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2章:残り物には福がある?

4話:恋の始め方?(キアラン)

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 妹の結婚式以降、キアランはトレヴァーに自分の事をより話すようになっていた。そして、会う回数も少しずつ多くなっていった。
 とは言っても夕食や風呂を終えてからの一時間程度の事だ。

 そしてトレヴァーがいない日は、他の同期とも話すようになっていった。


「それにしてもキアラン、ちょっと雰囲気変わったよね」

 隣でチビチビと酒を飲みながら、ウェインがしみじみとそんな事を言う。側にはオリヴァーもいて、納得するように頷いた。

「そんなつもりはない」
「そのつっけんどんな感じは以前からですが、確かに少し壁が薄くなりましたよ」
「……」

 オリヴァーにもそんな風に言われてしまうと、そうなのかと思ってしまう。
 なにより、少しだけ自覚もあるのだ。トレヴァーと話すようになって、前ほど他人が苦手ではなくなった。以前は「心の中では自分の事を笑っているんじゃ」という猜疑心がどこかにあったのだが、それがなくなっている気がする。

「今の方が絶対、いいよね」
「そうですね」

 嬉しそうにウェインが、同意するようにオリヴァーが頷いて、キアランを見る。その目には言葉以外の感情は見えなかった。

 トレヴァーと知り合って、素直な奴の屈託のない様子を見て、こんな人間もいるんだと驚き、同時に気持ちが安らぐのを感じた。徐々に自分が卑屈すぎるんだと、思えるようになっている。
 それに、嘘をついたり心に何かを隠している奴の様子は自然と分かる。主にどれだけ笑顔でも、低姿勢でも、愛想が良くても第一印象が嫌いなのだ。

「何か切っ掛けがあったのですか?」
「え?」
「心持ちが変わったように思いまして。何か切っ掛けがあったのかと」
「それは……」

 あると言えば、ある。だが言うのは恥ずかしい。
 思わず目を逸らすと、次はウェインがニヤリと笑った。

「そんなの、恋に決まってるじゃん!」
「な! 違う!!」

 思わず大きな声が出て、慌てて口を押さえた。周囲も騒がしいから気にする奴はいなかったが、一緒にいる二人はニヤリと笑った。

「ねぇ、誰なの!」
「だから違うと」
「気になる人がいると見えますね。既に私達の事は知っているのですから、隠すのは無しにしましょう」
「だから、そう言うんじゃない!」

 男の恋バナなど何が楽しいんだ、恥ずかしい! それに……恋というにはあまりに不確かな感情なんだ。

「恋じゃ、ないと思う。親友……いや?」

 口にしてみて、違和感に気付く。友人ではあるし、年の離れた親友か、同胞とも思える。思えるのだが、そこに落ち着く事にチクリと何か小さな骨のようなものが刺さる。
 では、この関係はなんと名前をつければいいんだ?

 キアランのそんな様子を見てか、ウェインとオリヴァーは顔を見合わせ、落ち着いた様子で声を落とした。

「まだ、分かんない?」

 ウェインの言葉に、キアランは素直に頷いた。正直、分からない。もしかしたらこのまま友人のように終わるのかもしれない。でも、変わるかもしれない。自分は、どちらを願っているのだろうか。

「キアランは、どうしたいのですか?」
「どう、と言われても……」
「恋人欲しいとか、その人ともっと親しくなりたいとか」
「親しくは、なってみたい。俺の話を嫌がらずに聞いてくれるし、あいつも話をしてくれる。それが、心地いい」
「じゃあ、触ってみたいとかないの?」
「さわ!」

 すぐに口を押さえたが、心臓はバクバクしている。触りたい……のか?
 考えても実感がない。これまで誰かに触れたいとか、触れられたいとか思った事がない。

 だから、想像してみた。力強い手だった。自分にはない逞しい体だ。触れられて、嫌な感じはなかった。性的な意味ではなくても、触れた手は温かくてどこかホッとした。

「分からない。ただ……嫌じゃない」
「どこまで行ったんですか?」
「一緒に飲んで、妹の話をして、愚痴ったり……部屋に呼ぶこともたまに」
「え! キアラン僕達の事は呼んでくれないのに!」
「それは……」

