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4章:リッツ・ベルギウス失踪事件

6話:オークション開始(リッツ)

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 船が出航したのは、船倉にいてもわかった。ついでに沢山の人が乗船したのも。
 リッツは体を綺麗に磨かれ、これ見よがしなパンツを久しぶりに履いた。髪も香油で丹念に梳かれてツヤツヤだ。

 結局逃げ出す事ができないままオークションの日になってしまった。
 ただ、わりと情報は集まった。今日のパーティーに参加するのはジェームダルのお歴々、つまり古い因習が捨てきれないご隠居や古狸だ。他にもサバルド王国の高貴な人物もいるとか。

 サバルド王国。強い癖のある黒髪に、彫りの深い顔立ちと体躯がいい。グリフィスを思わせる国の人々。
 心臓が痛くなる。会いたいと願ってしまう。会えない事が辛くて、気合を入れていないと泣いてしまいそうだ。

 連れてこられたのは少し上の階。おそらく商品の控え室だ。
 そこにはリッツを含む十名ほどの男女がいる。どれも見た目は十代だろうか。
 怯えて、震えて泣いている。猿ぐつわを噛まされて、手と足を縛られて。リッツだけが拘束がない。
 首輪に繋がれた鎖が柱に巻かれ、戸口には人が立つ。

 既にパーティは開かれているらしく、一人連れて行かれ、戻ってこない。部屋の中は人口が減る一方で、最後にリッツが首輪を引かれてそこを出た。

「お待たせいたしました! 本日のメインは少し毛色の違う青年です。見た目よし、髪も瞳もキャラメル色とこの国ではなかなかない色合いですよ! それに、あちらの具合も高評価ですので、今更仕込む必要はありません」

 ゲスな口上を口にする司会が大層な事を言ってリッツを紹介している。

「行くぞ」

 鎖を引かれ、逆らえずに進む。こうなれば自棄だ、むしろ堂々出ようではないか。その上で何か考える。荷の搬入の時に逃げられないか。新しい主人というのをたらし込んで、どうにか。

 舞台に上げられたリッツに、会場の人々は溜息をつく。どいつもこいつも綺麗な服に仮面で顔を隠している。美味そうな料理を食べてワインを飲んで、こっちは人生かかってるってのにいいきなもんだ。

「それでは五〇〇からスタートします」
「五一〇!」

 すぐに声が上がる。その方を見れば肉膨れした五〇代の男が芋虫みたいな手を上げている。
 冗談じゃない! リッツの好みはマッチョであって、贅肉でたっぷたっぷした奴なんて萎えるばかりだ!

 あれだけは嫌だ。あれだけは嫌だ。むしろグリフィス以外は全部が嫌だ!
 必死に神頼みしていると、他からも声が上がる。あっという間に価格は七〇〇ゴールドを越えた。

 それにしても、結構値がつくもんだ。五〇〇ゴールドだってかなりの大金だ。家が建つ。そんな価値が自分にあるなんて、リッツは思っていないのだが。

「七五〇が最高ですが、他にありますか!」

 オークションを仕切る司会が興奮気味に言う。
 その時、部屋の隅にあるテーブルで静かに手が上がった。

「一〇〇〇」
「!」

 その声に、心臓を掴まれるような衝撃を感じた。低く肉感的な声には色気がある。視線を向けたその先にいる人を、リッツが間違うはずがない。
 見てくれは変わっていた。奔放な癖の強い黒髪は綺麗に香油で整えられているし、そこにサバルド王国の男性がつける金輪をつけている。無精ひげもなければ、肌艶もいい。白いスーツからも分かる筋肉質な体。腰に巻かれた緋色の布はサバルドの王族が好む色だ。

 その隣りには奴隷としてもう一人いる。肩までの金髪に、緑色の縄を編んだ輪をつけている。白いシャツに黒いジャケット姿だが、首にはしっかり首輪がある。彼の国の奴隷である証だ。
 でも、間違いなく親友だ。きて、くれたんだ。

