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19章:建国祭ラブステップ
17話:ゆったり温泉物語
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新年一日。
朝早くに宿舎を出たシウスとラウルはラフな格好で温泉地を目指した。荷物も殆ど持たずの旅はとても気楽で、ラウルはウキウキとシウスの隣に並んでいた。
「随分楽しそうだなえ、ラウル」
「そういうシウスだって、とても楽しそうですよ」
逆に指摘すると、シウスはにっこりと微笑んだ。
「当然ぞ。其方とこうして旅行というのは久しく無かったからの。心も浮き立つというものじゃ」
そんな風に素直にされると……少し恥ずかしいというか、目を見られない。心臓がドキドキしてしまうのだ。
「なんじゃ、今更恥ずかしがって」
「だって、普段あまり素直に言わないじゃないですか」
「ふふっ、私は素直が苦手故な。だが、其方の前では割と素直なほうぞ」
ニッと悪戯っぽく笑う人を照れたまま睨むと、大いに笑われる。夫婦になって、ちょっとずつ距離が近くなって、そうしたらお互い繕わなくなってきた。
それがなんだかムズムズして……同時に、嬉しかったりするのだ。
以前ランバートとファウストも桜の季節に来たことがあるという温泉地は、今は新年の祝いで朝から賑わっている。店先にはその店自慢の品が並び、温かな飲み物が配られている。
馬屋に馬を預けたラウルとシウスは連れだって、メインストリートを歩いた。
「凄い、賑やかだ」
「よいな。丁度朝も軽くしか食べていない。昼には少し早いが、たまには食い歩きでもしようか」
ご機嫌なシウスが店先を覗き、美味しそうなパンの前で足を止める。ラウルもその隣に並ぶと、可愛らしい動物の形をしたジャムのパンが並んでいた。
「いらっしゃい。お一ついかがですか? 温かいミルクもありますよ」
茶色の髪をお下げにした少女がにっこり笑ってお勧めしてくれる。ウサギにネコ、クマもある。中身は苺ジャム、マーマレード、クリームらしい。
「可愛いですね。それに美味しそうです」
「うむ……だが……」
「だが?」
「……食うのが可哀想になってしまう」
本気の顔でそんな事を言うシウスに少女もちょっと驚いて、その後で笑った。
「お兄さん、とても優しいのね」
「シウス、これパンだよ」
「分かっておるは! うっ、恥ずかしい……」
顔を赤くするシウスにラウルは笑って頷く。そしてお店の中を指した。
「それなら、お店の中を見ようよ。中のパンも美味しそうだよ」
「新鮮野菜と自家製燻製ハムのサンドイッチがおすすめです」
「お姉さん、商売上手。でも美味しそうだね」
シウスの腕を引き、ラウルは店の中へ。そこで少女の勧めてくれたサンドイッチと、普通の丸いジャムパンを買った。サービスにホットミルクもついて、二人はそのまま教えてもらった公園の方へと足を向けた。
公園には小さな露天がいくつも出ていて、新年のバザールが開かれていた。
その一角にあるベンチに腰を下ろし、パンを食べる。シャキシャキのレタスとトマト、塩味のきいた燻製ハムがとてもいいバランスで美味しい。
隣ではシウスが美味しそうにジャムパンを食べていた。
「美味しいですね」
「うむ。このジャムは本当に美味い。ちゃんと生の苺から作られておる」
「ジャムってそんなに保つんですか?」
問うと、シウスは頷いた。
「砂糖を多めに入れると日持ちがするが……これは少し違うような」
「温泉の地熱を使った栽培が盛んなんだよ」
不意に声を掛けられて見上げると、果物の飴を売り歩いている老人がにっこりと笑っていた。
「ここいらは保養地で、温泉地。土の温度も他より高い。それを利用して、土が凍らないようにしておる。その苺のジャムも、そうして作られているはずじゃ」
「ほぉ、それは知らなんだ」
満足そうに食べるシウスを、老人も楽しそうに見ている。ラウルは自分のサンドイッチを食べ終え、あんまり美味しそうにシウスが食べるものだから苺が欲しくなって老人の売る苺の飴を一つ買った。
軽くお腹に入れたラウル達は公園を少し歩いて露天を覗いてみた。食べ物が多いが、中には布小物を扱っている店もある。流石に愛らしすぎて買えないが、こういう物を見ているのは好きだ。
露天を離れると次には何やら面白い場所に出た。
用意された広い場所には沢山の雪だるまが置かれている。結構しっかりした雪だるまは色んな姿をしていた。
「雪だるまコンクール会場?」
「見よラウル、アレはコックではないかえ?」
「え?」
シウスが指さす方を見ると、確かに白い前掛けとコック帽をつけた雪だるまが真剣な顔をしている。
「あっちは、カフェ店員ですね」
「うむ。茶色フリル付きの前掛けに可愛らしいカチューシャじゃ」
「あっちは……美容師?」
「あのハサミ、木で作ってあるのかえ。ようできておる」
吸い込まれるように通りへ。小さな木製の鍬を持つ雪だるまはわざと頬に土をつけていたし、ケーキ屋の雪だるまは玩具のケーキを持っていた。
「面白い催し物じゃ。ふふっ、良いの」
「はい」
にっこり笑って最後の雪だるまを見たシウスとラウルは、思わず立ち止まった。
そこにあったのは、黒いマントをつけ木製の剣を携えた、凜々しい騎士の雪だるまだった。その前では子供達が楽しそうにしていて、「かっこいいね」と言っている。
なんだか、気持ちが温かい。剣を持つような仕事は怖いというイメージがつきやすい。少しでも民の心が離れたら一気に転がる。
隣を見るとシウスが、とても嬉しそうに頬を染めていた。
ギュッと手を握る。それに、シウスも握り返してくれる。そうして二人、凜々しい雪だるまに騎士の礼として左胸に拳を置いて一礼した。
雪だるまの近くでは、まだ幼い子供達が募金の箱を持っている。近くにはシスターもいて、恵まれない子供達への寄付を募っていた。
よくよく見ればこの雪だるまの大半が、孤児院のチャリティーのようなものだった。
シウスは何も言わずに子供達の側へと行き、募金箱に少し多めのお金を入れる。驚くシスターや子供達に笑いかけたシウスが、ふわりと箱を持つ子供の頭を撫でた。
「楽しませてもらった。よい新年になるようにの」
「はい!」
ラウルの胸の奥もギュッとなる。自分が孤児だったから、分かるんだ。あのお金がいかに大事か。あれだけあればどれほどの子がお腹をいっぱいに出来るか。痛んだ床を踏み抜いて怪我をしたりしない。新しい服を買ってもらえるかもしれない。
こちらへと近づいてきたシウスが驚いて、軽く走るように側に来る。そして大事そうに頭を撫でてくれた。
「どうしたラウル? なんぞ、辛いのかえ?」
「いえ……違うんです、シウス。胸が一杯で……嬉しくて、僕……」
ラウルは知っている。シウスはラウルと結婚してから、王都内の貧しい孤児院に毎月少しと言って、匿名で寄付をしている。団長とは言っても給料はそれほど多くはない。贅沢はできないのに、してくれるのだ。
