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20章:サバルド王子暗殺未遂事件

1話:異国の客人(リッツ)

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 帝国にも徐々に春の気配が近づいた三月。ベルギウス本邸では穏やかなお茶会が開かれている。
 出席者は四名なのだが、うち一人は決してこれに参加しない。いつも主人の斜め後ろに立っていて、座りもしない。
 頑健そのものの肉体を今は帝国の衣服に包み、癖の強い長い黒髪は邪魔にならないようにと細くサイドを編み込んで後ろで束ねている。彫りの深い野性味のある目元、厚い唇はセクシーで褐色の肌ともマッチしている。が、瞳の色は綺麗な青だ。

「ジャミル、お前も参加していいんだよ。ここは安全だから」

 彼の主人が少々困ったように苦笑して、背後の従者にそう促している。が、この従者は頑固でこの説得が成功した試しがない。

「俺は従者なので、ここに混ざることはできません」
「うーん、困ったな」

 苦笑する青年はこの従者とはまったく逆の印象を受ける青年だった。

 白磁のような白い肌に、整った愛らしさも残る顔立ち。小さく丸い顔に、大きな目、柔らかそうな頬に薄紅の唇。縁取る黒髪も顎の辺りで整えられた真っ直ぐなもので癖がなく、サラサラと揺れている。身長もそれほど高くはなく、体つきも細く柔らかそうである。そして瞳は右が綺麗な金色で、左が翡翠の色をしている。

 この両名が同じ国、同じ民族である事がまず信じられない程に両者は違うのだ。


 サバルド王国が内戦状態に入って既に一年以上になる。その間、リッツも彼の国との交易が上手く出来ずにいる。今は新規開拓したジェームダルとの交易があるからここの損失はカバーできているのだが、それ以上に従業員などがどうしているかが心配だ。
 一応定時連絡を部下からいれさせていて、それによると大丈夫らしいのだが。

 それと同時に、とんでもない人物が手元に舞い込んできた。
 ジャミルの主ラティーフはサバルド国の第三王子。そして、現在唯一生き残った王子でもある。
 内戦が激化する最中国外へと従者一人を伴って逃げてきた彼が頼ったのは、帝国にいるリッツだった。
 元々サバルドでの商売に手を貸してくれていた縁もあり、父と兄を説得してこの屋敷に匿っている。これももう一年近い話だ。
 現在この本邸はベルギウス家が抱える私兵と、ヒッテルスバッハ家の暗殺者がこの要人を守り、かつ騎士団が見回りをしてくれる。ちなみにヒッテルスバッハの暗殺者が誰なのかリッツですら分からないのが恐ろしい。使用人に紛れているらしいのだが……。

 そして懸念はもう一つ。どうやら彼らは何十年も前に姿を消した前王の忘れ形見を探しているらしいのだ。
 現在の内戦も前王を支持する派閥と現王を支持する派閥の戦い。前王は大らかな人柄で締め付けも緩かったが、現王は過激で争いを好む傾向がある。これに不満を持った者が戦っている状態だ。それも鎮圧されようとしているが。
 何がって、この『前王の忘れ形見』こそがリッツの恋人、グリフィスなのが問題だ。彼らが遺児を見つけて何をしたいのかは分からないが、現状いいことはないように思う。
 何よりグリフィスは今の生活を気に入っている。今更捨てた故郷の事に煩わされるなんて嫌だろうし、それで二人の関係が変化するのも嫌だ。

 グリフィスが好きだ。だから、今の幸せを大事にしたい。


「ラティーフ様、これが彼の仕事なのですから」

 車椅子の兄フランクリンが苦笑してラティーフを宥める。その雰囲気は以前とはまったく違っていた。


 兄フランクリンは誘拐事件の後、車椅子での生活となった。折られた左足は幸い切らずに済んだが、感覚が鈍く力が入らず歩けない。杖をついてもバランスが上手く取れないレベルで障害が残ってしまった。
 兄の性格を考えると余計に落ち込んで塞ぎ込み、最悪引きこもってしまうのではと心配したのだが、そうはならなかった。
 父アラステアが戻ってきたフランクリンを抱きしめ、謝った。そして落ち着いた頃に真剣に話をして、フランクリンを正式な跡取りとして改めて認めたのだ。

