125 / 167
番外編:オリヴァーシリーズ
9話:オリヴァーの欲情
しおりを挟む
アレックスとの関係は良好なものと言えた。後日改めて彼の家に招かれ、一緒に住んでいるという妹のサフィールとその婚約者にも、まるで家族の一員のように紹介されて受け入れられた。サフィールもその婚約者もアレックスの性癖をよく理解して受け入れているようだった。
彼の屋敷の鍵も貰った。「いつでも訪ねてきてもらいたい」と言われている。
食事は平日も、デートは安息日に。共に過ごす時間はあまりにも甘く緩やかで、本当に大切にされているのだと疑いもしないほどだ。
そう、たった一点を除いて。
騎士団のラウンジは誰もが利用する。酒を持ち込み語らう。オリヴァーは隣にウェインを座らせたままそこで酒を楽しんでいる。周囲は……多少遠巻きにしていた。
「それにしても、本当に良かったね。彼優しいんだ」
「えぇ、とても」
優しすぎるだろう。
「そっか。オリヴァーも元気になって安心したよ」
「ふふっ、そうですか?」
元気ですよ、とても。そう、苛立つほどに。
「明日、安息日だよね? どこかに出かけるの?」
「まぁ、そのようなものです」
優しすぎる彼に、恋人を一ヶ月も放置し続けるとどうなるか思い知らせにね。
オリヴァーは立ち上がる。髪をかき上げ、ふわりと笑う。それに、ウェイン以外の隊員はポーッと熱を上げるのがわかる。そうだ、これなのだ。自分の色気は枯れたのかと疑ったが、どうやらそうでもない。他の者には通じている。
「それでは、私はこれで。よい安息日を」
「うん、また仕事でね」
元気に送り出され、微笑みかける。この同僚にもこの笑みは通じないが、彼自身に色気というものを感じられないからだろうと認識する。
廊下を出て、そのまま宿舎を出ようとしたら他の三人にも会った。これからラウンジなのだろう。
「うぉ! お前、それで町歩くのやめろ。男引っかけに行くのかよ」
出会い頭にグリフィスが驚く。その頬が僅かに赤らむのを、オリヴァーは妖艶に笑う。
「どうしたの? 上手くいっているのに、怒ってるの?」
「そんな事はございませんよ。とても幸せに、大切にされております」
大切にされすぎて既に切ない。この体には何の魅力も感じていないのかと思えてならない。分かっている、語った過去を気にしてくれるのだと。なんとも優しいじゃないか。くそ食らえです。
「騎士団のサキュバスが復活している。辿り着く前に引きずり込まれるぞ」
「いい度胸です。やれるならどうぞ、食らってみるが良いのです。淫魔に手を出し身を滅ぼしたいというアホがまだこの騎士団にいるのなら、滅んでしまえばよいのです」
にっこりと満面の笑みを浮かべたオリヴァーに、三人の同僚は身を引いた。その中を通り抜け、オリヴァーは夜の町へと向かっていった。
◆◇◆
アレックスに手紙を送ると、今日の二十一時と返信があった。その時間に彼の家を訪ねると、既にシャワーを浴びた後の彼が出迎えてくれた。
「ようこそ、オリヴァー殿」
「お招き有り難うございます、アレックス殿」
にっこりと笑い、礼をする。騎士団にいるときには決して出さない色香を抑えはしなかった。未だどんな男でも引き寄せられるように側にくる、そんなものを振りまくようにしているのだ。
なのに目の前の男の涼しい顔。いっそ腹が立ってくる。
「食事は済まされたか」
「えぇ」
「では、酒でも楽しもう」
彼の家は小さな屋敷だが、使用人などは雇っていない。必要な時に必要な人を入れて維持をしているだけで、普段の事は自分でしているのだと言う。
私室へと向かい、柔らかな照明の明かりに照らされながらお酒を頂く。アルコールに僅かに肌が上気するというのに、彼はまったく欲しはしない。
彼は本当に愛しているのだろうか。こんなに色香を出して誘うように視線を向けているのに、欲情してくれないのだろうか。
徐々に苛立ちが募る。欲しいと思って何度か視線を絡めもしたが、その全てが通用しなかった。徐々に自分に自信がなくなり、試しに反応のいいグリフィスで実験をしたのだがあの男は完全に反応した。ただ、理性まで獣ではない友人は「止めろ! お前のは冗談にならん!」と言って逃げていった。
