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7章:ネクロフィリアの葬送
4話:ロトの痕跡
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ファウストはランバートとウルバスを連れて城の宿舎に戻った。今後の話を少しつめる為だった。ランバートは早々に部屋に戻し、今は執務室にいる。その手には人相書きと、ランバートが書いた地図がある。
「それにしても、ランバートの書いた地図は本当に凄いですね。これだけ詳細なものがあれば、警備も楽になります」
「だが、これは争いの火種になるな。確かに東地区は暗黒時代がある。その中を生きた人間が貴族と名の付く者に生理的な嫌悪を持っているのも確かだ」
それは理解できる感情だ。それほどに、あの町は貴族によって貶められた。
五年以上前まで、あそこはスラムだった。そうしたのは一部の貴族だ。殺人は日常的で、レイプも当然だったと聞く。それを行っていたのが貴族だった。日常のストレスをそこの人間にぶつけていたのだ。そしてそれに目を背けていたのもまた、貴族だった。
五年前、カールが即位した時に貴族に対する圧力が高まり、国民を大切にするよう方針転換されたそのタイミングで、謎の資産家が東地区の復興を始めた。
それが、ロト・ヒンスという人物だ。
「ウルバス」
「はい?」
「俺は常々、疑問があった。東地区の復興を行った謎の資産家、ロト・ヒンスという人物は本当に、実在するのかというものだ」
ファウストは重く言葉を選んだ。これは時折、シウスなどとも議論になっていた。当然答えの出ない議論だったが、酒のつまみにはなったのだ。
だが今になって、ファウストは深く考える事があった。そして謎の確信があるのだ。
「資産家ロトは東地区の土地を貴族どもから買い上げて、復興を街の人間達と行った。街の設計、商売のノウハウ、ギルド創設。それを一人の人間が中心となって行った。可能だと思うか?」
「うーん、ちょっと飛躍してるかもしれませんが、不可能ではありませんよ。資産家なら知識を持った人物が側にいてもおかしくはありませんし、そうした者の意見を聞いていたのではありませんか?」
「貴族嫌いが、そうした人間を多く受け入れると思うか?」
「あぁ……」
ウルバスも詰まったようだ。
そう、これがどうも腑に落ちなかった。多くの知識を持っていたのは、有識者が側にいてその意見を取り入れたと考えていい。だが、そもそもあそこにいた人間が貴族に近い人間を受け入れたかが疑問だった。
ファウストは知っている。ちょうど五年前から下町に深く関わり、あの街の人間の信頼を得ている貴族を。
「ランバートが下町に出入りし始めたのは、五年前。資産家ロトが現れたのも、五年前だ」
「まさか、ですよね?」
ウルバスが半笑いになっている。こいつがこういう顔をするときは、半分疑っている時だ。
「土地を貴族の言い値で買い上げている。しかも建材もロトの私財から出ている。町の人間は土地の代金や建物の代金を少しずつロトに返していると聞いた。返済期間も無期限、しかも無利子だ。元本がどれだけいる」
「四大貴族ヒッテルスバッハなら、たいした事のない出資ですね」
そう、そこらの貧乏貴族ではない。あいつは四大貴族家、その中でも最も資産を持ち、投資にも力を入れているヒッテルスバッハの人間だ。しかも本人も非凡だ。
「東地区が復興を果たせば経済が活発になる。そこにヒッテルスバッハが投資すれば、いくらでも金の問題は解決する。国家予算の何十倍の資産だからな」
「ファウスト様はランバートが、資産家ロトだと思っているのですか?」
ウルバスの問いかけに、少し考えてファウストは首を横に振った。
「ロトの一人だったのではないかと、思っている」
「一人?」
「ランバートがいくら非凡でも、流石にこれだけの大事業を一人で成し遂げたとは思えない。特に経済やギルドシステムはかなり複雑だ。よほどそれらに精通した人間が手を貸した可能性がある。それに荒っぽい事は、今日出会った現在の傭兵ギルドの人間も関わっていそうだ。そう思うと、ロトというのは復興を成し遂げた人間の複合体だったのではないかと、最近思うようになった」
ランバートというピースを貰って、思うようになった。そう考えると東地区の人間がランバートを信頼し、今もこんなに協力的なのに納得がいく。それに、あいつの持つ情報網もこれに起因しているのではないか。
「まぁ、あいつは言わないだろうから、詮無きことだ」
「ですね」
目の前の地図を見る。まるで設計図のような完璧なものだ。
「東地区の警備体制については、お前が考えた通りでいい。ただ、気をつけてくれ。どうもこちらの動きを見ながら動いているように感じる」
「分かりました」
「人相書きを全員に見せて、それらしい人間が現れていないか聞いてくれ。食料品を扱う店の店主には、それとなく」
付近に潜伏しているにしても、ある程度の生活品は必要だ。特に食料は必ずいる。飲食店、食料品店には現れているはずだ。町で事件を起こしているなら、少なくとも往復できる場所に身を潜めているはずなんだ。
