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5章:すれ違いもまたスパイス

6話:たまには優しいのもいいでしょ?(フェオドール)

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 ボリスの実家を後にして、昼食を早めに食べて家まで引き上げてきた。その間、ボリスは珍しく言葉が少なかった。
 落ち込んでいるのだろうか。思って見ているけれど、いまいち分からない。激しく落ち込んでいる様子はなくて、ただ静かだったから。

 家について、お茶を淹れて。夕方には帰るのかと思ったら「明日は有給使った」と言われて泊まるつもりらしい。
 お泊まりとなれば少し期待もするけれど、この状態のボリスに求めるのは流石にできないとも思う。ボリスは言葉も少ないし、穏やかだけれど何を考えているのか分からないから。

「フェオドール」
「なに?」
「今日は、有り難うね」

 珍しく穏やかな様子で微笑まれ、しかもお礼なんて。驚いて思わず額に手を当てた。熱でもあるんじゃないかと本気で疑ったらムスッとされて「失礼だな」と返された。

「もぉ、本当に感謝してるんだから」
「あぁ、うん。でも私は何もできなかった」

 結局はただ側にいただけ。そんな感じがして申し訳ない。あれならボリス一人でも十分だったのに。
 けれどボリスは首を横に振って、緩く笑った。

「わりと心強かったよ。君がいたから、自分の意志を貫けた気がする。家族仲が悪い訳じゃないから、あの母を見たら自分の主張を引っ込めてた可能性はあるよ」
「……ボリス、本当に後悔とかしてないのか? 私と、その……」

 言いながら、先の言葉が出てこなかった。もしもあの時、国で出会っていなかったら、ボリスは家族と今まで通りの関係でいられたんじゃないか。そんな事を思ってしまうからこそ、後悔していると言われるのが怖くて言葉を繋げられない。
 そっとボリスの手が伸びてきて、頬に触れる。そしてとてもゆっくりと唇が重なった。

「してると思うわけ?」
「思いたくない、けれど」
「じゃあ、バカな事聞くのやめたら? 言っとくけど、後悔するくらいなら手を出してないから」
「でも、半分以上私が押しかけたんだし」

 兄も周囲も押し切ってここまで来たのはフェオドールの意志。ボリスにも、それを押しつけた。危険でも無理矢理ここまできたのだし。

 ボリスは笑って髪をグリグリっと掻き回す。そして次にはやんわりと抱き寄せた。

「押しかけてきちゃったんだもん、受け止めないとね」
「ごめん……」
「謝らないの。それに、本当に後悔してない。遅かれ早かれ、こういう事になったと思うしね。必要以上に責任なんて感じなくていいんだ。もしもフェオドールが責任感じてるなら、そのぶん俺を幸せにしてね」
「うん、絶対」

 そうか、幸せにしないといけないのか。ボリスが幸せなら、自分もきっと幸せだからな。
 そんな事を思いながら、フェオドールはボリスの腕の中で笑った。

「うん、いい顔。深刻な顔されるより、そっちのが似合うよ」

 珍しく甘やかすような笑みを見せたボリスが、そっと額にキスをする。くすぐったくて温かい、そんなムズムズする包容がとても心地よく感じた。


 夜はフェオドールが作った。ちょっと失敗もしたけれど、ボリスは文句も言わずに食べてくれた。それどころか「料理覚えたんだ」なんて驚いていた。
 お風呂はボリスがやってくれて、フェオドールが先にお湯を貰った。入念に洗って寝室に行くと、既に明かりは薄暗くなっている。

「おいで、フェオドール」
「いいの?」
「いいよ。それに、落ち着いたら甘えさせてあげるって言ったじゃん」
「うん」

 おずおずとベッドに行くと腕を引かれて抱きとめられる。まだ少し濡れている髪に鼻先が押し当てられて、ちょっと恥ずかしいけれどドキドキしている。

「いい匂い」
「普通の石鹸だよ」

 なんかいつもと雰囲気が違うからドキドキする。こんなに優しく触られるともどかしいけれど、なんとも言えないムズムズ感もある。

「それで? フェオドールはどんな夜を想像してたのかな?」
「……うん、それがボリスだよね」

 ニヤッと笑ったボリスを見上げ、フェオドールはヘラヘラ笑う。でも珍しいから、このまま甘やかされるのも味わってみたい気がする。

「甘々なのって、ダメ?」
「そういうのが好み?」
「今まであまりないから」

 素直に言えば途端にボリスの眉根が寄る。そして優しく額に唇が触れた。

「甘くて気持ちのいい夜にしてあげる」

 だめだ、既に甘すぎて心臓壊れそうだ。

 宣言通り、今日のボリスはとても丁寧だ。ベッドに寝かされ、優しいキスをされながらローブを落とされ体に触れてくる。でも、触れるか触れないかも曖昧なフェザータッチというか……もどかしい。