ならば、求められていないのだろう。そう思えばなんとも虚しく、体が寂しく火照る。
「オリヴァー殿?」
疑問そうな様子で首を傾げられる。オリヴァーは立ち上がり、その膝に乗って頬を包んだ。
「私に魅力はないのでしょうか?」
「え?」
「貴方を見て、貴方を思ってこの体はこんなにも熱を孕むのに、貴方は涼しいまま。この身は貴方を欲情させるには足りませんか?」
思わず問いかけてしまう。見上げる濃紺の瞳は一瞬驚き、次に真剣になる。覗き込むその奥に、確かに炎が見えた気がした。それは初めての男の顔だ。
「欲しいのです、私は。遠慮しているのも、気遣いも嬉しく思います。ですがこの身は所詮淫乱です。大事にされすぎても焦がれてしまうのです。触れて貰えない事に焦りを感じるのです。触れて、煽り立てて暴くように抱かれたいのです。そうさせるには、私はまだ足りないのでしょうか」
「そんな事はない。オリヴァー殿はいつも魅力的だ」
「では、良いですか?」
熱くなる体を感じている。触れる肌はなんて逞しい。胸に手を置き、奪うように口づけた。拒まれる事もなく、激しく受け入れてくれる事に安堵すると同時に煽られていく自身を隠せない。
「外泊届を出して参りました。今宵、求められる為にここに参りました。どうか、触れてください。思うままに、お願いいたします」
頬にうっとりと指を滑らせ、微笑みかけて頼み込めば、アレックスは動揺もなく真っ直ぐに頷いてくれた。
彼の屋敷の鍵も貰った。「いつでも訪ねてきてもらいたい」と言われている。
食事は平日も、デートは安息日に。共に過ごす時間はあまりにも甘く緩やかで、本当に大切にされているのだと疑いもしないほどだ。
そう、たった一点を除いて。
騎士団のラウンジは誰もが利用する。酒を持ち込み語らう。オリヴァーは隣にウェインを座らせたままそこで酒を楽しんでいる。周囲は……多少遠巻きにしていた。
「それにしても、本当に良かったね。彼優しいんだ」
「えぇ、とても」
優しすぎるだろう。
「そっか。オリヴァーも元気になって安心したよ」
「ふふっ、そうですか?」
元気ですよ、とても。そう、苛立つほどに。
「明日、安息日だよね? どこかに出かけるの?」
「まぁ、そのようなものです」
優しすぎる彼に、恋人を一ヶ月も放置し続けるとどうなるか思い知らせにね。
オリヴァーは立ち上がる。髪をかき上げ、ふわりと笑う。それに、ウェイン以外の隊員はポーッと熱を上げるのがわかる。そうだ、これなのだ。自分の色気は枯れたのかと疑ったが、どうやらそうでもない。他の者には通じている。
「それでは、私はこれで。よい安息日を」
「うん、また仕事でね」
元気に送り出され、微笑みかける。この同僚にもこの笑みは通じないが、彼自身に色気というものを感じられないからだろうと認識する。
廊下を出て、そのまま宿舎を出ようとしたら他の三人にも会った。これからラウンジなのだろう。
「うぉ! お前、それで町歩くのやめろ。男引っかけに行くのかよ」
出会い頭にグリフィスが驚く。その頬が僅かに赤らむのを、オリヴァーは妖艶に笑う。
「どうしたの? 上手くいっているのに、怒ってるの?」
「そんな事はございませんよ。とても幸せに、大切にされております」
大切にされすぎて既に切ない。この体には何の魅力も感じていないのかと思えてならない。分かっている、語った過去を気にしてくれるのだと。なんとも優しいじゃないか。くそ食らえです。
「騎士団のサキュバスが復活している。辿り着く前に引きずり込まれるぞ」
「いい度胸です。やれるならどうぞ、食らってみるが良いのです。淫魔に手を出し身を滅ぼしたいというアホがまだこの騎士団にいるのなら、滅んでしまえばよいのです」
にっこりと満面の笑みを浮かべたオリヴァーに、三人の同僚は身を引いた。その中を通り抜け、オリヴァーは夜の町へと向かっていった。
◆◇◆
アレックスに手紙を送ると、今日の二十一時と返信があった。その時間に彼の家を訪ねると、既にシャワーを浴びた後の彼が出迎えてくれた。
「ようこそ、オリヴァー殿」
「お招き有り難うございます、アレックス殿」
にっこりと笑い、礼をする。騎士団にいるときには決して出さない色香を抑えはしなかった。未だどんな男でも引き寄せられるように側にくる、そんなものを振りまくようにしているのだ。
