上 下
59 / 167
3章:How about tea?

おまけ1:オスカルサイド

しおりを挟む
 手に触れる肌は滑らかで心地いい。響く声は控え目で、その押し殺したような響きが余計に腰に疼く。彼は分かっているのかな? 自分がこんなにも男を欲情させ、何気ない仕草で煽っているなんて。

「綺麗な肌だね」

 口づけて、指で触れて。震える体が可愛くて愛しい。本当に、変な感じだ。誰かをこんなに求めて、もう五年以上がたつなんて。
 彼を見つけた時に、とても惹かれた。控え目で、でも強い目をしていた。少し話をすると、もっと欲しくなった。知りたくなった。知ったらもっと、沢山の顔を見てみたくなった。
 残念なのが、彼にその気がないこと。襲うことも考えなかったわけじゃない。でも、それでは手に入らないものがある。笑いかけてもらえなくなる。それはとても寂しい。
 そこで気づいた。彼に好かれたいんだと。欲しいのは体じゃなくて、気持ちなんだと。
 本当に驚いた。そんなの面倒だって思っていたから。
 五年。飽きっぽい性格を考えると、この年月は快挙だと思う。

「誰も、この体には触れていないでしょ?」

 そんなの分かっている。だって、散々牽制しまくったんだから。
 エリオットは自分の人気に気づいていない。綺麗な容姿だし、直接肌に触れる事も多い。何より怪我をした時に世話になる人だ。弱った時に触れる人だ。だからか、彼はとても人気がある。
 分かってないんだろうな、無防備にして。本当に骨が折れた。
 「勿論」と答えたエリオットに、オスカルは満足な顔で笑った。

「それ、最高に嬉しい」

 彼に触れる最初の男である悦びが、胸の底からわいてくる。ゾクリとするほどの心地よさに体を震わせる。
 知っているのかな、彼は。こんなに深い感情があることを。欲があることを。自分でもコントロールできないくらい、誰かを求める気持ちがあることを。それを、向けられていることを。
 大事にしないと。泣かないように、傷つかないように、悲しまないように。君を手にした今、一番は君になった。陛下でも、自分でもない。

「ねぇ、考えた事あった?」
「なにを、ですか?」
「こんな風に、僕と抱き合う日を想像したことある?」

 まぁ、ないだろうな。彼は鈍いから。多分、気づいてもいないだろう。そうは思っても、首を横に振られるとちょっとショックだ。

「僕はね、ずっと考えてたんだよ。いつかエリオットを抱きたいって、思ってた」
「え?」
「好きなんだから、当然でしょ? 好きな人の肌に触れて、気持ちよくなりたいって思うのは普通だよ」
「そういう、ものですか?」
「違うの?」

 エリオットは淡泊な人だとは思っていたけれど、まさか想像すらしてもらえてないとは。なんだか少し寂しかった。

「エリオットは、僕とどんな事をしたいの?」
「え?」
「それも、想像してなかった?」

 聞いてみたい。彼が何を考えているのかを。彼の希望を。
 彼を見てきた。だから分かった。エリオットが好いてくれた事を。嬉しかったけれど、怖かった。分かったからって簡単に手なんて出せない。不用意に触れたら逃げられてしまう。だから、待っていた。

「できれば……」
「できれば?」
「一緒にお茶のお菓子を選んだり、揃いのカップを選んだり。そんな事ができればいいなって、思う事はありますが」
「そんなのでいいの?」
「私には、贅沢なくらいです」
「もう、エリオットは可愛いね。そんなのすぐに叶えてあげるよ」

 そう、それもいい。彼と歩く街は楽しい。二人で選ぶ物を増やして、共にある時間を育てて。そうして歩む道を積み重ねていければ、多分幸せなんだ。
 オスカルは笑う。揺らがせない未来を誓って。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...