「ボリス、これは……」

 もどかしくて逆に辛くなってきた。
 強い刺激に慣らされた体では優しい交わりなんて無理なんだろうか。そんな事を思っている。
 でもボリスだってこの訴えを分かっているはず。だって、少し意地悪な顔をしているから。

 唇がチュッチュッと音を立てながら首筋から下へと降りてきて、期待に硬くなっている乳首へと進んでくる。そしてその先端に触れるだけのキスをしていく。

「んぅ!」

 直接的な快楽を貰って体は喜んでいる。いつも以上に敏感な感じがして、少し怖い。このまま無遠慮に触られたら……挿入、とか。
 思った途端腹の奥から脳天までゾクゾクした快楽が走って、フェオドールは喘いでいた。

「もぉ、何を想像したの? 今、イキそうだったよね?」
「ちが! 違うよぉ」
「まだ、先っぽにキスしただけなんだよ?」
「やぅん!」

 また先っぽに優しく。こんなのじゃ満足しないのに必至に感触を追っている気がする。
 舌がチロチロと粒を舐めて、ゆっくりと口腔に飲み込まれていく。そして、少しコリコリしている部分を唇で挟んで転がし始めた。

「んぁあ! やっ、はぁん!」
「ニップルピアスの穴、残っちゃってるね」

 柔らかな唇で挟まれてクリクリされると気持ち良くて飛びそうになる。腰が既にガクガク震えて、前がトロトロになっている。
 頭の中も蕩けてしまいそうで、フェオドールは甘えた顔をしてボリスを見ていた。

「ボリスがつけてくれるなら、ボク、いいよぉ?」
「その趣味はないけれどな……」

 困ったみたいに言いながら髪を梳き上げたボリスの目が、耳元に留まる。そこにはピアスが嵌まっている。これは無理矢理とかじゃなくて、儀式用の服装に合わせてピアスをつける為に城の侍医に開けてもらったものだ。

「じゃあ、これならいいよ」

 そういうとボリスも片耳の髪を耳にかける。そこにはキラキラ光っている金のピアスが嵌まっている。
 ボリスはその片方を外すと丁寧に磨き、フェオドールの耳からも片方のピアスを取る。そしてそこに自分がしていたものを嵌めた。

「あ……」

 心臓がドキドキしている。嬉しくて、恥ずかしくて、飛び跳ねている気がする。
 ボリスも同じようにフェオドールがしていたシンプルなピアスを自分の耳につけた。そして、ニッと笑っている。

「恋人みたいでしょ?」
「うん。恋人、でいいの?」
「違うのかい?」
「ううん」

 どうしよう、嬉しくて泣きそうだ。こんな風に愛されるのは初めてだから、胸の奥がギュッと苦しくなる。
 優しい手がグリグリと前髪を撫でて、唇が目元に触れて溢れそうな涙を拭った。今日のボリスはとことん優しい。

「こんな事で嬉しいの?」
「嬉しぃ」
「ほんと、単純なんだから」

 言いながら、ボリスだって嬉しそうに微笑んでいる。そして啄む様に何度も小さなキスをしながら、フェオドールはクルンと体をひっくり返された。

「え?」
「ごめん、もう君の中に入りたい。こういう抑えたセックスって、慣れてないから配分が分からないや。今無性に、君と繋がりたくなった」

 そう言うなり腰を持ち上げられ、オイルを纏わせた指が後孔へと滑り混んでくる。ぬるっとした指がいきなり二本、それでも慣らした体は痛みを感じていない。

「また自分で慣らしてきて。俺の楽しみ取らないでよ」
「だって、めんどうっ」

 本来受け入れる部分じゃないから、丁寧に慣らさないと傷がつく。毎日でも使えばいきなり挿入でも大丈夫だろうけれど、そうなるとゆるゆるになって締めつけが甘くなりそうで怖いからできない。

