evil tale

明間アキラ

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第六章「同類」 ー中央都市編ー

第百三話「物は試し」

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あれから数日、
ルーカスにあの現象が訪れることはなかった。

「・・・・・・おい」

また何度かリリーの胸の中で目覚めることもあったが

「・・・・・・うなされてた」
「・・・・・嘘つけ」

前みたいなことにはならなかった。

「撫で心地がいい」
「ぬいぐるみみたいに言うな」
「弟みたい」
「あっそう」

何だかんだ言っても
激しく拒絶を見せなかったのが悪かったのか

角やら髪やらを
リリーに度々
触られてしまう彼だったが、

「・・・・はぁ」

受け入れがたいものではあるものの
我慢ぐらいはできるようになりつつあった。

「・・・・僕に遠慮とかないのかい?」
「遠慮?・・・・・何かまずいことした?」

悪態をつかれても
リリーにはそれがわかっていない。
多分、本当にこれぐらいは
仲のいい年下の子には
やって当たり前と思っている節があるらしい。

「・・・・・・もういいよ」

彼らの今日の朝食は
缶詰やら、クッキーといった
携帯食料だ。

まずいわけではないが、
味は単調で、薄く、
食べたいと思うようなものではない。

「・・・四日でここまで落ちるとは・・・」

前食べたステーキとの落差に
エマの口から思わず愚痴が出てしまうが、

「嫌?炊き出し貰ってこようか?」
「・・・・・いちいちいいよ」

文句が言いたいだけだったので
そこまで真面目に取り合って欲しいわけではないようだ。

朝食を取り終えたエマは
「ちょっと来たまえ」
そう言って、ルーカスを連れ出す。

「きょ、今日はちゃんと
するからもう一回見せてくれ」

そう彼を説得して、
何かをさせようとしている。

「・・・・まあ、いいけど
また気絶しても知らんぞ」

「も、もう慣れたさ」

返事を聞き届けた彼は、
背中から大蛇の尾のような
六本の触手を出した。


「うっ」

そいつらが出てきた瞬間、
それが目に入った瞬間、
エマは思わず顔をしかめて
口元を覆ってしまう。

その触手がどうしても
気色が悪くて、不気味で、

身の毛がよだつような
恐怖と気持ち悪さが彼女を襲っていた。

「・・・・」

だが、昨日や一昨日のように
泡を吹いて気絶するようなことはないようだ。

「うっ・・・だ、だいじょっぉぶ」
「・・・・で?これで何がしたいんだ?」

「・・・・・」

エマは気持ち悪くてしょうがないと言った様子ではあるが、
その触手を見つめ続ける。

「見たかっただけか?」

「い、いや、そ、それに何か僕から
角が生えるのを避けられる
手がかりがあるんじゃないかなと思ってね」

「あんたが出さないと意味ないんじゃないか?」

「・・・・・むぅ・・確かに。
・・・廃棄と言うなら僕もそれを出さないといけないな・・・」

そう言って、彼女は右手を変化させる。
彼女の色白の手が
黒い煙のような、ゆらゆらと風に揺れる
実体のないものへ変わっていく。

「自分のはあんまり気持ち悪くないのは
何でだろうね」

自身の変形した手を見ても、
ルーカスのものほど
気持ち悪く感じることはないようだ。

「人類そんなもんだろ」

「でもなんか違うんだよね」
「触手は出せないのか」

彼は自分の触手を触りながらそう言うが

「ええ?ああ、それか・・・」

あまり乗り気ではないらしい。

「うえ・・・それ出して大丈夫かなぁ・・・」

力を使えば使うほど
化け物に近づいていくというのに
自らそれを行うことになるのだ。

ただ、力を使わなければ
その使い方すら習得できない。

「ふぅ・・うぅ・・・ぅうううう」

見様見真似、
テキトウな動作、
何とか力んでそれっぽく
動いてみる。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