なのに目の前の男の涼しい顔。いっそ腹が立ってくる。
「食事は済まされたか」
「えぇ」
「では、酒でも楽しもう」
彼の家は小さな屋敷だが、使用人などは雇っていない。必要な時に必要な人を入れて維持をしているだけで、普段の事は自分でしているのだと言う。
私室へと向かい、柔らかな照明の明かりに照らされながらお酒を頂く。アルコールに僅かに肌が上気するというのに、彼はまったく欲しはしない。
彼は本当に愛しているのだろうか。こんなに色香を出して誘うように視線を向けているのに、欲情してくれないのだろうか。
徐々に苛立ちが募る。欲しいと思って何度か視線を絡めもしたが、その全てが通用しなかった。徐々に自分に自信がなくなり、試しに反応のいいグリフィスで実験をしたのだがあの男は完全に反応した。ただ、理性まで獣ではない友人は「止めろ! お前のは冗談にならん!」と言って逃げていった。
ならば、求められていないのだろう。そう思えばなんとも虚しく、体が寂しく火照る。
「オリヴァー殿?」
疑問そうな様子で首を傾げられる。オリヴァーは立ち上がり、その膝に乗って頬を包んだ。
「私に魅力はないのでしょうか?」
「え?」
「貴方を見て、貴方を思ってこの体はこんなにも熱を孕むのに、貴方は涼しいまま。この身は貴方を欲情させるには足りませんか?」
思わず問いかけてしまう。見上げる濃紺の瞳は一瞬驚き、次に真剣になる。覗き込むその奥に、確かに炎が見えた気がした。それは初めての男の顔だ。
「欲しいのです、私は。遠慮しているのも、気遣いも嬉しく思います。ですがこの身は所詮淫乱です。大事にされすぎても焦がれてしまうのです。触れて貰えない事に焦りを感じるのです。触れて、煽り立てて暴くように抱かれたいのです。そうさせるには、私はまだ足りないのでしょうか」
「そんな事はない。オリヴァー殿はいつも魅力的だ」
「では、良いですか?」
熱くなる体を感じている。触れる肌はなんて逞しい。胸に手を置き、奪うように口づけた。拒まれる事もなく、激しく受け入れてくれる事に安堵すると同時に煽られていく自身を隠せない。
「外泊届を出して参りました。今宵、求められる為にここに参りました。どうか、触れてください。思うままに、お願いいたします」
頬にうっとりと指を滑らせ、微笑みかけて頼み込めば、アレックスは動揺もなく真っ直ぐに頷いてくれた。
0
お気に入りに追加
492
あなたにおすすめの小説
【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件
がくん
BL
あらすじ
その背中は──俺の英雄であり、悪党だった。
物分かりのいい人間を演じてきた学生、イズミケントは現実で爆発事故に巻き込まれた。
異世界で放浪していたケントを魔獣から助けたのは悪党面の傭兵マラークだった。
行き場のなかったケントはマラークについていき、新人傭兵として生きていく事を選んだがケントには魔力がなかった。
だがケントにはユニークスキルというものを持っていた。精変換──それは男の精液を取り入れた分だけ魔力に変換するという歪なスキルだった。
憧れた男のように強くなりたいと願ったケントはある日、心を殺してマラークの精液を求めた。
最初は魔力が欲しかっただけなのに──
仲間と性行為を繰り返し、歪んだ支援魔法師として生きるケント。
戦闘の天才と言われる傲慢な男マラーク。
駄犬みたいな後輩だが弓は凄腕のハーヴェイ。
3人の傭兵が日常と性行為を経て、ひとつの小隊へとなっていく物語。
初投稿、BLエロ重視にスポット置いた小説です。耐性のない方は戻って頂ければ。
趣味丸出しですが好みの合う方にはハマるかと思います。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜
春色悠
BL
俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。
人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。
