evil tale

明間アキラ

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第三章 「順応」 ー第三地区襲撃編ー

第三十四話「休憩時間:前編」

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ソファで一晩を明かし、
三人が再び起きた。

もう朝日が昇り、真上で輝こうとしている。

これからどうしようかと三人が思っていたころ、
再びあのジョージと若が彼らがいる部屋に入ってきた。

「本当に申し訳ございませんでした。」

その謝罪の言葉と共に、二人がそろって膝をついて、頭を下げる。
若とジョージがそのはげかけた頭と少年のつむじを
起きたばかりの三人に見せて誠心誠意、謝罪した。

「いいっすよ、別に」
サラはぶっきらぼうに彼らと話し始める。

「これであんたらは元の協定通りに動いてくれるんすよね?」
「ああ、約束する」

ジョージは頭を下げたまま答えてくれる。
若はそのまま少しも動かない。
そんな謝罪を良くも悪くも全く気にせず、サラは淡々と話をつづけた。

「それは何よりっす。
じゃあ、後、この件の事情を詳しく聞きたいんすが、話してくれません?
ユキザクラさんからはテキトウなことしか聞けなかったんで」

(俺が聞いたのってテキトウなことだったのか・・・・)

「はい、ですが・・・・」
ジョージは言葉を詰まらせるが
「私どももあまりよくわかってないのです。」
最終的にはそう言った。

「というと?」

「ユキザクラからあらかた聞いたのでしょう?
あれ以上のことは、今ここの長を代行する私でも知りえないのです。
わかっていることはアダムやあの子供らがいくら切りつけようと死なない不死身の怪物ということだけ。
それ以外何もわからず、知ることもできないまま奴らの傀儡となっていたのです」

言葉の節々に悔しさがにじみ出てきているその言葉を聞いても
サラは何も感じるところがないらしい。

「・・・まあ、わかりました。じゃあ、こっちからも聞いていきましょう。
まず、アダムら一行が来たのはいつですか」

そのまま淡々と彼らに事情聴取を続ける。

「2週間ほど前です」
「その時の人数は?」
「人間が一人、アダムと化け物に慣れる子供が3人です。」

「3?・・・・・うち一人は駅にいましたか?」
「ええ、一人はずっと列車に常駐させて、行ったり来たりを繰り返させていたと思います。」


「・・・なるほど、ずいぶん好きにやられましたね
まあ、こっちも結構好きにやっちゃいましたけど」

「いえいいえ、本当に面目ありません」

最初会った時とは別人のような優しい丁寧な口調で応対するジョージと
あの笑顔が完全に剥がれ落ちてけだるげな態度で接するサラ。

その後も少し質疑応答をしたものの、結果は大して変わらず、
中央政府という機関から送られてきた使者がここを占拠していた。
そして、それは二週間前から始まった。。

それ以外のことはどうやらわからないらしい。

「・・・そうっすか、じゃあこれからはよろしくお願いしますよ」
サラがそう言い、ジョージと左手で握手をする。

その後すぐ、サラはテオに連絡を始めた。
「ルーカスさん、これ持ってください」
ルーカスにトランシーバーを持たせ、
じりじりとノイズの多い中、二人が話し始める。

「レオーネは?」
「子供を食べた」

その謎の合言葉から始まり、サラが淡々と報告をしていく。
そもそも、連絡がなかったことの
原因は海守組が動かなかったこと。
さらにそれは二週間前に発生した中央政府からの介入によって起きたこと。
そして、中央政府にはルーカスと同じような化け物たちが複数いること
今は解決したということ。

「ほお、なるほど。ご苦労さん。
負傷者は?」

「私ら三人のうちに死者はいません。
ルーカスさんとリリーは無事っす。
私もまあ、右腕の関節が反対に向いたことぐらいっすね」

「そうかい、
ひとまずお前らの任務は終わりだ。
早々で悪いが三日後、ゴーギャンと共にこっちまで戻ってこい」

「第一地区っすか?」

「ああ、三日後、そっちにパール、ジョン、アイリーンとその他数名を送る。
そいつらと入れ替わりでお前ら三人は本部に帰還だ。」

「わかりました。」

「ああ、早々に頼むぜ、ちょっと中央政府の動きがきな臭くなってきた。」
「そうっすか。じゃあまた」
「ああ」

ジリジリ、リ、リ
とノイズが段々と小さくなっていき
何も聞こえなくなる。

「ふぅ」
サラが終わって早々軽くため息をつき、
「ありがとうございます」
左手でトランシーバーを取って、あのギターケースへ投げ入れた。

「三日後って早くないっすか?」
「そんなもんじゃないのか?」

「ルーカスさんはいいっすよね、すぐに治りますし」
口をとがらせて右腕を少し動かすサラ。

「はあ、それじゃあ、まあ、明日に出ましょうか
ゴーギャンさんとも合流したいですし・・・・
なので、」

またソファに腰掛け、
「私は寝ま~す」
「風呂とか飯はいいのか?」
「食べたい」
そこへリリーが割り込んでくる。
「ああ、そういえば・・・なんか買ってきてください」
「私もそれがいい」
だるそうに寝ながら指示をするサラにリリーが便乗し始めた。
二人とも瞼を重そうにしている。

