上 下
126 / 167
番外編:オリヴァーシリーズ

10話:オリヴァーの熱情

しおりを挟む
 ランプの不安定な明かりの中で、しなやかな体は火照り濡れて乱れている。彼の体を跨ぎ、その高ぶりを深く咥えこんだまま、オリヴァーはたまらずに声を上げている。

「はぁ……あっ、あぁ!」

 下から腰を掴むアレックスの逞しさに涙が溢れる。彼の高ぶりは心得たように欲望を暴き出し、与えてくれている。緩く腰を振り、求めるように引き込んで自らこすりつけると、それだけで甘い痺れが全身を包んで軽く白む。

「気持ちいいんだね、オリヴァー」

 低く甘く笑みを浮かべる声に、激しく何度も頷いた。こんなにも気持ちのいい交わりは今までなかった。初めてなのだ、特別な趣向もない性交に既に二度も上り詰めたなんて。
 無理矢理暴かれ開発された体は、騎士団に入る頃には普通の情事では満足出来ないものになっていた。縛られる、レイプまがい、目隠しなどは常に求めた。複数なんてのも楽しんだ。痛みを伴うものも刺激的だった。それでも一度達すれば熱は覚め、妙な虚しさに苛まれていた。
 それがどうだ。彼との交わりにそのような趣向はなにもない。キスをして、互いに触れて、大切に高められて。こんなに普通なのに、溺れ方は異常だ。口に含まれてたっぷりと後ろを解されただけで一度上り詰め、彼を受け入れて互いに熱を放った。それでも足りず、こうして跨がっている。

「苦しくはないか?」
「平気……もっと、欲しい!」

 リズムを刻むようにトントンと突き上げられる度、浮き上がってしまうほどに強い刺激を受けている。欲して跨がったにもかかわらず、後ろに受け入れた後は激しく動けぬほどに感じてしまっている。

「流石に三度目では、熱を逃がせないか」
「あぁぁ!」

 前を握られて仰け反ってしまう。分かっている、それだけで達したのだ。吐き出す熱も既にないのに、高ぶりだけはまだ硬くなり彼の手の中にある。揺すられ、扱かれて、締め付けるそこで彼を感じている。

「アレックス」

 倒れ込むように胸に縋ると、そのまま力強く奥を突き通してくる。求める強い刺激に必死に息をして自分を保つ事に精一杯になった。やがて彼の熱を奥で飲み込み、一滴も逃したくないと口を閉じる。腰は既に立たなくなっていて、息を整えるのに時間がかかる。
 無情にもアレックスは腕で腰を持ち上げ、長い指を差し入れて奥を暴き立てて中に流し込んだ精を掻き出してしまう。そのままにして欲しいと懇願すると、「体調を崩すのが分かっていてそれはできない」と心得たように綺麗にしてしまった。
 サッパリとして、明かりも落として隣に寝転ぶ。満たされるものにうっとりと縋り、落ち着いていった。

「本当は少し、怖かったんだ」

 髪を梳き、手にした一房に口づけながらアレックスは言う。それに、オリヴァーは瞳を向けて首を傾げた。

「何がですか?」
「抱き合ったら、二度はない。貴方がそう言った言葉を忘れられずにいた。そうはさせないと思っていても、冷めてしまったものを引き留める事もできない。こうした夜を持てなかったのは貴方の過去を思ったのもあるが、そうした俺の怯えもあったんだ」

 優しい手つきで体に触れる。困った様な瞳が見つめている。月の柔らかな光に濃紺の瞳が寂しげに細くなるのを、オリヴァーは見上げて笑った。

「笑う事はないだろ?」
「だって」
「真剣に悩んだんだ」

 なんて愛らしい。なんて、可愛らしい答えだろう。思い、愛しさがこみ上げる。この温かなものをくれる人を、どうして手放せるのだろう。愛情と無縁だと思っていたこの胸に宿る切なく締め付ける思いを、どうして今更捨てる事ができるのだろう。

「欲したのは私です。求めたのは心でした。幾夜重ねても得られなかった満たされる温もりに背を向けられるほど、私は強い人間ではございません。貴方と交わりこの身に注いで頂いたのは、直接的な高ぶりだけではなかったのです」

 うっとりと見つめ、下唇に触れるだけのキスをする。伝えたいと思う心を知った。求められない事への苛立ちと虚しさも知った。その全てが、「愛したい」であり「愛されたい」なのだと受け止めた。

「幸せに、ようやく手を触れています。肉欲ではないものに、ようやく抱かれております。アレックス、私はきっと貴方を手放せない。淫魔に魅入られたのだと覚悟して、私の隣にいてくださいますか?」

 問えば濃紺の瞳は柔らかく、そして精悍に見つめ頷く。温かく大きな手が頬を包んで、愛おしそうに撫でていく。くすぐったいその感触に瞳を細めると、ふわりと額に唇が触れた。

「勿論、貴方を手放す気はない。長くこうして共にいたいと願っている。いつまでも、貴方に見合う男であろうと気が引き締まる。俺をいい男にするのは、オリヴァーだ」

 低い男の声に背を燻らせ指先で触れ、オリヴァーは幸福に笑みを浮かべた。


 数年後、アレックスは着実に実業家としての手腕を発揮し、王都でも指折りの人物となる。成功の秘訣を問われた彼は迷いもなく「素敵な天使が側にいるからだ」と明かした。サキュバスと恐れられた人は、成功の天使となったのである。
 でもこれは、もっとずっと後のお話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

処理中です...