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新たなる道

【迷宮】半手とハンデ

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 巨大なミノタウロスの拳が俺の胴体を打ち抜く。その胴体と同じ位の大きさがある拳に俺はどうする事も出来ず吹っ飛ばされる。

 「クソッ……ざけんなよ……あのウシヤローが」

 そんな言葉を吐く先から攻撃が来る。

 「グハッ!」

 右から左から上から下から……向かってくる方向は無限大だ。

 1発、1発が重く速い。その秘密が何か、俺は探ろうと目を必死になって開ける。たとえ、痛みで目が閉じそうになっても。たとえ、自分に向かってくる風に目がしみて涙が出てきても。何度か閉じそうになる所を必死で耐える。耐えなければ秘密が分からないから。耐えなければ相手を倒せないから。 

 そして―――

 「このパクリやろうが」

 秘密が分かった瞬間に自然と口からその言葉が漏れた。

 見て分かった。聴いて分かった。ミノタウロスが何をやっているか。
 ……その戦い方はそっくりだ。それはもう瓜二つだ。嫌な程に。しかしだからこそ分かる事もある。

 俺は今度は目を閉じる。光を自分から手放し闇の中へ落ちていく。そしてそこの中で音だけに集中する。

 すると聞こえてくる。最初は雑音がひどく分からないが、心を落ち着かせると段々と聞こえてくる。その音が。壁を蹴る音が―――。

 そして―――

 「ここだぁ!」

 ―――目を開けた先にはミノタウロスがいる。自信満々の顔でこちらに拳を向ける。

 「バカがぁ!! 微塵切りの刑だ!」

 手から風魔法が放出される。透明でどんな形をしているか分からない。だけどきっと、包丁の刃みたいな形をしているのだろう。

 「ソニックブーム」

 ソニックブームがミノタウロスの体に触れた直後、その体は無惨にもバラバラになる。それも1つ1つの大きさがかなり小さい。1センチ程度だろうか……とにかくそれくらい細かく切られる。腕から胴体へとそして次は足に……そうやって切られた後の野菜みたくなる。

 「俺の勝ちだな~」

 切られた所からどんどん白い靄となって消えていく。まるで食われている様だ。迷宮に。

 時間にして5分ほどだろうか? 俺とこいつが戦っていたのは。思ったより時間は掛かったがそれなりに楽しめた。

 「ふぅ~」

 ドタンッ。

 ずっとミノタウロスの攻撃によって宙に浮いていた体がようやく地面につく。

 「大丈夫ですか! ソラ君!!」

 ミノタウロスが死んだを見て直ぐにアローラが近寄ってくる。そして心配そうに俺の顔を除き混む。

 「今、回復魔法を掛けますからね!」

 焦りながら言っていて、その善意には大変嬉しいのだが、そんなのは無意味だ。なぜなら―――

 「へ? 傷が……ない??」

 そう、まさにその通りだ。俺は今の戦闘で傷なんて負ってない。ただ負ったふりをしたりしていただけだ。

 「あの程度のレベルじゃあ、ハンデして丁度いい」

 たとえ数十倍出そうが俺には関係ない。最初に言った通りに、絶対的な強者にはどんな策も通じない。

 ミノタウロスを倒そうと思えば、いつでも風魔法で倒せた。
 自分の体を守る魔法。ブローゲート。自分の体の周に風を展開する事で近づいて来た物が自動的に斬ってくれる超、高性能な魔法だ。しかし、俺は修行の身。高性能の魔法を使ってたら実力が落ちてしまう。

 「ハンデって……ソラ君はどの位強いのですか……」

 俺の言葉にアローラは若干引いていた。分かっていた事だろう。天災と渡り合うと知っているなら今の程度じゃ苦戦すらあり得ない。

 「自覚してても、分かってても、分からない事だってあるしな」

 人はいつも同じ調子な訳じゃない。今日勝てたから明日勝てるとは限らない。そういう事を色々考えていくと、その人がいくら強かろうが、モンスターにやられている所を見れば心配にもなる。たとえ信じていたとしても。

 俺のその発言にアローラは首を傾けて頭の上にハテナマークを浮かべる。

 「自分の強さなんて分からない。だけどなアローラ」

 「はい」

 万にひとつも絶対にあり得ないが、もう本当、ミジンコサイズの可能性もないが、それでも、もし、もしも―――

 「俺が負ける可能性が出てくれば、逃げろって言うから安心しろ。お前を置いて勝手に死ぬ訳にはいかねぇからな」

 もし、俺をそこまで追い込める奴が出てきたとしたら、それは奇跡としか言いようがない。そしてもし、その奇跡が起きた時、俺はアローラの事を外に転移させるだろう。

 俺はそんな雷に当たる確実よりも、すごく低い事を考えていた。

悶々と考えていた。

……本当にくだらない事だ。


心底そう思った。
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