「僕、幸せです。シウスみたいな優しい人と一緒で、幸せです」
「うっ、うむ……少し、照れくさいの」
潤んだ目元を拭って、ラウルは満面の笑みを浮かべた。
町を楽しみ、宿に入ったのは丁度お茶の時間辺り。新年は温泉旅行などが人気で宿が取りにくいのだが、その中で案内されたのは離れの中でも奥まった、静かな場所にあった。
入って直ぐは玄関で、その脇にはウォークインクローゼット。リビングは広く開放的で、食卓用のテーブルにソファー、ラグも足に柔らかい。リビングの開放的な窓の外は個室温泉があり、贅沢に掛け流しだ。勿論フェンスも自然素材で作られていて、閉鎖的ではないがプライベートは確保されている。寝室はキングサイズ。室内風呂も完備されている。
「随分良い部屋が残っておるものだなえ」
「こちらは一定額以上の融資を頂いております方限定のお部屋でございますから」
二人の荷物を運んでくれたボーイがにっこりと笑う。彼に食事の時間を伝えると、後は二人の時間になった。
改めて室内を見回し、ソファーにも座る。ふっくら体を包み込んでくれるのに、スプリングもあるので意外と支えてくれる。
シウスはそれとは違う籐の寝椅子に腰を下ろし、そこにある膝掛けを駆けて楽しんでいた。
「よいの」
「部屋に一つ買いますか?」
「……いや、ここで寝てそのままになりそうじゃ。流石にそれは体が痛くなりそうじゃからの」
大いにあり得る。シウスはよく自室でうたた寝をする。仕事中はないが、部屋に戻ると気が抜けるらしい。本を読んでいる最中に寝てしまい、ラウルが戻って起こさないと起きない事も多い。ソファー、ラグの上など、とにかく場所を選ばないのだ。
「それに」
「?」
ニコッと笑うシウスがラウルを手招く。首を傾げながら近づくと、ギュッと首に腕を絡めて抱きしめてきて、思わず彼の上に乗っかってしまう。体温と匂いがふわりと感じられて、ちょっとドキドキした。
「これでは其方と二人で抱き合うと軋んでしまう。故に、いらぬよ」
とても幸せそうにそんな事を言われると困る。心臓が五月蠅くて、伝わってしまう。
赤い顔をしたラウルをシウスが下から見上げ、愛しげに唇を重ねてくる。触れる熱が、とても愛しくてたまらない。
「んっ……ふ……っ。シウス、これ以上は!」
「ん?」
舌を差し入れ絡めるシウスに腰骨の辺りが重くなってしまう。気持ち良くてたまらなくて、抗えなくなってしまう。だからこそラウルはシウスの胸を押して体を離した。
「良くなかったかえ?」
「いえ! その……良すぎて、これ以上我慢出来なくなってはこまると」
「ふふっ、そうさの。後二時間もしたら食事が運ばれてくる。今してしまったらそのまま寝てしまうかもしれぬしな」
「はい」
それに、今日はちょっと特別なんだから。
シウスが寝椅子から起き上がり、立ち上がる。ラウルの肩に手をかけて優しくソファーへと誘導していく。そうして隣り合って座って、こてんとラウルの肩に頭を乗せた。
「昨年も色々とあったな」
「本当に。ゼロスの失踪やら、クラウル様の襲撃やら」
「我らが騎士団は新年は厄日かえ? 日頃の行いの悪い者が多すぎやせぬか? こう毎年新年明けに事件が起る」
「すみません」
「……其方が今いてくれるなら、もうそれで良い。ただ、もうどこにも行ってくれるな。其方が居ぬと私は駄目になる」
新年早々の事件というなら、ラウルも巻き込まれている。それが切っ掛けで結婚もしたのだが……アレは未だに凹む出来事だった。
小さく笑い、ラウルはシウスの白い髪を撫でた。
「今年はきっと、大丈夫ですよ」
「……うむ、そうじゃの」
二人ともに身を預け合って、少しずつ降り始めた雪を見上げて。この何でもない時間の幸せを噛みしめながら、ラウルは穏やかに微笑んでいた。
◇◆◇
宿の食事はランバートが絶賛したとおり、とても美味しくて目にも鮮やかだった。
鮭と冬野菜のテリーヌは生の新鮮な鮭と、人参やほうれん草を使った彩りも綺麗な一品。
カブを器にした豪快な料理はカブ自体にも美味しいスープが染みこんでいて、中には旨味の染みたプリンのような物が入っていて驚いた。しかも上にはカニの身が乗っている。
カブと人参、ジャガイモを使ったクリーム煮はほっこりと優しい味わいで、大きめに切られた野菜も食べ応えがあったし、鯛のロティは上品な味がした。
お口直しにはさっぱりとした林檎のシャーベット。
お肉は大きなお皿にのった伝統的な野ウサギのパイだった。
「デザートは苺のタルトですね」
「うむ」
すっかりお腹はいっぱいなのだが、デザートだけは何故か入る不思議。タルトの中は甘さ控えめのカスタードクリーム。そこに苺が花びらのように飾られている。食べるのが勿体ないくらいだ。
「ほんに満足じゃの。頑張ったかいがあった」
「シウス、ご馳走様です」
「ふふっ、よいよい。結婚記念日を少々前倒しにした気分じゃ」
「そうですね」
とは言っても、大分前倒しな気はするが。でも、嬉しい事なら何度お祝いしてもいいものだ。ラウルは美味しくデザートまで食べ終え、すっかり満腹のお腹を撫でた。
「美味しかった」
「うむ。眠くなる前に風呂にしようかえ。雪見風呂とはまた乙なものぞ」
同じくお腹いっぱいという様子のシウスが軽く伸びをする。ラウルもこの意見には賛成だ。腹休めを少しして、二人は早速個室露天へと向かった。
外はわたの様な雪が降り始めている。それが温かな湯に落ちてじわりと溶けるのを見上げ、ラウルとシウスは近い距離で手を握り合っている。
「最高じゃ。このような時間がもっと増えるとよいのだがな」
「そのうち増えますよ」
「そうさの。帝国も大分静かになった」
しみじみとシウスが呟く。その横顔はどこか満足げで、達成感すら感じられた。
途端、ちょっと不安や寂しさもこみ上げた。ここまで駆け足できたこの人がいつ、平和な帝国を見て安心し、引退すると言うか分からない。そんな漠然とした、何の根拠もない不安が押し寄せたのだ。
「シウス」
「どうしたえ?」
「引退とか、しませんよね?」
不安に勝てずに呟くように言うと、シウスは途端に目を丸くし、次ぎに大いに笑った。
「なんじゃ、心配しておったのか?」
「だって」
「そんな事、まだまだ先じゃ。軍事の事は落ち着いても外交となればそうも行かぬ。大陸内は多少平和でも、海の向こうはまだ脅威じゃ。極端な強兵策はなくとも、一定値は確保せねばならぬでな。爺の手前くらいまでは、こき使われるつもりでおるよ」
ふわりと手が頭にのり、優しく撫でられる。くすぐったいけれど、子供扱いにも思えて複雑だ。
「それに、もしも私が予定より早く引退したら勿論、其方を連れてゆく」
「え?」
「どうした、驚いた顔をして? 其方と私は連合いぞ、共に居たいのだが」
思わず驚いた顔のまま固まったラウルに、シウスの方が不安そうな顔になる。
連合いという言葉の意味を、重さを、再認識したように思う。ラウルの中では騎士団があり、シウスとの関係がある。これが始まりだ。そこから認識が変わっていなかった。
