上 下
65 / 167
5章:親愛をこめて

1話:不審な荷物

しおりを挟む
 時は一月の中頃。風邪の流行も下火となり、比較的穏やかな日常が過ぎていた。

「ランバート、今日は私の部屋で飲むぞ。お前も来るであろう?」
「シウス様、またですか?」

 明日は安息日。その前日はなんだかんだと理由をつけてシウスが誘ってくる。最近オスカルが連れないからだろう。

「オスカル様に恋人ができたからって、俺を誘わなくてもいいでしょ」
「別に、そういうことではないわ。それに今日はオスカルも来る」

 案外寂しがり屋の上官は、ちょっと拗ねたようにそう言った。

「ファウストも来るであろう?」

 隣で夕食を食べているファウストが、嫌な顔をしながらも溜息をつく。この人も付き合いのいい人だから、なんだかんだと拒否しない。

「少しだけなら付き合う」
「良い返事じゃ」

 満足そうな顔をしたシウスは、早速今日を楽しみにしている様子だった。
 その時、食堂の戸口にオスカルが立った。そして直ぐにランバート達の席に来る。食事かと思ったけれど、青い瞳がランバートを捕まえたまま動かないのを見るとそうではないようだ。

「ランバート、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか?」
「実は君宛に、大きな荷物が届いたんだけどね。なんだか変だから、中を確かめたいんだ。君も来てくれると助かるんだけど」
「不審物ですか? どこから?」

 大きな荷物なんて、なんだろう。そんな物が届く予定なんてないし、勿論ランバートが頼んだ物ではない。首を傾げていると、オスカルは溜息をついた。

「ヒッテルスバッハの家からだよ」

 その言葉に、何か嫌なものを感じたのは言うまでもなかった。

 食事を口に突っ込んでオスカルの後に続いた。そしてなぜか、一緒に食事をしていたシウスやラウル、ファウストまでが付いてきていた。

「あの、ついてこなくても」
「面白そうだから来たまでじゃ。気にするでない」

 ニヤリと笑うシウスからは、本当に言葉通りのものしか感じない。ものすごく本心だ。
 溜息をついて、そのまま一階にある荷の受取所までくる。ここには手紙や荷物が集められる。一度ここにきて、より分けてそれぞれに運ばれるか知らせがいく。中には不審なものもあって、そうした物はここで検閲が入るのだ。
 ランバート宛に届いたという荷物は、大柄な人間が手を一杯に広げてやっとの大きな箱だった。

「大きさに比べて、重さがないんだ。中身も何かわからないし、音もしない。硬い物が入っている様子もなくてさ。宛名からして危険な物は入っていないとは思うけれど、万が一ヒッテルスバッハの名を語って送られてきていたらまずいからさ」

 確かに箱の大きさに比べて、荷物は軽く音もしない。宛名は確かに実家からだった。

「開けますね」

 ちょっとドキドキしながら箱を開ける。みんなが怖々と中を見て、次には目を丸くした。

「毛糸?」
「すごい量だよ!」

 箱の中はたっぷりの毛糸だった。しかもご丁寧に編み棒や備品まで入っている。一番上には手紙が、丁寧に封筒に入って封蝋までされておいてあった。手を伸ばし、ランバートは中を読んでがっくりと肩を落とした。

『ランバート、あと一ヶ月で聖リマの日じゃない? 私のお友達三人と、旦那様にマフラーを送りたいの。手伝ってくれるかしら?

貴方の母より』

「母上……」

 手紙を横合いから読んでいたシウスとファウストも苦笑している。オスカルは一応不審物が入っていないか、箱の中を丁寧に漁っていた。

「本当に毛糸ばかり。すごいね、質もいい。これ、高いんじゃない?」
「母が選んだものなら、おそらく」

 言いながらも、頭の中では期限内に品を仕上げる算段だ。デザインを工夫しないと、一ヶ月に四つのマフラーなんて仕事しながらだと難しい。

「一ヶ月でマフラー四つは、大変じゃない?」
「頑張ればなんとか。友達三人は多分女性だから、色違いでデザインを同じ物にしよう。父上の分は……時間をみてだな」
「お前、やるつもりなのか?」

 目を丸くしてファウストが言う。少し咎めるような色があるが、これはもう仕方がない。手紙の最後に付いているキスマークを見ると、逆らえなかった。

「ここ、キスマークがついてるじゃないですか。これの威力を知っていれば大人しくやる方が得策だと思えますよ」
「キスマーク?」

 シウスが手紙を覗き込む。そこには赤い口紅のついたキスマークがある。色と数が重要なのだと、ランバートは皆に言った。

「母上は本気の手紙にキスマークをつけるんです。できなかったら後が怖い。きっと呼びつけられて、『このくらいのお願いも聞いてくれないほど、お仕事忙しいの? 大変なら、辞めてもいいのよ?』という脅しが」
「そんなの!」
「母のキスマーク付きの手紙を貰った父は、他国からすっ飛んで帰ってきます。父を従わせる事ができる唯一の人なんですよ、母上は」
「陛下でも易々とは従えられないヒッテルスバッハ公爵を。恐ろしいものぞ」