 これによって、フランクリンは自信と安定を取り戻した。そうしたら、彼のいい部分が表に出るようになった。
 元々努力家で分析力があった。商人はその場の機転や人物観察、状況を肌で感じる力と大胆さが必要だが、その反面冷静な分析も大切になってくる。フランクリンはこの冷静な分析、マーケティング力と広報活動の能力があったのだ。
 今までは自信がなく、思っても口にしなかった。が、自信がついた彼は徐々にそれらを口にするようになって当たりを引き、それが更に自信となっていく。
 現場での事はリッツが得意だし、これは足の悪いフランクリンには辛い仕事。こちらはリッツが請け負う事にして、フランクリンはそれらを効果的に宣伝し、見せ、分析をして次へと活かす事に専念をする。現在これで商売は繁盛中だ。

 そうして現在、フランクリンはほぼ無敵状態になっている。アラステア相手にも物怖じする事がなく、顔を真っ直ぐに上げて正論と無理難題を織り交ぜてプレゼンし、父を困らせている。
 「あいつ、今になって反抗期なのか? 手に負えない」と、父は酒を飲みながらリッツに嬉しそうに愚痴る。そういう顔を見るのが、最近はとても平和に思えている。


 お茶とお茶菓子が運ばれ、それまで控えていたジャミルが前に出てお茶を一口。そして、菓子を一通り食べる。これはもう職業病だから止めないが、ラティーフなどは眉根を寄せている。ようは、毒味だ。

「ジャイル、ここではこんな事しなくていいんだよ。フランクリンさんやリッツに失礼だ」
「念には念をと申します。勿論最低限です。これが国内であれば、もっと慎重にしております」
「ジャミル」
「構いませんよ、ラティーフ様。先程も申しましたように、これが彼の仕事なのです。そして、貴方を思う気持ちと思っております。こちらとしても一から十まで自分たちでやらない以上、不測の事態が全くないとは言い切れません。貴方に何かあっては国際問題どころの話ではございませんので、慎重であることは良いことかと」

 にっこりと微笑むフランクリンが紅茶に口をつける。自らも毒味の真似事をする事で安全であると証明するあたり、この人も大胆になってきた。昔の臆病など今は見えもしない。
 案外、アラステアにこの人は似てるのかもしれない。

「さっ、お茶にしよう。ラティーフ様も」

 リッツの方は明るく、少し崩して。以前から知り合いな分だけ気安く、またラティーフ本人から「もっと砕けた感じがいい」と言われてしまった。ジャミルも主人がそう願うのならばと容認してくれている。表では無理だが、屋敷にいる間はまるで友人のような感じだ。

「帝国のお菓子はとても甘くて美味しいですね」
「砂糖が取れますからね」
「羨ましい。私の国でも農業改革を行って、もっと沢山の農作物が取れれば豊かになるのに」

 手元にあるのはフィナンシェ。砂糖もバターもたっぷり使っている。これを手にして、ラティーフはどこか思案顔になっている。

 サバルドは国土こそ広いが、まだ未開拓の場所が多い土地でもある。そして、とても貧しい。
 富は一部の貴族や王族、大商人のものであり、その他大勢は今日の食事すらも選べない。治水も地方に行けば劣悪で、大雨が降れば川が氾濫、乾期になれば不足する。また、清潔な井戸が掘られていないせいで水に当って命を落とす子供もいる。未だ原生林も多く、それ故に病気も多い。
 この事態に国はほぼ何もしない。それぞれの土地を治める王子が有能であるか無能であるかが、ある種そこに住む住民を天国か地獄かに分けている。
 ラティーフは有能な王子で、彼の治める土地はサバルドで一番安全で豊かでもある。労働に対して正当な報酬がしっかりと支払われ、だからこそ住民はやる気を出して土地を耕し開墾していく。技術や知識の出し惜しみをしない彼は既に未来の賢王と期待されている。
 が、彼の父や兄達はこれが面白くなかったのだろう。不仲だった。