その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。
そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。
最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。
美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。
教室ごと転移したのに陽キャ様がやる気ないのですが。
かーにゅ
BL
公開日増やしてからちょっと減らしました(・∀・)ノ
ネタがなくて不定期更新中です……
陽キャと陰キャ。そのくくりはうちの学校では少し違う。
陰キャと呼ばれるのはいわゆるオタク。陽キャはそれ以外。
うちのオタクたちは一つに特化していながら他の世界にも精通する何気に万能なオタクであった。
もちろん、異世界転生、異世界転移なんてものは常識。そこにBL、百合要素の入ったものも常識の範疇。
グロものは…まあ人によるけど読めなくもない。アニメ系もたまにクソアニメと言うことはあっても全般的に見る。唯一視聴者の少ないアニメが女児アニメだ。あれはハマるとやばい。戻れなくなる。現在、このクラスで戻れなくなったものは2人。1人は女子で妹がいるためにあやしまれないがもう1人のほうは…察してくれ。
そんな中僕の特化する分野はBL!!だが、ショタ攻め専門だ!!なぜかって?そんなの僕が小さいからに決まっているじゃないか…おかげで誘ってもネコ役しかさせてくれないし…本番したことない。犯罪臭がするって…僕…15歳の健全な男子高校生なのですが。
毎週月曜・水曜・金曜・更新です。これだけパソコンで打ってるのでいつもと表現違うかもです。ショタなことには変わりありません。しばらくしたらスマホから打つようになると思います。文才なし。主人公(ショタ)は受けです。ショタ攻め好き?私は受けのが好きなので受け固定で。時々主人公が女に向かいますがご心配なさらず。
五国王伝〜醜男は美神王に転生し愛でられる〜〈完結〉
クリム
BL
醜い容姿故に、憎まれ、馬鹿にされ、蔑まれ、誰からも相手にされない、世界そのものに拒絶されてもがき生きてきた男達。
生まれも育ちもばらばらの彼らは、不慮の事故で生まれ育った世界から消え、天帝により新たなる世界に美しい神王として『転生』した。
愛され、憧れ、誰からも敬愛される美神王となった彼らの役目は、それぞれの国の男たちと交合し、神と民の融合の証・国の永遠の繁栄の象徴である和合の木に神卵と呼ばれる実をつけること。
五色の色の国、五国に出現した、直樹・明・アルバート・トト・ニュトの王としての魂の和合は果たされるのだろうか。
最後に『転生』した直樹を中心に、物語は展開します。こちらは直樹バージョンに組み替えました。
『なろう』ではマナバージョンです。
えちえちには※マークをつけます。ご注意の上ご高覧を。完結まで、毎日更新予定です。この作品は三人称(通称神様視点)の心情描写となります。様々な人物視点で描かれていきますので、ご注意下さい。
※誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます。励みになりますです!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される
雨月 良夜
BL
実家が神社の男子高校生、蘆屋美影(あしやみかげ)。両親が亡くなり、叔父夫婦に引き取られ不遇な生活を送っていた。
叔父に襲われそうになって神社の宝物庫に逃げ込んだ美影は、そのまま眠ってしまう。目を覚ますと、精霊王と名乗る男が話しかけてきた。
神社に封印されていた邪神が、俺のせいで異世界に逃げ込んだ。封印できるのは正当な血を引いた自分だけ。
異世界にトリップした男子高校生が、邪神を封印する旅に出る話です。
騎士団長(執着)×男子高校生(健気受け)
シリアスな展開が多めです。
R18ぽい話には※マークをつけております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる