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5章:親愛をこめて
1話:不審な荷物
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時は一月の中頃。風邪の流行も下火となり、比較的穏やかな日常が過ぎていた。
「ランバート、今日は私の部屋で飲むぞ。お前も来るであろう?」
「シウス様、またですか?」
明日は安息日。その前日はなんだかんだと理由をつけてシウスが誘ってくる。最近オスカルが連れないからだろう。
「オスカル様に恋人ができたからって、俺を誘わなくてもいいでしょ」
「別に、そういうことではないわ。それに今日はオスカルも来る」
案外寂しがり屋の上官は、ちょっと拗ねたようにそう言った。
「ファウストも来るであろう?」
隣で夕食を食べているファウストが、嫌な顔をしながらも溜息をつく。この人も付き合いのいい人だから、なんだかんだと拒否しない。
「少しだけなら付き合う」
「良い返事じゃ」
満足そうな顔をしたシウスは、早速今日を楽しみにしている様子だった。
その時、食堂の戸口にオスカルが立った。そして直ぐにランバート達の席に来る。食事かと思ったけれど、青い瞳がランバートを捕まえたまま動かないのを見るとそうではないようだ。
「ランバート、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか?」
「実は君宛に、大きな荷物が届いたんだけどね。なんだか変だから、中を確かめたいんだ。君も来てくれると助かるんだけど」
「不審物ですか? どこから?」
大きな荷物なんて、なんだろう。そんな物が届く予定なんてないし、勿論ランバートが頼んだ物ではない。首を傾げていると、オスカルは溜息をついた。
「ヒッテルスバッハの家からだよ」
その言葉に、何か嫌なものを感じたのは言うまでもなかった。
食事を口に突っ込んでオスカルの後に続いた。そしてなぜか、一緒に食事をしていたシウスやラウル、ファウストまでが付いてきていた。
「あの、ついてこなくても」
「面白そうだから来たまでじゃ。気にするでない」
ニヤリと笑うシウスからは、本当に言葉通りのものしか感じない。ものすごく本心だ。
溜息をついて、そのまま一階にある荷の受取所までくる。ここには手紙や荷物が集められる。一度ここにきて、より分けてそれぞれに運ばれるか知らせがいく。中には不審なものもあって、そうした物はここで検閲が入るのだ。
ランバート宛に届いたという荷物は、大柄な人間が手を一杯に広げてやっとの大きな箱だった。
「大きさに比べて、重さがないんだ。中身も何かわからないし、音もしない。硬い物が入っている様子もなくてさ。宛名からして危険な物は入っていないとは思うけれど、万が一ヒッテルスバッハの名を語って送られてきていたらまずいからさ」
確かに箱の大きさに比べて、荷物は軽く音もしない。宛名は確かに実家からだった。
「開けますね」
ちょっとドキドキしながら箱を開ける。みんなが怖々と中を見て、次には目を丸くした。
「毛糸?」
「すごい量だよ!」
箱の中はたっぷりの毛糸だった。しかもご丁寧に編み棒や備品まで入っている。一番上には手紙が、丁寧に封筒に入って封蝋までされておいてあった。手を伸ばし、ランバートは中を読んでがっくりと肩を落とした。
『ランバート、あと一ヶ月で聖リマの日じゃない? 私のお友達三人と、旦那様にマフラーを送りたいの。手伝ってくれるかしら?
