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4章 衝突する勢力

9話  不穏 1

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「お、お帰り。意外と早かったね」

「そうか?二時間も出ていたが」

  三時間目のチャイムから少しの時間を置いて京雅きょうがが教室に入ってきた。幾らかの視線を集めるも京雅はそれを気にせずに自分の席に着いた。そんな京雅の姿を見つけた瑛翔えいとはノート二冊を手に京雅の席へと赴き、冗談めかしに声を掛ける。

「少し疲れたな」

  京雅はミリフィアを家まで届けた後、町内を適当に散策しながら学校に来ていた。

  何となく余韻に浸りたい気分だったのか、普段ならしないであろう行動に京雅自身も密かに驚いていた。

「これ、授業のノート」

「ん?あぁ、ありがとな」

「それと、鶴壁つるかべ先生が呼んでたよ」

「………そうか。悪いが、今日はり……静也せいやとかと食べてくれ。俺は先生のとこ行ってくる」

「分かった……くれぐれも気をつけてね」

  神妙な顔付きでそう言う瑛翔。鶴壁が何らかの能力を保持している事を知ってるからこその警告に対して、京雅はフッと笑みを零した。

「あぁ。何があるか分からないからな」

「二人してどうしたんだ?何か大変なことでもあったのか?」

  そんな言葉と共にリベルトが二人の背後から現れた。

  ご飯の時以外は基本的に周囲の席の人たちと一緒に居るため、瑛翔は驚いたような顔をして見せる。

「大変なことは特にないな……そうだ、今日静也の家に泊まっても良いか?」

「家か?まぁ、良いが……」

「瑛翔もどうだ?実は姫岡ひめおかには一応許可は貰ってるんだが」

「そうなの?そういう事なら全然行くよ」

  そんな話をしていると、教室の前のドアから次の教科の先生が入ってきた。三人がほぼ同時に時計を見ると既に授業二分前まで迫っており、二人は一言京雅に言って自分の席へと向かう。

「さて、次は………生物基礎か」

~~~~

「やぁ、来たか」

「………」

  昼休みになり、鶴壁に会うために職員室に行くと、鶴壁から生徒会室に来るようにと言われ、五分ほどズラして生徒会室に着くと、そこには茶を啜る鶴壁の姿があった。

「さぁ、ご飯でも食べながら報告会でもしようじゃないか」

「………そうだな」

  ビニール袋からパン二つとおにぎり一つを取り出して、席に座るように勧める。

  京雅も弁当を生徒会室中央に置かれたテーブルに置いて席に着く。

  京雅が席に着くと早々に鶴壁は口を開いた。

「動き出したよ、ついに」

「……アイツらが?」

  先程のほんわかした雰囲気が嘘のように一瞬にして空気がピリつく。

  鶴壁は手に持っていたパンを食べ切ると、ティーカップを片手に再び口を開く。

「時間はまだ不確定だけど、近々この町全体が戦場になる可能性がある。アルセーヌ異超会のトップと幹部、その他有象無象の超能力者や異能力者がこの町に押し寄せるからね」

「………なるほどな。それで?」

「この戦い……君の友達も否が応でも巻き込まれるだろう……それは敵も味方も、ね」

  含みのある言い方をする鶴壁。その言葉の真意を汲み取った京雅は思わず顔を顰めた。

  戦闘が激化すればするほど無力化するのが困難になる。そうなれば必ず死傷者が出る。それはつまり……京雅の手でれいを手に掛ける可能性が出てくると言うこと。

「君は……まぁ、置いておいて他の人たちは人を殺す事を戸惑うだろう。でも相手は命なんて二の次……簡単に殺しをするような集団だ。君にとっても辛い戦いになる」

「………何が言いたいんだ?」

「降伏した方が良い。君にとっても周りにとってもね」

「……………」

「おっとすまない、こんな暗い話をして。私は既に君側の人間だ。最終決定は君に任せる。私も出来るだけ力を貸す」

「………そうか」 

「とりあえずご飯にしよう。三十五分もあるとは言え、時間は有限だ」

  その言葉に反応するように京雅はゆっくりと箸を動かし始める。

  鶴壁は時折京雅の方を盗み見ながらもゆっくりとパンを口に運んで行った。

  その間に会話は一回もなく、黙々時間だけが過ぎ去っていく。

「じゃあ、俺は行く」

「え、あ、分かったよ」

  弁当を食べ終わると京雅は足早にその場を去っていった。その場に残された鶴壁は残りのおにぎりを食べずにビニール袋に戻すと、サッと席を立った。

「……心配することは無いよな。どちらにしろ私の命は彼に掛かっているのだし」

  鶴壁はテーブルをウェットティッシュで拭いて生徒会室を後にした。
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