でもシウスの中ではとっくに、騎士団よりもラウルが上になっていたのだ。騎士団を離れてもずっと一緒にと、言ってくれるのだ。
「すいません、僕……そこまで考えがいたらなくて」
「先の事だしな」
「一緒にいさせてください」
「勿論じゃ。なんなら墓も共にするか?」
「貴方がいいのなら」
「勿論ぞ」
優しい水色の目に見られ、手が頬に触れ、唇が重なる。しっとりと絡め合う舌の熱さに頭の中がボーッとする。外気の冷たさを感じているのに、体の熱さの方が勝っていく。
手が湯の中で悪戯をして、胸に触れたり太股の内側を撫でたりして誘ってくる。ヒクリと体が反応してしまう。
唇が離れ、首筋へもキスを落とされ、ラウルは甘い声が漏れるのを止められない。
「我慢しておった故、欲望が深い。其方の肌はとても甘い気がする」
「そんなことっ……ふぅ……ん」
際どいところばかりを触られ、肌が敏感に反応してぞわぞわする。期待で胸は一杯で、体の方も反応してしまう。触られてもいない部分が反応を始めるのははしたなくもあって、ラウルは困ってシウスを見てしまった。
何より今日はこのままではなく、用意したものを準備したいのだ。
「シウス、あの……」
「ん?」
「のぼせてしまいそうです、このままだと。それに……ベッドがいいです」
伝えると、シウスはふふっと楽しそうに笑って頷き、体を解放してくれた。
「確かに、のぼせてはならぬな。食後の時間も短かったから、とりあえず上がろうか」
「はい」
「じっくり入るのは明日の朝にしよう」
「いいですね」
とりあえずほっと胸をなで下ろし、二人連れだって風呂を上がることにした。
シウスには寝室で待ってもらって、ラウルは室内浴室の脱衣所に入った。ゴソゴソと隠した物を取り出して中を開けると、やはりカッと顔が熱くなるのを感じる。どんな顔でこれをつけてシウスの前に出ればいいのか、未だに分からないままなのだ。
取り出したのは、もの凄く布面積の小さいランジェリー。白の透けレースのブラジャーは乳輪部分を隠すくらいの面積しかなく、しかも乳首の部分には取り出せるようにスリットがついている。パンツも当然大事な部分を隠す布面積はなく、あそこの位置にはスリットがあってそこに愚息を通す状態。隠すどころかむしろ強調である。更にアナル部分は紐で、もう隠す意志が見られない。
「オリヴァー様はどこからこんなの見つけてくるんだろう……」
これを嬉々として手渡してくれた人を思い出し、ラウルはがっくりと肩を落とす。が! これをつけたらどんな顔をするのか。シウスの驚いた顔が見てみたいのも事実。
ラウルは意を決してそれらを手に持ち、いそいそとつけ始めた。
つけて鏡の前へ。瞬間、恥ずかしさにドキドキした。下着を着けているほうが恥ずかしいとはどういう状況だ。白いスケスケのレースは上品な花の模様なのだが、ばっちり色々見えている。上はそれでもまだ……下はどうしたらいいんだ。三角形のレースの真ん中からポロンと出ている。後ろも、ひくつく後孔が見えてしまっている。
「……凄く淫乱に見えるよぉ」
シウスが引かないか、ラウルはとても心配になってしまった。
とにかく、いきなりこれで現れたら多分引かれる。辺りを見回し、ローブを手にして羽織ると多少ラウルも安心する。そのまま戸締まりを確認して寝室に行くと、シウスは髪も綺麗に整えて待っていた。
「随分と時間が掛かっていたなえ?」
「すみません」
「よいよ、気にするな。して、何を準備しておったのだ?」
「……あー」
疑問そうに首を傾げるシウスに、ラウルは困って固まる。ローブを着て安心していたが、脱ぐのはあまりに簡単だ。
近づいてくるシウスに、ラウルは顔を真っ赤にする。堂々としている方がよかったか? 隠したら余計にハードル上がったか?
「どうした、顔を赤くして。湯あたりでもしたかえ?」
「いえ、そうじゃなくて! ……あの、今更僕の事嫌いになったりしませんか?」
「はぁ??」
素っ頓狂な声のシウスは、その後笑った。コロコロと、とても綺麗に。
「そんな事、あるわけがなかろう? 私は其方に誠の愛を誓っておる。嫌いになるわけがあるまい」
「そう、ですよね」
「どうした? 何か、あったかえ?」
今度はとても心配そうな顔をして覗き込んでくる。薄い水色の瞳が不安そうに揺れるのを見て、覚悟が決まった。こんな小さな事でこの人を不安にさせるなんてあり得ない。何より、今日はこの格好でこの人を誘ってみたいと思ったのだから。
ローブの紐に手をかけて解けば、前が開ける。更に前をスルリと開ければ丸見えになる。瞬間、シウスはもの凄く驚いた顔をして、次には林檎のように赤くなった。
「な! ラウル、それは!」
「嫌、ですか?」
「くはぁぁ!」
……崩れ落ちました。
どうにか回復したシウスだが、まだ顔が真っ赤なまま。なんとなく目のやり場に困っている彼に、ラウルはなんだか申し訳ない気持ちになってきた。
「ごめんなさい、こんな格好して、驚かせてしまって」
「いや、よい…………むしろ良いのだが、少々刺激が強くてな」
「ですよね」
やっぱり、こういうのは自分には向かないのだろう。ラウルは苦笑して下着を取ろうとした。が、その手を阻んだのは目の前のシウスだった。
「脱いでしまうのかえ?」
「え? だって」
「驚きはしたが、良いと言うただろ? 愛らしい其方も好ましいが、淫靡な其方もまたドキドキする。私を、誘ってくれているのだろ?」
ニッと笑うシウスが下からキスをくれる。触れただけ、だが次にはもう少ししっかりと。徐々に深くなると嬉しさもこみ上げて、ラウルはとろんと心地よい目でシウスを見つめた。
「そのような姿で、そのような目をするなラウル。襲ってしまうぞ?」
「はい、そのつもりです」
「では、ベッドまで運ぶとしよう」
ふわりと体が浮いて、顔が近くなる。内勤のシウスはその割にちゃんと鍛えてもいて、ラウルは昔からこうして抱っこされてしまう。最初は子供扱いと思い気に入らない事もあったが、最近ではこれもシウスの愛情故と思えるようになった。
優しくベッドの上に下ろされ、シウス自らが丁寧にローブを肩から落としてしまう。全身を見られ、恥ずかしく少し隠すようなポーズになるが、当然隠し切れてはいない。むしろ微妙な見え方で、シウスは顔を赤くする。
「それにしても、このような物をどこで手に入れたのだ?」
「結婚した時に、オリヴァー様が」
「オリヴァーが?」
もの凄く訝しむシウスに、ラウルは真実を話した。
「殿方を誘う術は多い方がいいと」
「あやつめ……」
がっくりと肩を落とすシウスだが、ちらちらと視線は下着の方を見ているのが分かる。それもまた恥ずかしいものだ。
「あの……触りますか?」
「……奴に負けるのは癪だが……確かにエロい」
「あはは」
そう言ってもらえる方が気が楽になる。ラウルは笑って隠している胸元の腕を外した。
「どうぞ」
「どうぞと言われて触れるのも妙だが……」