 確かに部屋は自分の領域という感じがあって、あまり他人を入れない。シウスですら入れた事がない。というか、ウルバスの部屋に行くことはあっても入れた事はなかった。
 不思議だ、トレヴァーは自然と受け入れて。部屋に入ってもいいと思えた。弱さも、見せられている。

 オリヴァーがほっとしたように笑う。そしてポンと、肩を叩いた。

「大丈夫、その相手は貴方を大事に出来る人ですよ」
「知らないくせに」
「知らなくても貴方の顔を見れば何となく分かります。拒んでいないでしょ? 普段の貴方は誰に対しても壁を作って、同期なのに部屋にも入れない。そんな貴方が警戒なく招き入れるんです。いい相手ですよ」

 そういえば、そうだ。あまりにプライベートな事を外でするつもりになれずに部屋に招いたが、そもそも他の相手にはプライベートな話をしたいと思わなかった。

 特別。それを意識してみると、途端に気恥ずかしい気持ちが溢れて顔が火照ってくる。素直じゃない自分が「別に寂しいわけじゃない」と言うが、実際は少し悔しくて寂しいのだ。周囲が幸せそうで、羨ましいのだ。

「……俺の勝手に、巻き込むのは」

 周囲の幸せを妬んで焦っているだけなら、トレヴァーを巻き込んではいけない。そう、理性が働く。それではまるで、欲しい物をねだる子供と同じだ。そんな恋愛、不毛だ。

 オリヴァーとウェインが顔を見合わせ、よしよしとキアランの背中を撫でる。子供扱いに睨むと、二人は困ったように笑った。

「では、試してみては?」
「え?」
「自分の気持ちと、相手の気持ちを。相手にその気があるなら、貴方だってやぶさかではないのでしょ?」
「それは……」
「貴方だって決まってしまった方が安定しますよ」
「でも、どうやって……」
「簡単です。誘惑してみるのですよ」
「ゆ……」

 誘惑だと!!

 唇に人差し指を押し当てた蠱惑の瞳を見せるオリヴァーを見て、キアランはとんでもない地雷を踏んだ気分だった。


 次の安息日前日、キアランは自室にトレヴァーを誘った。「妹の結婚式で貰ったワインがあるから」と言って誘ったのだ。
 トレヴァーはその日街に出ていたらしく、部屋に来た時にはチーズなどを手土産にしていた。

「こんなに土産を貰って、悪いな」
「あぁ、いいえ。どうせ飲むなら楽しくですよ」
「そう、だな」

 少しぎこちないだろうか。妙に心臓がバクバクしている気がする。
 妹の結婚式で「祝いの品だ」とワインを二瓶貰った。白と赤のそれをテーブルに乗せ、グラスを置く。不慣れな様子でコルクを開けようとしていると、横合いから手が伸びてきてそっと重なった。

「俺がやりますよ」
「だが……」
「お酒飲まないなら、こういう事が不慣れなのは当然です。気にしない」

 そう言って、いとも簡単に開けてしまった。
 ほんの僅か黄色がかった液体が注がれ、チーズなども皿に並んで、二人で向かい合って乾杯をした。嬉しげに一口含んだトレヴァーが美味しそうにしている。
 キアランも舐めるように飲んで、酸味に少し驚いた。

「白は酸っぱいんだな」
「まぁ、赤に比べれば。でもさっぱりとして飲みやすいですよ」
「そういうものなのか?」

 思い、今度はもう少しクッと飲んでみる。確かにサラリと入ってくるが、飲み慣れないから喉が熱い。

「そんなに飲んで大丈夫ですか?」
「明日は安息日だからな。それに、祝い酒だ」
「いい式、だったんですもんね」
「あぁ」

 思い出すとまた少し、寂しさがあるように思う。けれどこれは過去に出来た。手を離れた妹は、幸せそうだったのだから。

「お前もそのうち分かるさ」
「そうですね。案外そう遠くないかも」
「泣くなよ」
「それ、自信ないんですよ。もう、小さな頃からの妹がフラッシュバックしそうで今から泣く準備出来てる感じです」
「ははっ」