「一〇〇〇、上がりました! サバルド王家のアリー王子です!」

 司会の興奮した声に、周囲がざわめく。野性的な金の瞳が、ジッとリッツを見ている。

 どうしよう、嬉しすぎて泣きそうだ。今すぐあの胸に飛び込んで、懺悔したり甘えたりしたい。キスをして、触れて欲しい。
 でも、触れてくれなかったらどうしよう。約束を破って他の男のモノを受け入れた事を怒ったらどうしよう。それは、悲しすぎる。
 嬉しさと切なさに泣きそうだ。その中でオークションは進んで、デブ男とアリー王子の一騎打ちだ。

「二〇〇〇」

 とうとうアリー王子の口から大台が出た。その金額にリッツの方が焦ってしまう。そんな大金、誰が払えるんだ。屋敷が一軒、召使い付きで建つ金額だ。
 そんな大金を彼が持っているとは思えない。それとも、アラステアあたりに話がついているのだろうか。
 いや、もしも父に話が通っていれば、今頃本人が出てきて船を荷物ごと買うという恐ろしい事をしてもおかしくない。

「二〇〇〇! 二〇〇〇がでました!」

 司会のボルテージも最高潮に達し、デブ男もとうとう下りた。
 ハンマーが鳴り、オークションが決する。
 身なりのいいアリー王子が真っ直ぐにリッツを見て立ち上がり、舞台上で代金の引き渡しが行われようとしている。その後ろには召使いが黙ってついてきた。

「おめでとうございます! それでは頭金として半額をお支払いください」
「あぁ? どうしてお前等に金を払わなきゃならない」
「は?」

 司会者は訳が分からないという様子で困惑する。リッツの鎖を持っている黒髪の身なりのいい男も警戒したが、無駄だ。この人をここまで接近させて、素人に毛が生えた程度の奴が敵うはずがない。

「俺は俺のものを取り戻しにきただけだ。お前等には金じゃなくて、罰を与えてやるよ!」

 言うが早いか、アリー王子ことグリフィスがリッツを捕らえている男の胸ぐらを掴み、舞台に投げ飛ばす。逃げようとしている司会は奴隷になりすましたランバートが綺麗に蹴り倒した。

「リッツ!」

 声に、少し視界が霞んだ。そして、愛しい胸に飛び込んだ。

「グリフィス……グリフィスぅ」
「遅くなって悪かった」
「ぎで、ぐれだならいぃ゛」

 嗚咽と鼻水でグズグズで、伝わったのかも微妙な状況だがいい。十分だ。

「そいつらを捕らえろ! 船を外に出せ!」
「それが!」

 エニアスが慌てて指示を出し、ごろつきみたいな奴等が舞台に数十人集まってくる。
 だが、船は一切動く気配がない。青い顔をした操船の男がエニアスに悲鳴混じりの報告をした。

「完全に囲まれています! 前方からジェームダル国軍、背後から帝国国軍の旗を揚げた船が!」
「なに!」

 直後、入口も裏口も抑えたのだろう騎士達が押し寄せてくる。客席の入口をダンが仁王立ちで塞ぎ、舞台袖からキフラスが数人を片付けながら現れる。そしてその壇上に、一際目を惹く人物が現れた。

「ここにいる者を全員捕らえなさい。奴隷禁止法違反、及び人身売買に関する法律違反です」
「は!」

 全員がテキパキと動き、逃げ惑う人々を捕らえて縛りあげる。当事者であるリッツは変わり行く状況に、正直置いて行かれた。

 ふわりと肩に上着が着せかけられ、意外と体が冷えていた事を知った。首輪もすぐに取られ、次には熱い抱擁が待っている。
 苦しそうなグリフィスの顔が、肩口で震えていた。

