんなの……神様くらいしか分からないじゃないか!
冷たい道に蹴り飛ばされて、憎しみが湧いた。睨み付けるチェスターを、父は汚いものを見下すような目で見た。
「お前もアレも、私の家族なんかじゃない。目障りだ。二度と近づくな!」
父の背中が遠くなる。憎くて……殺意が湧いた。騎士団の人間が一般人に手を出していいわけがない。それでも許されるなら殺してやりたい。そのくらいの気持ちがある。
でも、出来ない。人を守る為に磨いてきたものだ。それを、よりにもよって父親に向けるなんて。
振り上げた拳は地面を叩いた。唸るような声が喉奥からでて、何度も地面を殴りつけた。けれど、何が変わるものでもなかった。
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