 けれどボリスは不満そうだ。首を捻って見た表情は、少し拗ねているようでもある。

「その面倒を含めてセックスでしょ? もう」

 言われて、ちょっと嬉しいなんて思ってはいけないだろうか。
 「男はここが濡れない」と忌々しそうに言われ続け、慣らすように強要されていた昔とは違う。この面倒な作業を愛しそうにされるのは、かなり愛されてる感じがする。

「今度から俺がやるから、フェオドールは禁止だよ」
「うん」

 むしろ羞恥含めて愛されるのは嬉しすぎてたまらない。笑顔のフェオドールに、ボリスも小さく笑ってくれた。

 狭い部分を尚も丁寧に広げられながら背中に唇を受けて、甘い声で鳴きながら何度も波を越えた。押し寄せる射精感は強かったり弱かったりするけれど、せめて受け入れてからにしたい。
 ギュッと力を込めると前からは出ない。でも、中で何度か達した。

「我慢しなくてもいいのに」
「いっ、やぁ……ボリスとイクのぉ」
「甘えん坊になってきたね」

 嬉しそうにしているボリスが指を抜き去り、フェオドールの腰をポンと押す。倒れた体はぺたんとシーツの上にうつ伏せに寝転んだまま。そしてそこに、ボリスの熱い昂ぶりを感じた。

「へぇ? はっ! あぁぁぁ!」

 ズブッと入り込んだ硬い楔がゆっくりと中を擦り上げていく。その挿入は正常位よりも深くて、快楽を全部擦り上げていく。
 ゾクゾクしながら全身で達した。トロトロの前はシーツに擦れてあっけなく白濁を吐き出していく。乳首まで擦れて痛いくらいだ。

「やっぱバックは、深いな。分かる? 奥まで入ってるよ」
「あっ、あぅ、はぁん!!」

 言われなくても感じている。キュウキュウになっている部分全部擦られて、奥をコツコツされている。角度がいいのか、いい部分を的確に抉っていく。

「締まるね、フェオドール。満足してる?」

 意味のある言葉は出てこなくて、喘ぎながら何度も頷いた。
 嬉しそうなボリスはそのまま何度も腰を打ち付ける。激しくというよりは味わうようにされるとその度に達している。中も前もイキっぱなしで、頭の中は蕩けきっていく。
 背中に唇が触れて、前に回った手がシーツとの間に入り込んでクリクリ乳首を摘まむからそれでも達して、息もできないくらいクラクラしている。

 何より気持ちが満足している。背中に感じるボリスの熱がとても近いし、犯されている感じが凄くする。顔が見えないのが少し寂しいけれど、埋めるように密着して項にキスをされて。

「くっ、やっぱバックは早いな……奥、出すよ」
「あっ! やぁぁ! ひぐぅぅ!」

 少しだけ腰を持ち上げられて深く打ち込まれ、目の前をチカチカと星が飛んだ。体全部が痙攣している感じがして、力が入らないのに中はしっかりと締めつけて逃がさないようにしている。
 低く呻いたボリスが最奥を突き、そのまま熱いモノを注ぎ込んでいくその刺激にさえ絶頂したあとで、フェオドールは崩れた。うつ伏せのまま指の一本動かせる気がしない。

「垂れてきちゃってる。力入らないんだ」
「はいらないよぉ」

 奥からトロトロとボリスが放ったものが溢れ出てくる。ボリスはそれを指ですくい、孔の中に塗り込んでいく。戻されて、刺激されて、また疼いてたまらない。中、気持ちいい。

「蕩けきった顔して、誘わないでよ。今日はこれ以上はダメって思ってるんだから」
「頭、クラクラする……」
「普段よりも激しくないのにね。でも、満足してくれてよかった。たまにはこんな優しのも、いいかもね」
「優しいの怖いよぉ」

 激しく羞恥心を刺激されるのと甘やかされてイカされ地獄に落ちるのと、どっちが幸せなんだろう?
 そんな事を本気で悩むフェオドールだった。
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