勘違いにも恋がある

凪瀬夜霧

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勘違いにも恋がある(1)

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 レムロード王国第八辺境師団は、辺境地に出没する魔獣の討伐、周辺の町の警備から、公共事業の力仕事まで行っている。

 配属1年目のレオンは日々を忙しく過ごしている。
 午前中は鍛錬を行い、午後からは町へと向かい困った事がないかを警邏して回る。
 時には害獣駆除からお年寄りの荷物持ちまで。いい加減「便利屋かよ!」というツッコミを入れたくなるラインナップである。

 今日も一通りの仕事を終えて砦に戻ってくると、待機部屋から何やら怪しい声が聞こえてきた。

「どうだ、硬いだろ? 満足か?」
「あぁ、凄く硬いっ。最高……はぁっ」
「…………」

 自慢げで息の荒い声は直属の上司のもので間違いがない。そして恍惚とした声で答えているのも上司だ。
 溜息が出る。ここは困った人がとにかく多すぎる!

 バンッとドアを開けると案の定な光景が広がっていた。
 レオンでは上げる事もできない重さのダンベルを両手に持って筋トレをしている直属の上司ヤン。お決まりのように上半身裸だ。どうして筋肉自慢はどいつもこいつも脱ぎたがる!
 そのヤンの逞しい胸筋を撫で回し、うっとり恍惚とした表情を浮かべているのは、配属5年目の上司アランだ。

 二人とも黙って服を着て立っていればもの凄くモテる。
 ヤンは体格も肉体も恵まれた美丈夫で、硬い茶色の髪に案外優しげな同色の瞳で、まさに逞しい系イケメンと言える。
 アランは垂れ目で金髪。少し長めの髪を面倒そうにしているが、顔立ちは甘めで語り口も優しげだ。
 なのに、片や脳筋。片や筋肉フェチだ。残念としか言いようがない。

「おう、お帰りレオン! 何事もなかったか!」
「ただ今戻りました、ヤン先輩。今日も平和で、お婆ちゃんが転んで落としたオレンジを拾うの手伝ったくらいです」
「そりゃ何よりだ!」
「はぁ……アラン先輩、いつまで筋肉触ってるんですか!」
「いいじゃないか、レオン。触りたい放題なんだから心ゆくまで堪能したいだろ?」
「知るか!」

 これで俺の人生はいいんだろうか? 俺はここにいていいんだろうか?

 毎日何十回と思う疑問を溜息で消して、レオンは今日の報告書を書いて責任者の下へ向かう事にした。
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