そう言いながらも、シウスの手は膨らみのない胸をぺたりと触る。レースの微妙にざらついた質感は直接触れている時とは違って刺激になる。何より見た目がかなり刺激的だ。
「ここにスリットがあるのか」
「あっ」
ブラの割れ目から乳首を摘まみ出され、コリコリと捏ねられる。最初から興奮気味だった体はいつもよりも早く反応して、ぷっくりと大きく硬くなってしまう。ブラから乳首だけがぷっくりと存在感を示すように突き出ているのは、酷く滑稽で淫乱に見えた。
だが、それがお気に召したのかもしれない。シウスは執拗に剥き出しになった部分にチュッと吸い付く、全部を楽しんでいるようで、腰や背をさわさわと撫でる手も熱くなっている。
「……気に入りました?」
「楽しんでおるよ」
「変態です」
「否定はできぬな」
存在を主張するように硬く赤く尖った部分を、軽く食まれ、ピリリと腰に痺れが走った。
着ている物が違えば気持ちが違ってくる。いつもよりも執拗なシウスの触れ方にラウルは興奮した息を漏らしブルリと体を震わせる。舌が乳首を舐め取りコリコリと感触を楽しんでいるのが伝わる。レースの質感も濡れて張り付いて、なんだか落ち着かない。
けれど何より落ち着かないのは下半身。三角形のレースの布きれに開いたスリットからにょっきりと生えている自身の昂ぶりは完全に硬くなって、トロトロと蜜を流してレースを濡らしている。それが肌に纏わり付いている。
「や、シウス、っ!」
「気持ちよさそうだなえ、ラウル」
「気持ちいい、けど……」
今日はやりたい事がある。けれどこのままでは流されてしまいそう。
腕をつっぱると、シウスはとても残念そうな顔をした。
「今日は僕、したい事があるんです。だから、待って」
「したいこと?」
疑問そうなシウスの前に膝を折り、屈んで、ラウルはシウスの昂ぶりを口腔に納めた。
「んっ」
この、色を含む掠れた声が好きだ。恥ずかしげに頬を染める、潤んだ瞳が好きだ。こうしているのは自分だと思うと、余計に興奮する。
自然と腰が揺れる。後孔が寂しい。紐が擦れるのがまた微妙な刺激で、たまらない。
揺れる尻を、シウスが撫でる。ビクリと震えたラウルはそれでも行為をやめない。喉奥まで飲み込み、吸いながら上下に動かすと口の中で大きく育っていく。同時に息は苦しいが、それすらもクラクラしてある種の倒錯感があった。
「ラウルっ!」
切迫した声と息を詰める音。グッと大きくなったそれがほんの僅かな間、完全に気道を封じた。それと同時に腹の中へと流れ込む熱いものを感じる。全部が、この人の匂いに包まれるみたいでおかしくなりそう。苦しいのに、幸せだ。
ズルリと抜けて、息が楽になったラウルの背をシウスが撫でる。そうして見た自身の体は汚れていた。布きれ状態のパンツはグチャグチャだし、腹には白濁が垂れた跡がこびりついている。シウスの射精に引きずられるように、ラウルもまた吐精していたのだ。
「あ……ごめん、なさい」
こんなはずじゃなかった。なんだかもの凄く恥ずかしい。思わず出た言葉だが、シウスは柔らかく笑って額にキスをくれた。
「サービスが過ぎて困るよ、ラウル」
「……貴方のお陰で、こうして素敵な新年を迎えています。だから、何かお返しがしたかった」
「そんな事を思っていたのかえ?」
シウスは驚き、次に困った顔で微笑む。そしてちょんと、また額にキスをした。
「十分じゃよ。これ以上は貰いすぎじゃ」
「でも」
「故に、ここからは奉仕ではなく、夫婦の時間としよう。私も其方に触れたい。よいか?」
「! 勿論です!」
嬉しくなって声を上げると、シウスも嬉しそうな顔をする。そして、「キスからの」と言って躊躇いなく舌を絡めるキスをくれる。
気持ち良くて、嬉しくて、背中がゾクゾクする。体中が震える。首筋に、胸元に、唇や指が滑る。小さな喘ぎ声が止まらなくて、「あっ、あっ」と漏れていくのを、シウスは嬉しそうに見ている。
吐き出した昂ぶりにも指がかかって、柔らかく上下されていく。その優しい指の感触にあっという間に上り詰めて硬くなってしまう。そして尻に、シウスの熱いものが触れてる。
「シウス」
「どうしたえ?」
「正面から、抱いて欲しいです」
股を割り開き、足を広げる正常位は腰などにも負担をかけると、シウスは気遣ってあまりしてくれない。座位やバックが多いけれど、顔が見られる正常位のほうがラウルは好きだ。
おねだりは簡単に受け入れられて、ベッドに優しく寝かされ、膝裏に腕が回り広げられる。後孔を僅かに確認し、香油を足されてぬるりと滑るそこは早くシウスが欲しいのかうずうずしている。そこに、ぴったりと宛がわれた肉杭がゆっくりと、押し入ってきた。
「んっ、んぅぅ……」
痛みなんてもうなくて、圧迫感と薄い皮膚を引き延ばされる感覚だけは鮮明に感じている。腹の中を熱い楔が埋めていくのが心地よくて目眩がしそうだ。いつも、この最初の瞬間がラウルは好きだった。
「ラウル、苦しくはないかえ?」
問うシウスの方こそ濡れた目をして少し苦しそうだ。本当はもっと動きたいし、どうしても最初は少しだけ締め付ける。
ラウルは首に腕を巻き付けて、首を横に振った。
「気持ちいい、シウス」
貴方の熱がこんなにも嬉しい。こうして抱き合う時間が何よりも愛しい。
キスをしながら緩く抽送を繰り返され、馴れた入口は素直にシウスを受け入れる。酸欠と快楽で目眩がする。腹の底が熱くて気持ち良くて、もっと奥を求めて止まない。そんなラウルの求めを知っている様に、切っ先が奥を抉った。
「あん! あっ、ふぅ!」
「よいか?」
「あっ、いい……いいよ、シウス……っ!」
涙がこみ上げて、腹の中が疼く。締め上げるようにシウスの存在を感じている。
でもシウスは困ったように息をつめている。どこか苦しそうでもあって、でも目が離せないセクシーさも感じる表情だ。
「急に絡みついてうねる……ラウル、気持ち良いの」
「気持ちいい、シウスぅ!」
「私も気持ちいい…………っ! すまぬ、限界じゃ」
グッと膝を深く折られ、本能的で性急な攻めにラウルは喘いだ。一突きごとによい部分を抉られてビリビリ痺れて嬌声を上げている。目眩がしそう、気持ち良くて。キスをして、体の全部でシウスを感じて、ラウルは幸福なまま果てていった。
息が全然整わない。余韻が長くてまだ呆然としている。後孔から漏れるシウスの愛の証が、なんだか勿体ないと感じている。
シウスは少しして立ち上がり、ラウルの恥ずかしい下着を取り払うと体を拭いて、横向きにする。いつもこうして事後処理をされるのは恥ずかしい。長い指がまだ熟れている後孔を探り、吐き出したものを出してしまう。これにすら、ラウルは小さな声で喘いだ。
「シウス様……」
「なんじゃ?」
「……今度また、オリヴァー様に下着お願い」
「せんでよい!」
ぴしゃりと言われて、ラウルはペロッと舌を出す。大いに恥ずかしくはあったが、終わってしまえば楽しかった。
たまには、こんなスパイスも悪くない。かな?
