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4章:いつかの約束

おまけ1:妄想の蜜月

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 熱で浮かされる体を包む温かな腕がある。ふと見上げると、黒い瞳が優しげに、でもどこか心配そうに見下ろしている。

「平気か、ランバート」
「はい」

 そう言いながらも咳き込んでしまい、どうにもならずベッドに横たわる。風邪なんてあまり引かないから、辛いのと心細さに苦しくなってくる。

「ちっとも平気じゃないだろ。横になっていろ」

 大きな手が髪を撫で、優しくあやしてくれる。安心に自然と笑みを浮かべると、ふと唇が降りてきた。

「あの」
「どうした?」
「うつります……」

 遠慮がちに呟くと、ファウストは優しい笑みを浮かべてもう一度キスをした。

「うつすと早く治るらしいぞ」

 なんて、冗談のように言いながら同じベッドに横になる彼に、ランバートの頬は風邪とは違う熱に染まるのだった。

◆◇◆

「なんて展開、あったら面白いのに」

 ラウンジの一角に師団長一同が集まっての秘密会議の場で、ウェインはうっとりと口にする。だが、それを聞かされる他の面々は苦い笑みを浮かべた。

「いや、無いだろ」
「あったら困るな。流石に病人相手に欲情は遠慮してもらいたい」
「ウェインは意外と正統派なのですね。少し意外です」
「これが正統派なのかい?」

 グリフィス、アシュレー、オリヴァー、ウルバスの四名がそれぞれ思い思いに口にした。
 頃は年末、あと少しで新年だ。風邪でダウンしているランバートを案じていたファウストは少し前に退室し、五人は残されている。そうなると始まるのが、この秘密会議。
 題して、ファウストの恋人を見つけようの会なのだった。

「正統派というには少し語弊があるな。少女趣味がが入っている」
「そうなんだ? 正統派で、少女趣味。でも、ウェインは小さくて可愛いから、似合ってるんじゃないかな?」
「小さいって言うな!」

 すかさずウルバスに向かってクッションが飛んだが、彼も師団長だ。簡単によけてニコニコ笑っている。本当に毒抜きの上手い奴だ。

「アシュレーもアシュレーだ! いいじゃないか、妄想くらい好きにしたって!」
「それは構わないが、それを他人に披露した時点で批判があるのは当然じゃないのか?」
「んだ。第一、あの二人はそんな感じじゃないだろ」

 こんな時ばかり息ピッタリのアシュレーとグリフィスに、ウェインはキッと瞳をつり上げる。なんだかもの凄く否定されて腹が立つのだ。

「そうですね、確かにあのお二人だとそのような健全な交わりにはならないような」
「オリヴァーはどんな関係だと?」
「ばか!」

 口元に指を当てて考えるオリヴァーに、ウルバスが問いかける。グリフィスは慌てて止めようとしたが、後の祭りだ。

「そうですねぇ。例えば……」

◆◇◆

 室内にくぐもった声が響く。ベッドの上に四つん這いにさせられたランバートは、枕に顔を押し当てて必死に声を殺していた。
 形のよい指が双丘を割り、ツッと秘部に触れる。躊躇いなく一気に奥まで潜り込んだ指先が、硬いものを無遠慮に押し当てた。

「んぅ! ふっ、ううぅ!」

 突然の快楽に狂ったように頭を振り、青い瞳に涙を溢れさせるランバートを、ファウストは楽しげに見つめている。手が背を撫で、前を握った。

「んぅぅ!」

 硬く張り詰めた欲望は、タラタラと涎を垂らして解放を願っている。だが、それは無情にも適わない。根元を戒める紐を伝い、溢れ出たものがシーツを汚す。

「どこまで我慢できるか、試してみようか?」

 甘く痺れるような笑みと声が耳殻を震わせ、柔らかな唇がうなじに触れる。
 狂おしい夜は、まだ始まったばかりだった。

◆◇◆

「こんなのどうでしょう?」
「「……」」

 なんとも毒の無い笑みで披露したオリヴァーを見る全員の目が死ぬ。

「ダメですか?」
「あっ、えっと……なんて言うのが正解?」
「コメントなんてなくていい」
「ウルバス、そろそろ覚えとけよ。こいつ、綺麗な顔して性癖に難ありなんだって」

 困ったように助けを求めるウルバス。一言で切り捨てるアシュレー。がっくりと肩を落とすグリフィス。そんな彼らを見て、当のオリヴァーは不思議そうな顔で首を傾げた。

「でも、ファウスト様って案外Sの気がおありじゃないかと。ランバートだって、あの人に求められれば応えそうですし。それに、あの二人ならどんな過激な絡みでも耐えうる画力がございますよ?」
「秘め事とは秘めてなんぼだ。誰が画力の話をした。オリヴァー、お前はそれだから相手ができないんだぞ」
「アシュレーだっていないではありませんか。それに、ここに集まる誰にも、決まった相手などおりませんでしょ?」

 ごもっともな事を言われて、全員が苦笑してしまった。

「そういえば、ウェインはどうしました?」

 ふと、さっきから言葉のない青年を思い出して全員が視線を向ける。
 ウェインは一人顔から湯気が出そうなほど赤くなっていた。

「あー。もしもし?」

 グリフィスが声をかけるも、真っ赤なままキョロキョロしている。もの凄くいたたまれない様子で。

「どうしたの、ウェイン? もしかして、飲み過ぎた?」
「ちっ、違う! 僕はそんなっ。そんな遅れた子じゃ!」

 心配そうなウルバスの手をはねのけて、ウェインは数歩下がって背を向ける。察しの悪いウルバス以外は、何事か分かった様子だった。

「うんうん、ウェインにはちと刺激が強かったよな」
「違う!」
「まぁ、中身が純粋かつ少女趣味だからな。こんな歪んだ愛情表現は理解が難しいだろう」
「違うって!」
「ウェインは本当に可愛らしいですからねぇ」
「ちがーう!!」

 叫んだ声は花火の音にかき消える。宿舎で新年を迎えた隊員達が一斉に外に飛び出し、祝いの花火を見上げている。
 騒いでいた五人も外に出て空を見上げた。

「明けたな」
「そうだね」
「昨年も色々と、忙しい日々でしたねぇ」
「今年はもう少し落ち着いてもらいたいんだがな」
「無理な事言わないように」

 それぞれが思いを口にして笑い、拳を合わせた。

「「今年も一年、よろしくお願いします」」
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