 笑って、またちびりと飲む。味に少し慣れたのか、咽せる事はない。ただ体が僅かに熱くなってきた。

「キア先輩は、そんな事ありませんでしたか?」
「大いにあった。泣きそうな顔をしていただろうな」
「泣けば良かったのに」
「隣で親父が恥ずかしいくらい泣いてるんだ。それに負けた」
「あはは、なるほど」

 男泣きはかっこ悪いと思っていたが、父親の涙はそうは映らなかった。気持ちは同じだったからだろうか。

「兄の結婚式ではこんな気分にはならなかったのにな」
「男兄弟はそんな感じじゃないですか?」
「そうかもな」
「お兄さんに子供が生まれた時はどうでしたか?」
「怖くて触れなかったよ。随分笑われた。あんなに弱い生き物に触れるのは、流石に怖くてな」

 壊れてしまいそうに思えたし、決して血を知らない手ではない。直接誰かを殺した事はないが、立てた作戦や作った物が敵を殺めている。その手に穢れのないものを抱くのは、ちょっと気が引けたのだ。

「子供可愛いのに」
「お前は好きそうだな」
「はい。ハリーやコンラッドと一緒に教会に奉仕活動に行って、子供と遊んだりしてますから」
「そんな事もしてるのか? 忙しいだろうに」

 これで第三の仕事は多い。普段の訓練に加え、操船技術や帆の補修やロープの扱い、海図の見方や大砲の扱いまで。第三は技術職でもあるのだ。
 だがトレヴァーは軽く笑って酒を飲み、チーズを口にする。キアランもつられるように飲んだ。体が熱くなって、ふわりと気持ちいい感じになってきた。

「ある意味リフレッシュみたいなもんですよ。元気もらえるし」
「……羨ましいな」
「え?」
「俺は、その……他人があまり得意じゃないから、そういうリフレッシュ方法は考えつきもしないし、きっと無理だ」

 ふと、心に溜まっているものが浮き上がった感じがした。理性が感情に勝てなくなっているんだろう。普段はここで止まろうとする。けれど今は、トレヴァー相手には止めたくなかった。

「子供は読むだろ? 相手の人間性みたいなものを」
「まぁ、そういう部分はありますけれど」
「俺はそこで、選ばれない。誰も、寄ってこないから……」

 言ってみて、ふと寂しくなった。急に周囲に誰もいないような気がして、足が竦む感じがあった。

 不意に、座っているソファーが沈んで引き寄せられて驚いた。見るとトレヴァーが心配そうな目で見下ろして、キアランを抱き寄せていた。
 温かくて、強い腕だった。そして、嫌じゃなかった。身を委ねている事にプライドは響かず、素直に寄せていられた。

「そんな事ないですよ。キア先輩はちょっと不器用なだけで、ちゃんと皆分かってます」
「だいぶ、不器用なんだろ?」
「またそんな事言って。第一、本当に嫌な人なら同期の人も、宰相府の人も皆離れて行ってますよ。俺だって、近づかなかったし」

 言われ、怖くなってトレヴァーの腕を掴んだ。行ってしまうのではと、不安になったのだ。
 縋るような目だっただろう。助けを求めるようだっただろう。自覚はあっても、理性は感情に負けている。

「嫌だ。トレヴァー、行くな」

 気付けば言葉でも縋っていた。そんな自分を許せたのは、酒だったのだ。

「一人にしないでくれ。どいつもこいつも、幸せそうで……置いていかれそうで嫌なんだ」
「先輩……」

 より強く抱きしめられて、俯けていた顔を上げた。そう無理のない位置にトレヴァーの顔がある。距離が近くて、焦げ茶色の瞳を見ていて、少しだけ期待もした。彼の瞳が濡れている気がしたからだが、ハッとして体を離した。