貴方の母より』
「母上……」
手紙を横合いから読んでいたシウスとファウストも苦笑している。オスカルは一応不審物が入っていないか、箱の中を丁寧に漁っていた。
「本当に毛糸ばかり。すごいね、質もいい。これ、高いんじゃない?」
「母が選んだものなら、おそらく」
言いながらも、頭の中では期限内に品を仕上げる算段だ。デザインを工夫しないと、一ヶ月に四つのマフラーなんて仕事しながらだと難しい。
「一ヶ月でマフラー四つは、大変じゃない?」
「頑張ればなんとか。友達三人は多分女性だから、色違いでデザインを同じ物にしよう。父上の分は……時間をみてだな」
「お前、やるつもりなのか?」
目を丸くしてファウストが言う。少し咎めるような色があるが、これはもう仕方がない。手紙の最後に付いているキスマークを見ると、逆らえなかった。
「ここ、キスマークがついてるじゃないですか。これの威力を知っていれば大人しくやる方が得策だと思えますよ」
「キスマーク?」
シウスが手紙を覗き込む。そこには赤い口紅のついたキスマークがある。色と数が重要なのだと、ランバートは皆に言った。
「母上は本気の手紙にキスマークをつけるんです。できなかったら後が怖い。きっと呼びつけられて、『このくらいのお願いも聞いてくれないほど、お仕事忙しいの? 大変なら、辞めてもいいのよ?』という脅しが」
「そんなの!」
「母のキスマーク付きの手紙を貰った父は、他国からすっ飛んで帰ってきます。父を従わせる事ができる唯一の人なんですよ、母上は」
「陛下でも易々とは従えられないヒッテルスバッハ公爵を。恐ろしいものぞ」
シウスが半笑いになっている。その場がなんだか凍り付いたようになった。
「まぁ、仕事に影響のない程度にやります。ですが、しばらくはお誘いには乗れません。すみませんが、今日のお誘いはお断りしますね」
「仕方がないの。だが、このような道具でマフラーができるのかえ?」
物珍しい様子でシウスが編み棒を取り上げる。それに、ランバートは頷いた。
「これで編むのですよ。この棒が二本あれば、結構色々できます」
「面白いものよ。機会があれば、是非見てみたいものだ」
編み棒を箱の中に戻して、シウスが言う。知らない事に興味があるのだろうか。
「では、俺はこれで失礼します」
「あっ、僕も運ぶの手伝うよ!」
ラウルが箱を持つのを手伝ってくれる。正直これには助かった。一人で持つには大きな箱だが、二人なら楽だ。
そうしてラウルと二人、部屋に大きな箱を運び込む事ができた。
「ランバート、今日は私の部屋で飲むぞ。お前も来るであろう?」
「シウス様、またですか?」
明日は安息日。その前日はなんだかんだと理由をつけてシウスが誘ってくる。最近オスカルが連れないからだろう。
「オスカル様に恋人ができたからって、俺を誘わなくてもいいでしょ」
「別に、そういうことではないわ。それに今日はオスカルも来る」
案外寂しがり屋の上官は、ちょっと拗ねたようにそう言った。
「ファウストも来るであろう?」
隣で夕食を食べているファウストが、嫌な顔をしながらも溜息をつく。この人も付き合いのいい人だから、なんだかんだと拒否しない。
「少しだけなら付き合う」
「良い返事じゃ」
満足そうな顔をしたシウスは、早速今日を楽しみにしている様子だった。
その時、食堂の戸口にオスカルが立った。そして直ぐにランバート達の席に来る。食事かと思ったけれど、青い瞳がランバートを捕まえたまま動かないのを見るとそうではないようだ。
「ランバート、ちょっといい?」
「はい、なんでしょうか?」
「実は君宛に、大きな荷物が届いたんだけどね。なんだか変だから、中を確かめたいんだ。君も来てくれると助かるんだけど」
「不審物ですか? どこから?」
大きな荷物なんて、なんだろう。そんな物が届く予定なんてないし、勿論ランバートが頼んだ物ではない。首を傾げていると、オスカルは溜息をついた。
「ヒッテルスバッハの家からだよ」
その言葉に、何か嫌なものを感じたのは言うまでもなかった。
食事を口に突っ込んでオスカルの後に続いた。そしてなぜか、一緒に食事をしていたシウスやラウル、ファウストまでが付いてきていた。
