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3章 それぞれの特訓

13話 帰る場所

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「あ……瑛翔えいと!」

「………京雅きょうがか。どうかしたの?」

  瑛翔はこれからリベルトの家で特訓をするのか、制服から動きやすそうな服を着ていた。

  瑛翔は普段通りの柔らかい笑みを浮かべているが、どこか違和感のあるものだった。

  京雅は瑛翔の前まで行くと、何かを考えているような顔をして、急に頭を下げた。

「…………すまない」

  唐突な謝罪。それにもかかわらず瑛翔は驚きもせずに京雅から視線を外さない。

「…………謝る相手、間違ってるよ。僕は気にしない……でも、愛衣あいちゃんと静也せいやしょうに………しゅん君には謝らないと」

「…………そうだな」

  京雅は瑛翔の答えに観念して肯定する。

  瑛翔は京雅の謝罪がどんな意味を持つのかハッキリと理解していた。

「まぁ、の京雅の事を一番知ってるのは僕だからね」

  終始笑みを絶やすこと無くそう言って瑛翔はそっと京雅の方へ手を伸ばした。

  京雅はその差し出された手を見て、ゆっくりと視線を瑛翔の顔に向ける。そこには紛れもなく、いつも優しい笑みを浮かべた瑛翔が居た。

「蒋と隼君には後でね。まずは愛衣ちゃんと静也に話そ。あの二人なら分かってくれるから」

「そうだな……最初に会ったのが瑛翔で良かった」

「そう?じゃあ、その評価に見合う行動をしないとだね。僕も用事があるし一緒に行こっか」

「あぁ、助かる」

  京雅は差し出された手を取って瑛翔に引かれるようにしてリベルトたちの家を目指した。

~~~~

「よく来たな……久しぶりか、京雅?」

「あぁ……こうして話すのは二週間ぶりだ」

「ミリフィア様が最近元気がないのだ。少しだけでも良いから会ってはくれないか?」

  ドアを大きく開き、京雅を挑発するように目配りをする。

  京雅は表情を微かに緩めて頷き、リベルトが開けたドアをくぐる。

  京雅は一切迷わずにリビングを目指して歩く。

「久しぶりだな、姫岡」

  ドアを開けた先には授業の復習をするミリフィアの姿が。

  京雅とミリフィアの視線が合った瞬間、その場はまるで時間が止まったかのように、どちらも微動だにせずに視線を合わせたまま動かない。

『愛衣ちゃん、どうかしたの?』

  ミリフィアのそばに置いてあるスマホから女子の声がする。だが、ミリフィアはそれに反応せず、京雅を見つめ続ける。

「良いのか、返事しなくて」

「え……?あ、ちょっとだけ待ってて」

  ミリフィアはそう言って慌ただしくスマホ越しに居る人物に向かって何度か謝罪をした後、電話を切った。

「久しぶりだね」

  頬が淡く赤く染まる。恥ずかしそうにモジモジとしながら京雅の事を見上げるミリフィア。

  京雅はミリフィアの視線に合わせるように膝を着く。

「色々とすまなかった………俺のした事、許してはくれないか?」

  ミリフィアはその言葉で嬉しそうな顔を一瞬だけ浮かべた。しかし、すぐに不貞腐れたような顔を京雅へと向ける。

「………イヤです」

  反抗じみた返答に京雅はミリフィアから視線を外して思わず笑ってしまう。

「…………そうか」

「今、笑いませんでした?」

  頬を膨らませて京雅の顔を覗く。京雅更に顔をミリフィアから避ける。

  その少しの間の攻防の後、ミリフィアは姿勢を正して、ボソッと呟く。

「ズルいですよ。ずっと無視して素っ気なくして、許して欲しいなんて……虫のいい話です」

  拗ねるミリフィアを見た京雅は覚悟を決めた顔をして、ひざまつき、逸らされた顔を下から覗く。

  その光景はまるでお姫様とその姫に忠誠を誓う騎士のごとく、自然なものだった。

「…………何をご所望です、お姫様」

「っ………!」

  ミリフィアはその言葉に反応してうつ伏せにしていた顔を上げて京雅の顔へと視線をやった。

  京雅は顔から耳まで赤らめて、気恥ずかしそうにしながらも無表情を貫いていた。

  二人は再び視線を合わせる。ミリフィアも少しずつ顔に赤みが出て熱を発し始める。

「………用事も済んだし、俺は行く」

  その空気に耐えられず、そう言って京雅が立ち上がろうとするとミリフィアは京雅の手を取って引っぱる。

「ッ………何の真似だ?」

「お姫様にそんな口聞いちゃダメです。私、一応お姫様ですよ?」