「帝国に来られたのは、幸いでした。この国の優れた治水や農業を学ぶ事ができました」

 菓子一つを摘まみながら語るラティーフの目は憂いを帯びてはいるものの、悲観や絶望はしていない。むしろこれからの情熱をひっそりと温めているようでもある。

「学者や研究者は、貴方様の勤勉さに心打たれておりましたよ。このように真剣に話を聞き、学んでくれる学生は少ないと」
「真剣ですとも。彼らの貴重な知識の一つ一つが、我が国の民を救う手立てになるのですから。せっかく時間を割いて教授してくれるのです、無駄にはできません」

 やや恥ずかしそうにしながら言うラティーフの勤勉さは、側にいたリッツも納得のものだった。

 この国に来て、ラティーフが陛下に願ったのは帝国の優れた知識を国の為に役立てたいとのことだった。治水、農業、そして他国よりも進んだ医学の意識。これらを一つでも多く国に持って帰りたいと願った。
 勿論タダではない。将来ラティーフが王となった時にはより強い国交を結び、交易を強化していく。手つかずの原生林は未発見の薬草の宝庫。更にこの国の絹織物の美しさはリッツが自信を持って売り込める。そしてこの国は多くの宝石の鉱脈が眠っているのだ。
 ラティーフが王になった暁にはこれらの物品の交易を強化すること。この国からの研究者を快く受け入れてくれることが約束された。

「……早く、国に戻らないと。私の領地も心配です」
「ラティーフ様」
「国情は、一体どのようになっているのでしょうか」

 不安そうに大きな瞳を揺らす彼に、リッツはなんとも言えない顔をするしかなかった。

◇◆◇

 お茶会を終えて自分の店舗兼別宅へと戻ってきたリッツは思わず溜息をつく。
 現状、旧王権派が劣勢。そろそろ決着が付くのではないか? という報告が入っている。が、その報告を受けたのは二ヶ月も前の事だ。二ヶ月あれば状況は変わってくる。既に決着がついているのか、また激化しているのか。何にしても武に長けた現王派の優位は変わらないだろう。

 が、違う話も入ってきている。現王が新しく若い妃に子を産ませているというのだ。既に男児があるという話もある。つまり、ラティーフの弟にあたる。
 帝国では年功序列ではないが、先に生まれた男児が基本的には跡を継ぐ。長子に何かしらの不具合がなければ順当なものだ。
 が、彼の国は違う。全ては現王の気分しだいな部分があって、現在王位継承権一位のラティーフも静観はできない。現王が存命中に幼い弟に王位を譲ると正式に発表してしまえば、現王がこれを撤回しないかぎりラティーフに王位が巡らない。
 辛い事に、ラティーフは父親である現王とは不仲だ。

 リッツとしてはラティーフを推したい。彼が王になればあの国は変わって行くと確信できる。が、たかだか商人でしかないリッツが何を言ってもどうにもならないのだ。

 疲れた溜息が出る。そこに、来客を知らせるノッカーの音がして、リッツはピンと背を伸ばした。

「おーい、リッツ?」
「今開けるよ!」

 久々に聞く声に体ばかりかアソコまで元気になってくる。ルンルンとドアを開けたその先にいるグリフィスに、リッツは思い切り抱きついて匂いを吸い込む。男臭い匂いに体の芯が熱くなって頭の中がクラクラする。性欲を忘れるくらい多忙だったものが、一瞬でスイッチ入った感じがした。

「あ……グリフィスだ……やばい、匂いだけでイキそう」
「おーい、まだドア開いてんぞー」
「公開オナでもいい。グリフィスの股間にむしゃぶりつきながら触らずイケる自信ある」
「変態やめろ。とりあえず中に入れろっての」