 シウスが半笑いになっている。その場がなんだか凍り付いたようになった。

「まぁ、仕事に影響のない程度にやります。ですが、しばらくはお誘いには乗れません。すみませんが、今日のお誘いはお断りしますね」
「仕方がないの。だが、このような道具でマフラーができるのかえ?」

 物珍しい様子でシウスが編み棒を取り上げる。それに、ランバートは頷いた。

「これで編むのですよ。この棒が二本あれば、結構色々できます」
「面白いものよ。機会があれば、是非見てみたいものだ」

 編み棒を箱の中に戻して、シウスが言う。知らない事に興味があるのだろうか。

「では、俺はこれで失礼します」
「あっ、僕も運ぶの手伝うよ!」

 ラウルが箱を持つのを手伝ってくれる。正直これには助かった。一人で持つには大きな箱だが、二人なら楽だ。
 そうしてラウルと二人、部屋に大きな箱を運び込む事ができた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして

Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!! 幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた 凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。 (別名ドリル令嬢) しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢! 悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり…… 何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、 王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。 そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、 自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。 そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと…… 留学生の隣国の王子様!? でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……? 今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!? ※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。 リクエストがありました、 『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』 に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。 2022.3.3 タグ追加

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。 どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。 現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。 傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。 フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。 みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。 途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。 2020.8.5 書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。 書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第一章レンタルになってます。 2020.11.13 二巻の書籍化のお話を頂いております。 それにともない第二章を引き上げ予定です 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第二章レンタルになってます。 番外編投稿しました! 一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*) 2021.2.23 3月2日よりコミカライズが連載開始します。 鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。 2021.3.2 コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件~恋人ルート~

白井のわ
BL
★がついているお話には、性的な描写(R18)が含まれています。苦手な方はご注意下さい。 雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。 上記本編後各キャラと恋人同士になった場合のお話になります。 本編未読でも楽しめる内容になっていますが総受けではなくCP固定なのでご注意ください。

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

無限のスキルゲッター! 毎月レアスキルと大量経験値を貰っている僕は、異次元の強さで無双する

まるずし
ファンタジー
 小説『無限のスキルゲッター!』第5巻が発売されました! 書籍版はこれで完結となります。  書籍版ではいろいろと変更した部分がありますので、気になる方は『書籍未収録①~⑥』をご確認いただければ幸いです。  そしてこのweb版ですが、更新が滞ってしまって大変申し訳ありません。  まだまだラストまで長いので、せめて今後どうなっていくのかという流れだけ、ダイジェストで書きました。  興味のある方は、目次下部にある『8章以降のストーリーダイジェスト』をご覧くださいませ。  書籍では、中西達哉先生に素晴らしいイラストをたくさん描いていただきました。  特に、5巻最後の挿絵は本当に素晴らしいので、是非多くの方に見ていただきたいイラストです。  自分では大満足の完結巻となりましたので、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m  ほか、コミカライズ版『無限のスキルゲッター!』も発売中ですので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。 【あらすじ】  最強世代と言われる同級生たちが、『勇者』の称号や経験値10倍などの超強力なスキルを授かる中、ハズレスキルどころか最悪の人生終了スキルを授かった主人公ユーリ。  しかし、そのスキルで女神を助けたことにより、人生は大逆転。  神様を上手く騙して、黙っていても毎月大量の経験値が貰えるようになった上、さらにランダムで超レアスキルのオマケ付き。  驚異の早さで成長するユーリは、あっという間に最強クラスに成り上がります。  ちょっと変な幼馴染みや、超絶美少女王女様、押しの強い女勇者たちにも好意を寄せられ、順風満帆な人生楽勝モードに。  ところがそんな矢先、いきなり罠に嵌められてしまい、ユーリは国外へ逃亡。  そのまま全世界のお尋ね者になっちゃったけど、圧倒的最強になったユーリは、もはや大人しくなんかしてられない。  こうなったら世界を救うため、あえて悪者になってやる?  伝説の魔竜も古代文明の守護神も不死生命体も敵じゃない。  あまりにも強すぎて魔王と呼ばれちゃった主人公が、その力で世界を救います。

縦ロールをやめたら愛されました。

えんどう
恋愛
 縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。 「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」 ──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故? これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。 追記:3.21 忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。

【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜

コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。 レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。 そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。 それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。 適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。 パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。 追放後にパーティーメンバーたちが去った後―― 「…………まさか、ここまでクズだとはな」 レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。 この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。 それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。 利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。 また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。 そしてこの経験値貸与というスキル。 貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。 これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。 ※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております

処理中です...