が、息が切れるだけで
何かが起こる気配はなかった。

「そ、それってどういう感覚なんだい?
別の生き物?」

「手足と変わらん」

「ええ・・・絶対そんなことないよ」

「ほら」

自分の手足と変わらないと言う
彼は触手をエマの方へ差し向ける。

「うわ、うわ、うわ」

目の前まで近づかれた
エマは奇声を上げて、

「や、やめろよ!はぁ、はぁ、はぁ」

息切れを起こしながら
木の裏にまで逃げて隠れた。

「・・・・悪い」

「はぁ、はぁ・・・それ、どうやるの?」
「・・・・どう、と言われても・・」

手足を動かすのをどうやるのかと聞かれても
それを見せることぐらいしかできない。

「あれは・・・見せると面倒臭そうだな
ショック死しそうだ」

それに最初に変身した
ただの怪物の形態を
先日は触手を見せただけで漏らしながら失神したエマに見せれば
気を失うのは目に見えている。

「?」

「・・・・死にかけになったらなるかな」

「お、おい! 怖いこと言うな!」

彼は自分が危機に陥った時に
成長したことから
それを体験させようかとも考えたが
それも恐らくうまくは行かないだろう。


「背中辺りに出る感覚はないのか?」
「うう~ん・・・・」

駄目で元々
それ以外に言えることはないと
単純に出来ないかどうか聞いてみる。

「ふん!」

エマは自分の感覚を頼りに
背中からナニカ出そうとして見ると、

ドクンと
全身が内側から揺れるような
感覚がして、

「うわ!でた!」

背中から一本の触手が
飛び出してきた。

「おめでとう」

「・・・・ほんとだ。感覚がある。」

その触手は彼女の意のまま動く。

地面や木に触れれば
石や砂の粒や
木の皮のざらざらとした
感触が触手から伝わって、
手の指で触ったのと同じように感じられた。

「まあ、そっからどうやって
切り離すのかは知らないけどな」

「・・・・出てけ!ふうん!」

触手を外へ精一杯向けても
ピンと伸びるだけで、出て行く気配はない。

「・・・・これって切り落としたらどうなるの?」
「ああ・・・」

そう聞かれた
彼は触手を自分の前に出し、
そこへ向かって思いっ切り
手を振り下ろす。

すると、触手はいとも簡単に、
野菜でも切るみたいに
あっさりと両断され、
切り落とされた触手は
地へ落ち、溶けてなくなっていった。

「また生える」

だが、残った断面から
黒いモノが盛り上がり始めると、
あっという間に元の形へと姿を変え、
触手は再生した。

「へぇ・・・そうなのか・・・・・い、一回根元から切り落としてくれないかい?」

それを見たエマはそう提案して、

「・・・・・意味あるのか?」
「出来るかは知らないが物は試しだ。
ささ!早く」

木の影から出てきて、
彼に背中を向けて立つ。

「・・・・・いいけど」
「うん」
「どうなっても知らんぞ」
「大丈夫さ。もし万が一にでもこれとおさらばできるなら
本も」

彼女が何か喋っている途中だったが、
ルーカスのギロチンのような手刀が
彼女の触手の根元へと落ちる。

その瞬間、エマの時は止まった。

「お゛っ」

ばたんと前のめりに倒れ、
手足が痙攣し、小刻みに揺れる。

「だから言ったのに・・・・」

触手は何事もなく
また生えだしたが、
心なしか震えているようにも見えた。

「・・・・大丈夫なの?」

一部始終を見ていた
リリーがエマの様子を見に来る。

「まあ、多分一回ぐらいは問題ないだろ」
「お゛・・・・ぶぇ」

エマは白目を剥きながら
口から泡を吹き出して、
倒れていた。

体中を痙攣させてて、
地面にはまた水たまりが出来上がっている。

「・・・・何でこうなったの」
「触手を切れって言われたから
その通りしてやったらこうなった」

「・・・・・もしかして、触手って痛みを感じるの?」

エマに走ったとてつもない刺激は
彼女の意識を絶ってしまうには
十分すぎたようだ。

「ああ、他の部位と大差はない。」

触手を切られたのは
彼らにとって
ほとんど腕をちぎられたのと変わりがない。

痛みや怪我といったものに態勢のない彼女は
この有様となってしまった。

「・・・・・」

リリーの目は
じゃあ、何で止めてやらなかった
と訴えかけてくる。

「・・・・わ、悪かったって」
「謝る相手は私じゃない」
「はいはい・・・」

「・・・・君は平気なの?」
「痛みに鈍感なのはお前もそうだろ」
「・・・そうだけど・・」

リリーはエマを担ぎ上げ、
小屋へと運んでいく。

「こっち来て」

小屋に入り、
エマを寝かせると、

「看てあげて」
「・・・わかった」
「私は洗濯してくるのと
城内にも顔出して来る」

そう言って、リリーは外へ出て行った。

「・・・・・」
「あ゛っ・・うっ」
「目覚めたか?」

半開きの目で
ルーカスの方を見ながら
唸るエマ、

「・・・悪いな
止めた気になってたんだが」

手を上にあげ、
変化させる。

さっきと同じように
手が黒い煙のようになったのを見ると、

彼女の手がパタンと地に倒れ、
また意識を失ってしまった。

「・・・・・・・」

ルーカスは
彼女の口元から流れる涎を拭きながら
彼女の文字通り気の抜けた顔を
面倒臭そうな顔で眺めていると

「ん?」

列車の動く音がする。
しかも第二地区に向かっているようだ。

「・・・・俺はここに居た方がいいか」

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