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妹は温もりを求めている

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「まだまだ暑いな」
「そうですね」

 学校に向かっている遼と聖雪、九月はまだ暑くて外にいるだけで汗をかいてしまうほどだ。
 今日も真夏日になるようで、夏服といえど暑さが和らぐことはない。
 ちなみに二人は高校一年であり、中学までは面識すらなかった。

「学校面倒だな」

 土日明けの月曜日は大体の人がそう思うだろう。

「そんなことを言うものではありませんよ。親がいないと私たちは高校に通えてないのですから」

 中学までの義務教育とは違い、高校生の遼たちは親のおかげで学校に通えている。
 だからいくら面倒だと思ったとしても、そういうことは言うものではない。

「そうだな。てか、学校ではイチャイチャする?」
「し、しませんよ。兄妹になったのですから普通に話す分にはいいですが、流石に学校では無理です」

 学校だと人目があり、いくらしきたりといえど恥ずかしいのだろう。
 そもそも遼も今まで姉や妹がいなかったので、学校でどうすればいいのかわからない。
 でも、学校では兄妹として話せば問題ないということだろう。

「私は兄さんと一緒に学校に行くのが慣れません」
「そうなのか? 最初は彼氏が出来たとか色々言われたからな」
「はい。兄妹になったと言っても中々信じてくれませんでしたし」

 先週、兄妹になった二人は一緒に登校をした。
 だから付き合いだしたの? とか聞かれ、数日間は兄妹になったと言うことになったのだ。
 でも、クラスメイトは知り合いから兄妹になったと言われてもすぐに信じられるものではない。
 出席簿がすぐに反映されなくて、先生が聖雪のことを旧姓で呼んでいたというのもあるが。
 もしかしたら未だに兄妹になったと信じていない人もいるかもしれない。
 今週からは出席簿の名前も橋本に変わるため、皆も信じるだろう。

「まあ、そろそろ皆も慣れてくるだろ」
「そうですね」

 もう兄妹になって一週間たつので、周りは何かと言わなくなるはずだ。
 しきたりでイチャイチャすることになるが、基本的に二人は兄妹なのでそれ以上の関係ではない。
 一緒に暮らして一週間たち、聖雪は兄さんと呼んでくるので遼は完全に彼女のことを妹と思っている。

「んじゃあ、早く行きますか」
「はい」

 今日は少しイチャついたためいつもより襲い時間になってしまい、二人は早足で学校に向かうのだった。

☆ ☆ ☆

「遼はいいよな。あの藤島ふじしまさんと兄妹になれて。一緒に住んでるんだろ?」

 学校での休み時間、遼はクラスメイトである斎藤匠さいとうたくみと話している。
 今年高校に入学してからの知り合いで、遼と匠は趣味が合って友人になった。
 ちなみに藤島とは聖雪の旧姓であり、名字が変わってもそう呼ぶ人は多い。

「高校生の兄妹は一般的に一緒に住むだろ」
「それが羨ましいんだよ。義理の妹が出来るとかお前はアニメの主人公か」

 趣味が遼と一緒のためか、義理の妹が出来たというとこに匠は羨ましがってきた。
 ギャルゲーをやる人種であるから、そう思っても仕方ない。

「はは、俺がアニメの主人公のわけがないだろ。女っ毛はないし」
「わからないだろ。義理の妹が出来てからアニメみたいに可愛い女の子に恵まれるかもしれないだろ」

 少し興奮気味に話す匠。

「そんな状況になりたくない……」

 ハーレムが許されるのは二次元だけであって、日本ではよろしくないだろう。
 それに遼はシスコンなので、妹でなければ異性に興味はない。
 さらには妹を性的な対象で見ることはないし、これからも聖雪とは兄妹過ごすだろう。

「遼に義理の妹が出来たのだから、俺は主人公の友人キャラになるじゃないか。本当に羨ましいいぃぃ」

 血の涙を流しそうな勢いだ。
 ラブコメアニメやギャルゲーの友人キャラは何かと不憫で、イケメンであってもモテることはない。
 ギャルゲーなどの友人キャラが異性からモテたら、ゲームをやる人は良く思わないからだ。
 遼に可愛い義理の妹ができてしまい、匠は完全に友人キャラのポジションだろう。

「ギャルゲーだと兄妹でも恋人同士になったりするだろ? 実際になりそうなのか?」
「いや、まだ一緒に暮らし始めて一週間なんだが……」

 匠の質問に遼は苦笑して答えた。
 元々単なるクラスメイトだし、短期間で進展なんてするわけがない。
 ネット小説などではヒロインは早々に主人公に惚れたりするが、二人は兄妹の関係だし聖雪が遼に惚れるなんてことはないだろう。

「兄さん、ちょっといいですか?」
「ん? どうした?」

 匠と話していた遼の元に聖雪がやってきた。

「今朝お弁当を渡すの忘れてしまいました。これが今日の分です」

 手には可愛らしい布に包まれたお弁当を持っており、それを遼に渡した。

「ありがとう」

 妹である聖雪にお弁当を作ってもらえたのが嬉しくて、遼は聖雪の頭を撫でる。
 どうやら頭を撫でられるのが好きなようで、聖雪は可愛らしく笑みを浮かべた。
 やはり今までの環境が影響しているのだろう、完全に温もりを求めている。
 父親は産まれる前からいなくて母親は仕事で忙しい……家族の愛情に飢えていても仕方ない。

「兄さん、いつまで撫でてるんですか?」
「妹の頭ならいつまでも撫でていられる」
「高校生にもなって頭を撫でられるなんて変な感じです」

 ずっと撫でている遼に、口元はニヤけながらも聖雪は頬を膨らます。
 本当に嫌なら撫でられるのを拒否するし、口ではああ言っても撫でてほしいのだろう。

「ああもう、妹というのは何でこんなに可愛いんだ」
「ちょ……兄さん?」

 一週間我慢してた影響で、遼は思わず聖雪のことを抱き締める。
 それにより一瞬にして聖雪は耳まで真っ赤になり、とてつもなく恥ずかしいのだろう。

「兄さんこれは……あう~」

 恥ずかしがってはいても兄の温もりはほしいようで、聖雪が抵抗するということはなかった。
 そんな二人を見て「兄妹というより恋人同士にしか見えん」と匠は呟くのだった。
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