 でも、そのくらいには体が熱いのが現状だ。既にイク気満々な息子が切なく訴えている。

 場所を譲ってドアを閉めたグリフィスの背中にまた抱きついて、リッツはグリグリと頭を擦りつけている。

「参ってるな」
「会えないのが辛い。ほぼずっと王都にいるのに、前に会ったの一ヶ月以上前だし。ラティーフ様の事は好きだけど、グリフィスに会えないのは辛い」

 素直な弱音が零れるリッツの頭を、グリフィスは優しく甘やかすように撫でた。

 グリフィスがサバルド王国の元王子ということは隠したい。
 これはグリフィス本人、騎士団、そしてカールも共通している。グリフィスの血筋、彼の国の現状、両方を見て知られる事は面倒になるとの判断だった。
 リッツもこれには賛成だった。グリフィスは今の生活が好きなんだろうし、似合っている。今更捨てた故郷に未練もないだろう。
 ただそうなると、彼の特徴的な容姿が完全にアウトだった。癖の強い黒髪、頑健そのものの体躯、肌色も褐色まではいかないがやや浅黒い。何より王族に見られる野性味のある金の瞳。これを見られたら間違いなくバレてしまう。
 その為、絶対に見られてはいけないとなり、グリフィスと会わないようリッツがラティーフ達の予定を逐一騎士団に伝えている。
 そしてリッツとの逢瀬も回数をもの凄く減らした。月に一度程度、安息日前日に通ってくれるだけだ。

「とりあえず挨拶代わりにしゃぶらせて。そしてウェルカムドリンク希望です」
「お前……それで仕事に支障ないのか?」
「グリフィスの匂い嗅いだら一気にスイッチ入っちゃったの!」

 がっついてるのも分かっている。変態なのも知っている。でも、グリフィスだけと決めたんだからどうにもならない。他で発散してないのをむしろ褒めて欲しい。

 苦笑したグリフィスが椅子にどっかりと腰を下ろして足を開く。これはつまりいいということだ。飛びつくように側に行くリッツを掴まえて、グリフィスが深くキスをしてくれる。
 肉厚な舌が器用にリッツを掴まえて絡めて吸って。それだけで頭の中が痺れそう。腰がガクガクする。
 腰に回された力強い腕の感触、高い体温、匂い、舌の熱さに混じる唾液。それらを嚥下するだけでおかしくなりそう。枯渇状態まで性欲を忘れた生活で、体も気持ちも限界だったに違いない。

「まずはキスくらいさせろ。久々だろ」
「グリフィスぅ」
「なんだ?」
「……出ちゃったぁ」
「はぁぁ?!」

 我慢しようとした。でも無理だった。ほんの少しグリフィスの体に先端が触れて擦れただけで達してしまった。
 気持ちの悪い股間を摺り合わせて泣きそうなリッツにグリフィスは盛大な溜息をつき、そそくさとズボンを剥ぎ取ってしまう。イキ癖のついただらしない愚息は多少萎えたものの、またすぐに反応しそうな気がする。

「マジかよ……自分でしてたか?」
「してない。ってか、自分の商売と実家の商売とラティーフ様とで一杯で忘れてた」
「マジかよ……」

 頭を抱えるグリフィスを見ると不安にもなる。性欲強すぎて離婚、なんて笑えない。
 オロオロと泣きそうなリッツを前に、グリフィスは懐からケースを取り出して銀の輪っかを取り出した。
 下手をすると痛いくらいイキ癖のついているリッツが後々辛くないようにと、グリフィスがくれたコックリング。大変そうな時はこれを結婚指輪よろしくカリ首に付けて貰うのが行為前の儀式でもある。
 すっかり手慣れた感じではめ込まれた細いリングが程よく締め付けて、完勃ちすると少し苦しいけれどその苦しいのも癖になる。恍惚の眼差しを向けるリッツに、グリフィスは困った笑みを浮かべた。