「ランバート、どうします?」
「ウェインに言って、見張らせる。あいつが動けば犯人は動くだろうが、地の利のない場所で動かれてはこちらが出遅れる。相手はランバートを殺す事が目的だから、囚われれば猶予がない」
「ランバートを殺す事が、犯人の目的なのですか?」
「え?」
キョトンとしたウルバスの顔を見て、ファウストはまずったと後悔する。だが、後の祭りだ。溜息をつき、話すしかなくなる。しかも示し合わせたように呼んでいたウェインが来たから、ますますだった。
◆◇◆
「うぇぇ! 気持ち悪い!」
「流石にそれは……しんどいですね」
ランバート自身から聞いた話をそのまました後の二人の反応はこれだ。ファウスト自身自分で言って寒気がした。
「死体抱いて何がいいの! 怖いよ! キモいよ!」
「俺に聞くな、分からない」
「スプラッターは平気なつもりだったんだけど、ちょっとね」
思い切り嫌悪を示すウェインが自分を抱いて摩っている。隣ではウルバスも苦笑いだ。
「そんなのに付きまとわれてるなんて、ランバート可哀想だよ。いい子なのに」
「いい子……は、少し違う感じもするけれど。でも、気の毒を通り越すかな」
「そういうわけだ。ウェイン、ランバートを見張ってくれ。あれは仲間の事になると突っ走る。いつもの冷静さを失っているように俺には見える。あれのあんな姿はあまり見ないから、俺も少し戸惑っている」
仲間を大事にする奴だというのは、見ていて分かった。昇級試験で親交を深めたゼロス達とはいい関係らしく、楽しそうにしている。それに面倒見もいい。時々、時間外に手合わせをしたり、話を聞いたりしているようだ。
何より情のある奴だ。ロッカーナの時もそれは感じた。そんな奴だからこそ、今が心配だ。きっと自分の事で仲間が危険に晒されていると感じ、それに耐えられないのだろう。あいつにとっては東地区の住人全てが情のある相手だ。
「見張ってるって、多分気づかれますけれど」
「それでいい。出し抜かれなければそれでいいんだ。隠す必要もない」
嫌な顔をするだろうが、犯人を捕まえるまでだ。危険人物を確保できれば、後はなんとでもなる。
「東地区で事件が起こる可能性が高い。ウルバス、些細な事でも報告をいれてくれ」
「分かりました」
「後は、大きな事件が起こらなければいいんだが」
気にはなるし、今の状況ではなんとも言えない。だが胸騒ぎはしている。長い経験から、とても杞憂で済ませられない予感だ。
奴は狼煙を上げた。東地区の人間の心を挫き、ランバートにわかりやすい形で象徴的な場所を汚した。そしてそこに、姿を見せた。偶然姿を見られたにしては、目撃情報が多い。おそらく見せつけた。そのうえで、捕まらない自信がこいつにはあるんだ。
「嫌な事件にならなければいいんだが」
呟くような言葉に、ウェインとウルバスも頷く。けれど誰の口からも、楽観的な言葉は出なかった。
「それにしても、ランバートの書いた地図は本当に凄いですね。これだけ詳細なものがあれば、警備も楽になります」
「だが、これは争いの火種になるな。確かに東地区は暗黒時代がある。その中を生きた人間が貴族と名の付く者に生理的な嫌悪を持っているのも確かだ」
それは理解できる感情だ。それほどに、あの町は貴族によって貶められた。
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五年前、カールが即位した時に貴族に対する圧力が高まり、国民を大切にするよう方針転換されたそのタイミングで、謎の資産家が東地区の復興を始めた。
それが、ロト・ヒンスという人物だ。
「ウルバス」
「はい?」
「俺は常々、疑問があった。東地区の復興を行った謎の資産家、ロト・ヒンスという人物は本当に、実在するのかというものだ」
ファウストは重く言葉を選んだ。これは時折、シウスなどとも議論になっていた。当然答えの出ない議論だったが、酒のつまみにはなったのだ。
だが今になって、ファウストは深く考える事があった。そして謎の確信があるのだ。
「資産家ロトは東地区の土地を貴族どもから買い上げて、復興を街の人間達と行った。街の設計、商売のノウハウ、ギルド創設。それを一人の人間が中心となって行った。可能だと思うか?」
「うーん、ちょっと飛躍してるかもしれませんが、不可能ではありませんよ。資産家なら知識を持った人物が側にいてもおかしくはありませんし、そうした者の意見を聞いていたのではありませんか?」
「貴族嫌いが、そうした人間を多く受け入れると思うか?」
「あぁ……」
ウルバスも詰まったようだ。
そう、これがどうも腑に落ちなかった。多くの知識を持っていたのは、有識者が側にいてその意見を取り入れたと考えていい。だが、そもそもあそこにいた人間が貴族に近い人間を受け入れたかが疑問だった。
ファウストは知っている。ちょうど五年前から下町に深く関わり、あの街の人間の信頼を得ている貴族を。
「ランバートが下町に出入りし始めたのは、五年前。資産家ロトが現れたのも、五年前だ」