朝早くに宿舎を出たシウスとラウルはラフな格好で温泉地を目指した。荷物も殆ど持たずの旅はとても気楽で、ラウルはウキウキとシウスの隣に並んでいた。
「随分楽しそうだなえ、ラウル」
「そういうシウスだって、とても楽しそうですよ」
逆に指摘すると、シウスはにっこりと微笑んだ。
「当然ぞ。其方とこうして旅行というのは久しく無かったからの。心も浮き立つというものじゃ」
そんな風に素直にされると……少し恥ずかしいというか、目を見られない。心臓がドキドキしてしまうのだ。
「なんじゃ、今更恥ずかしがって」
「だって、普段あまり素直に言わないじゃないですか」
「ふふっ、私は素直が苦手故な。だが、其方の前では割と素直なほうぞ」
ニッと悪戯っぽく笑う人を照れたまま睨むと、大いに笑われる。夫婦になって、ちょっとずつ距離が近くなって、そうしたらお互い繕わなくなってきた。
それがなんだかムズムズして……同時に、嬉しかったりするのだ。
以前ランバートとファウストも桜の季節に来たことがあるという温泉地は、今は新年の祝いで朝から賑わっている。店先にはその店自慢の品が並び、温かな飲み物が配られている。
馬屋に馬を預けたラウルとシウスは連れだって、メインストリートを歩いた。
「凄い、賑やかだ」
「よいな。丁度朝も軽くしか食べていない。昼には少し早いが、たまには食い歩きでもしようか」
ご機嫌なシウスが店先を覗き、美味しそうなパンの前で足を止める。ラウルもその隣に並ぶと、可愛らしい動物の形をしたジャムのパンが並んでいた。
「いらっしゃい。お一ついかがですか? 温かいミルクもありますよ」
茶色の髪をお下げにした少女がにっこり笑ってお勧めしてくれる。ウサギにネコ、クマもある。中身は苺ジャム、マーマレード、クリームらしい。
「可愛いですね。それに美味しそうです」
「うむ……だが……」
「だが?」
「……食うのが可哀想になってしまう」
本気の顔でそんな事を言うシウスに少女もちょっと驚いて、その後で笑った。
「お兄さん、とても優しいのね」
「シウス、これパンだよ」
「分かっておるは! うっ、恥ずかしい……」
顔を赤くするシウスにラウルは笑って頷く。そしてお店の中を指した。
「それなら、お店の中を見ようよ。中のパンも美味しそうだよ」
「新鮮野菜と自家製燻製ハムのサンドイッチがおすすめです」
「お姉さん、商売上手。でも美味しそうだね」
シウスの腕を引き、ラウルは店の中へ。そこで少女の勧めてくれたサンドイッチと、普通の丸いジャムパンを買った。サービスにホットミルクもついて、二人はそのまま教えてもらった公園の方へと足を向けた。
公園には小さな露天がいくつも出ていて、新年のバザールが開かれていた。
その一角にあるベンチに腰を下ろし、パンを食べる。シャキシャキのレタスとトマト、塩味のきいた燻製ハムがとてもいいバランスで美味しい。
隣ではシウスが美味しそうにジャムパンを食べていた。
「美味しいですね」
「うむ。このジャムは本当に美味い。ちゃんと生の苺から作られておる」
「ジャムってそんなに保つんですか?」
問うと、シウスは頷いた。
「砂糖を多めに入れると日持ちがするが……これは少し違うような」
「温泉の地熱を使った栽培が盛んなんだよ」
不意に声を掛けられて見上げると、果物の飴を売り歩いている老人がにっこりと笑っていた。
「ここいらは保養地で、温泉地。土の温度も他より高い。それを利用して、土が凍らないようにしておる。その苺のジャムも、そうして作られているはずじゃ」
「ほぉ、それは知らなんだ」
満足そうに食べるシウスを、老人も楽しそうに見ている。ラウルは自分のサンドイッチを食べ終え、あんまり美味しそうにシウスが食べるものだから苺が欲しくなって老人の売る苺の飴を一つ買った。
軽くお腹に入れたラウル達は公園を少し歩いて露天を覗いてみた。食べ物が多いが、中には布小物を扱っている店もある。流石に愛らしすぎて買えないが、こういう物を見ているのは好きだ。
露天を離れると次には何やら面白い場所に出た。
用意された広い場所には沢山の雪だるまが置かれている。結構しっかりした雪だるまは色んな姿をしていた。
「雪だるまコンクール会場?」
「見よラウル、アレはコックではないかえ?」
「え?」
シウスが指さす方を見ると、確かに白い前掛けとコック帽をつけた雪だるまが真剣な顔をしている。
「あっちは、カフェ店員ですね」
「うむ。茶色フリル付きの前掛けに可愛らしいカチューシャじゃ」
「あっちは……美容師?」
「あのハサミ、木で作ってあるのかえ。ようできておる」
吸い込まれるように通りへ。小さな木製の鍬を持つ雪だるまはわざと頬に土をつけていたし、ケーキ屋の雪だるまは玩具のケーキを持っていた。
「面白い催し物じゃ。ふふっ、良いの」
「はい」
にっこり笑って最後の雪だるまを見たシウスとラウルは、思わず立ち止まった。
そこにあったのは、黒いマントをつけ木製の剣を携えた、凜々しい騎士の雪だるまだった。その前では子供達が楽しそうにしていて、「かっこいいね」と言っている。
なんだか、気持ちが温かい。剣を持つような仕事は怖いというイメージがつきやすい。少しでも民の心が離れたら一気に転がる。
隣を見るとシウスが、とても嬉しそうに頬を染めていた。
ギュッと手を握る。それに、シウスも握り返してくれる。そうして二人、凜々しい雪だるまに騎士の礼として左胸に拳を置いて一礼した。
雪だるまの近くでは、まだ幼い子供達が募金の箱を持っている。近くにはシスターもいて、恵まれない子供達への寄付を募っていた。
よくよく見ればこの雪だるまの大半が、孤児院のチャリティーのようなものだった。
シウスは何も言わずに子供達の側へと行き、募金箱に少し多めのお金を入れる。驚くシスターや子供達に笑いかけたシウスが、ふわりと箱を持つ子供の頭を撫でた。
「楽しませてもらった。よい新年になるようにの」
「はい!」
ラウルの胸の奥もギュッとなる。自分が孤児だったから、分かるんだ。あのお金がいかに大事か。あれだけあればどれほどの子がお腹をいっぱいに出来るか。痛んだ床を踏み抜いて怪我をしたりしない。新しい服を買ってもらえるかもしれない。
こちらへと近づいてきたシウスが驚いて、軽く走るように側に来る。そして大事そうに頭を撫でてくれた。
「どうしたラウル? なんぞ、辛いのかえ?」
「いえ……違うんです、シウス。胸が一杯で……嬉しくて、僕……」
ラウルは知っている。シウスはラウルと結婚してから、王都内の貧しい孤児院に毎月少しと言って、匿名で寄付をしている。団長とは言っても給料はそれほど多くはない。贅沢はできないのに、してくれるのだ。
「僕、幸せです。シウスみたいな優しい人と一緒で、幸せです」
「うっ、うむ……少し、照れくさいの」
潤んだ目元を拭って、ラウルは満面の笑みを浮かべた。