「よかった……よくねーが、間に合って」
「グリフィス」
「怪我、ないか。なんか変な薬とか使われてないか? 本当に今までみっけられなくて悪かった」

 自由な手を背中に回して抱きつけば、安堵が戻ってくる。止まっていたんだろう時間が動き出した感じがあって、リッツは素直に甘えた。

「平気、来てくれるって信じてた」
「悪い……」

 大きな体が小さく見える。それくらい心配してくれたんだと思ったら、全部がどうでも良い気がした。

 だが一つ、良くない事もある。
 リッツは思い出して体を離した。

「兄貴……兄貴も捕まってるんだ、助けないと! 俺より酷い怪我してるんだ!」

 グリフィスに訴えると、彼はすぐに頷いてくれる。そしてランバートも連れて、リッツは船倉へと向かった。


 船倉は静かなままだ。リッツはすぐにフランクリンのいる部屋を開ける。そしてそこに転がっているフランクリンへと駆け寄った。

「兄貴、助かったんだよ。もう、大丈夫だから」

 目隠しをされているフランクリンからは大きな反応がない。それでも体は温かくて……熱い?

「兄貴? 兄貴、しっかり!」
「リッツかせ!」

 ランバートが肩を掴んで前に出て、様子を見ている。その後ろで不安なまま、リッツは見守るしかない。止血だとかは出来るけれど、ここまでとなれば何もできない。不安な肩を、グリフィスがしっかりと抱いてくれた。

「綺麗に折れてないし、固定が足りてない。多分だけど、複雑骨折だ。リッツ、どのくらいこの状態なんだ」
「七日以上、たってる……」
「今から手術して骨を固定しても、変形するかもしれない。もしかしたら骨折部に痺れが残ったり、血流が悪くなってくるかもしれない。血流不足が酷くなれば壊死する。最悪、折れている左脛の途中から切断になるかもしれない」

 ランバートは辺りを見回し、木片を二つ持って患部を挟み、少し強めに締め上げた。
 途端、フランクリンは大きく目を開いて口を大きく開けたが、呻くような濁った声しか出てこない。悲鳴や言葉が出ない。
 ランバートも気付いたのだろう。首元を隠すような服を慌てて脱がせた。

 そこにあったのは、紫色に変色した胸元のほか、喉仏への外傷痕だった。

「声を出せないように喉を潰したのか」

 舌打ちをしたランバートが服を着せて担架と治療を指示しに上に行く。それを呆然と見送り、リッツはヨロヨロとフランクリンへと近づいて、側にペタンと座った。

「ごめ、俺きづかな……」

 震える手でフランクリンの手を握ると、僅かな力が握り返してくる。痛みに涙を流しながらも、フランクリンは穏やかに笑って首を横に振った。

「ごめ゛……」
「話さなくていいから! ごめん、助けられなかったぁ」

 このまま、話す事もままならない状態になったらどうしよう。もしも、足を切ることになったらどうしよう。もしも、死んでしまったら。
 リッツの中でフランクリンはどこまでも穏やかで真面目で、優しい兄のままなんだ。例え今回裏切られたのだとしても、それはこの人の弱さにつけこんだ奴のせいなんだ。

 やがて担架が運びこまれ、丁寧に運ばれる。船は無事にジェームダル王都へと向かっていた。


 「城が一番医者も設備もいい」というアルブレヒトのお許しで、深夜にも関わらず城の医者が手術をしてくれている。ランバートも手伝いくらいはできると、助手をしてくれている。
 不安が募り、俯いたまま顔を上げられない。顔色は悪かったけれど、これほどの事になっている事に気付いてやれなかったんだ。

「大丈夫だ、リッツ」
「だって、あんな……足、切るかもって」
「大げさに脅されただけだ。大丈夫、信じてやれ」
「だって! だって……」

 今まで悔しい思いはしただろうし、そういうのを飲み込んで笑っていたのも分かった。頑張っても成果が出なくて、本当は苦しんでいるのも知っている。
 でもこんな怪我なんてした事がない。痛い思いなんてしたことのない人なんだ。そんな人が、このまま足がなくなるかもなんて怪我したらきっと、辛い……