  頭を撫でられながら諭されるように優しく声を掛けられ、京雅は体の緊張を解していく。

「私、ワガママなお姫様なのです。全て叶えてくれますか?」

「手のひら返しすぎだ……まぁ、俺に叶えられるなら、いくらでも、な」

  京雅はスっと立ち上がる。ミリフィアは一瞬寂しそうな顔を浮かべて振り払われた手のひらを見つめる。

  京雅はなにか覚悟を決めて片手を持ち上げた。

「………京雅さん?」

「…………黙っていろ。柄でも無いことして恥ずかしいんだ」

  そう言ってソッポを向きながらも優しくミリフィアの髪を撫でる。

「そうですね。今日の京雅さんは何か変です…………でも、もう少しだけ変なままでいてください」

「そうかい」

  そして、二人の間にはなんとも言えない甘酸っぱい空気が流れた。

  無言で髪を撫でる京雅と、嬉しそうに、その幸せを噛み締めるように撫でられ続けるミリフィア。

「二人とも、ちょっと良いか………っと、お取り込み中だったか。これは失敬」

  お茶を入れたグラスを四つお盆に乗せてやってきたリベルトは二人の様子を見て、思わず声を漏らした。

  その一言で京雅とミリフィアの中から羞恥心が溢れて、二人は急いで体を離す。

  京雅はらしくもなく顔を赤く染めて明後日の方向を見る。

「むッ。なぜ止めるのだ?これではまるで我が邪魔みたいではないか」

  そう言って中央にあるテーブルにお盆を置いて座布団に腰掛ける。

「瑛翔。そんなところでコソコソして居ないで一緒に茶でも飲もう。これから特訓するのだし水分は取っておいた方が良いぞ」

「あ、うん。そ、そうだね」

  瑛翔は引き攣った笑みを浮かべながらドアの向こう側から現れた。その登場に京雅とミリフィアは更に顔を赤くする。

「俺も頂こう」

  京雅は無言でテーブルまで移動してテーブルに置いてあるお茶を口に流し込む。

「………えぇと、そうだな。リベルトもすまなかった」

「いや、気にするでない。京雅なりの考え……いや、があったのだろう?」

「……リベルトたちを信じてない訳じゃない。でも、この戦いに巻き込みたくなかった。これは俺に原因があるから」

  空になったグラスを回しながら京雅は寂しそうに笑う。

「我では頼りないであろうし、詳しくは聞かぬ。だが、たまには誰かを頼っても良いんじゃないか?ミリフィア様はこの二週間ずっと寂しそうにしておられたのだ。我らだって寂しかったのだぞ?だからそう気にする事はない」

「……………恩に着る」

  京雅はリベルトの方を向き、フッと笑う。それに応えるようにリベルトも顔を綻ばせる。

  それを隣で瑛翔は嬉しそうに微笑みながら見ていた。

「良かったね、京雅。さて、僕たちは特訓しよっか、静也」

「そうだな。せっかくだし京雅にも稽古をつけもらおうじゃないか」

「あ、いや。京雅にはもう少し愛衣ちゃんと話でもしてもらおうよ。ね?」

  少し焦ったようにして、京雅とミリフィアの顔を忙しく交互に見ながら同意を求める。

  その場に立ち尽くしていたミリフィアは顔を再び赤くしてソッポを向いてしまう。

  それを見て焦った瑛翔は京雅の方に視線を向けて懇願するような眼差しを向ける。

「はぁ……そうだな。姫岡とは積もる話もある。少し二人にしてくれ」

  京雅は困ったような顔を浮かべながらも快諾した。その言葉にリベルトは悲しそうな顔をするも、何かを悟ったのかすぐに笑みを浮かべて立ち上がった。

「そうだな。では特訓は我らでするとしよう」

  瑛翔を連れて外に出るリベルト。リビングに取り残された京雅とミリフィアの間に気まずい雰囲気が流れた。

「はぁ……まぁ、座って少し話さないか?」

「……うん」

  照れくさそうに笑いながらミリフィアは京雅の隣に座った。

「……他にも空いてるだろ」

「ここが良いのです。私はワガママなお姫様なので」

~~~~~~~~~~~~~~

  これにて3章完!次回からはついに4章スタートです!

  4章では今回出てこなかった残りの二人も登場予定です。

  4章も前半の方は少し恋愛要素があると思われます。その分、後半から5章の終わりまでのほとんどを戦闘シーンにしようかなとも思っています。

  投稿も遅く申し訳ございません。ですが、最後までしっかり書き上げる予定ですので、是非最終話までお付き合い頂けると幸いです。

  拙い部分が多々見受けられますが、これからも作品共々よろしくお願いします!
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