「すまない、こんな。俺らしくないな」
「先輩」
「ほら、飲んでくれ。俺だけじゃ飲めないし、残したら勿体ないから」

 まだ少し残っているグラスにワインを注ぎ足し、キアランも誤魔化すように口にする。トレヴァーは何かを言いたそうにしながらも飲み込んで、隣で飲み始めた。

 アルコールは心を裸にする。フワフワとした心地よさに任せて息をついて、それでも楽な気持ちになっている。

「大丈夫ですか?」
「あぁ」
「酔ってません?」
「酔ってるな」
「あの、後は俺だけでも飲めますから、水に」
「飲みたいんだ。もう少し、飲ませてくれ」

 もう少し飲んだら、言える気がする。「トレヴァー、お前は俺をどう思っているんだ?」と。


 時間がどのくらいたったのか、はっきりと覚えていない。ただ、ふわりと体が浮くような感じがあって不意に戻ってきた。
 丁寧にベッドに降ろされ、胸元を開けられて、布団をかけられた。そうして去ろうとする人の腕を、キアランは掴んでいた。

「どこに行く?」
「起きてたんですか?」
「どこに行くんだ」
「いえ、先輩酔ったみたいなので、おいとましようかと」
「……行くな」
「え?」
「トレヴァー、俺の事は嫌いか?」

 暖炉の明かりがトレヴァーの驚いた顔を浮き上がらせる。どんな反応をするのか見ていたら、どこか苦しげな顔をされた。

「嫌い、なのか?」
「ちが! あの、でも……」
「俺はお前が好きだ」
「え!」

 驚いて見開かれた焦げ茶色の瞳を覗き込む。ほんの少し赤くなった頬や、まだ苦しげに真一文字に結ばれる唇を見て、彼の気持ちが知りたくなった。

「俺は疎いんだ。教えてくれないか? お前は、俺が嫌いか?」
「好き、です。でも、俺の好きは先輩と後輩とか、そういうのとはちょっと違って」
「じゃあ、なんだ?」
「言いたくありません。言ったら、今の形に戻れない」

 明らかに目を逸らされて、濁されて、キアランの胸も苦しくなる。このモヤモヤした気持ちに何かしらの名を与えたい。そう思って今日誘ったのだ。このまま、逃がしたくない。
 思ったら、腕を引いて伸び上がって、倒れかけてベッドに手をついたトレヴァーの唇にキスをしていた。
 自分でも驚いた。だが、なんだかすっきりと納得をした。抱き寄せられて、心地よかった。離れて行くことが寂しくて苦しかった。今までどんな人間が去ってもあまり気にもしなかったのに、トレヴァーとだけは切れたくなかった。

「キア先輩!」
「俺の好きは、こういう事も含まれていると思う。お前は、違ったか?」

 真っ赤な顔をしたトレヴァーの瞳は切なげに細められる。困ったような、少し怒っているような眉の寄り方だ。
 けれど次に与えられたのは奪い取るような熱いキスだった。強く抱き寄せられて重なった唇から舌が割り込んで、口腔を暴いていく。酒気を感じるキスは、またふわふわとキアランを夢心地にした。

「我慢、していたんですよ」
「無用だろ」
「俺、経験ないんで衝動的にって、困るんですけれど」
「俺も経験はない。お前の好きにしていい」
「あっ……ったく、なんでこんな……酔ってる時にそういう事言うんですか」

 苦しそうにガシガシと髪をかくトレヴァーの瞳には、見た事のない男の光がある。布団を暴き、ギシリと乗り上げてくるのは少し迫力があって、キアランはそのまま後ろに倒れた。

「嫌なら、今のうちですからね。理性切れたら、流石に止められないんですよ。俺で、いいんですか?」
「愚問だ。俺はとっくに、理性なんて浮いている」

 心地いい低音に身を任せていたい。これから襲われるというのに、待ち望んでいる自分がいる。苦笑して、トレヴァーが外した服のボタンを自分で全て開けた。
 ゴクリと、トレヴァーが緊張したように喉を鳴らす。赤い顔で、それでも戸惑っているのが分かる。