 隣りにある腕が引き寄せて、強く抱きしめてくれる。それにどれだけ安心したかわからない。大きなものに包まれるようで、焦りが溶けていく。

「お前の兄貴だ、根性ある。尋問した奴等から聞いたが、お前の兄貴は足引きずっても『弟を返せ』と訴えてたらしい。声が出なくなっても、しがみついたらしい」
「そんな!」

 そんなの、知らない。そんなに、頑張っていた姿を見ていない。

「確かに間違ったかもしれないし、無罪とは言えない。けど、お前の兄貴にとってお前はやっぱ大事な弟なんだ。それだけは確かだ」

 傷ついてないとは言わない。大変な状況から解放されて、色々と思う事もある。けれどグリフィスのこの言葉は何よりも心強く思えた。

「……甘いんだ、兄貴。いつもさ、俺の悪戯まで一緒に怒られてくれた。母親が死んで、寂しい時は側に来て一緒に寝てくれた。好きなお菓子、自分も好きなのに俺にくれるんだ。そんな……甘っちょろいけどいい兄貴なんだよぉ」
「あぁ、そうだな」
「大人になんてならなきゃ、ずっとこのまま……俺がもっとどうしようもないバカなら、兄貴も悩まなくて!」
「あぁ」
「俺、商売やめる!」

 感情のままに出た言葉だった。けれど、それもありな気がしてしまった。本当のビッチバカになれば、フランクリンの脅威にならない。いっそ騎士団の事務局にでも入れば、グリフィスと一緒に。

 思ったけれど、次には頭に軽い拳骨が当てられる。見上げるとグリフィスが、少し怖い顔をしていた。

「お前は商売人がむいてる。やめんじゃねぇ」
「だって……」
「……俺もお前が攫われたと聞いた時、騎士辞めてお前の側にいれば良かったと後悔した」
「そんなのダメだ! だってグリフィスはこの仕事が好きで、部下もグリフィスの事すごく頼りに……ぁ」

 そうか、そうだ。今の感情で放り投げたら、ついてきてくれた人はどうするんだ。バカやって、上手くいかない時代からなんだかんだとやってくれたルフランにも、申し訳が立たないじゃないか。

「お互い、バカな自棄は無しにしてよ。ちゃんと、考えようか」
「うん、そうだね」

 でも、この後どうしたらいいのだろうか。他国でこんなこと、父が知ったら兄の立場はどうなるんだ。最悪家督がリッツに回ってくる。そんなの受け取れないってのに。

 その時、手術をしている部屋からランバートが出てきた。服に少しついている血が怖いが。

「ランバート、どうだ?」

 聞くのが怖くて声が出ないリッツに代わって、グリフィスが聞いてくれる。それに、ランバートもほっとしたように笑った。

「最悪は回避できるかな。でも、痺れとかは残るかも。傷も残りそうだけど、リハビリ次第じゃ杖生活くらいでなんとか。喉は幸い一時的なもので、骨も折れてなかった。肋骨はヒビが三本。でも動けなかったから悪化はあまりしてない。今は解熱と感染予防の薬を入れてる。暫く動かせないけれど、回復に向かいそうだ」
「ほ……と?」
「俺が嘘言うかよ、リッツ」

 腰に手を当てて安堵の笑みを浮かべるランバートに、リッツは思いきり抱きついていた。そしてひたすら泣き声混じりに「有り難う」を連発していた。

 その日は医者にフランクリンを預け、リッツは用意してくれた部屋にグリフィスと入った。
 流石に眠くて立つものもなくて、温かく安心出来る腕の中でたっぷりグリフィスの匂いを嗅いで深く眠ってしまった。

 そして翌日改めて、アルブレヒトと顔を合わせる事になった。

「この度は大変なご迷惑をおかけしました、陛下」

 素直に頭を下げると、玉座のアルブレヒトは安堵の様子で微笑んで立ち上がり、そっと側へと来てくれた。

「無事でなによりです、リッツ」
「本当に、お手数を」
「それはいいのです。こちらもどうやら、売買業者の一斉摘発が出来たようですし」

 ニヤリと笑うあたり、ニヒル感が増している。でもどうやら、結果的に悪くなかったらしい。

「あの、それで、その……」
「ん?」
「兄の事、なのですが」

 これを切り出すのは、実はとても不安だった。アルブレヒトという人の性格を知っているから、犯罪に加担した相手を放置はしないだろうと思った。そしてフランクリンは思いきり加担してしまっている。
 やはりアルブレヒトは厳しい顔をした。それでも、リッツは言い募るしかないのだ。