「まさか、ですよね?」
ウルバスが半笑いになっている。こいつがこういう顔をするときは、半分疑っている時だ。
「土地を貴族の言い値で買い上げている。しかも建材もロトの私財から出ている。町の人間は土地の代金や建物の代金を少しずつロトに返していると聞いた。返済期間も無期限、しかも無利子だ。元本がどれだけいる」
「四大貴族ヒッテルスバッハなら、たいした事のない出資ですね」
そう、そこらの貧乏貴族ではない。あいつは四大貴族家、その中でも最も資産を持ち、投資にも力を入れているヒッテルスバッハの人間だ。しかも本人も非凡だ。
「東地区が復興を果たせば経済が活発になる。そこにヒッテルスバッハが投資すれば、いくらでも金の問題は解決する。国家予算の何十倍の資産だからな」
「ファウスト様はランバートが、資産家ロトだと思っているのですか?」
ウルバスの問いかけに、少し考えてファウストは首を横に振った。
「ロトの一人だったのではないかと、思っている」
「一人?」
「ランバートがいくら非凡でも、流石にこれだけの大事業を一人で成し遂げたとは思えない。特に経済やギルドシステムはかなり複雑だ。よほどそれらに精通した人間が手を貸した可能性がある。それに荒っぽい事は、今日出会った現在の傭兵ギルドの人間も関わっていそうだ。そう思うと、ロトというのは復興を成し遂げた人間の複合体だったのではないかと、最近思うようになった」
ランバートというピースを貰って、思うようになった。そう考えると東地区の人間がランバートを信頼し、今もこんなに協力的なのに納得がいく。それに、あいつの持つ情報網もこれに起因しているのではないか。
「まぁ、あいつは言わないだろうから、詮無きことだ」
「ですね」
目の前の地図を見る。まるで設計図のような完璧なものだ。
「東地区の警備体制については、お前が考えた通りでいい。ただ、気をつけてくれ。どうもこちらの動きを見ながら動いているように感じる」
「分かりました」
「人相書きを全員に見せて、それらしい人間が現れていないか聞いてくれ。食料品を扱う店の店主には、それとなく」
付近に潜伏しているにしても、ある程度の生活品は必要だ。特に食料は必ずいる。飲食店、食料品店には現れているはずだ。町で事件を起こしているなら、少なくとも往復できる場所に身を潜めているはずなんだ。
「ランバート、どうします?」
「ウェインに言って、見張らせる。あいつが動けば犯人は動くだろうが、地の利のない場所で動かれてはこちらが出遅れる。相手はランバートを殺す事が目的だから、囚われれば猶予がない」
「ランバートを殺す事が、犯人の目的なのですか?」
「え?」
キョトンとしたウルバスの顔を見て、ファウストはまずったと後悔する。だが、後の祭りだ。溜息をつき、話すしかなくなる。しかも示し合わせたように呼んでいたウェインが来たから、ますますだった。
◆◇◆
「うぇぇ! 気持ち悪い!」
「流石にそれは……しんどいですね」
ランバート自身から聞いた話をそのまました後の二人の反応はこれだ。ファウスト自身自分で言って寒気がした。
「死体抱いて何がいいの! 怖いよ! キモいよ!」
「俺に聞くな、分からない」
「スプラッターは平気なつもりだったんだけど、ちょっとね」
思い切り嫌悪を示すウェインが自分を抱いて摩っている。隣ではウルバスも苦笑いだ。
「そんなのに付きまとわれてるなんて、ランバート可哀想だよ。いい子なのに」
「いい子……は、少し違う感じもするけれど。でも、気の毒を通り越すかな」
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仲間を大事にする奴だというのは、見ていて分かった。昇級試験で親交を深めたゼロス達とはいい関係らしく、楽しそうにしている。それに面倒見もいい。時々、時間外に手合わせをしたり、話を聞いたりしているようだ。
何より情のある奴だ。ロッカーナの時もそれは感じた。そんな奴だからこそ、今が心配だ。きっと自分の事で仲間が危険に晒されていると感じ、それに耐えられないのだろう。あいつにとっては東地区の住人全てが情のある相手だ。
「見張ってるって、多分気づかれますけれど」
「それでいい。出し抜かれなければそれでいいんだ。隠す必要もない」
嫌な顔をするだろうが、犯人を捕まえるまでだ。危険人物を確保できれば、後はなんとでもなる。
「東地区で事件が起こる可能性が高い。ウルバス、些細な事でも報告をいれてくれ」
「分かりました」
「後は、大きな事件が起こらなければいいんだが」
気にはなるし、今の状況ではなんとも言えない。だが胸騒ぎはしている。長い経験から、とても杞憂で済ませられない予感だ。
奴は狼煙を上げた。東地区の人間の心を挫き、ランバートにわかりやすい形で象徴的な場所を汚した。そしてそこに、姿を見せた。偶然姿を見られたにしては、目撃情報が多い。おそらく見せつけた。そのうえで、捕まらない自信がこいつにはあるんだ。
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