町を楽しみ、宿に入ったのは丁度お茶の時間辺り。新年は温泉旅行などが人気で宿が取りにくいのだが、その中で案内されたのは離れの中でも奥まった、静かな場所にあった。
入って直ぐは玄関で、その脇にはウォークインクローゼット。リビングは広く開放的で、食卓用のテーブルにソファー、ラグも足に柔らかい。リビングの開放的な窓の外は個室温泉があり、贅沢に掛け流しだ。勿論フェンスも自然素材で作られていて、閉鎖的ではないがプライベートは確保されている。寝室はキングサイズ。室内風呂も完備されている。
「随分良い部屋が残っておるものだなえ」
「こちらは一定額以上の融資を頂いております方限定のお部屋でございますから」
二人の荷物を運んでくれたボーイがにっこりと笑う。彼に食事の時間を伝えると、後は二人の時間になった。
改めて室内を見回し、ソファーにも座る。ふっくら体を包み込んでくれるのに、スプリングもあるので意外と支えてくれる。
シウスはそれとは違う籐の寝椅子に腰を下ろし、そこにある膝掛けを駆けて楽しんでいた。
「よいの」
「部屋に一つ買いますか?」
「……いや、ここで寝てそのままになりそうじゃ。流石にそれは体が痛くなりそうじゃからの」
大いにあり得る。シウスはよく自室でうたた寝をする。仕事中はないが、部屋に戻ると気が抜けるらしい。本を読んでいる最中に寝てしまい、ラウルが戻って起こさないと起きない事も多い。ソファー、ラグの上など、とにかく場所を選ばないのだ。
「それに」
「?」
ニコッと笑うシウスがラウルを手招く。首を傾げながら近づくと、ギュッと首に腕を絡めて抱きしめてきて、思わず彼の上に乗っかってしまう。体温と匂いがふわりと感じられて、ちょっとドキドキした。
「これでは其方と二人で抱き合うと軋んでしまう。故に、いらぬよ」
とても幸せそうにそんな事を言われると困る。心臓が五月蠅くて、伝わってしまう。
赤い顔をしたラウルをシウスが下から見上げ、愛しげに唇を重ねてくる。触れる熱が、とても愛しくてたまらない。
「んっ……ふ……っ。シウス、これ以上は!」
「ん?」
舌を差し入れ絡めるシウスに腰骨の辺りが重くなってしまう。気持ち良くてたまらなくて、抗えなくなってしまう。だからこそラウルはシウスの胸を押して体を離した。
「良くなかったかえ?」
「いえ! その……良すぎて、これ以上我慢出来なくなってはこまると」
「ふふっ、そうさの。後二時間もしたら食事が運ばれてくる。今してしまったらそのまま寝てしまうかもしれぬしな」
「はい」
それに、今日はちょっと特別なんだから。
シウスが寝椅子から起き上がり、立ち上がる。ラウルの肩に手をかけて優しくソファーへと誘導していく。そうして隣り合って座って、こてんとラウルの肩に頭を乗せた。
「昨年も色々とあったな」
「本当に。ゼロスの失踪やら、クラウル様の襲撃やら」
「我らが騎士団は新年は厄日かえ? 日頃の行いの悪い者が多すぎやせぬか? こう毎年新年明けに事件が起る」
「すみません」
「……其方が今いてくれるなら、もうそれで良い。ただ、もうどこにも行ってくれるな。其方が居ぬと私は駄目になる」
新年早々の事件というなら、ラウルも巻き込まれている。それが切っ掛けで結婚もしたのだが……アレは未だに凹む出来事だった。
小さく笑い、ラウルはシウスの白い髪を撫でた。
「今年はきっと、大丈夫ですよ」
「……うむ、そうじゃの」
二人ともに身を預け合って、少しずつ降り始めた雪を見上げて。この何でもない時間の幸せを噛みしめながら、ラウルは穏やかに微笑んでいた。
◇◆◇
宿の食事はランバートが絶賛したとおり、とても美味しくて目にも鮮やかだった。
鮭と冬野菜のテリーヌは生の新鮮な鮭と、人参やほうれん草を使った彩りも綺麗な一品。
カブを器にした豪快な料理はカブ自体にも美味しいスープが染みこんでいて、中には旨味の染みたプリンのような物が入っていて驚いた。しかも上にはカニの身が乗っている。
カブと人参、ジャガイモを使ったクリーム煮はほっこりと優しい味わいで、大きめに切られた野菜も食べ応えがあったし、鯛のロティは上品な味がした。
お口直しにはさっぱりとした林檎のシャーベット。
お肉は大きなお皿にのった伝統的な野ウサギのパイだった。
「デザートは苺のタルトですね」
「うむ」
すっかりお腹はいっぱいなのだが、デザートだけは何故か入る不思議。タルトの中は甘さ控えめのカスタードクリーム。そこに苺が花びらのように飾られている。食べるのが勿体ないくらいだ。
「ほんに満足じゃの。頑張ったかいがあった」
「シウス、ご馳走様です」
「ふふっ、よいよい。結婚記念日を少々前倒しにした気分じゃ」
「そうですね」
とは言っても、大分前倒しな気はするが。でも、嬉しい事なら何度お祝いしてもいいものだ。ラウルは美味しくデザートまで食べ終え、すっかり満腹のお腹を撫でた。
「美味しかった」
「うむ。眠くなる前に風呂にしようかえ。雪見風呂とはまた乙なものぞ」
同じくお腹いっぱいという様子のシウスが軽く伸びをする。ラウルもこの意見には賛成だ。腹休めを少しして、二人は早速個室露天へと向かった。
外はわたの様な雪が降り始めている。それが温かな湯に落ちてじわりと溶けるのを見上げ、ラウルとシウスは近い距離で手を握り合っている。
「最高じゃ。このような時間がもっと増えるとよいのだがな」
「そのうち増えますよ」
「そうさの。帝国も大分静かになった」
しみじみとシウスが呟く。その横顔はどこか満足げで、達成感すら感じられた。
途端、ちょっと不安や寂しさもこみ上げた。ここまで駆け足できたこの人がいつ、平和な帝国を見て安心し、引退すると言うか分からない。そんな漠然とした、何の根拠もない不安が押し寄せたのだ。
「シウス」
「どうしたえ?」
「引退とか、しませんよね?」
不安に勝てずに呟くように言うと、シウスは途端に目を丸くし、次ぎに大いに笑った。
「なんじゃ、心配しておったのか?」
「だって」
「そんな事、まだまだ先じゃ。軍事の事は落ち着いても外交となればそうも行かぬ。大陸内は多少平和でも、海の向こうはまだ脅威じゃ。極端な強兵策はなくとも、一定値は確保せねばならぬでな。爺の手前くらいまでは、こき使われるつもりでおるよ」
ふわりと手が頭にのり、優しく撫でられる。くすぐったいけれど、子供扱いにも思えて複雑だ。
「それに、もしも私が予定より早く引退したら勿論、其方を連れてゆく」
「え?」
「どうした、驚いた顔をして? 其方と私は連合いぞ、共に居たいのだが」
思わず驚いた顔のまま固まったラウルに、シウスの方が不安そうな顔になる。
連合いという言葉の意味を、重さを、再認識したように思う。ラウルの中では騎士団があり、シウスとの関係がある。これが始まりだ。そこから認識が変わっていなかった。
でもシウスの中ではとっくに、騎士団よりもラウルが上になっていたのだ。騎士団を離れてもずっと一緒にと、言ってくれるのだ。