「確かに俺の拉致に関わっているのは事実です! でもあの人も追い込まれていて、とてもまともな判断が出来る精神状態にはなかったんです! お願いします、処分を帝国に任せてもらえませんか!」

 他国で冒した罪はその国の法で裁かれる。だが一部特例もある。その国の責任者が罪を免除して国外に出す事を選んだ場合は、自国に連行されてそこで改めて罪が問われる。
 帝国も犯罪者に厳しいが、父が多少顔がきく。無罪じゃなくても情状酌量を狙っていけないだろうか。もうそこに賭けるしかない。

 リッツの必死の表情に、アルブレヒトはしばし渋面のままだったがやがて溜息をついた。

「捕らえたエニアスから話を聞いています。この城で貴方を見つけて目をつけ、一緒にいたフランクリンに目をつけた。一人になったフランクリンに接触し、少し話を聞くと確執がある事がわかり、それを利用して手引きさせた。犯罪としては軽微です」
「では!」
「彼を帝国に帰します。そこで改めて、罪を問うて下さい」
「有り難うございます!」
「こちらとしては残っている狡猾なハイエナを掃除できましたし、問題も解決した。貴方達の事で帝国に何かを要求する事はありません。むしろ、囚われていた者達を見つけて解放できたので十分な成果ですよ」

 完全な納得はしていないものの、妥協はできる。そういう様子のアルブレヒトが穏やかに笑い、次に悪戯する様な顔をした。

「ただし、一つお願いがあります。是非ともダンとイシュクイナ嬢の結婚式、見ていってくれませんか?」
「え?」
「フランクリンの怪我は二週間は安静にしなければなりません。そしてダンの結婚式は一週間後。それまでここにいて、貴方の作ったドレスを着た彼女を見ていきませんか?」

 その申し出はとても嬉しいし、出来ることならしたい。兄の事もある。けれど、ここで悠長にしているわけにもいかない。まずは父を説得しなければ。フランクリンを勘当になどされたら困るのだ。
 それに、グリフィスといたい。今日にでも全部の罪を告白するつもりだが、許されるなら側にいたい。それに、分かった事もあるのだから。

「あの、せっかくですが……」
「ランバートが貴方の御者と、今日にもこちらの報告書などを持って帝国に戻るそうです。陸路なので時間はかかりますが、貴方の秘書という青年にも事の次第を伝えるとか」
「ですが、その……」
「ついでに、グリフィス将軍の長期休暇をウルバス将軍がもぎ取ると言っていましたよ」
「え?」

 長期、休暇?

「何でも有給、かなり溜め込んでいるとか。どうせだから取らせると意気込んでいました」
「でも、そんなに上手くは……」
「それだけではなく、貴方の家の事もちゃんと出来るように、ランバートが話を回しておくと」
「そんな!! あいつにそこまでの尻拭いなんて」

 やれる奴なのは知っているけれど、だからってさせていい事じゃない気がする。それは当事者のリッツがやらなければならないことだ。
 でもアルブレヒトはリッツを帰す気はないらしい。既に決定事項だ。

「やらせて大丈夫。彼からの申し出ですし、ジェームダルからの帰還の時には無理をさせたからと」
「別に無理してやったわけじゃ……」
「友情に応えたかったのですよね?」

 穏やかに笑われて、恥ずかしながら頷く。久々にあった親友が、キラキラ輝いていた。それでも昔のままだった。だからリッツも多少のリスクを冒してでも、力になりたいと思ったのだ。

「今回はランバートが、貴方との友情に応える番ですよ」

 そう言われたら何とも返しようがない。
 リッツは結局この申し出を受け入れる事にしたのだった。
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