「あの、ついてこなくても」
「面白そうだから来たまでじゃ。気にするでない」
ニヤリと笑うシウスからは、本当に言葉通りのものしか感じない。ものすごく本心だ。
溜息をついて、そのまま一階にある荷の受取所までくる。ここには手紙や荷物が集められる。一度ここにきて、より分けてそれぞれに運ばれるか知らせがいく。中には不審なものもあって、そうした物はここで検閲が入るのだ。
ランバート宛に届いたという荷物は、大柄な人間が手を一杯に広げてやっとの大きな箱だった。
「大きさに比べて、重さがないんだ。中身も何かわからないし、音もしない。硬い物が入っている様子もなくてさ。宛名からして危険な物は入っていないとは思うけれど、万が一ヒッテルスバッハの名を語って送られてきていたらまずいからさ」
確かに箱の大きさに比べて、荷物は軽く音もしない。宛名は確かに実家からだった。
「開けますね」
ちょっとドキドキしながら箱を開ける。みんなが怖々と中を見て、次には目を丸くした。
「毛糸?」
「すごい量だよ!」
箱の中はたっぷりの毛糸だった。しかもご丁寧に編み棒や備品まで入っている。一番上には手紙が、丁寧に封筒に入って封蝋までされておいてあった。手を伸ばし、ランバートは中を読んでがっくりと肩を落とした。
『ランバート、あと一ヶ月で聖リマの日じゃない? 私のお友達三人と、旦那様にマフラーを送りたいの。手伝ってくれるかしら?
貴方の母より』
「母上……」
手紙を横合いから読んでいたシウスとファウストも苦笑している。オスカルは一応不審物が入っていないか、箱の中を丁寧に漁っていた。
「本当に毛糸ばかり。すごいね、質もいい。これ、高いんじゃない?」
「母が選んだものなら、おそらく」
言いながらも、頭の中では期限内に品を仕上げる算段だ。デザインを工夫しないと、一ヶ月に四つのマフラーなんて仕事しながらだと難しい。
「一ヶ月でマフラー四つは、大変じゃない?」
「頑張ればなんとか。友達三人は多分女性だから、色違いでデザインを同じ物にしよう。父上の分は……時間をみてだな」
「お前、やるつもりなのか?」
目を丸くしてファウストが言う。少し咎めるような色があるが、これはもう仕方がない。手紙の最後に付いているキスマークを見ると、逆らえなかった。
「ここ、キスマークがついてるじゃないですか。これの威力を知っていれば大人しくやる方が得策だと思えますよ」
「キスマーク?」
シウスが手紙を覗き込む。そこには赤い口紅のついたキスマークがある。色と数が重要なのだと、ランバートは皆に言った。
「母上は本気の手紙にキスマークをつけるんです。できなかったら後が怖い。きっと呼びつけられて、『このくらいのお願いも聞いてくれないほど、お仕事忙しいの? 大変なら、辞めてもいいのよ?』という脅しが」
「そんなの!」
「母のキスマーク付きの手紙を貰った父は、他国からすっ飛んで帰ってきます。父を従わせる事ができる唯一の人なんですよ、母上は」
「陛下でも易々とは従えられないヒッテルスバッハ公爵を。恐ろしいものぞ」
シウスが半笑いになっている。その場がなんだか凍り付いたようになった。
「まぁ、仕事に影響のない程度にやります。ですが、しばらくはお誘いには乗れません。すみませんが、今日のお誘いはお断りしますね」
「仕方がないの。だが、このような道具でマフラーができるのかえ?」
物珍しい様子でシウスが編み棒を取り上げる。それに、ランバートは頷いた。
「これで編むのですよ。この棒が二本あれば、結構色々できます」
「面白いものよ。機会があれば、是非見てみたいものだ」
編み棒を箱の中に戻して、シウスが言う。知らない事に興味があるのだろうか。
「では、俺はこれで失礼します」
「あっ、僕も運ぶの手伝うよ!」
ラウルが箱を持つのを手伝ってくれる。正直これには助かった。一人で持つには大きな箱だが、二人なら楽だ。
そうしてラウルと二人、部屋に大きな箱を運び込む事ができた。
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