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4章 衝突する勢力

12話 不穏 4

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「ほら、次は姫岡の番だぞ」

「そうですね………では、これとこれ………また違う数字みたいです」

  神経衰弱が始まり早一時間弱。二人が回収したカードは計八セット。二人は一切カードを揃える気がなく、回収したものは全てまぐれ当たりのものだ。

「そう言えば、なんで京雅きょうがさんは先程ずっと静かだったのです?一言も話さないので驚きましたよ?」

  京雅がカードを裏返しに戻す姿を見て、ミリフィアはふと先程までの京雅の姿を思い出していた。

「ほんとに悪い事をしたな。本来ならあそこまで思い耽ることもないのだがな。っと、ミリフィアも飲むか?」

「あ、はい。ではお願いします」

  そう言いながら京雅は紅茶を口に流し込んで強引に飲み干した。既に二人のカップには紅茶は残ってはいない。

  京雅はまるでその後の追及から逃れるかのようにミリフィアと自分のカップを持ってキッチンへと歩いていった。

「さて、続きをやろう」

「………」

  先程の位置に着いてスタンバイをする京雅。だが、ミリフィアはいっこうにカードをめくろうとない。何かを考えているのか顔を俯かせており、京雅からではミリフィアの表情を見ることが出来ない。

  京雅は心配や不安と言った感情を含んだ視線をただミリフィアに向け、静かに見つめていた。

「……………」

「……………」

  二人の間に沈黙が訪れた。しかし、その沈黙は一分と経たずにミリフィア自身によって破られた。

「………話していただけませんか?私は京雅さんがどんな事で悩んでいたのか知りたいのです」

「……………」

  真っ直ぐにそう言われ、さすがの京雅もたじろいだ。しかし、あの事を話すと言うことに不思議と後ろめたさを感じていた。

「…………落ち着いて聞いて欲しい」

  その一言で、ミリフィアの全身に緊張が走る。場の空気が一瞬にして何倍にも重くのしかかるような感覚さえ覚えていた。

「俺は今日………秋山あきやまの家に行ったんだ」

「……………」

  そう重々しく告げられ、ミリフィアの頭にはいくつかの疑問が浮かぶも、京雅の次の言葉を待った。

  だが、どれほど待っても沈黙は破られることは無く、ミリフィアは満を持して深刻な顔をうかべる京雅に話しかけた。

「話の内容はその一点のみ、ですか?」

「あぁ……。申し訳ない」

  京雅は座ったまま、目の前にいるミリフィアに頭を深々と下げた。

  一体なぜこんな状況になったのか理解が追い付かないミリフィアはそのままボケっとしてしまっている。

  京雅がこの家に来てから抱えていた悩みは二つあった。

  一つは無能力者と思わしき秋山 美玲みれいにウィンドウが現れていた事。しかし、こればかりは京雅自身でどうにか出来る事でも理解出来る事でもないと、割り切っている部分があった。

  京雅があの長い時間をただ黙々と考える事だけに集中していた最たる理由は、京雅の胸の内にある罪悪感や後ろめたさがどこから来ているのか、と言うものだった。

  京雅はこの家に来た時、なぜだかミリフィアに一切目を合わせることが出来ず、その事が京雅の頭を支配していた。秋山との一件を思い出すと脳裏にミリフィアの顔が浮かび、いつの間にか考え事の中心がズレていっていたのだ。

「その秋山さん?と言う方がどのような方なのかは分かりませんが、そのような事で謝る必要はありませんよ」

「………」

「なにより、私には京雅さんの行動を制限する権利はありませんから」

  そう言い切った後、ミリフィアは胸に針で刺されたかのような痛みが走る。

  そして、ミリフィアの心は今の言葉を拒絶するかのように胸の中にじわじわとその痛みが拡散させていく。

「そうか。ありがとな」

「………いえ。それよりも私達もそろそろ寝ませんか?少し疲れてしまって」

  ミリフィアは必死に笑顔を作るも、何故か頬を微かに赤く染め、京雅の顔を真っ直ぐに見れない様子だった。

「顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」

  それに気づいた京雅はすかさずその事を指摘するも、ミリフィアの顔は更に赤く染まるだけだった。

「い、いえ……そう言う訳ではなくて……」

「本当に調子が悪そうだな。俺のワガママに付き合ってくれてありがとな。俺が片付けをしておくから早めに寝ると良い」

「………はい。ありがとうございます」

  その場から逃げるようにそそくさと去っていくミリフィア。その背中を見送ったあと、京雅はおもむろにため息をつき、天井を見上げた。

「なんで……ミリフィアなんだ………」

  この世界では一度として感じたことの無い感情。しかし、過去に一度、たった一度だけこの世界とは別の世界で確かに感じた感情。それが今、この世界でも感じ、その感情が京雅の胸の中を巣食っている。

「厄介なことになったな……」

  その口ぶりと裏腹に、京雅は表情はどこか明るく楽しそうだった。
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