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プロローグ 2
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「悪くない」
舞台上で繰り広げられる剣舞を見詰めながら、テーゼ・ガツェラム司教は呟いた。若い騎士たちの剣筋に迷いはなく、客席を圧倒する眼には強い意志と高い理想が見て取れる。
「マルヘィラ様は、先代とは真逆ですね」
テーゼの隣に座るロッツァ司祭が応じる。40年程前、先代の継承者たちの時は、テーゼもロッツァも年若く、今日のように用意された席に座ることはできなかった。当時の司教らに従者として同行した際、ホールの片隅から盗むように剣舞を見た日が懐かしく思い出される。
「うむ」
テーゼも、静かに頷いた。
イヴトゥアの先代の所有者は、マルヘィラの父親だ。若かりし日の彼がイヴトゥアの継承者として披露した剣舞は、力強く武神の如き猛々しさがあった。一方のマルヘィラは、隙のない鋭さと優雅さを兼ね備えた繊細な舞である。マルヘィラの白銀の髪が陽の光を受けて煌き、刃の銀の輝きと相まって、光そのものが舞っているような印象さえ受ける。
「あの日から23年か。早いものだな」
テーゼは、大勢の観衆に囲まれても臆することなく舞を披露するマルヘィラを見詰めながら呟いた。老年に差し掛かった司教の瞳には、忘れ去られた過去に思いを馳せるような、未来を見通そうとするような、複雑な光が宿っているように見える。
「司教様? あの日とは――」
ロッツァが司教の言葉の意味を質そうとした時である。
空を映す天井の一部が、爆ぜた。人も頭ほどもある瓦礫がステージの端にバラバラと落下し、マルヘィラとルーノの動きが止まる。頭上を振り仰げば、映し出されていた空は消え、ドーム型に緻密に組み上げられた石造りの天井が見える。その一部には穴が開き、本物の空からの陽光が一条の光の筋となってステージに降り注いでいる。
「陛下!」
近衛兵たちが、国王と王妃をボックス席の奥へ素早く避難させる。
「何事だ!」
男性が怒鳴る声が聞こえる。
「逃げろ! 天井が崩れるぞ!」
誰かが叫ぶ。すると、呆気にとられていた空気が一変し、客席は瞬く間にパニック状態にまで達する。
舞台上で繰り広げられる剣舞を見詰めながら、テーゼ・ガツェラム司教は呟いた。若い騎士たちの剣筋に迷いはなく、客席を圧倒する眼には強い意志と高い理想が見て取れる。
「マルヘィラ様は、先代とは真逆ですね」
テーゼの隣に座るロッツァ司祭が応じる。40年程前、先代の継承者たちの時は、テーゼもロッツァも年若く、今日のように用意された席に座ることはできなかった。当時の司教らに従者として同行した際、ホールの片隅から盗むように剣舞を見た日が懐かしく思い出される。
「うむ」
テーゼも、静かに頷いた。
イヴトゥアの先代の所有者は、マルヘィラの父親だ。若かりし日の彼がイヴトゥアの継承者として披露した剣舞は、力強く武神の如き猛々しさがあった。一方のマルヘィラは、隙のない鋭さと優雅さを兼ね備えた繊細な舞である。マルヘィラの白銀の髪が陽の光を受けて煌き、刃の銀の輝きと相まって、光そのものが舞っているような印象さえ受ける。
「あの日から23年か。早いものだな」
テーゼは、大勢の観衆に囲まれても臆することなく舞を披露するマルヘィラを見詰めながら呟いた。老年に差し掛かった司教の瞳には、忘れ去られた過去に思いを馳せるような、未来を見通そうとするような、複雑な光が宿っているように見える。
「司教様? あの日とは――」
ロッツァが司教の言葉の意味を質そうとした時である。
空を映す天井の一部が、爆ぜた。人も頭ほどもある瓦礫がステージの端にバラバラと落下し、マルヘィラとルーノの動きが止まる。頭上を振り仰げば、映し出されていた空は消え、ドーム型に緻密に組み上げられた石造りの天井が見える。その一部には穴が開き、本物の空からの陽光が一条の光の筋となってステージに降り注いでいる。
「陛下!」
近衛兵たちが、国王と王妃をボックス席の奥へ素早く避難させる。
「何事だ!」
男性が怒鳴る声が聞こえる。
「逃げろ! 天井が崩れるぞ!」
誰かが叫ぶ。すると、呆気にとられていた空気が一変し、客席は瞬く間にパニック状態にまで達する。
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