「すいません、僕……そこまで考えがいたらなくて」
「先の事だしな」
「一緒にいさせてください」
「勿論じゃ。なんなら墓も共にするか?」
「貴方がいいのなら」
「勿論ぞ」
優しい水色の目に見られ、手が頬に触れ、唇が重なる。しっとりと絡め合う舌の熱さに頭の中がボーッとする。外気の冷たさを感じているのに、体の熱さの方が勝っていく。
手が湯の中で悪戯をして、胸に触れたり太股の内側を撫でたりして誘ってくる。ヒクリと体が反応してしまう。
唇が離れ、首筋へもキスを落とされ、ラウルは甘い声が漏れるのを止められない。
「我慢しておった故、欲望が深い。其方の肌はとても甘い気がする」
「そんなことっ……ふぅ……ん」
際どいところばかりを触られ、肌が敏感に反応してぞわぞわする。期待で胸は一杯で、体の方も反応してしまう。触られてもいない部分が反応を始めるのははしたなくもあって、ラウルは困ってシウスを見てしまった。
何より今日はこのままではなく、用意したものを準備したいのだ。
「シウス、あの……」
「ん?」
「のぼせてしまいそうです、このままだと。それに……ベッドがいいです」
伝えると、シウスはふふっと楽しそうに笑って頷き、体を解放してくれた。
「確かに、のぼせてはならぬな。食後の時間も短かったから、とりあえず上がろうか」
「はい」
「じっくり入るのは明日の朝にしよう」
「いいですね」
とりあえずほっと胸をなで下ろし、二人連れだって風呂を上がることにした。
シウスには寝室で待ってもらって、ラウルは室内浴室の脱衣所に入った。ゴソゴソと隠した物を取り出して中を開けると、やはりカッと顔が熱くなるのを感じる。どんな顔でこれをつけてシウスの前に出ればいいのか、未だに分からないままなのだ。
取り出したのは、もの凄く布面積の小さいランジェリー。白の透けレースのブラジャーは乳輪部分を隠すくらいの面積しかなく、しかも乳首の部分には取り出せるようにスリットがついている。パンツも当然大事な部分を隠す布面積はなく、あそこの位置にはスリットがあってそこに愚息を通す状態。隠すどころかむしろ強調である。更にアナル部分は紐で、もう隠す意志が見られない。
「オリヴァー様はどこからこんなの見つけてくるんだろう……」
これを嬉々として手渡してくれた人を思い出し、ラウルはがっくりと肩を落とす。が! これをつけたらどんな顔をするのか。シウスの驚いた顔が見てみたいのも事実。
ラウルは意を決してそれらを手に持ち、いそいそとつけ始めた。
つけて鏡の前へ。瞬間、恥ずかしさにドキドキした。下着を着けているほうが恥ずかしいとはどういう状況だ。白いスケスケのレースは上品な花の模様なのだが、ばっちり色々見えている。上はそれでもまだ……下はどうしたらいいんだ。三角形のレースの真ん中からポロンと出ている。後ろも、ひくつく後孔が見えてしまっている。
「……凄く淫乱に見えるよぉ」
シウスが引かないか、ラウルはとても心配になってしまった。
とにかく、いきなりこれで現れたら多分引かれる。辺りを見回し、ローブを手にして羽織ると多少ラウルも安心する。そのまま戸締まりを確認して寝室に行くと、シウスは髪も綺麗に整えて待っていた。
「随分と時間が掛かっていたなえ?」
「すみません」
「よいよ、気にするな。して、何を準備しておったのだ?」
「……あー」
疑問そうに首を傾げるシウスに、ラウルは困って固まる。ローブを着て安心していたが、脱ぐのはあまりに簡単だ。
近づいてくるシウスに、ラウルは顔を真っ赤にする。堂々としている方がよかったか? 隠したら余計にハードル上がったか?
「どうした、顔を赤くして。湯あたりでもしたかえ?」
「いえ、そうじゃなくて! ……あの、今更僕の事嫌いになったりしませんか?」
「はぁ??」
素っ頓狂な声のシウスは、その後笑った。コロコロと、とても綺麗に。
「そんな事、あるわけがなかろう? 私は其方に誠の愛を誓っておる。嫌いになるわけがあるまい」
「そう、ですよね」
「どうした? 何か、あったかえ?」
今度はとても心配そうな顔をして覗き込んでくる。薄い水色の瞳が不安そうに揺れるのを見て、覚悟が決まった。こんな小さな事でこの人を不安にさせるなんてあり得ない。何より、今日はこの格好でこの人を誘ってみたいと思ったのだから。
ローブの紐に手をかけて解けば、前が開ける。更に前をスルリと開ければ丸見えになる。瞬間、シウスはもの凄く驚いた顔をして、次には林檎のように赤くなった。
「な! ラウル、それは!」
「嫌、ですか?」
「くはぁぁ!」
……崩れ落ちました。
どうにか回復したシウスだが、まだ顔が真っ赤なまま。なんとなく目のやり場に困っている彼に、ラウルはなんだか申し訳ない気持ちになってきた。
「ごめんなさい、こんな格好して、驚かせてしまって」
「いや、よい…………むしろ良いのだが、少々刺激が強くてな」
「ですよね」
やっぱり、こういうのは自分には向かないのだろう。ラウルは苦笑して下着を取ろうとした。が、その手を阻んだのは目の前のシウスだった。
「脱いでしまうのかえ?」
「え? だって」
「驚きはしたが、良いと言うただろ? 愛らしい其方も好ましいが、淫靡な其方もまたドキドキする。私を、誘ってくれているのだろ?」
ニッと笑うシウスが下からキスをくれる。触れただけ、だが次にはもう少ししっかりと。徐々に深くなると嬉しさもこみ上げて、ラウルはとろんと心地よい目でシウスを見つめた。
「そのような姿で、そのような目をするなラウル。襲ってしまうぞ?」
「はい、そのつもりです」
「では、ベッドまで運ぶとしよう」
ふわりと体が浮いて、顔が近くなる。内勤のシウスはその割にちゃんと鍛えてもいて、ラウルは昔からこうして抱っこされてしまう。最初は子供扱いと思い気に入らない事もあったが、最近ではこれもシウスの愛情故と思えるようになった。
優しくベッドの上に下ろされ、シウス自らが丁寧にローブを肩から落としてしまう。全身を見られ、恥ずかしく少し隠すようなポーズになるが、当然隠し切れてはいない。むしろ微妙な見え方で、シウスは顔を赤くする。
「それにしても、このような物をどこで手に入れたのだ?」
「結婚した時に、オリヴァー様が」
「オリヴァーが?」
もの凄く訝しむシウスに、ラウルは真実を話した。
「殿方を誘う術は多い方がいいと」
「あやつめ……」
がっくりと肩を落とすシウスだが、ちらちらと視線は下着の方を見ているのが分かる。それもまた恥ずかしいものだ。
「あの……触りますか?」
「……奴に負けるのは癪だが……確かにエロい」
「あはは」
そう言ってもらえる方が気が楽になる。ラウルは笑って隠している胸元の腕を外した。
「どうぞ」
「どうぞと言われて触れるのも妙だが……」
そう言いながらも、シウスの手は膨らみのない胸をぺたりと触る。レースの微妙にざらついた質感は直接触れている時とは違って刺激になる。何より見た目がかなり刺激的だ。