「欲しくないか?」
「煽らないでくださいよ」
「案外意気地なしだな。こい、トレヴァー。俺の事が好きだというなら、確かめさせてくれ」

 腕を伸ばし、受け入れるように笑った。何とも清々しいのだ、自分の感情がはっきりと分かり、想いが同じだと感じられる事が。

 互いに酒の臭いのするキスを、角度を変えながら交わし続けている。舌が触れあうと心地よく蕩け、歯の裏側はくすぐったくて少し痺れた。
 密着する体が擦れて、互いに汗ばんでいるのを感じる。ぼんやり浮いたような感覚で全てを見ていた。
 酔いか、それとも感じた事のない快楽からか思考が鈍る。互いに興奮した息づかいが部屋に広がって、余計に頭の中が浮く。

「あっん、ふっ、んぅ」

 キスが深くて、体の内側から滾るような疼きが沸き上がってくる。
 この関係で、いいのだろう。愚痴を言い合うだけの友人に留めたくない。一緒に酒を飲む親友じゃ足りない。向けられる切なげな瞳や、触れる手の熱さを感じるこの距離を求めていたんだ。

「キア先輩……」
「あっ、んぅ!」

 首筋に触れた唇が軽く吸い付いて、ほんのりと痕を残していく。
 体を触られる事が苦手だったけれど、こんなに疼くなんて知らなかった。今はとても興奮している。息があがって、頭の芯が痺れるくらいには。

 愚痴から始まった、妙な関係。余り物同士の馴れ合いのようだったはずだ。けれど、求めたのはこいつだった。今はもう、馴れ合いなんて言わない。欲しているのだから。

「本当に、いいんですか?」

 誠実な焦げ茶色の瞳が切なげに細められる。バカだ、止められないだろうに我慢して。キアランが嫌だと言えば、こいつは本当に止めるのだろう。泣きそうな顔をしているってのに。

「いいぞ、トレヴァー」

 今更止めようなんて思わない。自分も求めているんだと、今ならはっきりと分かる。体が疼いている。この男を欲している。

 許されて、手が遠慮がちに体に触れてくる。厚くもない胸板、白い肌。対するトレヴァーは胸板も厚く、色も焼けている。当然だ、外で船を操っているんだ。

「んっ」
「ここ、感じませんか?」

 硬い指先がコリコリと胸の突起を転がしているが、いまいち分からない。確か、ここも性感帯だとオリヴァーが言っていたが。

「すまない。不感症、なんだろうか?」
「感じる人と、そうじゃない人がいるのかも。でももう少しさせてください。俺は、ちょっと興奮します」

 膨らみもない乳首を捏ねて興奮するというなら、別に構わない。好きにさせている。その間にトレヴァーはキスをして、ムズムズと感じた首筋を丁寧に刺激していく。そこはくすぐったいような、ムズムズする感じがして心地よいのだ。

 だが、異変は徐々に始まっていた。気持ち良くされて、そのうちに乳首のほうも硬くなっていって、ほんの少し痺れるような感じがしている。特に摘ままれると、ヒクリと肩が震えた。

「もしかして、気持ち良くなってきました?」
「分からない、が……感じ方が」

 戸惑っていると、トレヴァーは体をずらしてずっと触れていた乳首を舌で転がし、押し込み、吸い上げる。それは明らかに気持ちが良く、驚きつつも走った痺れに声が自然と上がった。

「よかった、気持ち良くなったみたいで」
「良かった、のか?」

 男がここで感じるのは、どうなんだろうかと冷静な自分が疑問に思う。だが、嬉しそうにそこを攻め立てるトレヴァーを見るといいんだろう。気持ちいい事をしているわけだし。

「あ……はぁ……っ」

 ムズムズするような快楽だったがそれが徐々に染みてくる。緩く腰が揺れるとそれを察したトレヴァーが、柔らかく握り込んで扱きだした。

「あぁ! はぁ、あっ」

 突然貫くような強い刺激を与えられて、自然と強ばる。これでも、自慰くらいはしているがそれとは違う。他人の手とリズムで扱かれるのは、タイミングが分からず不意打ちで、そして思った以上に気持ちがいい。

「キア先輩、俺のも一緒に扱いていいですか?」
「え? はぁ! あっ、まてっ」

 一緒に握り込まれた熱い肉棒が擦れてくる。途端、トレヴァーも男の色香のある表情で眉根を寄せ、気持ち良さそうに息を吐く。自然と先走りが溢れ、二人の昂ぶりを濡らしていった。
 でも、知識でだけは知っている。男同士の交わりは、気持ちいい事ばかりじゃない。もっと、違う……。

