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3章 それぞれの特訓

10話 呼び出し 5

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「……………」

  京雅きょうがは今、屋上に居た。湿気を多く含んだ風が湿気と共に京雅の頬を撫でていく。

  時間は今六時限目が終わり、清掃時間、もしくはショートホームルームの最中。

「時間的にはそろそろ。なのに気配は無しか」

  ドアの方を一瞥し、そう独り言をボヤく。

  雲ひとつとない晴天の下で京雅は一度、二度とため息をついた。

「今日は帰ろう」

  転落防止のフェンスから飛び降り、京雅は屋上のドアの方へと進む。

「…………ん?」

  ドアノブに手を掛けたところで不意に異様な気配が下の方から漂う。

  その気配は、校舎の裏側から漂ってきていた。

  京雅はフェンスに再び飛び乗って上から見下ろすと、そこには一人の少女が居た。

「アレか?……いや、近いが何か違う」

  京雅が真下を注視していると、その少女の後ろから一人の少年が来た。

  その男は片手を上げながら何かを話しているようだ。それに気づいた少女は少年の方へと体を向けて、会話をしているように見える。

  だが、今もなお異様な気配は消えてはおらず、この周囲に充満している。

「………まさか」

  なにかに気がついた京雅は踵を返し、ドアを使って屋上から去っていった。

~~~~

  出来るだけ人を避けながら京雅は先程の二人が居た場所に全速力で向かう。

  ものの二十秒程度で屋上から一階にまで辿り着く。だが、あの場所への道が分からず、その異様な気配を頼りに先程の場所へと走る。

「居た……!」

  一階を駆け回ること約一分。ついに先程の男女を見つけた京雅は更に速度を上げてその場所に向かって走る。

  その場所の近くまで行くと、開いていた窓を乗り越えて外へと出る。

「頼むよ、お試しで、ね?」

「すみません。それでもお断りします」

「………お前だよな?」

  少年の背後から、首めがけて回し蹴りを一撃お見舞いした。

「アグァッ!?」

  少年はボールのように横へと吹っ飛んだ。

  その一瞬の出来事に理解が追いつかず、ポカンとする少女。

「今すぐここから離れろ」

「えっ?えっと、あなたは?」

「悠長に話してる暇は無い。早く逃げろ」

「え、あ、はい」

  少女はワケも分からず、流されるがままその場から立ち去ろうとした。

「逃がさないよ……!!」

「ちっ……」

  先程吹き飛ばされた少年は鼻から血を出しながらも、去ろうとする少女の方へ向かって走る。京雅もそれを阻止しようと走り出すが、その少年の方が僅かに早かった。

「……………えっ?」

「本気だ。オレと付き合って欲しい」

  少年はその少女の手を掴むと、自分の方へと体を引き寄せ、少女の顔を自分の顔に寄せた。その後、強引にその少女から唇を奪った。

「既成事実、だね」

「………………」

「………なんなんだ、コイツ」

  微妙な雰囲気がその場に流れる。

「あの……とりあえず離してもらえます?」

  その少女はやけに落ち着いた雰囲気でそう言った。先程のキスを何とも思っていないようだ。

「もちろん。君の頼みならね」

  男は鼻血を垂らしたまま嬉しそうな笑顔な浮かべて少女から手を離す。

「とりあえず、これを使ってください」

「良いのかい?」

「えぇ。鼻血が気になりますし」

「…………」

  段々居づらくなってきた京雅。だが、一撃与えた後でどうにも逃げる気になれず、結局その場で立ち尽くすことしか出来なかった。

「ありがと。助かったよ」

「そうですか?なら良かったです」

「じゃあ、今から還らない?」

「っ………!」

  その少年は目の前にいる少女の頭目掛けて鋭い何かを振り下ろす。

  それに気付いた京雅は再びその少年の脇腹に回し蹴りをお見舞いする。

「クハッ!?」

  ボールのように勢いよく横へと吹っ飛ぶ。

「面倒だな。早く逃げろと言ったのに」

「すみません。では、今度こそ失礼しますね」

  少女は会釈をしてからその場から去って行く。

「はぁ……痛いなぁ」

  砂埃を払いながら立ち上がる少年。京雅はその姿に警戒心を高める。

「君がの超能力者、"えいと"君で良いのかな?」

「………だったらなんだ?」

「いやぁ、勝司しょうじさんを倒したって言うからどんな相手かと思ったけど、やっぱり所詮は平和ボケした、ただの高校生だね」

「……それで、アンタは?」

  銀髪に赤い瞳、白い肌、ハッキリとした整った顔立ち。どうも日本人には見えない。

「そうだなぁ……とでも言っておこう。"願望実現ギフト"の異能力者さ」

「異能力者……」

「そう。で、君はただの超能力者。格が違うんだよね」

「そうか。じゃああの手紙はお前が」

「っ……!」

  京雅の瞳から光が消えて、無機質な瞳になる。その様子を見たレオは不覚にも恐怖のようなものを感じた。

「君にオレは倒せないよ。君に願望がある限りね」
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