「・・・・・・金は?」
「ケースの中にあるっす」

二人とももう動く気は皆無だ。

「はいはい」
しぶしぶと言った感じにルーカスがドアを開けると、
ちょうど目の前には
鍋や容器を積んだ台車を引いてくる雪桜の姿があった。

「おう、飯持ってきたで」

彼女が持ってきたごはんが部屋の中に運ばれると
特にリリーの目がそれに釘付けになり、
サラも生唾を飲み込んでいた。

「なんや腹すかしてそうやなあ
ああ、でも、ごめんやけど、昨日の戦いとかあって食材もダメになってもうたから
鍋くらいしか用意できかんかったわ」

運ばれてきたのは白米と肉団子や野菜が味噌で煮込まれた鍋だ。

(本当にここは日本風というか、和風というか)

テーブルの上にそれぞれ料理がおかれ、その前には箸が配膳される。

そして、
「はい、んじゃあ」
雪桜が両手を合わせ、
「いただきます」
と言った。
(・・・・まじか)

三人ともそれをぎこちなく真似して箸を持つ。
ルーカスは問題なさそうだが、
リリーは
「これってどう使うの?」
と口に出してしまった。

「ああ、ごめんなあ」
そう言って雪桜がいったん部屋を出ると

「これでええか?」
スプーンやナイフ、フォークを彼女に手渡した。

(本当になんだここ・・・)

そんな感慨と疑問に浸るルーカスとは打って変わって
リリーはただ無心で鍋を食し続けていた。
皿事食いそうな勢いで食べ進める。

一方、右手の使えないサラは
随分と食べづらそうにしていたため、

「ほれ、あーん」
雪桜に食べさせてもらうことになった。
「・・・・・」
無言で口を開くサラはどこか不服そうだ。
しかし、腹がすいていることに変わりはないため
慣れた手つきで運ばれてくる肉団子や白米をもぐもぐと頬張っている。

リリーが与えられた分を食べ終えそうになった時
「ごめんなあ、おかわりは自分でやって」

(なんでわかるんだ?)

まるで赤ん坊に食べ物でも運ぶみたいに
箸を動かす彼女だが、食卓の事は何でもお見通しらしい。

ルーカスはそんな様子を見ながら黙々とご飯を食べた。

「はい、ごちそうさん」
最後の分をサラに運んだ雪桜はこれもまた慣れた手つきで
食器を片付け、
「じゃあ、なんかあったら言ってな」
そう言って出ていこうとするのをサラが引き留めた。
「ユキザクラさん」
「ん? どうしたん?」
「いや、まずはその朝ご飯ありがとうございます。」


「なんや、また食べさせてもらいたいんか?」
「そういう意味じゃなくて!!
朝ご飯出してくれたことに対しての感謝っす!!」


「ふふふ、そないに怒らんでもええやん。なあ」
意地悪にからかい、ルーカスに同意を求めるように
顔を向ける雪桜は、

「まあ、うちらの恩人やからこれぐらいはするわ」
そのまま朗らかに笑ってそう言った

「恩人・・・・」

「そうや、若を助けてくれたんは他でもないあんたらやろ?」

「・・・・・まあ、それはいいんです。それよりもそのお風呂とかってあります?」


「ああ、そうやなあ」
と手を叩く雪桜は、彼らをよく見た。

びりびりのスーツを着ているルーカス。
同じく上着やシャツがいくつもの切り傷がついているリリー。
包帯ぐるぐる巻きのサラ。

全員その服は土くれと瓦礫、そして、自身の汗と血で汚れに汚れていたのだ。

全員疲れすぎていて、昨日は全く気にならなかったが
一晩寝て起きると、疲れも戦いの熱も冷め、その気持ち悪さが体をつついている。

「ウチらが言って良いのか知らんけど
汚い格好しとるもんな」

「ほんと、そうっすよね。誰のせいでしょうね」

「そんな怒らんといてや。」

ハハハと口元を抑えて笑う雪桜に
冗談っぽく不満ありげな顔をするサラ。

「でもな、その誰かさんらのおかげで
ここの施設は駄目になってもうて、ちょっとここじゃ無理やねん」

「・・そうですか、なら」

「やからウチに連れってったるわ」
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