「先輩、このまま……」
「まっ、っっ! 待て!」

 このまま果ててしまいそうな快楽にギリギリで勝ったキアランはトレヴァーの腕を掴んだ。それに驚いたトレヴァーは、頼りない目をしていた。

「頼むから、中途半端にしないでくれ」
「先輩……」
「頼む、止めるな。今手加減されたら後悔する。お前とちゃんとしておきたい。だから、これで終わりにするな」

 この先は痛いと聞く。血も出ると聞く。正直怖いし、足踏みをしてしまいそうだ。
 それでも手加減なんてされたくない。ちゃんと交わって、感じておきたい。それで得られるものはあると思っている。
 なにより、今踏み切らなかったら次はいつか、分からない。

「でも、痛いかも……」
「俺はビビリだから、止めてくれと言うかもしれない。でも全部無視していい! 頼む、全部欲しいんだ」

 腕を掴む手に力が入って震えている。既に情けない自分が怯えている。
 けれど苦しそうな顔をしたトレヴァーが全部を包むように抱き寄せるから、自然と落ち着けた。

「先輩、俺は貴方が好きです」
「え? あぁ」
「これ、酔っての事じゃありませんから。酔った勢いとか、そういうのは嫌なんでちゃんと伝えておきます」
「……うん」

 胸にある苦しさは、甘くもある。不思議だ、人間は嬉しくても苦しくなるものらしい。
 背中に腕を回して抱き寄せて、肉欲ではないキスをした。本当に甘い、恋人のするものだった。

 ギシリと横たえられ、足を大きく開かれる。恥ずかしさに真っ赤だったが、今更な気もする。互いに素っ裸になっているのだし、全部を晒しているのはお互い様だ。

 『用意周到』と周囲が評価をするだけはある。もしも気持ちを伝え、彼が同じ気持ちであったならば。それを思って一応は必要な物を揃えておいた。
 香油の場所を伝えるとトレヴァーは赤くなりながらも真新しい瓶を取り出し、それを手に纏わせて割り開いた後孔へと塗り込む。

「やっぱり、凄く硬い」
「んっ」

 クチッと油に濡れる指が敏感な部分に触れるのは慣れなくて、目を瞑った。そうすると余計に指の動きが分かるようになる。皺の一つずつを伸ばすように丁寧にしながら、時に中心を押される。ムズムズとした感じがする。

「痛かったら、言ってください」
「へ? んぅ!」

 ヌルリとした指がほんの少し窄まりを押して入り込んでくる。思わず力が入ると締め付けているのも感じた。
 おそらく第一関節くらいまでなんだろう。それが広げるように捻りながら、柔らかな粘膜も広げてくる。妙な感覚はあるが、痛みまではない。意識して息を吐くが、見るのは流石に恥ずかしくてできなかった。

「はぁ、はぁ……」
「少しずつ、柔らかくなってきました」
「そういうのはいい……んぅ!」

 抜き差しを始めた指が少しずつ深くなってきて、押し広げていく感覚を中で感じる様になってきた。その指が奥を薄く擦り上げた時、違和感のような痺れに体が強ばった。

「ここ、ですか?」
「へ? あぁ、そこはっ」

 確かめるように何度か薄く擦られると感覚がはっきりしてくる。甘く痺れて腰骨に響き、ゾクゾクと背を這うような感じがしてたまらない。余韻が甘い。

「気持ちいいですか?」
「んっ、わかんな……っ!」
「もう少し、慣らしますから」

 もう違和感はない。入口は柔らかく受け入れている。その指が二本に増やされても痛みはなかった。香油で滑り、丁寧にされることで受け入れが容易になっている。
 けれど、中で感じる異物感は増している。それが先程の場所を擦ると、それは突き抜けるような快楽になってキアランを喘がせた。

「はぁ! あっ、なんで!」

 自然とガクガク震えて、前から溢す先走りがトプリと増える。壊れたように溢すから、少し怖い感じがした。

「前立腺、ですから」
「へ? はぁん!」

 これが、噂の? こんなに直接的に体に響くものなのか!

