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1章 超能力者の存在

14話 後悔

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  事が動いたのは、その日の放課後の事だ。

  ホームルームが終わり、部活に所属していない京雅きょうがはほかの人たちより一足先に帰路についていた。

  昨日の今日のため、警戒を少しつつも、心の底では何も無いだろうと思っていた。

『キョーガ様。問題が起こりました』

「…………簡潔に言え」

  京雅の脳内に龍帝の声が響く。京雅はその場で立ち止まり、龍帝の次の言葉を待つ。

瑛翔護衛対象に複数の人間が接触しました。まだ、そこまで大きな被害はありませんが、一応報告を……と思いお伝えした次第です』

「なるほど。お前はソイツらに気が付かれることなく始末できるか?」

  京雅は警戒の色を薄めて再び歩き始める。

  龍帝は少しの間を置いて京雅の脳内に話し掛ける。

『可能です。しかし力加減が難しく……生死を問われないのであれば、ですが』

「分かった。状況判断はお前に任せるが……瑛翔えいとが本当に危険な状況になったら、存分にやってくれ。もちろん、生死は問わん」

  龍帝は『承知しました』とだけ言って、そこから声は聞こえなくなった。

  だが、龍帝に任せると言ったものの、やはり不安が拭いきれないのか、どうも落ち着かない様子でソワソワとしているので、客観的に見るとかなり危なっかしい。

「お前を信頼してないわけじゃない……『映像共有・龍帝』」

  一人帰路についていた京雅は誰かに言い訳するように一言漏らすと、魔法を発動させる。その魔法の効果か、京雅の片目の瞳孔に紫色の小さな魔法陣が浮かび上がり、虹彩は茶色から漆黒へと変わる。

  片目の視界だけが全く違う景色を映した反動で一瞬気持ち悪そうにするも、すぐさまいつも通りの無表情ポーカーフェイスに戻る。

~~~~

「こっちは君を誘拐しなきゃいけないんだ。サッサと着いてきてくれよ」

「俺らだってこんなことしたきゃねぇよ。でも、上の命令なんでね」

「そうそう。君が言うこと聞かないなら……武力行使をしなきゃならない」

  ───相手は全部で三人。そのうち武力行使を匂わせて来た奴は超能力者だな。やはり、目的は瑛翔か。こうして超能力者を連れて来てるってことは瑛翔の事を知ってる訳だが………。あの勝司しょうじとか言う男の仲間なのだろうか?

「イヤです。それに僕は、あなた達の言っているじゃありません」

  その一言を龍帝越しに聞いた京雅は無意識に笑みを浮かべていた。

「全く……話を聞いてないようでしっかり聞いてんだな。さて、誘拐とは穏やかじゃないな。そう思うだろ、龍帝?」

『分かりました。即刻排除しますね』

  瑛翔の頭上に姿を完全に消した龍帝が居る。龍帝は口の中に魔力を集める。

「『隔絶空間シャット·アウト』」

『(竜の息吹ドラゴン·ブレス)』

  京雅が龍帝越しに魔法を発動させた。その魔法は周囲を薄暗くさせる。その京雅の魔法に被せるように龍帝の口から『竜の息吹ドラゴン·ブレス』が放たれる。

「っ………!!」

  突如瑛翔の目の前にいた三人の男が炎に焼かれ始め、火だるまとなる。男たちは悲鳴を上げて泣き叫ぶも、周囲に居る通行人の誰もが何も見えてない、何も聞こえてないように素通りしていく。

  男たちは藻掻き苦しみながら黒焦げとなった。その終始を見届けた瑛翔は力無くその場に座り込む。

  その目に恐怖や困惑の色があり、体は微かに震えており、目尻には一粒の涙が浮かんでいる。

「ど、どうして……なにが、どうなって……」

  目の前で起きたことに今でも思考が追いつかず、放心状態に近い状態になっていた。

  だが、それも無理はないだろう。瑛翔は京雅と違って超能力を持つ一般人だ。人の死を間近で見る機会などほぼほぼ無い。

  瑛翔のその状態を見た京雅は魔法を解くのをやめてそのまま放置することにした。

「『深穴ブラックホール』」

  黒焦げになった三人の死体が地面に現れた穴に落とされて完全に消え去った。

  京雅はこの状態の瑛翔を他人に見られると良くないと判断したようだ。

~~~~

「ふぅ……この魔法もかなり脳に来るな」

  龍帝との映像共有だけを解除した京雅は一息ついた後、道路の真ん中で立ち止まり空を見やる。

「本当に……あれが正解だったのか?もしかしたら他に方法が……」

  サンサンと照りつける太陽を見つめながら京雅は答えのない問いをした。

『まさかとは思いましたが……魔法も使えるのですね』

  不意に能天気に明るい声が脳内に響く渡った。

  その事で一瞬体をビクつかせる京雅。

「龍帝か」

『これからも護衛は継続ですか?』

「あぁ。なんなら更に警戒してくれ。瑛翔が危険な状況になったら俺に言わずに処理しろ。俺にするのは事後報告だけで良い」

『了解です。では』  
  
  それだけを言って龍帝の声は聞こえなくなる。

  京雅は自分が道の真ん中に突っ立っていた事に気が付くと、道の端にズレてから自分の家に向かって歩みを進めていく。
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