「ここにスリットがあるのか」
「あっ」
ブラの割れ目から乳首を摘まみ出され、コリコリと捏ねられる。最初から興奮気味だった体はいつもよりも早く反応して、ぷっくりと大きく硬くなってしまう。ブラから乳首だけがぷっくりと存在感を示すように突き出ているのは、酷く滑稽で淫乱に見えた。
だが、それがお気に召したのかもしれない。シウスは執拗に剥き出しになった部分にチュッと吸い付く、全部を楽しんでいるようで、腰や背をさわさわと撫でる手も熱くなっている。
「……気に入りました?」
「楽しんでおるよ」
「変態です」
「否定はできぬな」
存在を主張するように硬く赤く尖った部分を、軽く食まれ、ピリリと腰に痺れが走った。
着ている物が違えば気持ちが違ってくる。いつもよりも執拗なシウスの触れ方にラウルは興奮した息を漏らしブルリと体を震わせる。舌が乳首を舐め取りコリコリと感触を楽しんでいるのが伝わる。レースの質感も濡れて張り付いて、なんだか落ち着かない。
けれど何より落ち着かないのは下半身。三角形のレースの布きれに開いたスリットからにょっきりと生えている自身の昂ぶりは完全に硬くなって、トロトロと蜜を流してレースを濡らしている。それが肌に纏わり付いている。
「や、シウス、っ!」
「気持ちよさそうだなえ、ラウル」
「気持ちいい、けど……」
今日はやりたい事がある。けれどこのままでは流されてしまいそう。
腕をつっぱると、シウスはとても残念そうな顔をした。
「今日は僕、したい事があるんです。だから、待って」
「したいこと?」
疑問そうなシウスの前に膝を折り、屈んで、ラウルはシウスの昂ぶりを口腔に納めた。
「んっ」
この、色を含む掠れた声が好きだ。恥ずかしげに頬を染める、潤んだ瞳が好きだ。こうしているのは自分だと思うと、余計に興奮する。
自然と腰が揺れる。後孔が寂しい。紐が擦れるのがまた微妙な刺激で、たまらない。
揺れる尻を、シウスが撫でる。ビクリと震えたラウルはそれでも行為をやめない。喉奥まで飲み込み、吸いながら上下に動かすと口の中で大きく育っていく。同時に息は苦しいが、それすらもクラクラしてある種の倒錯感があった。
「ラウルっ!」
切迫した声と息を詰める音。グッと大きくなったそれがほんの僅かな間、完全に気道を封じた。それと同時に腹の中へと流れ込む熱いものを感じる。全部が、この人の匂いに包まれるみたいでおかしくなりそう。苦しいのに、幸せだ。
ズルリと抜けて、息が楽になったラウルの背をシウスが撫でる。そうして見た自身の体は汚れていた。布きれ状態のパンツはグチャグチャだし、腹には白濁が垂れた跡がこびりついている。シウスの射精に引きずられるように、ラウルもまた吐精していたのだ。
「あ……ごめん、なさい」
こんなはずじゃなかった。なんだかもの凄く恥ずかしい。思わず出た言葉だが、シウスは柔らかく笑って額にキスをくれた。
「サービスが過ぎて困るよ、ラウル」
「……貴方のお陰で、こうして素敵な新年を迎えています。だから、何かお返しがしたかった」
「そんな事を思っていたのかえ?」
シウスは驚き、次に困った顔で微笑む。そしてちょんと、また額にキスをした。
「十分じゃよ。これ以上は貰いすぎじゃ」
「でも」
「故に、ここからは奉仕ではなく、夫婦の時間としよう。私も其方に触れたい。よいか?」
「! 勿論です!」
嬉しくなって声を上げると、シウスも嬉しそうな顔をする。そして、「キスからの」と言って躊躇いなく舌を絡めるキスをくれる。
気持ち良くて、嬉しくて、背中がゾクゾクする。体中が震える。首筋に、胸元に、唇や指が滑る。小さな喘ぎ声が止まらなくて、「あっ、あっ」と漏れていくのを、シウスは嬉しそうに見ている。
吐き出した昂ぶりにも指がかかって、柔らかく上下されていく。その優しい指の感触にあっという間に上り詰めて硬くなってしまう。そして尻に、シウスの熱いものが触れてる。
「シウス」
「どうしたえ?」
「正面から、抱いて欲しいです」
股を割り開き、足を広げる正常位は腰などにも負担をかけると、シウスは気遣ってあまりしてくれない。座位やバックが多いけれど、顔が見られる正常位のほうがラウルは好きだ。
おねだりは簡単に受け入れられて、ベッドに優しく寝かされ、膝裏に腕が回り広げられる。後孔を僅かに確認し、香油を足されてぬるりと滑るそこは早くシウスが欲しいのかうずうずしている。そこに、ぴったりと宛がわれた肉杭がゆっくりと、押し入ってきた。
「んっ、んぅぅ……」
痛みなんてもうなくて、圧迫感と薄い皮膚を引き延ばされる感覚だけは鮮明に感じている。腹の中を熱い楔が埋めていくのが心地よくて目眩がしそうだ。いつも、この最初の瞬間がラウルは好きだった。
「ラウル、苦しくはないかえ?」
問うシウスの方こそ濡れた目をして少し苦しそうだ。本当はもっと動きたいし、どうしても最初は少しだけ締め付ける。
ラウルは首に腕を巻き付けて、首を横に振った。
「気持ちいい、シウス」
貴方の熱がこんなにも嬉しい。こうして抱き合う時間が何よりも愛しい。
キスをしながら緩く抽送を繰り返され、馴れた入口は素直にシウスを受け入れる。酸欠と快楽で目眩がする。腹の底が熱くて気持ち良くて、もっと奥を求めて止まない。そんなラウルの求めを知っている様に、切っ先が奥を抉った。
「あん! あっ、ふぅ!」
「よいか?」
「あっ、いい……いいよ、シウス……っ!」
涙がこみ上げて、腹の中が疼く。締め上げるようにシウスの存在を感じている。
でもシウスは困ったように息をつめている。どこか苦しそうでもあって、でも目が離せないセクシーさも感じる表情だ。
「急に絡みついてうねる……ラウル、気持ち良いの」
「気持ちいい、シウスぅ!」
「私も気持ちいい…………っ! すまぬ、限界じゃ」
グッと膝を深く折られ、本能的で性急な攻めにラウルは喘いだ。一突きごとによい部分を抉られてビリビリ痺れて嬌声を上げている。目眩がしそう、気持ち良くて。キスをして、体の全部でシウスを感じて、ラウルは幸福なまま果てていった。
息が全然整わない。余韻が長くてまだ呆然としている。後孔から漏れるシウスの愛の証が、なんだか勿体ないと感じている。
シウスは少しして立ち上がり、ラウルの恥ずかしい下着を取り払うと体を拭いて、横向きにする。いつもこうして事後処理をされるのは恥ずかしい。長い指がまだ熟れている後孔を探り、吐き出したものを出してしまう。これにすら、ラウルは小さな声で喘いだ。
「シウス様……」
「なんじゃ?」
「……今度また、オリヴァー様に下着お願い」
「せんでよい!」
ぴしゃりと言われて、ラウルはペロッと舌を出す。大いに恥ずかしくはあったが、終わってしまえば楽しかった。
たまには、こんなスパイスも悪くない。かな?
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