 聞いただけの情報だが、実際感じると落ちるように気持ちがいい。気持ちよさに怖くなるくらいだ。擦られるだけで力が抜けて、脳みそを快楽で串刺しにされる。

「あっ、ここすると力が緩みますね」
「あっ、やめ……っっっ!」
「止めては聞かなくていいって、キア先輩が言ったんですよ」
「んぅぅぅぅ!」

 瞳を覗き込まれてこう言われると言い逃れができない。それに、気持ち良すぎて怖いだけで止めて欲しいなんて思っていない。
 でも、なんだか手が寂しい。ほぼ無意識に手を広げていた。

 トレヴァーはその意味を正しく理解してくれた。腕の中に収まった彼を抱きしめる。そのまま、トレヴァーは器用に指を増やして三本にする。
 少し、痛かった。けれど思った程じゃなく、すぐに快楽に流された。逞しい背に腕を絡ませて息を吐きながら喘いだ。自分でもちょっと恥ずかしい痴態だが、体が言う事をきかないのだから仕方がない。

「すいません、先輩……痛かったら、しがみついてください」
「あ……」

 くる……
 浮いた頭でそれを理解するよりも前に中を圧迫していた指が抜け、熱い楔があてがわれる。それがゆっくりと入口を広げ、押し入ってきた。
 痛かった。思わず力が入ってしがみつくとそこも締まって食い締めてしまう。トレヴァーの辛そうな顔を見てハッとするが、緩める事もできない。

「あっ、すまな……っ!」
「大丈夫、ですから」

 いや、大丈夫な感じがしない。オロオロしていると不意に髪をかき上げられて、深いキスが与えられる。それはとても気持ちが良くて、徐々に力が抜けた。
 その隙を狙って、ゆっくり出入りを繰り返して入ってくる。一番太い部分が抜けると少し楽になって、息を吐いて後は受け入れられた。

「は……あはは……」

 動くだけの余裕はまだない。けれど確かに全てを収める事ができて妙な達成感からキアランは笑った。苦しいし、痛いが満足だ。

「はいり、ましたね」
「あぁ」

 人の体の適応能力は凄い。それに、中で感じるトレヴァーの熱を愛おしくも思える。

「先輩」
「んっ、ふっ、んぅ」

 頬を撫でられ、近づいてくる唇に合わせてキアランも求めてキスをした。今まで経験はなかったが、これは好きだ。熱情も、愛情も感じることができる。

「動いてもいいですか?」
「あぁ……んぅ! ふっ、あぁ!」

 緩やかに引かれた中を押し込むように突かれ、ビリビリ痺れる。先程慣らされた前立腺を擦り上げられて星が飛んだ。こんなのは、初めてだ。

「はっ、はぁ、あぁ!」

 一突きごとに飛ぶ。擦り上げられるだけのそれが徐々に狙って抉るようにされて、強すぎる快楽におかしくなる。心臓が壊れそうだ。体も壊れてしまいそう。繋がった部分が熱く蕩けて、溶けてしまいそうだ。

「先輩、凄く締まるっ」
「んぁ! あっ、あっ、あっ!!」

 意味のある言葉が見つからない。息をするのが精一杯だ。
 ガクガク揺さぶられながら、興奮したトレヴァーが乳首を吸うから余計に飛ぶ。背が弓なりに強ばって、逞しい腹筋に擦れたキアランの昂ぶりがヌルヌルに溢している。

「ごめん、先輩……もっ、イクっ」

 苦しげに眉根が寄って、強く抱きしめられた。途端に密着したトレヴァーの腹筋に強く擦れた昂ぶりが限界を迎えて決壊するように吐精していた。

「あっ、あっ、あっ!」
「っ!」

 ドクッドクッと心臓が鳴る度に吹き上げるように吐き出して、痙攣しながら達したキアランの中に、トレヴァーも熱を吐き出している。ギュッと抱きつく彼の熱を感じながら、キアランは落ちていった。
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ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

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