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6章:朋友

4話:安息日の朝

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 翌日早朝、ランバートは予め示し合わせた四人と一階の修練場へと向かった。そしてそこに、いつも通りの人影を見つけた。

「ランバート、お前」
「遅くなってすみません、ファウスト様。もう上がりですか?」
「いや、ウォームアップが終わった所だが。後ろの奴らも一緒にか?」

 ファウストの視線が背後の四人に向かう。ゼロスは案外普通に、レイバンは楽しそうに、コナンは怯えて。そしてトレヴァーは緊張に固まっている。

「いいですか?」
「俺は構わないが」

 了承を得ると、ランバートは素早く四人を前に出して、当然のようにウォームアップを始めた。
 安息日の早朝練習は、この日とても賑やかだった。ファウストは丁寧に全員と手合わせをしている。素手での組み手や、剣も。いつも組んでいるランバートは少し遠慮していた。

「トレヴァー、もう少し考えて剣を出せ。型どおり過ぎて硬い」
「すみません!」

 緊張にガチガチのトレヴァーは未だにガチガチだ。ちょっと面白い。
 ランバートはコナンと一緒に組み手をしている。と言っても、ほぼ指導のような状態だ。

「コナンはもう少し小技使えるといいんじゃないかな。倒そうなんて思わないで、手数を多くすると面白い」
「ランバートが強すぎるよぉ」

 ちょっと泣きそうになりながら訴えるコナンに、ランバートは笑っていた。

「ゼロスはいい太刀筋だ。俺の剣もよく見ている。このままの剣筋でいくのか?」
「柔軟な動きというのが、少し苦手です。力押しになってしまい、どう修練を重ねればいいかを悩んでいます」
「力で押し切るタイプを貫くのもいい。だが、少しずつ自分に合う体の動きを見極めて身につけていくのもいいだろう」
「ご指導、有り難うございます」

 手合わせを終えたゼロスが丁寧に頭を下げている。普段ファウストは一年目や二年目と直接剣を合わせる事はない。実力が違う事で思わぬ怪我などさせないようにだ。

「ファウスト様って、やっぱりかっこいいな」

 ぐったりと芝生に腰を下ろしたトレヴァーが言う。目の前ではレイバンとファウストが手合わせをしている。
 レイバンの剣筋はかなりトリッキーだった。身が軽く反射の早いレイバンは基本なんてほぼ無視している。左右上下、どこからでも剣が飛んでくる。
 だがそれに対応できないファウストではない。型も崩さないまま、全てを受けている。

「手合わせできて良かったな」
「緊張で吐きそう。でも、嬉しい」
「もっと楽しめば良かったのに」
「そんな余裕なんてないって」

 高い音が鳴って、レイバンは剣を落とした。ファウストの剣は重たいから、それで弾かれたんだろう。

「面白い剣だが、少し忙しいな。もう少し狙いを絞ったほうが相手を狙える。相手の動きを見極めるまではむしろ受けに回ったほうが効率がいい」
「受け身に回ったら第五師団じゃありませんよ」
「まぁ、そうだな」

 苦笑したファウストが肯定するのに、レイバンは楽しげに笑う。けれどファウストに背を向けてランバートを見た目は、言葉以上に悔しそうで、同時に思慮深かった。

「ランバート」

 声をかけられて、思わずそちらを見る。ファウストが手で合図をしているのに、ランバートは苦笑した。

「俺はいいですよ。今日は見学」
「怠けるな」
「そんな事言って、動きたいだけじゃないですか」
「そう思うなら付き合え」

 溜息をついて舞台に上がったランバートは、構えを緩く崩す。ファウストもこれまでみたいに型にはまった構えはしなかった。
 場が静かだ。そして、いい緊張感だった。
 高まった気を放つように、ランバートは真っ直ぐにファウストに向かった。いつもならここで強く当たる。ファウストだって分かっている。だから今回は、手を変えた。
 寸前まで迫ったランバートは、素早く身を低くかがめた。ファウストの視界から消えるように見せかけて下から狙った。驚いたような黒い瞳を見るのは面白い。不意を突けた事が楽しかった。
 けれどやっぱり受けられる。切り上げた剣を弾かれたランバートは、いつものように下がらない。弾かれた力を逃がすように自然と流し、体はファウストの隣を走る。すり抜けて、そこから更に一撃だ。
 だがこれも受けられる。しっかりと切り結んだファウストの目から、いつもより真剣さが伝わってくる。
 後ろに弾き飛ばされたランバートが着地すると、既にファウストは目の前にいた。意外な早さに驚くが、受けられなければ怪我をする。剣を構えて受けたそれは、いつもより重い。そして、押し返すと直ぐに空いた脇から拳が飛んだ。

「!」

 強い力ではないが拳がヒットして少しよろける。その間にファウストの足が剣を蹴り上げてしまう。負けじとランバートは回し蹴りでファウストの頭を狙ったが、それも片手で受けられて、逆に捕まれて引き倒された。

「っ!」
「悪い、少し加減ができなかったか」

 強かに体を打ったランバートが転がると、ファウストは意外と心配そうに声をかけて手を差し伸べてくる。その手を取って座ったランバートは、明らかに拗ねた顔をした。

「手加減して下さいっていつも言ってるのに」
「悪い、今日はいつも以上に加減できなかった」

 本当に申し訳なさそうに言うファウストは、次にふわりと笑う。優しく誇らしく、そしてどこか嬉しそうに。

「強くなったな、ランバート。初手からの連続は、少し焦った」
「第二師団の皆様は、こういうのが得意なので勉強しました」
「末恐ろしいな。そのうち本当に一本取られそうだ」
「いつかそうしてみせます」

 ニッと不敵に笑ったランバートに、ファウストは困った顔をする。けれど、やっぱり少し嬉しそうだ。
 礼をして舞台から降りると、みんなが驚いたような、そして頼もしい目で見ている。ゼロスとレイバンなんかは、なんだかとても楽しそうだ。

「ランバート、今度組み手やろう」
「え?」
「トレーニングも頼もうか。お前の動きは俺にないものがある。是非、参考にしたい」
「え?」

 楽しそうなレイバンは今すぐにでも組み手をしたい様子だし、ゼロスはとても真剣な顔をしている。どうやら彼らの何かを刺激したようだ。

「ランバートって、やっぱり強いんだな」

 目をまん丸にしたままのトレヴァーが口にし、言葉もなくコナンが頷く。なんだかとても恥ずかしくなって、ランバートは苦笑した。

「さて、このくらいにするか。ウォームダウンしてから上がれよ」
「「有り難うございました」」

 去って行くファウストの背に礼を言いながら、五人は言われた通り軽く走り込み、柔軟をして終わりにする。そして明日からの予定を話し合うのだった。
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