「飯は食ったのか?」
「食べた! でも夜食も用意してある」
「とりあえず満足するまでヤるか。で? ウェルカムドリンクか?」
「欲しい!」

 座り直したグリフィスの股ぐらに膝立ちで座り込みいそいそと雄々しいものを取り出すリッツの手に、重量のあるそれがお目見えする。まだ半勃ちなそれは蒸れた雄の匂いがして、それだけで腹の中がキュンと締まって切なくなってしまう。

「頂きます!」

 ぱくんと口に含んだ熱い肉棒に唾液を絡めてすすり上げれば匂いも味も染みてきて……あっ、中イキしそう。
 腰が自然と揺らめいて、腹の中が熱くて、切なくてたまらない。腰も背中も痺れて、期待だけてもうリングが苦しいくらいに膨らんでしまう。
 早く欲しくて性急に、でも丁寧に高めて行けば口の中のそれは大きく張って硬くなっていって、先走りもドンドン溢れてくる。一滴たりとも無駄にしないと飲み込むと、また腹の中が熱くなっていく。

「んぅ、ふっ……んぅぅ……」
「お前、本当に俺のを咥えたままイキそうだな」

 呆れているが、愛しさも滲む雄々しい声が頭上でする。大きくてざらりとする手が背骨の辺りを撫でるだけで、リッツは目の前に星が飛んだ気がした。

「はぁ、あっ……イッ……」
「いいぜ、好きにしろよ。今更お前の痴態にとやかく言いやしねーんだ、気が済むまでやっていいぜ」
「はむっ、んぅぅ、ぐっ……っむぅ」

 深くまで咥えこんでもグリフィスのは全部入らない。喉の奥まで押し込んで、苦しいのに気持ちがいい。
 その間にグリフィスの手はリッツの背中を撫で、更に前に伸びて乳首を摘まむ。触られてもいないのに、布越しでも分かるくらいに尖った先端を強く捻られて、リッツは見事に中イキを決めて腰をカクカクと降った。

「っ! イッたな」
「あぅ……グリフィス……」
「二階上がるか?」
「飲みたい」
「はいはい」

 ヤバい、頭の中焼き切れそう。余韻の残る痺れた体で更にグリフィスの股間にしゃぶりついたリッツはそのまま体ごと上下して扱きながら筋や玉も刺激する。
 少し掠れた低い声がまた脳を揺らす。感じてくれているんだと分かると嬉しくて、俄然やる気にもなる。パンパンに張ったものは口を大きく開けていなければ入らない。それを一杯に喉まで入れながら、リッツは最後とばかりに吸い上げ、舌を絡め、嘔吐きそうなほど奥まで押し込んだ。

「リッツ!」
「んぐ! うっ……ごっ、ぐふっ!」

 髪の毛をクシャリと掴まれ、そのまま胃へとダイレクトに流し込む勢いで飲まされた白濁に頭の中が点滅して体が痙攣する。コックリングが痛いくらい締まったまま、それでも出している感覚がある。上から流されて、下では出して床を汚していく。

 引き抜かれたリッツはぼんやりとグリフィスを見上げる。雄々しさに色香が混ざってもうもみくちゃに抱かれたい気持ちになる表情。実際引き抜かれたグリフィスのそれは直ぐにでも次ができそうだ。

「大丈夫か?」

 だらしなく開いたままの唇をざらりとした指がなぞる。それだけでも体が震える。見下ろせばやっぱりイッていた。ポタポタと落ちた白濁が床に散っている。

「本当にずっとしてなかったんだな」
「んっ。だからグリフィス、今夜も明日も俺を抱き潰して。すっからかんになるまで出して、その分グリフィスのでお腹いっぱいになりたい」
「お前言い方。まぁ、俺もそのつもりで我慢はしてきたからな」

 意外な言葉。我慢してくれていたんだ。
 されるキスの熱さにまたクラクラし、抱き上げられる体の浮遊感に身を任せ、リッツは濃厚な一夜を心ゆくまで堪能することにしたのだった。
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